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LVMHアワード、社会課題にソリューション提供するスタートアップが66カ国から応募

2021年6月、オンラインとオフラインを併設して開催された仏VivaTechにて、LVMHグループは革新的なスタートアップを表彰するLVMHイノベーションアワードの受賞者を発表した。インクルーシブを掲げ、一歩先の未来を見据えて、毎年新たなスタートアップを発掘し、協働を進める同グループの動きをみていく。

LVMHアワード、850社から28のファイナリストを選出

LVMHイノベーションアワードとは、LVMHグループが取り組む課題にマッチするソリューションを提供する革新的なスタートアップを表彰する賞で、今年は66カ国から850社の応募があり、28企業のファイナリストが選出された。授賞式は毎年VivaTechの会場で行われており、今年は6部門(オムニチャネル&リテールエクスペリエンス、オペレーション&エクセレンス・マニュファクチャリング、サステナビリティ、データ&AI、従業員エクスペリエンス、メディア&ブランド認知)からそれぞれ1企業ずつが表彰され、そのなかからさらに最優秀賞が選出された。

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画像:著者撮影

エンゲージメントを高めるライブコマースツール「Bambuser」

オムニチャネル&リテールエクスペリエンス部門で受賞し、さらに最優秀賞を獲得したのは、スウェーデンのスタートアップBambuserだ。同社はインタラクティブなライブ配信を提供するSaaS企業で、インフルエンサーや販売員による1対1、1対N(複数人数)のライブコマースを可能にする。平均セッション時間は13分とECサイトの平均滞在時間の約3倍にのぼり、参加者の31%が商品をカートに入れ、24%のチャットエンゲージメント(チャットの書き込みや「いいね!」などの反応)があるという。

上記の動画のように、ライブ配信画面の右側に商品のリスト、左側にはチャット欄が表示され、消費者は出演する販売員などとインタラクティブに会話をしながら、商品をクリックして購入できる。双方向のライブ体験による高揚感からスムーズに購入につなげる仕組みが評価され、すでにLVMHグループ傘下のMAKE UP FOR EVERやディオールパルファンと協働している。エスティ ローダーも採用しており、日本でも公式サイトに埋め込まれたBambuserを通じてのライブコマースを行っている。今後、同社はStation Fのスタートアップ支援プログラムにより、LVMHグループのエコシステムのなかで6カ月のサポートを受けることになり、他メゾンとのコラボレーションの加速が期待される。

環境に配慮、リユースできる配送ケースを提供する「Hipli」

オペレーション&エクセレンス・マニュファクチャリング部門の受賞企業は、Eコマースの配送でリユースできる梱包ケースを提供する仏スタートアップHipliだ。パンデミックでEコマースが急増し、プラスチックの梱包材などによる環境への影響が懸念される。そこで同社は100回リユースできるBtoBtoCの循環型梱包ケースを開発した。2020年にローンチし、すでに欧州9カ国、150ブランド以上に採用されている。

利用方法については、まずリテール企業がHipliと契約すると、消費者は商品の注文時に通常の梱包かHipliの梱包ケースかを選択できる。Hipliを選ぶと、企業はHipliのケースに商品を入れて消費者に郵送する。消費者が商品を取り出した後、ケースを小さく折りたたんで郵便ポストに投函すると、Hipliの元に返送され、再利用できるシステムだ。

企業はHipliからケースを購入し、郵送料金を自社が負担するか、オプションとして価格に転嫁するかを決められる方式で、消費者はケースを返送する際に追加料金を払う必要はなく、ただしポストに投函という能動的な協力が求められる。現行のケースは衣類などテキスタイルしか送付できないが、2021年7月にはBOX版をローンチし予約の受付を開始した。同9月から本格運用が始まる見込みで、化粧品も順次配送できるようになる。Hipliでは、まだ知名度が低いことから、目的とベネフィットを明確に伝えながら認知を高めていくと話す。

業界に変革を起こすバイオ栽培のコットン開発「GALY」

また、サステナビリティ部門では、バイオ栽培によるコットンを開発する米国スタートアップGALYが受賞した。一般的にコットン栽培には、大量の水、土地、そして殺虫剤などの化学物質が使用されている。同社は持続可能なソリューションとして、畑ではなく、研究室で細胞から栽培するコットンを開発した。このコットンは従来のコットンと同コストで、10倍の速度で成長し、20%のリソース(水)しか使用しない。

2020年にはH&M Foundationによる
Global Change Awardを受賞

透明性の高さが求められる世の中では、誠実さを持って持続可能性に取り組むブランドしか生き残れないとするGALYの創業者は、科学者を新時代のアーティストと捉えており、サイエンスに裏付けられた創造力がより良い社会を作ると考えているようだ。遺伝子工学、植物細胞培養、バイオリアクター開発、数学、統計、高性能自動化、創造的な事業開発、マーケティング、ブランディング戦略など、多様な分野の専門家チームとともに新しい倫理的な習慣を切り拓いていくとする。

エルメスともコラボ、きのこ由来の人工レザーを開発する「MycoWorks」

そのほか、サステナビリティ部門でファイナリストに選ばれた米スタートアップMycoWorksは、バイオテクノロジーによる特許技術「ファイン マイセリウム(Fine Mycelium)」で、きのこ(菌糸体)からレザーに似た素材を作りだす。ラグジュアリー業界では動物由来のレザーが多用されてきたため、環境への負荷の少ない持続可能な素材へと代替えが望まれている。きのこから作る人工レザーは、きのこの培養に水、光、燃料などが必要ないうえ、6週間足らずでできあがる。しかも、菌床は何段かに積み重ねて栽培が可能なため、場所を取らない。製造工場の近くで栽培すれば、輸送によるCO2の排出も抑えられる。

同社には、女優のナタリー・ポートマンや歌手のジョン・レジェンドらも出資しており、革製品に強いこだわりを持つエルメスとのコラボレーションも果たしている。

エルメスとコラボレートして製作されたバッグ

そのほかデータ&AI部門は、高度なAI技術で市場分析やグレイマーケットへの効果的な対抗戦略を考案するDATA&DATA、従業員エクスペリエンス部門は難民が就労するための無料教育プログラムを提供するeach One、メディア&ブランド認知部門はデジタル上でスニーカーを所有できるゲームアプリを開発したAgletが受賞した。

LVMHの各メゾンは、2018年から約230のスタートアップと契約締結

LVMHグループでは、フランスにある世界最大級のインキュベーション施設Station F内で、スタートアップ支援プログラムLa Maison des Startupsを展開している。6カ月ごとに、25の革新的なスタートアップが選出され、未来のコラボレーションを視野に入れながら、LVMHのエコシステムのなかで成長の加速を支援する。

Les Echos紙によると、LVMHグループは2018年以来、スタートアップと230の契約を結んでいる。コロナ下でも、最適なソリューションをもつスタートアップと迅速にコラボしており、同グループの支援プログラムの参加者やLVMHイノベーションアワードのファイナリストに選出されたスタートアップの名が多くみられる。

たとえば、セフォラが協働しているソーシャルセリングのプラットフォームを運営するReplikaは、2019年のLVMHイノベーションアワードのファイナリストに選出され、第3期の支援プログラムに参加したスタートアップだ。パンデミックの只中にドイツでテストマーケティングを実施し、すぐさまサービスの導入につなげた。ロックダウンで実店舗が休業となったタイミングで、セフォラの販売員またはアンバサダーがソーシャルメディアを通じて見込み客と直接交流を図り、販売を行った。ソーシャルコマースをスケールアップする可能性を評価され、同社は、LVMH Luxury VenturesやロレアルのコーポレートVCのBOLDから、シリーズAの投資を受けている。

また、老舗高級化粧品ブランドのゲランは、2021年のファイナリストの1社で、第5期のプログラム参加者でもあるiStagingと協働し、バーチャルブティックを開設した。シャンゼリゼ大通りにある本店をオンライン上で360度自由に歩き回り、ブランドの世界観を味わいながら、顧客がARトライオンや遠隔カウンセリング、マスタークラスなどのさまざまな体験をすることを可能にした。

さらに、インクルージョンやダイバーシティに積極的に取り組むケンゾーは、Webサイトのアクセシビリティを高めるソリューションを提供するFACIL’iti(ファシリティ)と協働し、公式サイトの表示の最適化をはかった。同社によると、世界人口の25%が視覚、動作、認識に何らかの問題を抱えており、FACIL’itiの技術は弱視、老眼、視覚障害、パーキンソン病、識字障害などさまざまな症状に適応するという。顧客がWebサイト上で自分の症状に合わせて条件を設定すると、文字の大きさ、配置、色合いが自動調整される。誰もが快適な閲覧体験を得られるという顧客視点の取り組みだ。この企業は2020年のファイナリストであり、第4期のプログラムに参加している。

サステナブルな社会の実現や社会課題の解決は自社だけでは成し遂げられるものではなく、専門性の高い企業との協働は不可欠だ。LVMHグループが社会の変化に迅速に対応し、革新的なサービスを提供し続けている背景には、支援プログラムやイノベーションアワードなどを設けて有望なスタートアップを引きつけ、傘下の75メゾンとコラボレーションする、双方にとって有益なエコシステムを築いている事実がある。

Text: 谷 素子(Motoko Tani)
Top image: Postmodern Studio via Sutterstock

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