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資生堂など、オープンイノベーションに関わる識者3人が考える「行動原則」とは

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サイエンス、テクノロジー、そして、イノベーション。今、美容業界のものづくりの変革を促す鍵となる3つのキーワードである。2019年9月11日、ダイエット&ビューティフェア2019の会場にて開催された「ビューティテックシンポジウム」でのディスカッションでは、Coral Capitalの吉澤氏、資生堂の中西氏、pilotboatの納富氏らが、それぞれの立場から、ビューティテックが牽引するイノベーションについての議論を交わした。

シンポジウムでは、下記のようにベンチャーキャピタル(VC)のシニア・アソシエイト、資生堂のオープンイノベーションプログラム担当者、スタートアップをメディアや各種イベントでサポートする企業経営者と、異なる立場と視点を持つパネリストが登壇し、イノベーションを取り巻く美容業界の現状を紐解く、活発な意見が交わされた。

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パネルディスカッションの登壇者

それに先立ち、BeautyTech.jp編集長の矢野貴久子が、テクノロジーが実際にどのような変化を販売の現場にもたらしているのか、顧客体験を変えるイノベーション事例を紹介した。

テクノロジーが進化させる顧客体験

矢野は冒頭、「時と場所を問わない顧客体験の提供が可能になった」という、ロレアルのルボミラ・ロシェCDOの言葉を引用し、店舗体験、コミュニケーション体験、アプリ体験、商品体験の4つの観点から、BeautyTech.jpでも掲載した具体的な事例をあげた。

●店舗体験

6月に新宿東口にオープンしたLUSHのアジア旗艦店では、アプリ「Lush Labs」をダウンロードし、棚に並んだ商品の1つにスマホカメラの焦点を合わせると、AIが自動認識して原材料から価格、使用法を教える動画まで商品情報が画面に表示される。ショッピングにおける顧客の利便性を高めると同時に、LUSHはこのアプリにより、タグや包装パッケージの大幅な削減に成功した。ナチュラル&サステナブルな製品づくりという企業ポリシーをテクノロジーで体現してみせた意義は大きい。

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LUSHアプリで商品情報をチェック 
提供:LUSH

●コミュニケーション体験

大幅リニューアルされたPOLAのパーソナライズスキンケア「アペックス」のサービスでは専用カメラで撮影した肌表面の画像解析に加え、表情筋を動かした際の皮膚の動きの動画解析、各自の生活習慣などに、1,800万件の肌ビッグデータを掛け合わせ、862万通りの処方から、ユーザーにぴったりのレシピを見つけだす。しかもこのデバイスは、あくまで店頭でのカウンセリングにおいて、具体的な診断数値をもとにBAが顧客との対話を深め、日々のケアに寄り添うためのサポートと位置付けられている。

●アプリ体験

ベネフィットコスメティクスがアプリ、公式サイトなどで導入しているARバーチャルメイク「Blow Try-On」は、ユーザーがいつでもどこでも好きなときにトライできるサービスだ。自分の顔上で実際の眉の生え方をもとに、好みの形や色に変えてルックスをチェック、さらに、その状態の眉にするためのアイテムがレコメンドされる。Blow Try-Onを試した人は、そうでない人に比べ、商品をカートに入れる率が44%高いという。

●商品体験

商品体験としてイノベーティブなのは、「ニュートロジーナ MaskiD」だ。スマホに取り付けるタイプの特殊カメラで顔を撮影すると、鼻の形や目の間の距離など顔のパーツを測定するとともに、肌を分析。各自の状態にあわせて5つの原材料を組み合わせた有効成分を、顔の必要な場所に必要な量だけ浸透させたシートマスクが、なおかつ顔にぴったりフイットする形状で、3Dプリンティングにより作成されるというパーソナライズアイテムである。

社会や市場のニーズを伴うイノベーション

講演に続くパネルディスカッションでは、「美容とヘルスケア、これからのオープンイノベーションを考える」を大テーマに議論が行われた。日本では長らく自前主義をとってきた企業が多く、組織外の知識や技術を取り入れるオープンイノベーションでは、欧米に比べて遅れをとっているもいわれるが、果たして現状はどうなのか。

Coral Capital(コーラル・キャピタル)のシニア・アソシエイツである吉澤美弥子氏は、“スタートアップ”という言葉が日本においては曖昧に使われていると指摘する。「新しい事業アイディアや新しいアプローチがあるだけではスタートアップとは呼べない」として、短期間での急成長を目指す企業こそがスタートアップだという。

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Coral Capital 吉澤美弥子氏

そこを踏まえて、投資家であるVCの観点からは、起業家に「大企業がやらないのはなぜか?」と考えることを勧めるという。圧倒的な市場制圧力を持つ大企業がそこに参入してきたとき、かき消えてしまうビジネスモデルでは勝つことができないのは自明だからだ。

大企業があえてやらない、あるいはできないニッチな部分にスタートアップの勝機があるとするのは、オンラインマガジンサイトの運営やイベント企画でスタートアップのサポートをするpilot boat(パイロットボート)CEOの納富隼平氏も同様だ。

消費者のニーズが細分化し価値も多様化するなか、「そこに興味と価値を見いだす人は全体の10分の1かも知れないが、10倍のお金を使う人がいるマーケット」を見つける目が必要とする。あわせて、マーケットが拡大する社会背景の有無を見極めることも重要で、それが「次のトレンドをとらえる」という意味だと話す。

その意味では、昨今注目が高まるフェムテックが良い例かもしれない。ダイバーシティやありのままの自分を尊ぶ世界的な機運を背景に、これまでおおっぴらに語ることはタブーとされてきた女性の体の生理現象やセックスにおける課題に、きちんと向き合おうとする意識が社会的に進んでいる。

生理トラッキングアプリや更年期の悩みに応えるデバイスなど、テクノロジーで解決する試みが次々と登場して、人口の半分が対象の「新しい市場というイノベーション」をもたらしているのだ。メンズコスメのブームも同様で、若い男性のジェンダーレス化という社会現象が、男性も使えるスキンケアやファンデーションなどの新市場の形成を大きく促進している。

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pilot boat 納富隼平氏

吉澤氏もまた、VCとして投資判断する際には、製品ありきのプロダクトアウトの発想よりは、社会の変化や市場のニーズに対してのソリューションを模索するマーケットインの発想が大切であることを示唆した。

資生堂のオープンイノベーションfibona

では、具体的にスタートアップがイノベーションをビジネス化するにはどうすればいいのか。その1つの方法が大企業との共創をするオープンイノベーションである。

資生堂R&D戦略部マネージャーである中西裕子氏は、同社の研究開発拠点である資生堂グローバルイノベーションセンターが主導するオープンイノベーションプログラム「fibona」にたずさわっている。8月末に採択企業3社を発表後、データやエビデンスを取りつつ事業化のタイミングを探っており、いわばロードマップを描いている段階にあるという。

「(開発までを)目標から逆算して、どのくらいの時間軸で語るのか。もちろんスピーディーな開発・ローンチを目指しているが、商品・サービスなど様々なお客さまとのタッチポイントで、新たな価値を開発していくことを最優先している」と、これまで資生堂が培ってきたサイエンスと新しいテクノロジーを組み合わせて実装することにチャレンジしていくとの姿勢を中西氏は示す。

また、資生堂が採択した企業は、3Dスキャニング技術やスマートフットウェア、採取した尿から各自に最適な食事やサプリの提案など、いずれも化粧品以外の分野を専門としている。その背景として、中西氏は「ビューティそのものの定義が拡大している」ことをあげる。化粧品業界とウェルネスやライフスタイルの分野の境界がマージしはじめているというのだ。同時に、協業のパートナーとして「資生堂の理念やスタンスを理解し賛同してくれる」企業であることを求めつつ、異業種という違う視点からの切り口が、良い意味で刺激となるのを期待していることをのぞかせる。

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資生堂 中西裕子氏

データ重視のパーソナライズは万能か?

中西氏はまた、資生堂のIoTスキンケアシステム「オプチューン」の開発にも関わった。その日のユーザーの体調などのデータや、気候・湿度といった外的要因データを掛け合わせ、一人ひとりに最適なスキンケア材をその場で調合するのがオプチューンだが、当時、新登場した「アップルウォッチを見て、こんな生体データがいろいろ取れるなら、化粧品に応用できるのでは?」と思いついたのがきっかけだったと明かす。肌の調子は日々違うと自分自身で実感していたこともあり、「個人から採取したデータの集積体であるビッグデータを、個人に還元する」ことでパーソナライズしたケアをそのつど提供するものとして、オプチューンは設計された。

こうしたデータの裏付けにもとづくパーソナライゼーションは、今や美容業界の一大潮流をなしているようにみえる。だが、吉澤氏は「必ずしもパーソナライゼーションが、劇的に消費者全体の購買行動を変えるわけではないのでは」と疑義を呈する。「化粧品の良し悪しの判断軸は、医薬品の治療成績のような明確な評価指標があるわけではないと思っている。化粧品業界において、高度なレベルのパーソナライズは果たして求められているのか、あるいは、すべての人が自分にパーソナライズされたものが欲しいのだろうか」と吉澤氏は問う。

化粧品の好みはユーザーの好き嫌いや気持ちの変化に大きく左右される。データから自分にぴったりだと判断されたものを勧められたい人と、そうではない人、言い換えるなら、別の観点や指標で商品を選ぶ人がいるはずだ。パーソナライズのあり方を考えるうえで興味深い意見である。

イノベーションを生むための発想や行動

セッションの最後に、モデレーターの矢野から「イノベーションを生むための発想や行動」とは?との質問が投げかけられた。

納富氏は2つあると即答する。「1つは、自分(自社)の情報を開示すること。自分について興味を持って調べる人が即座にわかるように、何を目的に何をしているのかを明確に提示する。2つめは、自分がやろうとしていることに、相手のメリットがあるかどうかを考えること」だという。

自分が何者であるのかを相手が理解できるように、正しい情報をおおやけにする。そして、自分に何ができるのか、何をやりたいのかを並べるだけでなく、それが相手や周囲にどんな益をもたらすのかまで含めて計画を練るべきだというのだ。「そんなのは当たり前だと思うだろうが、主語が“企業”と大きくなると、できていない場合が意外に多い」。

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吉澤氏は「国、社会、世界の動きなど、幅広い視点から情報を収集して咀嚼する」のに加え、自分がいる場所の周りをよく見て、ときにはあえてテリトリーの外に出ていくことで発想が広がるとする。また、自分がよく知らない人のユニークインサイトに触れるのも効果的だとして、「最近、あなただけが気づいたことって何かありますか?といろいろな人に尋ねている」と自らの実践方法を紹介した。

中西氏も「自分が長年所属している世界である化粧品やR&D分野の人とのコミュニケーションも大切にしているが、最近ではそれ以外に属している人とも積極的にコミュニケーションをしている」ことや、思いついたアイディアを他のジャンルのものと組み合わせて考えることを実践しているという。

これらの言葉はいずれも、小さなソサエティの内側にとどまらず、殻を破り、多様な世界と出会い、異なる視野から考察することが、イノベーションの種を生み、育むことにつながることを示唆している。

Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)

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