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リアル店舗とオンラインショッピングの垣根がなくなる「空間コマース」、Shopifyが考える新たな購買体験

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AR・VR技術や3Dゴーグルなど最新ハードウェアを組み合わせて、顧客に新たな購買体験を提供する「空間コマース(Spatial Commerce)」。カナダ・オタワに本拠地をおくShopifyは、グローバルでコマースプラットフォームを提供するなかで、その可能性にいち早く着目し、自社の視点や取り組みを精力的に発信している。空間コマースは既存のショッピングをどのように変えていくのか。Shopify Japan株式会社 シニアパートナー ソリューションエンジニア 岡村純一氏に、将来的な展望や同社の取り組みについて話を聞いた。


Shopifyが取り組む「空間コマース」とは

Shopifyは多くの企業がオンラインショップを構築する際に活用しているコマースプラットフォームだ。BeautyTech.jp編集部調べでは、日本では、「ohora」や「ジョンマスターオーガニック」をはじめとした多くの美容ブランドが導入している。

ECに必要な最新機能をきめ細かく提供することで、グローバル市場における存在感を高め、数多くのマーチャントを獲得してきたShopifyだが、その幹部やエンジニアたちは2023年を前後して、ARやVRを活用して商品を販売する空間コマースの可能性について主にX上で発信をはじめている。

社長を務めるハーレイ・フィンケルスタイン(Harley Finkelstein)氏は、空間コマースが各企業・ブランドとユーザーをより直感的につなぎ、買い物の方法を根本的に変化させると指摘。一方、同社AI&空間コマースラボでプロダクト開発を牽引するラス・マッシュマイヤー(Russ Maschmeyer)氏は、製品イメージを実際に部屋に持ち込めるようになれば非常に楽しい体験になるだろうと語り、空間コマースに関するコンセプト動画を複数投稿している。

ラス・マッシュマイヤー氏のXのポスト
指先の動きだけでショッピングを楽しめる

Shopify Japanのシニアパートナー ソリューションエンジニア 岡村純一氏は「コロナ禍でオンラインコマースの普及が加速したが、現在はまた実店舗に購買のタッチポイントが回帰しようとしている」として、次のように話す。

「小売の現場では、データ統合やオン/オフラインにおける顧客体験のギャップを埋めることが課題として浮上している。Shopifyでは2017~18年頃から、オン/オフラインのデータや購買体験をシームレスにつなぐ仕組みを他社に先駆けて提供してきた。その後、技術的な進化に伴い、空間コマースという言葉を全面に押し出して研究や取り組みを展開することになった」(岡村氏)

Shopify Japan株式会社 シニアパートナー ソリューションエンジニア 岡村純一氏
プロフィール/広島県出身。東京の大学を卒業後、システム開発にソフトウェアエンジニアとして入社。以後、ソフトウェア・ウェブサイトの国際化・多言語化の会社、マーケティングSaaSの会社、グローバル展開している決済サービスの会社を経て、2019年にShopify Japanに入社。2023年から現職で、国内のShopifyパートナーのストア構築やアプリ開発、決済連携、事業開拓などの技術的な支援を担当し、開発者コミュニティの拡大とサポートにも従事

空間コマースとは、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)などのテクノロジー、また3Dゴーグルなど最新ハードウェアを組み合わせて現実世界と仮想世界を融合し、現実にはないものを知覚できるようにすることで、顧客に新たな購買体験を提供するコンセプトおよびサービスの総称だ。

岡村氏は「空間コマースにまだ明確な定義はないが、メタバース的な方向性だけではなく、ユーザーがいる場所・シチュエーションに合わせてデジタルイメージを持ち込むなど、さまざまな技術発展の方向性が考えられる」と解説する。

小売業界におけるメタバースは、仮想世界を構築しユーザーに没入感やデジタル空間における購買体験の提供を目指すもので、人間がデジタル空間に合わせて行動する必要がある。一方、空間コマースの場合、リアル世界にイメージを投影することで、人間の行動にデジタル情報を合わせる方向性でも技術開発が進んでいる。そのため定義としては、メタバースよりもより広範囲な意味合いを持つと理解してよいだろう。

「たとえばキャンプグッズを購入するときに、AR/ VRヘッドセットを通じて野外でテントを張ったイメージを投影すれば、ユーザーは自身の好みだけでなく、焚き火や星空など、リアルな世界に合う商品をその場で選ぶことができるようになるだろう。あるいは家具を購入する際、車のトランクに入るかどうかすぐに知ることもできる。事前にサイズを確認する労力や、サイズがあわなかった際に無駄な返送料を払う必要もなくなる」(岡村氏)

昨今の技術動向としては、ただ商品のサイズ感を再現するだけでなく、ユーザーの動きに合わせて対象を連動・変化させることもできるようになってきたと岡村氏は付け加える。たとえば、AR上の楽器を弾く際に目の前にバーチャル譜面を連動して表示させるなど、ユーザーにとって新たな購買前体験の実現も現実的になってきている。

Shopifyが提供・提案する空間コマースの事例

現時点でShopifyが空間コマースを実現していくために提供している機能としては「3D Scanner」がある。専用アプリとiPhoneのカメラを使用することで、Shopifyプラットフォーム上で簡単に商品の3Dイメージを作成できる機能だ。

Shopifyが提供している3D Scanner
出典:Shopify Japan株式会社プレスリリース

「従来は、3Dイメージの作成には専用ソフトや追加コストが必要だった。そこで当社では、簡単に3Dイメージを作成できるアプリを開発した。3D Scannerをダウンロードすれば、スマートフォンやWebブラウザ上で、あらゆる角度から商品イメージを見ることができるようになる。購入者は商品を実際に手に取っているかのように吟味できるだろう」(岡村氏)

3D Scannerは、iPhone Pro 12以降のモデル機種かつiOS 17以降のバージョンで利用するこができる。カナダ・トロントで家具を販売するAAVVGG社は、実際に同アプリを活用して商品の3Dイメージ化に着手。ユーザーが商品を部屋に配置した際にどう見えるか、事前に確認できるサービスを提供している。

家具を販売するAAVVGG社では、商品のソファを実際に自分の家のリビングに置いたときの様子をスマホの画面越しに見られるサービスを提供
編集部撮影

Shopifyは将来的な空間コマースの可能性を共有すべく、コンセプト動画と記事を作成してブログ上で公開している。そこではリアル店舗でどの商品が一番注目されているかをアイトラッキング機能とヒートマップで表示する構想や、購入したい商品をARで配置する前に家の中の邪魔な家具をデジタル技術で消す機能などが紹介されている。Shopifyが想定している空間コマースのユースケースは、オンラインショッピングの失敗を減らしたり、購買体験そのものが楽しくなるようなものがそろっている。

空間コマースのユースケースを紹介するブログページ
出典:Shopify公式サイト

「将来的に、手触りや香りなど視覚以外の五感まで再現・刺激できる方向に技術が発展すれば、ユーザーの購買体験はより豊かになるだろう」(岡村氏)

エコシステムを通じて不透明な技術トレンドの変化に対応

空間コマースの発展は、美容ブランドにとってもマーケティング施策の幅を広げることに間違いなく寄与する。その最大の魅力は、オン/オフラインいずれかの領域にタッチポイントが限定されないことだ。自分たちの世界観をシームレスに再現しつなぐことができるようになるため、ユーザーとのインタラクションをあらゆる場所で強化することができる。

たとえば、自宅のソファに座ったまま、バーチャルな口紅やアイシャドウを手に取り、デザインの細部や大きさを確認し、さらに、一緒に表示された鏡に向かってメイクして、実際につけたときの発色や自分に似合うかどうかをチェックする、といったことがすでに可能になっている。香水など、近い将来、視覚以外の感覚に訴求する技術やインタフェースが整っていけば、既存の購買体験の常識に捉われないアイディアや施策を実現していく可能性もひらける。

「Shopifyの最大の強みのひとつは、プラットフォーム上に機能を提供する数多くのベンダーとパートナーシップを結んでいることだ。この先、当社が掲げたコンセプトに呼応したベンダーたちが、多様なサービスを生み出していくことになるだろう。私たちとしては、そのエコシステムの形成に今後とも力を注いでいくことで、空間コマース領域における技術革新と実装をリードしていきたいと考えている」(岡村氏)

Shopifyでは現在、チェックアウト(ユーザーが購入を完全に確定し、支払いを完了させるプロセス)に関する技術や、AI、NFTを使った新しいロイヤリティの構築など、さまざまな分野に投資を行っている。とくに全社的に注力しているのがAI分野だ。ショップデザインやキャンペーンを自動生成する機能の開発など、生成AIを活用した新たな取り組みが進められているという。

岡村氏は「当社が目指すのは、マーチャントが効果的かつ効率的にコマースビジネスを行うための『テクノロジーの民主化』だ」として、「Shopifyはこれまで最先端テクノロジーを適用した機能をプラットフォーム上で提供することで、エンジニアや開発者を自社で抱えていないケースを含む、あらゆるマーチャントが本業である商品開発に専念できるよう支援してきた。多くの技術的要素やコンセプトの開発を行っており、空間コマースもその数ある試みのひとつだ」と話す。

「技術的なトレンドは、数年後にどう変化しているかを予測することが難しい。だからこそ、いかようにも対応できるエコシステムを構築していくこと、そして、マーチャントやパートナーとコミュニケーションを取り続けながら、技術をブラッシュアップしていくことが重要だと考えている。美容業界の方々からいただいた意見やアイディアを反映できれば、空間コマース技術をより使いやすく、より価値あるものに洗練させていくことができるだろう。空間コマースで何を実現したいか。マーチャントや、その先の消費者からの要望を捉えていく必要があると考えている」(岡村氏)

Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image & photo: Shopify Japan 株式会社

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