
「リテールメディアの活発化」「企業をまたぐサステナブル施策」がキーワード【海外トレンド 2023年2月- 3月】
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毎月1回、ビューティ業界にインパクトを与える海外ニュースを俯瞰し、注目すべきポイントと報道の裏側にある背景を解説。グローバルな視点からビジネスの潮流を紐解く。今回は、小売事業者が展開する広告事業として注目されるリテールメディアの米国での現状、そしてサステナビリティへの取り組み推進にあたり業界全体や異業種企業と協力・連携する動きについてレポートする。
米ウルタやウォルマートが牽引、年平均成長率20%が予測されるリテールメディア

★注目ポイント
多くの消費者データを持つ小売事業者が運営する広告媒体「リテールメディア」は、テレビなどマスメディア広告の減少や、デジタル広告における個人情報の取り扱いにかかわるサードパーティデータ問題、店舗のデジタル化などの要因を追い風に市場が拡大している。これまで、この分野ではアマゾンが市場の約77%を安定的に占めてきたが、ここにきて、ウォルマートなど巨大な実店舗ネットワークを持つ大手小売の存在感が増している。
精度の高いリターゲティング広告を可能にしていたサードパーティクッキー廃止の流れや景気の低迷に伴い、マーケターは予算の使い道を精査し、本当に効果のある広告媒体を選んで投資する傾向が強まっている。そんななかで米国を中心に、ブランドにとって新たな広告手段として注目されているのが、ウォルマートやターゲットなどオン/オフラインで展開する大手小売業者によって構築されたリテールメディアだ。調査会社のStatistaは、2022年米国におけるリテールメディアの広告費は410億ドル(約5兆4,579億円)と推定し、2026年には、同広告費は850億ドル(約11兆3,152億円)に達すると予測。これは、年平均成長率20%で広告支出が増加することを意味する。

出典:Statista 公式サイト
ブランドにとってのメリットは、リテールメディアが展開する広告サービスを利用することで、高いコストをかけてユーザーの消費行動などのデータを独自に収集する必要がなく、小売業者が持つ膨大な既存データを活用し、リテールのデジタルプラットフォームや実店舗のサイネージなどでキャンペーンや広告を展開できる点にある。しかも、自社サイトで行うよりもはるかに広い範囲の潜在ユーザーをもターゲットにすることができる。また、小売業者は顧客との密接な関係をもとに、ブランド広告と購買行動を結びつけるデータドリブンで効果測定可能なアプローチにより、ブランドが消費者とのつながりを実現する。
デジタルマーケティング会社Base Beauty Creative Agencyの創業者のジョディ・カッツ(Jodi Katz)氏は、「かつて百貨店が“小売の王様”だった時代、ブランドは百貨店の商品カタログに掲載されるために料金を支払った。現在は、今まさに購入のクリックをしようというユーザーのショッピングページに載るために支出する。インターネット上のバナー広告が認知度を高めるものであるのに対して、リテールメディアはコンバージョンのポイントとなっている」と、リテールメディアの有効性を説明している。
同時に小売業者側にとっては、リテールメディアが有望な新規事業という側面を持つ。ウォルマートは2023年2月の決算報告会で、同社の広告プラットフォーム事業を担うWalmart Connectの売上は2022年、前年比30%増の70億ドル(約9,318億円)に成長し、第4四半期の広告収入は、2021年から41%増加したと発表。広告収入の増加は、コストのかかる新しいフルフィルメント&配送センターや食料品カテゴリーの拡大を相殺するために重要であるとの見解を示した。
米スーパー大手のKroger(クローガー)も、同社のWebサイトとモバイルアプリの検索結果に表示されるサイト内検索広告と商品リスト広告という、商業的意図が強いチャネルを基盤としたリテールメディア広告事業に注力している。Krogerは広告売上を公表していないが、2021年末の統計では、約2,000社の広告主を持ち、その90%が前年から取引を続けている企業だ。また、メディアストリーミング端末やスマートテレビ向けのOSを開発する米Roku(ロク)と提携し、広告主がKrogerのデータを利用してWebでのキャンペーンの成果を判断できるようにした。
2022年5月、美容業界でいち早くリテールメディアの立ち上げを発表したのはウルタ・ビューティだ。同メディアは、美容カテゴリーでは最大であると同社がうたう、3,700万人が登録する顧客ロイヤリティプログラム「Ultamate Rewards」からのデータを活用し、広告主となるブランドは、ディスプレイ、ビデオ、ソーシャルメディア、インフルエンサーマーケティングにまたがるキャンペーンへの参加と、ECサイトなどウルタの所有するプラットフォームでスポンサー商品アドの提示ができる。あわせてウルタは“closed-loop”キャンペーンレポートサービスを提供し、広告がどのような反響を呼んだかについての洞察をブランドと共有する。
成長を続けるリテールメディアだが、一方で、データの共有と透明性に関する課題が依然として残るとの指摘もある。小売業界団体のPath to Purchase Instituteがリテールメディアを利用している企業を対象にしたアンケートでは、「リテールメディアネットワークを利用するうえで課題だと思うことは何か」との質問に対し、「データの透明性と共有」をあげた回答が28%と最も多かった。ある回答者は「アトリビューション(メディアごとのコンバージョンへの貢献度の測定)データの欠如が問題だ。改善されてきてはいるが、本質的にはまだ情報のブラックホールである」と答えており、「十分な情報が提供されないため、投資に対するリターンを理解できないまま料金を支払う」状況が続いていることが示された。

出典:Path to Purchase Institute 公式サイト
ターゲットが運営するリテールメディア Roundel のデジタル広告プログラムに参加しているスキンケアブランド「Winky Lux」のCEOナタリー・マッキー(Natalie Mackey)氏は、ソーシャルメディアの有料広告と連動して、ブランド認知度を効果的に高めることができたと評価する反面、たとえば、ランディングページを見ることができないので、クリックスルー率がわからないなど、データの透明性は十分ではなく、アトリビューションは曖昧であるとする。
しかし同時に、マッキー氏は「大手小売企業が保有する顧客レベルには、自分たちだけではアクセスできない。何百万人もの顧客にリーチできるターゲットのような企業は多くの情報を持っており、(興味・関心や行動などが我々の既存顧客と似た特性を持つ)“類似オーディエンス”をクリエイトしてくれる」として、欲しい情報がすべて手に入るわけではないが、リテールメディアのサービスは投資に見合う見返りがあると考えている。
ユニリーバやP&Gが参画、企業・業界横断型のサステナブル推進プロジェクト

★注目ポイント
原材料調達から生産、流通、消費活動など、さまざまな段階での課題が複雑に絡み合うサステナビリティをグローバル規模で実現するには、業界全体はもとより、異業種企業とも連携して施策を進めていくことが大切だとする考えが広がっている。大手企業を中心にコンソーシアム(共同企業体)を立ち上げるなど、協力体制をつくる動きが進んでいる。
携帯電話から掃除用具まで、普段の暮らしのなかで使用されるさまざまな日用品などの製造過程で発生するCO2のほとんどが、石炭、石油、ガス由来であり、しかも、この傾向はますます強まっている。Nova Instituteとユニリーバが2021年4月に発表した報告書によると、化石由来のCO2は、2050年までに2倍以上になると推定されており、一般消費財の製造におけるCO2の発生を段階的に廃止していくためには、化石由来以外の再生可能なCO2量を全体の15分の1にまで増やす必要があるとされる。
この目標を達成するための鍵は、排ガスに含まれるCO2を回収・活用してサステナブルな原料を製造するバリューチェーンを構築することにあるとして、ユニリーバ、P&G、化学工業協会(SCI)、世界最大の化学メーカーBASFなど、英国に事業所を持つ産業界を代表する企業や大学など15の組織が、初の業界横断的なコラボレーションとして、同国での製造工程で排出される毎年1,500万トンから2,000万トンのCO2の削減に取り組む2年間のプログラムに関する協力協定に、2023年2月調印した。
Flue2Chemと名付けられたこのプロジェクトは、英国内の金属、ガラス、紙、化学品製造などの基幹産業から出るCO2を回収・いわばリサイクルし、一般消費財の製造にも利用できる代替炭素素材として再利用することで化石由来の素材への依存を低減することを目的とする。政府機関 Innovate UKから268万ポンド(約4億3,000万円)の資金も獲得した。
ユニリーバのホームケア科学技術R&Dディレクターであるイアン・ハウエル(Ian Howell)氏は、「1社だけでこうした試みを行うことは不可能だ。コンソーシアムとして15のメーカーと学識経験者が力を結集することで、英国だけでなく、世界的にも大きな前進がもたらせる」と語っている。
また、食品・消費財業界のサステナビリティ向上を目指す非営利団体 The Sustainability Consortium (TSC)に、ウルタ・ビューティが2023年3月、新メンバーとして参加した。同コンソーシアムには、花王、ヘンケルなどグローバル美容大手を含む100以上の企業が加盟している。
ウルタは2021年に、エネルギー管理システムの改修に160万ドル(約2億1,000万円)を投資しており、全商品群にわたってより持続可能なパッケージングに取り組むとしているほか、CSRの一環として、14.8トンの廃棄物を埋立地に投棄するのではなく、再利用や削減に転換することを目標のひとつに含めている。

LVMHビューティ部門と米国に本拠を置く大手化学メーカーのダウ・ケミカルは、LVMHの香水・化粧品ブランドにおける持続可能なパッケージングの使用を加速させるために、パートナーシップを結んだ。両社は、機能性や品質を損なうことなく、バイオベースおよびサーキュラー(持続可能再生型)プラスチックをディオールのいくつかの製品に採用することを目指し協力する。
これにより、2023年内に、LVMHの香水パッケージの一部には、バイオベースのプラスチック素材のSURLYN™(サーリン)とCircular SURLYN™の両方が含まれるようになる。Circular SURLYN™は、ダウが提供するほかのSURLYN™製品群に期待される結晶のような透明性とデザインの自由度を、低いカーボンフットプリントで実現するものとされる。
LVMHビューティ部門のエグゼクティブプレジデント兼マネージングディレクターであるクロード・マルティネス(Claude Martinez)氏は、「LVMHでは、LIFE 360プログラムにもとづき、近い将来、当社のパッケージにバージン化石資源由来のプラスチックを使用しないことを決定している。Circular SURLYN™の開発におけるダウとのコラボレーションは、ゲランの「ラ プティット ローブ ノワール」をはじめとする香水の一部ですでに採用されており、この素材は、製品の品質に妥協することなく、LVMHのサステナビリティ目標の達成に貢献している」と話した。
日本では、資生堂がプラスチック製容器の新たな循環型プロジェクト「BeauRing(ビューリング)」の立ち上げを、2023年2月に発表した。同年4月から、同社の全ブランド容器のうちの使用済み(再生)プラスチック製化粧品容器を対象に、一部の店舗での収集を開始して実証実験を行う。サステナブルな社会に貢献していくことを目指し、他企業にも参加を呼びかけ、ポーラ・オルビスホールディングスが「ポーラ(POLA)」ブランドで参画することが決定している。

BeauRingは収集した使用済みプラスチック製容器を再生資源としてリサイクル処理を行い、また新たなプラスチック製容器として再利用するプロジェクトで、将来的には収集から再生までの一連のスキームのプラットフォーム化を目指す。
実証試験では、収集した容器を一時的に資生堂グローバルイノベーションセンターへ集積し、告知したとおりの収集物が得られているのか、収集量がどれくらいか、収集物の運搬頻度は適切かなどの分析を行う。収集拠点は横浜市内のデパートや化粧品専門店、横浜みなとみらい21地区にある資生堂グローバルイノベーションセンターの計10拠点にBeauRing BOXを設置し、来店客に使用済みプラスチック製化粧品容器を投函してもらう。実証試験で収集するこの容器は、内部を洗う必要はなく、キャップやスポンジ、チップなどもつけたまま投函できるという。リサイクル検証に適した重量に達するまで資生堂グローバルイノベーションセンターに集積したのち、リサイクルに適した技術を用いて再生する計画だ。

出典:資生堂プレスリリース
Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image: Simon Berger via Unsplash