ウルタの「オムニチャネルエコシステム」、AI企業投資からメディア事業進出までの全容
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ウルタの「オムニチャネルエコシステム」、AI企業投資からメディア事業進出までの全容

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米国内で1,300超の店舗を展開する米国最大手の化粧品小売りチェーンのウルタ・ビューティ(Ulta Beauty、以下ウルタ)は2021年、テック企業 アデプトマインド(Adeptmind)への投資を発表した。これまでのデジタル戦略に加え、ウルタが積極的に推進する美容部員を核にした「オムニチャネルエコシステム」構築の一環だ。顧客には究極の利便性を、メディア事業としてブランド向けには新たなサービスをと、全方位で小売りとしてのイノベーション構築に入っているともいえるウルタの全容を紹介する。

3年ぶりの投資家向け説明会で戦略的優先項目を公表

ウルタは直近の2021年度第3四半期(2021年10月30日締め)決算で、純売上高がコロナ禍で低迷した前年同期から28.6%増となる20億ドル(約2,311億2,000万円)を記録した。既存店ベース(EC売上高を含む)では、9%減だった前年同期から25.8%増のプラスに転じ、2019年第3四半期と比べても14.3%増を達成。純利益は前年同期の7,480万ドル(約86億4,000万円)から2億1,530万ドル(約248億8,000万円)に増加した。

純売上高は、2021年度上半期は39億ドル
(約4,507億2,000万円)と
2019年度上半期の34億ドル
(約3,929億6,000万円)から増加

決算発表に先立つ2021年10月末、ウルタは3年ぶりとなるアナリストと投資家向け説明会「Analyst Day」をオンライン開催した。向こう3年間の業績目標を示すとともに戦略的優先項目について説明し、その1つとしてオムニチャネル体験の進化に言及している。アデプトマインドへの投資はその一環として発表され、投資額などの詳細は非公開だった。

400社が導入するAIパーソナライズ検索エンジン企業への投資が意味すること

カナダのトロントに本社を置くスタートアップのアデプトマインドは、マイクロソフトが2017年に買収した深層学習を手掛けるマルウバ(Maluuba)の出身者2名が創業した。AIと機械学習によって消費者のニーズを分析し、個々の顧客に合った商品をレコメンドするソリューションを開発する。アデプトマインドによると、このソリューションは2017年に提供を始めて以降、400以上の小売業者やECサイトに導入されている。

ウルタはアデプトマインドへの出資により、「Digital Store of the Future(未来のデジタル店舗)」と同社が呼ぶコンセプトを実現するための「パーソナライズされた検索エンジン」の開発を目指す。ウルタの最高デジタル責任者(CDO)のプラマ・バット(Prama Bhatt)氏は、同社が思い描く「未来のデジタル店舗」について、「コンテンツとコマース(商取引)をシームレスに融合した場であり、顧客が探している商品を見つける手助けをし、顧客が自分ではそれが必要だと気づいていないような商品やサービスを紹介する場」と説明している。

アデプトマインドは自社技術を「(店員の接客から得られる)オフラインでの優れた顧客体験をオンラインで実現するもの」とうたっている。たとえば、実店舗の靴屋では、顧客のニーズを探るために店員からの「どこへ行き、何をするための、どんな靴が欲しいのか」といった聞き取りがあり、その内容を理解した店員が、その顧客にあった商品を見つけて提案する。この店員による顧客ニーズの把握や予測と、それを商品提案につなげる一連の作業をAIで代替えし、顧客が探している・求めている商品に短時間で素早くたどり着けるようにするのが、アデプトマインドが目指す顧客体験だ。CDOのバット氏がいう「コンテンツ」とは、この顧客ニーズの背景・ストーリーであり、それに応じてパーソナライズした商品提案や、顧客が興味を持ちそうな、あるいは顧客に役立つと思われる情報を指す。

アデプトマインドのソリューションを導入したECモールやブランドは、AIが提案する商品にもとづき顧客ごとに適切な特典やサービスを提供することができる。アデプトマインドによると、欲しい商品が見つかりやすいという顧客にとっての利便性の高さに加え、特典提供によって購買意欲を刺激する結果、同社のソリューション導入企業はオンライン売上が一貫して増加しているとする。

フランス発のスポーツ用品チェーン大手のデカトロン(Decathlon)は、2018年に米国市場向けオンライン店舗を開設するにあたり、商品検索ソリューション開発を目的にアデプトマインドと提携した。当時45カ国で1,400店舗以上を展開していたデカトロンは、さまざまなスポーツを対象に20超のブランドの3万7,000種類以上の商品を扱っており、顧客体験を高めるためには、膨大な商品のなかから的確なマッチングを提案できる優れた検索エンジンが必要不可欠だったからだ。

デカトロンの顧客はスポーツ愛好家が多い。そこでアデプトマインドは、どの顧客がどのスポーツに関心を持っているかというデータにもとづき商品ニーズを理解する、深層学習・自然言語処理(NLP)検索ソリューションを開発した。独自のランキングアルゴリズムを使い、ユーザーの好みや条件を考慮して関連性の高い順に商品のランク付けを行うほか、ユーザーのクエリー(質問、照会)に応じて動的に変化するフィルターによって、検索結果を絞り込む。

その結果、検索エンジンを使わないサイト訪問者のコンバージョン率が21%だったのに対し、検索利用者のコンバージョン率は44%に上昇した。サイト訪問者の25%が検索を利用し、これら利用者の購入額がオンライン売上高の50%を占めていた。また、商品購入に至らずサイトを離れた訪問者の割合は、検索導入後には63%低下した。デカトロンUSAの最高技術責任者(CTO)、トニー・レオン(Tony Leon)氏は、「顧客の要望をよりよく理解し、適切な商品に迅速につなげることが可能になった」と述べている。

そもそも、ウルタは2018年にデジタル・イノベーション(Digital Innovation)部門を新設し、テクノロジーによる顧客サービスのパーソナライゼーションと顧客体験の向上に取り組んできた。同年に開催した投資家向け説明会では、AIスタートアップのQM Scientificと、拡張現実(AR)スタートアップのGlamSTを買収したと発表。ウルタが技術系企業を買収したのは、これが初めてだった。

2社のうちQM Scientificの技術は、商品情報や商品レビュー、顧客の購入や閲覧履歴、顧客フィードバックなどのデータから商品をレコメンドする機能の開発に貢献したとされる

デジタル関連の取り組みを紹介する
ウルタのデジタル・イノベーション専門サイト
出典:ウルタ公式サイト

2021年12月時点で、デジタル・イノベーション部門には機械学習とコンピュータビジョン専門家、データ科学者、コンピュータグラフィクス・エンジニアなどが所属し、全社的なデジタル関連イニシアチブを担っている。

データが示す、オムニチャネル利用者の売上への貢献度の高さ

ウルタがオムニチャネル戦略を強化するのは、ECと実店舗の両チャネルで買い物をする顧客は、どちらか一方だけを利用する顧客に比べて購入額が大きく、購入頻度も高いからだ。

実店舗とEC両方を利用する顧客は
購入額と購入頻度が高い

ウルタは「ウルタメイト・リワード(Ultamate Rewards)」と呼ぶロイヤルティ・プログラムを展開しているが、2021年10月の投資家向け説明会の資料によると、オンラインと実店舗の両方を利用する会員の購入額は、オンラインだけ、または実店舗だけを利用する会員の約3倍で、購入頻度も8回(オンライン3回、実店舗5回)と、オンラインだけ利用者の2回、実店舗だけ利用者の3回に比べて多かった(2021年7月31日までの12カ月実績)。

ロイヤルティ会員数は、2019年第2四半期の3,320万人から2021年第2四半期には3,460万人に増え、会員の年間購入額は同期間に2%増加。オンラインと実店舗の両方を利用する会員の割合は増えており、2019年は実店舗のみ利用が84%、オンラインだけ利用が3%、両チャネル利用者が12%だったのに対し、2021年(2021年7月31日までの12カ月平均)は、それぞれ73%、9%、18%となった。

リアルでもデジタルでも垣根のない接客と購買体験の提供へ

ウルタは2021年10月の投資家向け説明会で、アデプトマインドとの提携以外にもデジタル生態系の拡大と強化のための施策を示している。ウルタが描くオムニチャネルエコシステムとは、一人ひとりの顧客の好みや肌状態などの情報を把握し、商品情報はもとより、ケア法やメイクメソッドなど美容に詳しいビューティ・アソシエイト(BA=美容部員)を中核に据え、ユーザーが実店舗でもオンラインでも的確なアドバイスやカウンセリング(接客)が受けられる、リアルとデジタルの垣根がないチャネルの構築を目指すものだ。

アデプトマインドとの技術提携で開発する新しい検索エンジンと、BAのオンラインカウンセリングを掛け合わせることで、リアル店舗よりもECのほうが、顧客の欲しかった商品、あるいは無意識のうちに求めている商品に出会う確率がより高まることにもつながるだろう。

オムニチャネルエコシステムのイメージ図

あわせて、オミクロン株の感染者急増でまだ先行き予断を許さない状況ではあるが、コロナ禍で変化した消費者の美容品の購買行動の多くは経済正常化後も続くと予想。これを受け、まず、オンラインで注文した商品を、より早く受け取れるようにするための施策にも注力している。シームレスなオムニチャネル体験の実現は、多くの場合、消費者が必要とするタイミングで商品を受け取れることが前提になると考えているからだ。

具体的には、2019年に始まったBOPIS(EC購入品の店舗受け取り)サービスの第2弾として「Beauty to Go」をスタート。オンラインでの注文品を2時間以内に実店舗で受け取れるようにする。

Beauty to Goのイメージ図(左)と
即日配達サービスを提供する6都市

さらに、宅配サービスのドアダッシュ(DoorDash)と提携し、オンライン注文品の即日配達も開始し、アトランタ、ボストン、シカゴ、ロサンゼルスなど6都市の一部店舗から商品を配達する。顧客はウルタのECサイトで商品を選び、地元の店舗に在庫があるか、その店舗が即日配達に対応しているかなどを確認し、チェックアウト時に即日配達を指定する。2022年には対応店舗を増やす計画だ。

ウルタはグーグルとも提携。グーグル検索とYouTubeプラットフォームでのバーチャルトライオンツール「GLAMlab」を導入し、ウルタが取り扱う一部ブランドの口紅とアイシャドウを対象にサービスを開始している。

ほかにも2,000万ドル(約23億1,000万円)規模の「デジタル・イノベーション基金(Digital Innovation Fund)」を設立し、ウルタが掲げる「美容、小売り、商取引の未来」の変革のために、イノベーターや起業家、投資家と協業することを明らかにした。

メディア事業に進出、ファーストパーティデータを新たな収益源に

投資家向け説明会では、ブランドパートナー向けの新事業として「UB MEDIA」を立ち上げることも発表している。ウルタが自社のファーストパーティデータを利用し、ECサイトやアプリなどウルタのオウンドメディアや、Facebook、Instagramといった外部チャネル向けに、ブランドの目的に応じて対象を絞り込んだ広告キャンペーンを設計して展開する。また、キャンペーン実施後は、その効果を計測して結果や洞察をブランドに報告する。ブランドにとってのUB MEDIA利用の利点は、潜在顧客に効率的にリーチできる点にある。

ECモールがブランドの広告を表示するなど、小売業と出版業(メディア)の境界は近年あいまいになっているが、ウルタはUB MEDIAによってメディアビジネスへの進出を本格化させる。顧客データに根ざした商品レコメンなどサービスのパーソナライゼーションに力を入れてきたウルタは、オムニチャネル戦略と歩調を合わせ、コンテンツや体験にも踏み込んだパーソナライゼーションを強化。その柱の1つとなるUB MEDIA は2022年春ごろの提供開始が予定されている。

新ビジネス「UB MEDIA」立ち上げを発表

ディスカウントストア大手ターゲット(Target)の店内にウルタブランドの店舗を設けるショップ・イン・ショップ展開も、オムニチャネル戦略の重要な要素の1つだ。2021年8月に第1店舗がオープンした「ウルタ・ビューティ・アット・ターゲット(Ulta Beauty at Target)」は、同年10月までに100店舗を出店し、最終的に800超まで増やすことが計画されている。

ショップ・イン・ショップは新型コロナ禍で外出先を減らしたい既存顧客にターゲット1店舗で日用品も化粧品も揃うという便利さと安心を提供し、潜在顧客にはターゲットが得意とするマス商品とは異なるブランドの化粧品を紹介する機会となっている。最終的に潜在顧客をどれだけ既存店舗に呼び込めるかはまだ未知数だが、出店は計画通りに進んでおり出足は順調のようだ。

競合のセフォラはやはり米大手量販店コールズ(Kohl’s)と組んで、ショップ・イン・ショップ展開を進めているが、専門家からは、店舗数拡大のスピードや消費者の認知度においてウルタがリードを広げているとの見方も出ている

Ulta Beauty at Target
顧客サービスの訓練を受けたBAが接客

テクノロジーに投資し、顧客データの収集からパーソナライゼーションの進化、実店舗でのサービス充実と準備を進めてきたウルタ。2022年は、BAを中心にオムニチャネル戦略のさらなる具現化と発展を目指す起点の年となる。

Text:鶏内智子(Tomoko Kaichi)
Top image & photo: 2021年10月開催の「Ulta Beauty Analyst Day」資料

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