フランスの美容・ファッションスタートアップによるエシカルな循環型消費の最前線
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フランスの美容・ファッションスタートアップによるエシカルな循環型消費の最前線

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仏政府系投資銀行Bpifranceが主催したイベント「BIG」は、中小企業やスタートアップのグローバル進出を後押しするのが目的だ。マクロン大統領も登壇し、女性起業家支援の一層の推進や、循環型経済といったホットトピックスが飛び交った。そのなかから美容、ファッション系企業が登壇したセッションを中心にイベントの模様をレポートする。

仏企業のグローバル展開を鼓舞するイベント

毎年10月に開催されるフランスの公的投資銀行Bpifrance主催による「Bpifrance Inno Génération(BIG)」が、2021年10月7日にパリ市内の会場とオンラインで開催された。Bpifranceは、フランスの中堅・中小企業、スタートアップに、融資や特定の保証、支援サービスを提供することで、起業促進や事業の国際化を推進しており、起業家にとって重要なエコシステムの1つである。

BIG会場風景

今回のテーマは「Conquérir pour grandir(大きく成長するための攻勢)」だ。海外市場を果敢に攻めてシェアを勝ち取ろうと、産業界を鼓舞する意図が込められている。前回同様にマクロン大統領がメインステージに登壇し、中小企業の創業者や起業家の質問に答えたほか、欧州最大級のインキュベーション施設Station Fの創設者のグザヴィエ・ニエル(Xavier Niel)氏も登壇。「欧州のなかでもフランスほど事業成長のための社会モデルやエコシステムが整っているところは少ない。足りないのはグローバルなビジョンと野心だ」と語り、米国や中国と比較しながら、フランスから発し世界的な企業を目指すよう呼びかけた。美容、ファッション系企業が登壇したセッションを中心にイベントの模様をレポートする。

メインステージに登壇した
グザヴィエ・ニエル氏

海外展開をめざすクリーンビューティ小売スタートアップ「Oh My Cream !」

メインステージには、クリーンビューティ専門のコンセプトショップ「Oh My Cream !」の創業者ジュリエット・レヴィ(Juliette Lévy)氏が登場し、起業したての2013年に10人の投資家の前でピッチした時のことを振り返り、事業拡大の経緯を語った。

「当時25歳の私は100万ユーロ(約1億3,200万円)の資金調達に挑戦したが、投資家の1人に、もっと野心的に500万ユーロを調達して5年後の売上を50倍にするべきだとアドバイスされ衝撃を受けた。また、2016年には銀行口座には3カ月分の運営資金しかなくなり、倒産寸前の危機に陥った」と困難もあった道のりを打ち明けた。しかし、その後600万ユーロ(約7億9,200万円)の資金調達を果たし、2017年には自社コスメブランドもローンチ。2020年末時点で4回、総額2,000万ユーロ(約26億4,000万円)の資金調達を実現した。現在はフランス国内に21店舗、約100名のスタッフを抱えるまでに成長している。

2022年には新しいビジネスモデルで海外進出を予定する現在も「成功する保証はない。勝つためには自分を信じてやるしかない」と、不安を感じながらも前向きに突き進んでいることを率直に伝え、会場に集まった起業家を励ました。


2021年10月オープンのOh My Cleam !の旗艦店は
約50のクリーンビューティブランドを揃え、
地下にはエステルームや赤外線サウナも完備

新興オーガニックブランド「Respire」の創業者が試みる”ビジビリティ(可視化)”

また、女性の起業を促進するためのセッション「企業プロジェクトを具体化せよ!」では、女性は起業に対して自信が持てない傾向にあるとされることから、心理的なバリアを取り除くための助言や支援プログラムが共有された。

2021年11月に、男女起業家の資金調達の格差を縮める非営利団体SISTAとともに、テック系女性起業家の支援プログラム「Woman in Tech」をスタートする大手金融機関BNPパリバのロール=エマニュエル・フィリー(Laure-Emmanuelle Filly)氏は「ビジビリティを高めることが女性起業家の成功のカギだ」と述べ、2018年11月に100%ナチュラル成分の固形デオドラントを発売したオーガニックコスメブランド「Respire」を例にあげた。

共同創業者のジュスティン・ユトー(Justine Hutteau)氏は、Respireのインスタグラムに頻繁に登場してコミュニティに語りかけるにとどまらず、個人アカウントでもほぼ毎日自らの言葉で日々の活動を報告している。しかし、ここでいうビジビリティとは、メディア露出を増やすことだけではない。起業から現在に至るまでのユトー氏の活動を見ると、販売店や顧客などコミュニティの人々に実際に会い、リアルな場でのプレゼンスを高め、心の距離を近づける努力がされている。

Respireは製品発売前の開発プロジェクトの段階から、コミュニティメンバーと定期的に対話をする機会を創出している。アイディアを出して製品づくりに参加する人々を「Respire Club」に招待して、WhatsAppを介しての会話や対面でのディスカッションにより絆を深めてきた。

こうした経緯から、Respireの強みはコミュニティにあると考え、初回生産の資金調達はクラウドファンディングで呼びかけた。300件の事前注文を目標にしたところ、3カ月後には2万1,018件の注文を記録、合計で21万ユーロ(約2,770万円)が集まった。現在では、薬局や大型スーパーを含め、3,000店に配荷されており、ユトー氏は、2021年度に最も活躍した女性起業家に贈られる賞「Be a Boss」のCEOアワードにも輝いている。

また、同セッションにはビューティテック領域の女性起業家として注目を集める、クリーンビューティDIYコスメ「BeautyMix」の創業者ネリー・ピット(Nelly Pitt)氏も登壇した。同氏は理系大学を卒業後、仏大手企業に勤めたが、当時その企業の幹部は全員男性で、そこでのキャリアを築く限界を感じ起業に至ったと話す。「創業者となり、女性の起業を応援する立場となった今は、外部から強いられる限界は存在しない。限界は自分のなかにしかないので前進するのみだ」と、女性が活躍する手段としての起業という見方を示した。

右から、ネリー・ピット氏、
モデレーター、BNPパリバのフィリー氏

BeautyMixは、まず専用アプリで肌診断をし、自分の肌に適した、あるいは必要な製品を見つけ、アプリ上で製品レシピを確認したのち、そのままワンストップでエコサート認定の原材料を購入。原材料が届いたら専用マシンに入れてスイッチを押せば、オリジナルのコスメができあがる仕組みだ。処方の安全性への関心の高まりから、売上は毎年倍増の勢いで伸びているという。

フランスでは、大手企業も女性スタートアップの支援プログラムを提供しているが、恩恵をこうむるのはまだまだ一部の起業家に限られる。こうした状況を受け、大都市だけでなく、地方にも女性の起業をサポートする非営利団体が複数誕生している。資金調達においても男女格差がいまだに大きいこともあり、女性をエンパワメントしようという動きが加速している。

エシカルスニーカーブランドの「VEJA」の透明性

石油産業に次ぐ世界2位の環境汚染産業とされるアパレル・ファッション業界は、過剰生産や過剰消費が問題になっており、多分野でのイノベーションとビジネスモデルの変革が求められている。「未来のファッションブランドのビジネスモデルとは」と題した2つのセッションの1つ目では、環境へのインパクトについて語られた。

パタゴニアと並ぶエシカルな企業と称されるスニーカーブランドの「VEJA」は、2005年の創業以来、過剰生産、バーゲン、広告活動を一切せず、ポジティブなインパクトを出すために独自の公正な商取引を推進している。共同創業者のセバスチャン・コップ(Sébastien Kopp)氏は「起業した25歳の頃は何も知らず、自分たちでブラジルのオーガニックコットン生産者を訪れて独自の価格設定をして買い付けた。ソールに使用するゴムはアマゾンの現地住民から直接購入し、糸を紡ぐ工場、縫製工場などすべて自分たちで見つけた」と語り、公式サイトでは生産過程、原材料の購入量・金額、製品原価のみならず、生産者のリストや契約書なども公開し、透明性を徹底している。

VEJAは社会や環境に配慮した
公益性の高い企業への国際認証
「B Corp」も取得

しかし、コップ氏は「中小企業がどんなに環境や社会的な努力をしても、そのインパクトは小さい。大きな変化をもたらすには、大企業グループの株主が重要な役割を果たす」と話し、株主にとって収益性は大切だが、環境・社会を優先する必要があること、同時に、各企業がそれぞれの立場で努力することで社会は変わっていくと訴えた。

中小企業が連携する成長モデルの模索、エシカルなアパレルD2C「Patine」

「小さな企業が複数の新しい成長モデルを作り、団結して協働すれば、世の中を変えていける」と同調するのは、VEJAと同様に、在庫を持たず、セールも行わないD2Cブランド「Patine」の創業者シャルロット・ドゥルー(Charlotte Dereux)氏だ。コミュニティとの強い絆と透明性をビジネスモデルの軸に、エシカルな素材、リサイクル生地を使用しながら、長く使い続けたいと感じる服を提案している。

生産工程では誰がどこでどのように作っているかまで公開しており、コロナ禍ではポルトガルの工場で働く女性たちが自宅で子供の世話をする必要が生じたため、製造が6週間遅れることをコミュニティに共有。事前注文制に切り替え、別の色を勧めるなどコミュニティに理解を求めた。このような同社の人間を尊重した経営方針を理解する人々がファンとしてついているという。

「H&M」が担う大手としての企業責任、透明性と循環を重視

こうした新興ブランドの努力に対して、ファストファッションの代表格である「H&M」のサステナビリティ・マネージャー、ジュリー=マルレーヌ・ペリシエ(Julie-Marlène Pelissier)氏は、環境問題や社会課題に大きなインパクトを担うグローバル企業の自覚のもと、透明性と循環性の2つに取り組んでいるとする。

透明性に関しては、2019年から、店内で製品のタグをスキャンすれば使用素材の詳細情報を追跡できるシステムを導入し、さらに、製品ごとに環境や社会へのインパクト度合いの表示ができるように準備を進めている。また、環境への配慮や安全性を示すさまざまな認証ラベルが混在するため混乱を招いているとし、市場のすべての製品に同じ表記方法を採用し、消費者が比較できるようにすることが重要だと主張する。

また、ペリシエ氏は中古などの二次流通を含め、100%循環経済を実現するにはイノベーションが必要だとする。同社は2015年から、スウェーデン最大の中古品販売プラットフォームである「Sellpy」を戦略的なパートナーとして投資を通じて支援しているが、新しい自然素材やリサイクル生地の開発、レンタルサービスや中古販売、さらに販売後の製品メンテナンスや修理サービスなど新しいビジネスモデルを推進していくには、テクノロジーが欠かせないと説明する。

H&Mファウンデーションでは、毎年Global Change Awardを開催し、ブロックチェーンによりサステナブルな繊維のトレーサビリティを高めるTextileGenesisや、バイオテクノロジーを用いて研究室で栽培できるコットンを開発したGalyなど、ファッション業界に変革を起こしうる革新的なアイディアや技術をもつ企業に助成金や支援プログラムを提供している。過去の受賞企業の技術は実用化されたものもあり、H&Mとの協働も今後考えられる。

創業70年を超えるH&Mは、世界で15万人の従業員を抱え、原材料生産地では3,000人以上が働いている。また、同社がくだす決断は、提携企業などの関係者150万人に影響を与えるため、ファッション業界の変革には大きな責任があると自覚している。「環境や社会(人間)の変革は大企業だけではなし得ず、すべての企業が協力すべきだ。新素材に関しては小さなブランドからも提案を受けている。大企業と中小企業とのコラボレーションがカギとなる」とペリシエ氏は述べた。

ソーシャルセリングやアバターによる、アパレルの新しいビジネスモデル

2つ目のセッションでは、ファッション業界でのデジタル化、バーチャル化について語られた。インフルエンサーらがSNS上で販売を行うソーシャルセリングが活発化するなど、グローバルな規模で消費者がブランドにアクセスできる時代となった今、ビジネスの可能性が大きく広がったと同時に、ブランド価値の維持という点では複雑になり、リスクも巨大化したといえる。

ゲーム、MR(Mixed Reality)、デジタルテクノロジーを組み合わせて新しい音楽体験を創造するスタートアップStage11の創業者ジョナタン・ブロロ(Jonathan Belolo)氏は、若い世代にとって現実とバーチャルに大きな違いはなく、すでに数億人の若者がアバターを使用していることから、今後は自己アイデンティティを表現するアバターが、ソーシャルセリングなどの販売や、環境問題、公正な取引などに介在する新しいビジネスモデルの可能性を示唆した。

ファッションブランド「AMI」のCEOのニコラ・サンチヴェイル(Nocilas Santiweil)氏は「我々が知らない間に、顧客が自主的にアバター用の服を作っていて、『あつまれ どうぶつの森』などでAMIの洋服がアバターのパーソナライゼーションに使われていた」と明かし、若い世代においてアバターが自己表現のツールとして浸透していることに同意した。また、バーチャルの世界と実店舗はそれぞれ補完的な経験をもたらすため、双方がワンセットの必要があると述べた。

同じくファッションブランドのJACQUEMUSのCDOのアレクサンドラ・ネルヴィ(Alexandra Nervi)氏も「以前は、アバターの実装は考えていなかったが、インフルエンサーがファッションの過剰消費について問題意識を強く持っていることを考えると、1度しか着ない洋服に400ユーロを払って、6カ月後に中古品として再販するよりも、アバターに着せてファッションを楽しむ方法も十分に考えられる」と今後の展開の可能性を示した。

「Reflaunt」の二次流通プラットフォームはブランドとユーザー双方の信頼性を担保

ラグジュアリー業界では、ブロックチェーン上で発行されるNFT(non-fungible token)が注目されている。NFTは製品の鑑定書や所有者を証明する偽造不可能なデジタルデータで、製造工程から販売店までの過程だけでなく、二次市場まで追跡できる。JACQUEMUSのネルヴィ氏は、こうしたデジタルによる真正性は中古マーケットでも活用できるとし、公式サイトで購入した顧客が個人アカウントから中古品として再販する同社の仕組みを紹介した。

「フランスでは中古市場を利用する人の割合は2018年の16%から、現在29%まで拡大しているため、ラグジュアリーブランドもどのように中古市場に参加するかを模索している。JACQUEMUSでは、ブランド側で再販プロセスを構築できるプラットフォームを提供するスタートアップReflauntのサービスを導入し、個人ユーザーがいくつかの情報、写真、価格を入力してボタンを押すだけで販売できるサービスを開始した。売買が成立した場合、一般的な中古品販売サイトのように販売金額をそのまま受け取るか、販売金額に20%上乗せしたギフトカード(クーポン)として受け取り、JACQUEMUS公式サイト上の新作コレクションの購入などにも使用できる」(ネルヴィ氏)

簡単な操作であるうえ、ブロックチェーン技術で高い透明性を実現する.arianeeによるNFTデジタルパスポートで真正性が証明されるため、コミュニティからは好意的な反応が得られているという。企業やブランド側は自社のECサイトにこの仕組みを導入し、販売に直接関与はしないが、製品寿命を伸ばし、循環経済を推進しながら、顧客のロイヤリティを高められる。強固なファンコミュニティを持つラグジュアリーブランドには有効な方法といえるだろう。

NFTは現代アート領域での活用が目覚ましいが、LVMHグループ傘下のゲランでは、パリで開催される国際現代アートフェアFIACに合わせて、NFTで鑑定書が発行された4つのデジタルアート作品をパリの本店で展示している。これらの作品は競売にかけられ、Goodplanetファウンデーションに全額寄付される予定だ。持続可能な開発にコミットするゲランは、従来よりも環境負荷の少ないブロックチェーンTezosを「美の名において」選んだとしている。

ゲラン本店で開催された
デジタルアート展示

今回のイベントのテーマに掲げられた「Conquérir(攻勢をかける)」という言葉は、力ずくで勝利を勝ち取るようなアグレッシブなイメージがあるが、人々の心を掴むという意味合いでも使用される。新しいビジネスモデルは、製品やサービスのクオリティだけでなく、製造から販売に係る取引先、従業員、コミュニティに至るまで、人の心に訴えかける力が“武器”となることはいうまでもない。

パンデミックの影響で困難な状況がなおも続く現在、Bpifrance代表のニコラ・デュフルク(Nicolas Dufourcq)氏は「今以上に(我々の)存在理由を感じたことはない」と述べ、失敗を恐れずに起業し、苦境を克服して戦い続けるよう呼びかけた。

Text: 谷 素子(Motoko Tani)
Top image & Photo: 著者撮影

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