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資生堂による「鼻骨格」と肌予測の関連性。そのユニークな視点とツール化までの全容

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資生堂が「シセイドウビューティーウェルネス(SHISEIDO BEAUTY WELLNESS)」ブランドからリリースしたサービスは、鼻骨格から将来の肌悩みを予測できるツールだ。CES2024にも出展され、なぜ鼻骨格から肌悩みが予測できるのかと国内外で話題となった技術について、その全容を開発チームのマネージャーに聞いた。


膨大な指標からみえてきた、鼻と肌の関係性

資生堂は、スマートフォンで撮影した画像で「鼻骨格から将来の肌悩みを予測するツール(以下、ツール)」を、2023年11月に発表した。膨大なデータからシワやたるみといった肌状態や毛細血管など肌の内部組織の特性と、鼻の骨格が密接に関連しているとの資生堂の発見に由来している。この研究成果を応用し、独自に構築したアルゴリズムをもとに、各ユーザーが年齢を重ねると顔のどのような場所にシワやたるみが発生しやすいかを提示するものだ。これにより、肌悩みが現れる前に対処する「予防」型のケアが可能になるほか、適したマッサージ方法や体の内側からのケアなど、よりパーソナライズしたアプローチを見つけだすことが期待できる。

CES2024にも出展し、海外でもその技術には注目が集まった。「鼻骨格から将来のシワやたるみが予測できるというのは、みなさん意外に思われるようで、国内外を問わず多くの方からなぜ“鼻”なのか?とたずねられた」と話すのは、同ツールの開発チームのリーダーである株式会社資生堂 みらい開発研究所 マネージャー・研究員 酒井典子氏だ。膨大な身体や肌のデータからその相関性を発見した背景を酒井氏はこう説明する。

「顔の外観と肌の関係を調べていく過程で、身体指標や肌指標を計測していたところ、鼻と肌との関係性がみえてきた。また、胎児の成長を観察すると、心臓の鼓動よりも鼻の大元となる部分の形成のほうが早いとされる。顔のパーツのなかでも、鼻には大切な役割があることを感じさせた」(酒井氏)

鼻に着目し肌との関連性を見つけたのは、酒井氏自身が色彩工学及び画像解析を専門としており化粧品とは異分野の出身だったからこそという評価もある。

株式会社資生堂 みらい開発研究所 マネージャー・研究員
酒井典子氏

プロフィール/色彩工学及び画像解析の専門家。アパレルから重工業まで様々な業種の課題を解決するデ ジタル・メカニカル領域の商品・サービス開発を経て、資生堂に入社。サイエンスの異分野を学び、生体センシングの研究に従事するなかで、体の中からの美に貢献したいと考え 、骨格に着目し肌の将来を予測する技術を開発。今も年間1,000名を超える肌を見つめながら研究開発を進めている
画像提供:株式会社資生堂

この発見のベースには、2023年9月に発表された理化学研究所 生命機能科学研究センターとの共同研究があるという。それはさまざまなデータから肌、身体、心の関係性を明らかにする目的のものだ。同共同研究では20代から40代の日本人女性を対象に、シミ、くすみ、シワ、うるおいなどの肌状態を計測したほか、体格、体組成、血中成分、生活習慣およびストレスの感じ方など心理指標に関する計測も実施。肌の状態に、体や心のどのような要素が関連しているのかを明らかにするために、計測した肌指標を身体指標や心の指標で説明する数式(肌予測モデル)の作成を試み、複数の数式が得られた。

つまり、肌、身体、心の関係性を定量化したことにより、たとえば、肌の角層水分量には、体の酸化ストレス状態、体格、血中電解質(ミネラル)、握力などとの間に関係がみられることなどが明らかになったという。

スマホで撮影するだけで16の顔タイプを判定し各タイプの傾向や特性が明らかに

実際にユーザー向けの予測ツールの開発にあたっては、顔の形状の特徴として、目の丸み、顔の長さ、唇の大きさ、鼻梁(鼻すじ)の高さ、あごの丸みなど12項目、肌状態の特徴としては、目尻のしわ、フェイスラインのたるみなど18項目を変数に設定した。そして、これらの項目について、40~59歳のアジア人女性424名から取得した顔画像や、人の目による主観評価をもとに数値化して解析に用いた。その結果、とくに鼻の特徴である「鼻根(鼻の付け根)」「鼻梁」「鼻翼(小鼻)」と、シワやたるみといった肌状態との強い関係性が見出されたという。さらに、総合的に解析・評価を行ったところ、「鼻梁の形状と肌の色の彩度」「鼻の骨格と毛細血管等の肌内部状態」にも関連性があるとわかった。

これらのことから、たとえば、鼻梁が低く鼻翼が大きい骨格の顔タイプAと、鼻梁が高く鼻根が深い骨格のタイプBを比較すると、AよりBのほうが目尻のしわスコアが高く、毛細血管密度も高いという解析結果が導きだされた。

鼻の骨格としわおよび肌内部特性との関係
出典:株式会社資生堂プレスリリース

また、ツールの開発において苦労した点として、酒井氏があげたのが「一般的なスマホで撮った画像からいかに正確な判断をするか」だ。目や口は肌に対して輪郭がはっきりしているため、形の特徴を定量的に検出することが容易だ。しかし、鼻は立体的ではあるが肌と同じ色であるため、その形状を細かく検出することは非常に難しかったという。そこで、顔画像に映し出されたわずかな鼻の影に着目し研究を進めた結果、明るさなど撮影場所の状態に合わせて精細に抽出可能な画像処理技術の開発に至り、鼻の骨格特徴を通常のスマートフォンの性能で検出することに成功した。

この画像解析技術と、鼻の骨格と肌状態や肌内部との関係性に関する知見を組み合わせ、アジア人の顔を16種類のタイプに分類し、それぞれの将来的に表れやすい肌悩みと肌内部の状態を予測できるツールが誕生した。

SHISEIDO BEAUTY WELLNESSのビューティ×ウェルネス領域でサービス開始

2024年2月には、インナービューティをうたう「シセイドウビューティーウェルネス(SHISEIDO BEAUTY WELLNESS)」向けにアレンジされたツールを「鼻骨格チェック」サービスとしてリリース。同ブランドの公式サイトのブラウザに表示されるQRコードをスマートフォンで読み取って、設問(アンケート)に回答し顔画像を撮影すると、鼻骨格から各自の肌と体の「強み」と「弱み」の傾向の解析が受けられる。さらに会員登録をすると、将来起こりうる肌悩みを予防するとともに、日常の暮らしのなかで行える、肌、身体、心を整えるための運動や食生活の改善といった各自におすすめの「アクション」が提案される仕組みだ。アクションの達成度合いに合わせて、マイページのバッジがレベルアップするなど、楽しみながら継続できる工夫もなされている。また、鼻骨格チェックは同ブランドを取り扱う14店舗の店頭でパーソナルビューティーパートナー(美容部員)のサポートとともに受けることも可能だ。

鼻骨格チェック
出典:シセイドウビューティーウェルネス公式サイト

酒井氏は「鼻の形が定まるのは大体、女性で15歳、男性で20歳とされ、成長期の運動量などが関係しているといわれる。鼻骨格チェックは、たとえば、たるみやすいなど、各自が生まれ持った特性のうち発現する可能性の高い傾向を知り、未来を予測するところがポイントで、その備えとして、今、何をすればいいのかがわかる」点が一番の特徴だと話す。

鼻骨格チェックは、より幅広い人種の顔の解析用に調整したバージョンでCES2024の資生堂展示ブースでも紹介された。実際に体験した来場者からは、手軽で素早く診断できることへの驚きや、性別を問わず「分析結果を肌や生活に活かしたい」との声が寄せられたという。

資生堂では今後、鼻骨格チェックのもとである未来の肌の予測技術をさらに磨き上げ、さまざまなサービスのなかで応用していくとする。

また、資生堂は、DNA解析により割り出した先天的な肌特徴に生活習慣を掛け合わせることで将来の肌の予測をし、その結果を踏まえてパーソナルビューティーパートナーが各ユーザーに適したアドバイスをすることでセルフケアに伴走する「Beauty DNA Program」を2023年7月にスタートさせている。このサービスも、単なる肌分析で終わるのではなく、顧客の肌、身体、心の関係性を総合的に捉えることで、長いスパンで各ユーザーのニーズに応えていこうとする試みだ。

こうした一人ひとりの未来を読み解こうとする試みの背景には、資生堂の掲げる2030年のビジョン「Personal Beauty Wellness Company」を加速させていく狙いがある。化粧品にとどまらず、食品、運動、睡眠など心身に働きかけるさまざまな側面から個々の人々に長く寄り添うサービスを、テクノロジーとR&Dの双方で推進していこうとする意志がそこには現れている。

Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image: シセイドウビューティーウェルネス公式サイト

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