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資生堂のパーソナライゼーション戦略。「実験」を重ねる手法がもたらす先は?

◆ English version: Where is Shiseido in its road to 2020?
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Optune発表、ギアラン社買収、Olivo Laboratoriesのセカンドスキン事業買収。ビューティテクノロジー分野で積極的な動きを見せている日本最大の化粧品メーカー、資生堂に、パーソナライゼーション戦略を聞いた。

国内売上1位、世界では5位の化粧品メーカー、資生堂は、2014年に中長期戦略「VISION 2020」を策定した。その中で、3つの領域、マーケティング、R&D、デジタル等の成長実現に不可欠な領域への投資の強化をあげている。この中の1つであるデジタル領域で、最近いくつかの大きな動きがあった。

2017年1月に、米国ベンチャー企業MATCHCo社を買収。MATCHCoは、スマホアプリを使い、自身で肌色を計測し、肌色にあったカスタムメードのファンデーションをオンラインで購入できるサービスだ。この技術は、ベアミネラルで使用されている。尚、このカスタムメードのファンデーションは、アメリカ国内のみの販売で、アプリもアメリカ国内のみでダウンロードが可能だ。いずれは、アメリカ以外の海外展開や、ファンデーションだけでなく、他のメイクアップ商品にも応用されていくだろう。

出典:bareMinerals

2017年11月は、立て続けに大きな発表を行った。AIを用いたパーソナライゼーション技術を持つ、米Giaran社の買収。2016年に設立されたボストンのスタートアップで、BRC Innovationから投資を受けた後、資生堂傘下に入った。バーチャルメイクアップ、素肌に戻す技術、顔や肌色測定、カラーマッチング、メイクアップアドバイスなどの技術を持ち、モバイル端末だけでなく、スマートミラーにも使える。

出典:Giaran.com

また、IoT技術を活用したスキンケアシステム「Optune」も発表された。2018年春からベータ版のテスト販売を予定している。スマホ用専用アプリを使い、肌測定データや環境データをベースに、その時々の肌環境に合わせた美容液と乳液を抽出し、ユーザーに提供するというものだ。

撮影:編集部

このほかにも、Amazon Alexa用の美容アドバイススキルの提供や、肌測定・美肌づくりアドバイスをするスマホアプリの「肌パシャ」をローンチするなど、化粧品のパーソナライゼーション戦略を拡充させていっている。

画像提供:資生堂

「未来を自分で創りだす」ために動けるところから動くのが資生堂流

この一連の動きで、資生堂がその先に見据えているものは、何だろうか? 資生堂のデジタル戦略、パーソナライゼーション戦略について、資生堂 ブランドマネジメント部 マーケティング開発室長 下村敦氏に話を聞くことができた。

「生活者(お客様)は、化粧にまつわる情報、美しくなるための情報の選択肢がたくさんある。それらの情報が私にとってどうなの?ということを突き詰めるにはデジタルの力なくしてはできない。デジタルを使えば、今まで店頭で人を通じてしか体験できなかったことを、いつでもどんなときでもどんな場所でも体験できるようになる。時間と場所の制約を取り払って、生活者にブランドを体験してもらえる時間を拡張していける」と、デジタル戦略へのシフトの背景を語った。

「しかし、この一連の動きのなかで、これだという正解が何かをわかってやっているわけではない。将来のビジョンがしっかりあってやっているわけではない」とも語り、Optuneの発表会で、資生堂ジャパンの杉山繁和社長(写真下)が引用したピーター・ドラッカーの「未来を予測する最良の方法は、未来を自分で創りだすことだ」という名言をあげ、「未来を創造するためには自分たちで創りだしていかなければならない」と語った。「実験として動いてみる。できるところからすすめていく」のが一連の動きの背景にあるという。

画像提供:資生堂

グローバルトップ企業は、「顧客体験」をパーソナライゼーション戦略の軸に据えている

資生堂は、パーソナライゼーション戦略の軸をOptuneをはじめとする商品で実験をしながら模索をしていくとのことだが、化粧品業界に限らずグローバルトップ企業を見てみると、パーソナライゼーション戦略の中心に必ずといっていいほど「顧客体験」を置いている。

たとえば、米高級百貨店ニーマン・マーカスは、”door-to-the-store(自宅のドアからお店まで)”を念頭におき、オムニチャネルやマルチチャネル戦略を超えた顧客体験を目指している。”any/any/any”と呼ぶ、どんなデバイス、どんなチャネル、どんなタッチポイント、FacebookのメッセンジャーからすべてのSNSメディアプラットフォームにおいても、シームレスかつ、どこであってもニーマン・マーカスが考えるサービスレベルが提供できることを目指している。

出典:Ritu Manoj Jethani / Shutterstock.com

ニーマン・マーカスは、AIを使って、顧客行動についての情報を分析しているが、顧客体験を創りだす上では、「人間らしさ」も不可欠だと考えている。そこで、店員にAIを搭載したデバイスを持たせ、接客に生かしている。顧客は、デバイスを通じて、店員と直接コンタクトをすることもでき、店員はすぐに顧客のサイズや購買履歴、どんなスタイルが好みかなどを確認でき、顧客が到着する前に商品を取り揃え試着室を用意することもできる。顧客の好みのイベントや好きそうな商品が入荷していれば、すぐに紹介できる。AIに頼る部分、人間がフォローする部分を分けながら、個々の顧客への対応をしている。

顧客自体も変わってきていることを察知しているニーマン・マーカスは、“高級品(Luxury”)の意味を定義しなおしているそうだ。世代毎に、顧客毎に意味する高級品とそれにまつわる顧客体験を考えながら、リアルとデジタルをシームレスにするデジタル戦略を立てている。

「やってみて進化させる」アジャイル式でも、仮説検証は不可欠

資生堂の下村氏が言う「考えて考えてと上市前の検証に時間をかけるよりもまずやってみて顧客の反応を見る」というやり方は、近年様々な業界で採用されているアジャイル(俊敏な、すばやい)開発方式だ。

アジャイル開発では、顧客が困っていることの根幹に目を向け、ニーズを満たす最小限の製品を作り、使ってもらいながら改良をし、よりよい製品を生み出していく。Time-to-marketの時間短縮とフィードバックのループを素早く回していき、やることすべてを常に進化させていく開発方式である。「早い(Faster)、安い(Cheaper)、上手い(Better)」がポイントとなる。

もともとソフトウェア開発で使用されはじめた手法だが、ロバートボッシュやGEをはじめ、様々な業界でアジャイル式にモノがつくられるようになっているだけでなく、アジャイル型マーケティングや組織など、多くの領域にその考え方が浸透してきている。

これらのアジャイルを実践する企業に共通しているのは、「変わらなければ生き残れない」というトップマネジメントの危機感や、「完璧なものを作らなくてもいい」という企業文化、そして、ビジョン・戦略・方向性の全社員との共有をはじめ、顧客やパートナーなどを巻き込み、動いてもらうコミュニケーション力だ。

これらの企業に共通する「変わらなければ、生き残れない」という思いは、資生堂にも根づいている。資生堂の次のステップは、デジタル技術を使った資生堂らしい顧客体験をどう作りだしていくかだろう。資生堂にしか作れないもの、資生堂のもつブランドがそれぞれに作りだすもの。それは何かを明確に打ち出す必要がある。

様々な実験を続けることで見えてくるものもあるだろうが、具体的な仮説を検証していくのも大事なステップだ。アジャイル方式の最大のメリットであるスピードを生かし、顧客とともに成長するブランドに組み込む。VISION2020のチャレンジはそこにある。

Text:秋山ゆかり(Yukari Akiyama)

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