2025年に盛り上がる「ロンジェビティ」トレンド、美容業界が見据える次の一手とは
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ユーロモニターインターナショナルは大規模なサーベイをもとに2025年のグローバル消費者トレンドを発表した。浮かび上がるのは「ウエルネス」と「サステナブル」、その先の「ロンジェビティ」のキーワードだ。それを牽引するのは慎重さと行動力をあわせ持つ賢い消費者像である。そうした消費者に向けて、世界の美容業界はどう動こうとしているのか。キーワードの解説とともに消費者インサイトを読み解き、「ロンジェビティサプリメント」や「若い世代のためのアンチエイジング」など注目の事象をピックアップ、2025年の行方を考える。
2025年のグローバルトレンド予想からみえるビューティの潮流
ユーロモニターインターナショナル(以下、ユーロモニター)は2024年11月、4万人以上の消費者を対象にしたサーベイをもとに「Top Global Consumer Trends in 2025(トップグローバル消費者トレンド2025)」を発表した。そこでは、世界的なレベルで物価高と経済の不確実性が続くなか、消費者は慎重な消費行動で家計の管理に努める一方、若々しさを保ちながら健やかに長生きすることを意味する「ロンジェビティ(Longevity:長寿)」をますます希求しており、それは同時に、自分を取り巻く環境、すなわち顕在化が進む気候変動の影響を懸念しサステナビリティのさらなる推進を願っていることが明らかにされた。
2025年の消費者市場の動きを左右するとされる、この「ウエルネス」と「サステナブル」という2つの大きなキーワード、その先の「ロンジェビティ」のインサイトを理解することは、美容業界にとって消費者の新たな価値観とニーズに沿った有効な戦略を立てるために重要だ。ユーロモニターのレポートの内容をフォローしつつ、関連する動向や事象をピックアップして紹介するとともに、経済・政治情勢の不透明さを受け、ビューティ関連商品の購入にあたってもより厳しい目でのチェックを強めている消費者動向について考察する。
長・健・美を叶えるウエルネス
人々が求めているのは単なる寿命の長さではなく、健康寿命の長さだ。そのためには健康な心と体、緩やかなエイジング、それを支えるよりよい暮らしの質が欠かせない。2024年、ビューティとウエルネス領域にまたがるキーワードとして浮上した「ロンジェビティ志向」は、2025年にはより強い潮流となりそうだ。
⚫︎ロンジェビティサプリメント
ユーロモニターでは、消費者はすでに将来の自分のために健康ルーティンへの投資を始めているとして、グローバルのビタミン&サプリメント市場の売上高は、2024年の1,272億ドル(約20兆円)から2025年には1,399億ドル(約22兆円)に達すると予測している。
なかでも、妊活や避妊など生理周期管理、産前産後やメノポーズ対策を含む「ウーマンズヘルス」の分野は、サプリメントカテゴリー全体の平均よりも早い勢いで成長しているとされる。ユーロモニターのレポートでは消費者の54%が「自身の健康目標や課題のためにどのビタミンやサプリメントを摂取するべきかを知っている」と回答しているが、34%の女性はとくに更年期に関連する症状に対処するためにサプリメントを使用している。メンタルヘルスやセクシャルウエルネスと同様に、これまで話題にするのがはばかられてきたヘルスケア関連分野にスポットが当てられて、市場が拡大していることがわかる。
こうしたなか、2025年にサプリメント分野でヒットが予想される注目の原料としてユーロモニターが挙げているのが、脱水素酵素の補酵素として機能するNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)だ。NAD+はエネルギー代謝に不可欠な物質でDNA修復などに重要な役割を果たし、細胞を活性化し健康維持や体力維持、体の衰え(老化現象)の阻止が期待されている。これまでNAD+は美容クリニックで点滴療法として施術されることが一般的で、ジェニファー・アニストンやヘイリー・ビーバーなどのセレブが愛用しているとされるが、オンラインで販売される同酵素を配合したサプリメントなどの商品数は2024年後半からグローバル規模で急激に増えているという。
⚫︎ウェアラブルや健康アプリ人気、ユニコーン企業も
またユーロモニターでは、ミレニアル世代とZ世代はスマートウェアラブルとフィットネスアプリを好んで使用しており、運動量から睡眠、ホルモン、ストレスレベルまで自身の生体情報をトラッキングしAI分析することで、健康管理とよりヘルシーな生活習慣の構築に努めているとする。
それを裏付けるように、調査会社Statistaのレポートにおいても、デジタルフィットネス&ウェルビーイングツールのグローバル規模のユーザー普及率は2024年に14.91%で、2029年までに18.64%に達するとの予想が出ており、同市場の収益は2024から2029年の間にCAGR7.31%を示し、2029年までに2024年の1.4倍にあたる834億3,000万ドル(約13兆円)の市場規模になると予測されている。
その片鱗はフェムテック分野でもみてとれる。2024年7月に2015年創業の英国発女性の健康管理アプリ企業Flo Healthが、シリーズCラウンドで米ベンチャーキャピタルGeneral Atlanticから2億ドル(約315億円)を資金調達し、欧州初のフェムテック・ユニコーン企業となった。同社が提供する女性の生理周期をトラッキングするアプリ「Flo」は、2024年6月時点で月間アクティブユーザー(MAU)が約7,000万人に達し、累積ダウンロード数は約420万回とされ、世界最大級の健康アプリと評価されている。
⚫︎若い世代のためのアンチエイジング
健康長寿志向に伴うもうひとつの重要な側面が、肌や髪など外面の老化を遅らせる「エイジングケア」だ。世界のアンチエイジング化粧品市場規模は、2024年に567億1,000万ドル(約8兆9,443億円)と評価され、2034年までに約1,014億6,000万ドル(約16兆23億円)に達する見込みで、CAGR 5.99%で拡大すると予想されている。
2024年の時点で、世界のアンチエイジング化粧品市場の売上トップ5は、エイジングケアをうたうスキンケアブランド「OLAY」を持つP&Gをはじめ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ユニリーバ、ロレアルなどのグローバル大手が占めしのぎを削っている。
一方で、最近では10代後半から20代のZ世代がエイジングケアをスタートさせる動きもみられる。Z世代はソーシャルメディアの強い影響下にあり、自分の外見を気にかける気持ちが強く、TikTokやInstagramのインフルエンサーのように「若くイキイキと新鮮な見た目であらねばならない」という強迫観念にとらわれている傾向にあるとされる。欧米のSNSでは「Gen Z Age Like Milk(age like milkとは、牛乳が腐る過程のイメージから“悪い年のとり方をする”という意味の慣用句)」とのワードがバイラルし、老いを恐れる美容好きな人々の多くが大量のショート動画で紹介されるボトックスなどのプチ整形やさまざまなアンチエイジングスキンケアを試すことにハマっているという。
こうした状況に対し、美容専門家の間では、若い頃から長期間にわたりアンチエイジング機能をうたう商品や美容医療を利用することの潜在的リスクを憂慮する声もある。そうした意味からも、2025年は若い世代の肌をターゲットにした適切な処方のエイジングケア製品やスキンケアルーティンを提案する動きが強まり、「若年層のためのエイジングケア」という新しい市場が生まれる可能性も高い。
待ったなしのサステナブル
一方、ビューティ関連企業・ブランドにとって持続可能性の追求は、他社との違いを出すというよりも、ビジネスのうえで必要不可欠な施策となりつつある。世界各地で異常気象や大規模自然災害の発生を目撃している消費者は、なかでも地球環境への懸念を深め、企業が責任ある行動をとることをこれまで以上に望んでいる。
同時にユーロモニターの調査では、2024年、63%の消費者が「日常の行動として環境にやさしい選択をしようと思う」と答えた一方で、「サステナブルな商品にもっとお金をかけてもいい」とした人は15%にとどまった。つまり、企業は過度なコストを消費者に転嫁することなく持続可能な製品づくりを進める必要があるということだ。その際には、たとえば詰め替え可能なパッケージの商品なら、エコであるとともに、気軽に使いやすく、バリューフォーマネーな価格といった、サステナブルにプラスした何らかの価値も示すアプローチが有効と考えられる。
⚫︎リーズナブルなサステナビリティ
2024年4月に発表されたP&Gの衣類洗濯用洗剤「Tide evo」は、1回分の洗剤成分のみをシート状に重ねて圧縮し正方形のタイルのような形に成形、個別包装はせず外箱はリサイクル可能な紙製とし、水の使用や配送時のCO₂量を削減する軽量な設計としている。加えて、ペットボトルの液体洗剤のように重くないため家庭での取り扱いも楽で、洗濯機に一個を放り込むだけの手軽さをアピール。よりサステナブルかつ利便性の高い画期的なイノベーションと評価されている。
また企業は、持続可能性に関する各国での規制に対応する必要にも迫られている。たとえばEUが導入した「CSRD(企業サステナビリティ報告指令)」は、EU域内の企業に対してサステナビリティ情報の膨大な開示を求める規則で、温暖化ガス(GHG)の排出量から、廃棄物の総発生量、年齢別従業員分布など1,000種類以上のデータが開示の対象になる。またEUでは、透明性やトレーサビリティの向上のため、ブロックチェーンを基盤にひとつの製品ごとにIDを発行するデジタル製品パスポートを義務化する意向で、化粧品も早ければ2026年から適用される見込みだ。
2024年12月、WWDJAPANが開催した「サステナビリティサミット2024」に、バレンシアガの担当者とともにオンラインで登壇したケリングのグローバル・サステナビリティ・ディレクターのジェラルディン・ヴァレジョ(Geraldine Vallejo)氏は、製品が役割を終える段階から原材料の生産にまでさかのぼり、全ての製造工程におけるケリンググループの活動が環境に与える影響を測定し定量化する独自開発の「EP&L(環境損益計算)」について説明。可視化することで、どこで、どのような、どのくらいの環境負荷がかかっているかを理解し、目標を定めて推進する重要性を説いた。あわせてヴァレジョ氏は、完璧なサステナブル施策をやり遂げることは簡単ではないが、少しずつ前進していくことで社会により良い結果がもたらせること、そして何より、自然環境にとってサステナブルな取り組みはもう後戻りをする段階にはなく、粛々と確実に進めていくべきだと話した。
2025年、消費者は何を考え、何を求めていくのか
では、ウエルネスとサステナブルという2025年の大きな消費者トレンドの背景には、どのような消費者意識が働いているのだろうか。これを考えるうえで無視できないのは、世界的な物価高と不安定かつ不透明な経済環境だ。前述のユーロモニターのレポートでも、消費者の72%が日用品のコスト上昇を恐れ、48%がさらに節約することを計画している。ただし、ここで起きているのは、価格の追求=最安のオプションを求めるという図式ではない。ユーロモニターは、消費者は戦略的に支出の決定をくだし、手頃な価格と品質・機能性のバランスをとっていると説明している。
同様に、Eコマース企業を支援するマーケティングオートメーションプラットフォームを運営するKlaviyoが発表した、ヨーロッパ、北米、APACの8,538名を対象にしたサーベイ「2024 Consumer Spending Report(個人消費レポート)」によれば、消費者は昨今の世界的な物価高を深刻に受け止めているが、買い物が増える2024年末のホリデーシーズンを前に、プレセールを積極的に利用したり、欲しいものを見極めてから購入するなど賢く行動し、消費金額自体は前年と同じか多いとしている。実際、英国の化粧品業界団体British Beauty Councilは、2024年11月28日からの英国のブラックフライデーのセールでは、香水とカラーメイク製品がけん引したプレステージカテゴリーの化粧品の売上が3億7,000万ポンド(約731億円)に達し、全体でも前年比6.5%増だったと明らかにしている。
Charlotte TilburyブラックフライデーPR動画
とはいえ、Klaviyo によると2024年が終わりつつある時点での消費者は、2025年の展望を現実的に受け止めて慎重になっており、とくに雇用市場や政治情勢が上向きになることへの期待は薄いとしている。また、物価高の影響を感じている人は97%にのぼり、88%が価格は購入するかどうかの決断を左右すると回答、その結果、生活必需品を優先し大きな買い物は控える傾向に向かっているという。つまり、2025年は、人々の購買意欲が下がっていく可能性が高いだろう。
また、ミンテルの年次レポート「世界のビューティ&パーソナルケアトレンド2025」では、消費者の行動や意識に影響を与える要因を探り、「(私の)知は力なり」「潮流を変える」「じっくり考え、素早く動く」の3つのポイントワードを掲げて2025年の消費者像を分析・解説している。
この3ワードが意味するところをひも解くならば、まず、ビューティ製品を選ぶにあたり消費者は、アプリやツールあるいは生成AIを駆使してSNSやネット上の情報から選択的に知識を蓄え、自分やその目的にマッチする、より効果的なソリューションを見つけようとしているといえるだろう。そして、猛暑や自然災害など気候変動の実生活への影響を強く感じるなか、成分の安全性や水質や大気の質など環境要因への注意が高まり、消費者は企業の倫理的取り組みを含むサステナビリティとビューティソリューションがシームレスにつながり、使用する化粧品などが環境にも自分自身にも良い結果をもたらすことを期待していると考えられる。ここでも美容におけるサステナビリティは、オプションではなく“前提”であるのが当たり前となっている。
⚫︎パーソナライズした予防ルーティン
さらに、パンデミックを経て学んだ「悪くなってからの治療よりも、悪くならないよう予防するのが大事」という考えのもと、とくに若い消費者層は美容分野においても将来を見据えた行動をとるようになっている。つまり、早い段階から自分のコンディションにあわせてパーソナライズしたスキンケアルーティンを見つけて取り入れ、先に示したようにエイジング対策にも取り組むという、先々のために予防的にベストな方法を考えるとともに、早期に実行に移す消費者だ。
インフレなど経済状況の不透明さが続くなか、消費者は自分に本当に必要なものは何か、この商品はどのような効果が得られるのか、あるいは、この体験は心や五感を揺さぶり刺激してくれるのかなど、事前に調べて判断してから購入を決める。そして、そのために求められる、もしくは見合っていると納得できる対価なら支払う用意もある。慎重でありながら、リサーチなどの行動をいとわず、知識を蓄えた賢い消費者が2025年のビューティシーンをリードしていく。
Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image: Arelix via Shutterstock