そごう・西武の独自NFTマーケットプレイス、普及のカギはリアルなプロダクトや交流
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株式会社そごう・西武は、独自のNFTマーケットプレイス「NFT PRODUCED by SEIBU SOGO」の実証実験を2024年6月に開始した。人気アーティストなどのデジタルアートのNFTが販売され、ユーザーは暗号資産を使ってそれらを購入できる。まだ一般の認知が十分に進んでいるとはいえない段階のNFTになぜ参入を決めたのか。百貨店ならではの認知度アップの狙い、同社の考えるNFT活用の可能性など実証実験に踏み切った経緯と現状について話を聞いた。
百貨店としての経験を生かし、NFTアートで新しい価値を提供
「NFT PRODUCED by SEIBU SOGO」は、NFTアートを購入できるオンラインのマーケットプレイスだ。ユーザーは、仮想通貨を使って出品されているアートを購入し、保有することができる。また、同マーケットプレイスで購入した作品を販売(二次出品)することも可能だ。
同社がNFTマーケットプレイスを手がけた背景には、これまで百貨店として店舗内に美術やアートの売場を持ち、定期的に美術関連の催事を行っているなど、アートを扱ってきた実績やアーティストとのネットワークを有していることが大きく影響しているという。
株式会社そごう・西武 eコマース部 石川淳之氏は、「技術革新にともなってアートの世界でもデジタルアートが広がっていくなかで、デジタルとアートの価値を組み合わせて、百貨店として新しいモノの価値を提供していきたいという思いから、新規事業として参入を決めた」と話す。
同時に、デパ地下からファッション、インテリアまで幅広い客層との多くの顧客接点をもつ百貨店としての強みを生かし、NFTアートやデジタルアートの流通を担っていくことによって、アーティストとファン、あるいはアーティスト同士やファン同士をつなげる場を創出できるのではないかいう期待もあったとする。
2021年末に入社4年目の社員が発案してプロジェクトがスタート。その後、石川氏が担当を引き継いだものの、当初はNFTのことがまったくわからず、まずはNFTの仕組みを理解するところからスタートしたという。社内でのNFTへの認知度も決して高くない状態だったため、繰り返し説明を行い、その積み重ねの結果として実現に至った。
NFTを売買する場としては、海外の大手マーケットプレイスである「OpenSea」をはじめ、すでに国内外にさまざまなプラットフォームがある。これら既存のものを活用するのではなく、独自のマーケットプレイスを開発した理由について、石川氏は次のように話す。
「海外のプラットフォームは安全性の担保などで課題があり、また、国内の既存のマーケットプレイスを利用すると、必要なときだけ使うことになり、社内のリソースが蓄積されずに一過性で終わってしまう懸念があった。開発コストをかけてでも、社内での知見を高め、これから近い将来におとずれるであろうデジタルとリアルがより融合する世界に備えるために、あえてチャレンジすることが必要だと考えた」(石川氏)
一般の消費者に向けてNFTの認知拡大が課題
マーケットプレイス運用にあたっての最大の課題は、多くの消費者にとってNFTの認知がまだ十分に広がっていないことだという。また、NFT購入で必要となる暗号資産の取得や暗号資産を使った決済についてもハードルはまだ高い。
一方で、アーリーアダプターである既存のNFTのファンが牽引する形でのコミュニティの盛り上がりには可能性を感じているという。実証実験開始に先がけて2024年4月に開催されたポップアップイベントでは、すでに多くのファンを持つNFTプロジェクトのMetaKozo(メタコゾー)の作品をフィーチャーしたTシャツやパーカーなどのアイテムを販売。普段百貨店にほとんど足を運ばない層の来店動機につながったという。さらに、リアルイベントに来場したり、商品を購入したりしたファンがSNSでその報告を投稿して、それをきっかけにファン同士が交流する姿もみられた。
NFTは本来、デジタル空間だけで完結するものだが、それゆえにNFTから生まれたコンテンツのファンは、リアルで交流できる接点や機会をあまり持っていないことが多い。ポップアップのような実店舗でのイベントは、そうしたリアルなつながりを創出するきっかけとしても大きな意味をもつと石川氏は考えている。
NFT×化粧品やアパレルにおけるリアルアイテム販売の可能性
ただし、既存ファンありきのアプローチだけでは、NFTの認知を広めていくことは困難だ。まだふれたことがない人には理解しづらい部分も大きいNFTを身近に感じてもらうには、デジタルだけで完結するのではなく、実際に足を運んで体験できる場を提供することも不可欠で、むしろ重要なのはリアルな場での体験の機会だと石川氏は話す。
「リアルなものと結びついた形でのNFTの活用方法を模索していく必要がある。ブランドや店舗の意向もあるため十分な検討が必要になるが、リアルな商品の販促活動の一環としてNFTを活用することや、ブランドの会員券や限定商品の優先販売チケットをNFTで発行するといった活用には可能性があるのではないかと思う」(石川氏)
では、具体的にどのようなコンテンツの可能性が高いのか、石川氏によれば2つの方向でのアプローチが考えられるという。
1つには、NFTコンテンツをリアルな商品に展開することで、認知を拡大することだ。NFTから始まったキャラクターコンテンツのなかには、リアルでも広く受け入れられそうなポテンシャルを持ったものが少なくない。それらを、グッズなど手に取りやすい商品として提供することで、魅力を伝えることができる。
もう1つのアプローチが、先に挙げたようなリアルな世界ですでに人気のある商品の特典としてNFTを利用するケースだ。優先販売権などを提供するためのツールとしてNFTがあることを認知してもらい、まずはNFTにトライする機会を作ることが、NFT利用者の裾野を広げることにつながるとみている。
化粧品やファッションの分野においては、すでにこうした取り組みが行われている。たとえば、ゲランは2021年と2022年にデジタルアートのオークションを開催し、その収益を自然再生プロジェクトに寄付する取り組みを実施した。また、ブルガリでは、限定販売された腕時計の真正性とオーナーシップを証明するデジタルパスポートを、NFTアートワークのコンテンツとして発行する試みを行なっている。
これらの事例のように、実際の商品とひも付いたNFTやブロックチェーンのユースケースであれば、NFTになじみがなかった顧客にもその価値を感じてもらいやすいといえるだろう。
顧客が本当に欲しいものをNFTで提供
一方で、NFT購入のハードルの高さはどのように解消していけばいいのか。石川氏は、「NFTに限らず、熱狂的なファンは本当に欲しいものを手に入れるための労力を惜しまない」と話す。
たとえば、海外サイトでしか販売されていないアイテムがどうしても買いたいと思えば、外国語のページから購入手続きをするだろうし、必ず手に入れたいチケットがPayPalの決済にしか対応していなければ、新規登録をしてでもPayPalを利用するだろう。NFTや暗号資産はそれよりハードルは少し高いかもしれないが、本質的には同じことだと石川氏は示唆する。
「ファンが本当に欲しいと思えるコンテンツを我々のマーケットプレイスで提供することができれば、暗号資産やNFTへの抵抗など関係なく手に入れたいと思ってもらえるはずだ。このような動機づけをどう作っていくかが鍵となる。百貨店のリソースを活用し、どうやってNFTをお客様に近づけていくか、その心を動かしていくかが重要になると考えている」(石川氏)
Text: 酒井麻里子(Mariko Sakai)
Top image: 株式会社そごう・西武プレスリリース