オルビスの「一貫」のメディアミックス戦略など、COSME Techからの学び

◆ English version: Orbis unveils branding strategy success after restructuring and product renewal
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2019年1月に開催された化粧品開発展(COSME Tech)から、ビューティテック関連の展示と、オルビスによる特別講演「デジタルからリアルまで EC化率50%企業が考えるメディアミックス戦略」を紹介する。組織とクリエイティブの、いわば一貫性で成功したマーケティング事例だ。

2019年1月20日〜22日にかけて、千葉県・幕張メッセにて化粧品開発展(COSME Tech)が開催された。今年は国内外から780社と過去最多の企業が出展。また来場者数も過去最多となる2万5627名(※同時開催展含む)となった。

ビューティテック関連展示、注目の3社

同展示会場には数多くの製品が展示されていたが、なかでも注目のビューティテック関連製品は次の3つだ。

日本での展開に向け参考出展した韓国発のAURA EZNAILⅢは、業務用のネイルプリンターを展示。1本あたりわずか10秒ほどで指定のデザインをプリントできる。爪をプリンターにセットすると、液晶画面上に自分の爪が表示されるので、内蔵されたデザインから好きな絵柄を選択。自身で取り込んだ画像を配置することも可能だ。指1本の操作で、自分の爪のサイズに合わせて絵柄の配置バランスを調整できる。予定価格は60万円〜としている。

Union Communityグループのブランド、NURUGOは、3つの製品を展示していた。コスメプロフアジア2017にも出展していた韓国のバイオメトリック企業である。スマートフォンに簡単に取り付けられる倍率400倍のマイクロスコープ「NURUGO Micro」は、髪の毛や肌の状態をより正確かつ詳細に見られるというもの(下の画像)。

専用のスマホアプリと連携して使用するスキンアナライザー「NURUGO Derma」も、スマホに取り付けて肌診断を行える。CES Innovation Awards2017を受賞した「NURUGO SmartUV」は、世界初のUVカメラだ。他の2製品と同じく、スマートフォンに取り付けて使用する。同製品は、人間の目が感知できないUVライトを視覚化。肌の深層部を映し出し、将来シミになりそうな部分がわかるというものだ。

写真上部がUVライトを当てた状態。
下が通常時。リアルタイムに
両方を確認できる

UVプロテクトクリームを塗ると、その部分が黒くなって見えるので、塗り残しがないかチェックするなどして利用する。同UVカメラを搭載したミニスマートミラーも紹介されていた(写真上部)。

日本からはライオンが、スマートフォンで舌の画像を撮影するとAI解析に基づき口臭リスクを判定するアプリ「RePERO」を披露した。

同アプリでは診断結果に応じて、ふさわしい口臭ケアやオーラルケア情報を提供。この機能自体もユニークだが、ターゲットとしてまずは企業を設定しているところにも特徴がある。口臭は顧客の離反リスクや営業機会の損失に繋がるとして、アプリの導入で接客現場や職場環境の向上をうたう。実際RePEROは、上司の息が臭うが言いにくいなどの声をもとに開発されたという。なおライオンは昨年末、口のなから表情筋へアプローチする、新しい美容機器「VISOURIRE」をクラウドファンディングサイトで公開し、目標金額の約4倍となる約1,176万円を調達するなど、すでにビューティテック分野への進出も果たしている。

VISOURIRE

オルビスの大胆な組織変更と製品リニューアル

Cosme Techでは特別講演も数多く行われたが、なかでも組織変更と製品のリニューアルを通じて、ブランド全体の大幅な戦略転換を行ったオルビスの事例を紹介したい。「デジタルからリアルまで EC化率50%企業が考えるメディアミックス戦略」と題して、オルビス株式会社 執行役員 ICT・新ビジネス開発管掌 大川真樹氏が登壇した。

同社は2018年に、事業別組織から機能別組織へと、組織変更を行っている。組織変更以前は、マーケティングや販促において、通販・店舗事業部それぞれで意思決定ルートが分かれていた。そのため、主に下記のような4つの壁があったという。

1)カタログ通販事業、EC事業、店舗事業それぞれが自らの利害を優先して行動を起こしがちになる 
2)デジタルに詳しい人材が特定の部門に偏る 
3)売上げというKGIが強くなることから短期の売上確保を優先し、他のKPIを設定しにくくなる
4)同じ組織に長くいることで現状維持バイアスがかかりやすく、新しいことに取り組みにくくなる

こうした課題は結果として、顧客からのブランドの見え方にバラつきを生じさせることにもなっていた、と大川氏は振り返る。

「消費者の方々に、『オルビスというと?』と問いかけると、二キビ対策製品、クレンジング、ダイエット商材など答えがバラけがちだった。総合通販的にアプローチしてきたことや、SKUを増やしさまざまな商材で広告を出してきたことが要因だろう」(大川氏)。

こうした状況下で、どうやってオルビスならではのブランド力を高めるのか? その答えとして出したのが、「一貫性のあるブランド作り」だった。

それを体現できるのが、事業別ではなく組織別組織だとして、大胆な変更が行われた。大きくマーケティング機能・執行機能と分類し、横串で分けた。このことで、マーケティング機能であれば、通販事業も店舗事業も双方のビジネスを想定して企画するなど、俯瞰して業務に取り組めるようになった。

この組織変更に伴い、マーケティング戦略自体も大きく変えた。

「従来は1,500円程度の比較的低い価格帯の製品をエントリーにしてきたこともあり、そこから顧客に中価格帯のエイジングケアにスイッチしてもらうのが難しかった。また、そもそも製品数・カテゴリが多岐にわたることから、ここ数年は看板製品が不透明で、入り口製品がバラけてしまいがちだった」(大川氏)。

こういった課題を解消するため、中価格帯のスキンケアをエントリー製品として位置づけ、マーケティングを展開することで、ブランドイメージをより鮮明にすることに取り組んだ。

4年の歳月を経てフルリニューアル

その中核製品に抜擢されたのが、2014年の誕生から4年の歳月を経て、処方からパッケージまですべてを刷新し、2018年10月にリニューアル発売をしたオルビスユーだ。香料や着色料などを配合しないメーカーとしてのポリシーはそのままに、エイジングケア機能を強化。ブランドメッセージである「ここちを美しく。」を象徴した、洗顔フォーム、化粧水、保湿液とシンプルな3ステップのスキンケアを提案するラインである。

出典:オルビスのプレスリリースより

製品のリニューアル発売に合わせ、公式オンラインショップや、ブランドロゴ、コーポレートカラーも刷新。ブランドメッセージ「ここちを美しく。」を全体のテーマに掲げリブランディングを図った。このメッセージについて大川氏は、「女性が社会進出し、活躍できる場が増えてきた。忙しい社会生活のなかでも、家に帰ってきたときに安らげる、何かから解放された瞬間に本来の美しさがあるのではないか」とし、仕事とプライベートの狭間で、バランスを取りながら頑張っている現代女性に対するオルビスの姿勢を表しているという。

2018年内の売上目標は、20億円規模

リニューアル後は、「獲得後のLTVが圧倒的に高い」と大川氏は手応えを感じている。ダイエット食品の場合は痩せるという目的を果たせればそこで利用が終わってしまうが、スキンケアの場合は効果を感じたら継続してもらいやすい。2014年には新規顧客獲得製品の半分程度だったスキンケアだが、オルビスユーのリニューアル発売後には、80%強まで伸長。また今回の戦略のひとつである、最初から中価格帯製品のオルビスユーを入り口にしたことで、継続購入へのハードルが下がり、結果としてLTVが向上したようだ。

「オルビス史上、最高・最速で大型製品へ育てることを目標に、2018年内に20億規模の売り上げをめざしてきた。まさに社運をかけて挑んだ」(大川氏)。

オルビスユーのリニューアルは各方面から注目され、発売から2ヶ月後には、『VOCE』『美的』『MAQUIA』などの主力美容誌をはじめとし、当時オルビス史上最多となる15冠以上の賞に選出。(※2019年4月現在は、36冠達成)。また累計販売数は、2019年1月7日まででシリーズ累計112万個を突破している。

実際足元の業績(2018年12月期の決算)を見てみると、売上高510億円(前期比3.8%減)のうちオルビスユーのオルビス内構成比は21%(前期比6.0ポイントアップ)と、オルビスユーシリーズ単体で107億2,000万円を売り上げている計算になる。オルビス全体ではブランディングの変化に伴い顧客数が減ったことで減収となっているが、営業利益は、価格訴求の販促を絞り込んだことからコストが下がり、同2.9%増の93億円と増益で着地。オルビスユーが牽引役となったかたちで、来期は増収を見込む

オルビス株式会社 執行役員
ICT・新ビジネス開発管掌 大川真樹氏

広告キャンペーンでも「一貫」戦略が奏功

また同社は、組織を横串にしただけでなく、広告クリエイティブでも「一貫」という姿勢を体現してみせた。従来は一つの製品でもマスとネットではまったく異なるクリエイティブになることが多かったが、それを同一のものにしたのだ。

対象となったのは、2019年1月1日に発売になったばかりの「オルビス ディフェンセラ」。同製品は、日本で初めて「肌の水分を逃しにくくする」機能が確認された“特定保健用食品(トクホ)”として、発売開始とともに大きな話題を呼んだ。生産が追いつかないほど初速は好調で、販売から約1ヶ月で計画を上回る約8万個、約2.5億円の売り上げを達成。2019年の年間売上目標である22億円に向けて順調な滑り出しとなっている。

出典:オルビスのプレスリリースより

大川氏は、発売前から「ディフェンセラはスキンケア」という考え方を普及させていきたいという思いがあった。そのため、オルビスでは同製品を「飲む次世代スキンケア」とうたっている。いわば新しい認識、カテゴリを作ることにもなるため「今までオルビスがやってきた広告手法が通用しないのでは」とも考えたという。そこで以下のパーチェスファネルに則って広告を選定した。

【認知】
TVCM、ウェブCM、交通広告:「日本初、肌のトクホ」を記憶に残したい
【関心】
ウェブCM、記事タイアップ、ブランドサイト:肌のトクホが、何をしてくれるものなのかを伝える。
【検討】
獲得広告、リスティング、ランディングページ、店舗:購入しそうな人の背中を押す
【購入】
EC、店舗

イメージキャラクターには俳優の三浦春馬さんと、モデルの黒田エイミさんを起用。CMは、二人が一糸まとわぬ姿でクルクルと回転するインパクトの強い仕上がりとなっている。

黒田エイミさんバージョン
三浦春馬さんバージョンはこちら

大川氏は広告ビジュアルについて、「飲む=インナースキンケア=全身の美しさに影響をもたらす」という観点から決まったと話す。同クリエイティブは、マス、ウェブ、交通広告とすべての媒体において同一のものが採用された。

出典:オルビス

一般的に同時期に展開する広告において、すべて同一のクリエイティブを採用することは、媒体によって入稿時期が変わることからこれまではあまり試みられていなかったといえる。しかしその入稿時期を「変わることを前提に動いた」結果、今回の一貫性の高い広告キャンペーンが実現した。

大川氏はこれまでを振り返り、メディアミックスがうまくいかない組織の例として、媒体ごとに社内の担当者と担当代理店が分かれていることにも課題があるとした。マス広告の場合は総合広告代理店から提案をもらい、ウェブ広告であれば専門代理店から提案をもらうことが多く、その結果として双方に連動性がない全く異なるクリエイティブが生み出されることが多かったという。

また各担当者が、それぞれの担当代理店から「ネット広告を増やした方がいい」「やっぱりマスが大事だ」といった意見に従い、互いに強い縄張り意識を持ってしまいがちだったことも、社内での分断を生み出す要因になっていたと分析する。

そのため今回は各媒体をいったんニュートラルに捉え、前述したパーチェスパネルに従い配分を最適化したうえで一貫したクリエイティブにより、ウェブ、マス、交通広告すべてを実施。ブランドイメージがしっかり定着したことで、発売開始から品薄状態が続き、大型製品へと成長を遂げる段階におしあげることができた。

ディフェンセラは、海外展開も行っている。パートナーとして2018年に戦略提携した天猫国際(T-mall Global)を迎え、T-mall Globalと連携したプラットフォームでの販促やビッグデータを活用することで、製品プロモーションを展開。ディフェンセラ単体で、2019年海外で10億円の売り上げを見込んでいる。

またこの戦略提携を足掛かりに、中国国内でのオルビスブランドのプレゼンスを上げ、スキンケアを中心とした中国事業のさらなる拡大を図るという。

業界に先駆け進めてきたデジタルへの取り組み

現在オルビスのEC化率は50%を越えている。ECサイトをオープンしたのが1999年と、化粧品通販業界のなかでは先駆けともいえる早い段階で取り組みを開始し、ノウハウを蓄積してきたことが高いEC化率につながっている。

またダウンロード数130万件を突破するスマホアプリの開発・改善へも注力しており、直近では、AI(人工知能)の深層学習技術を活用した“パーソナルAIメイクアドバイザー”の提供を開始。同アプリは、店頭用ポイントカードの代替としてスタートした後、徐々に機能を拡大してきた。現在はEC機能、コンビニ支払い機能(従来はコンビ二受け取りで購入した場合、一度自宅に戻ってから配送箱内にある振込用紙を持って近所のコンビに行く必要があったが、受け取りと支払いを同時に済ませられるようにした機能)、配送状況の確認・再配達の依頼などあらゆる機能を盛り込ませているが、なかでも読み物コンテンツを充実させている。

化粧品の購買サイクルは毎日ではないため、定期的にアプリを起動しオルビスに触れてもらうための施策として有効だからだという。アプリと読み物コンテンツの相性は良く、同コンテンツをウェブサイト上でも掲載しているが、アプリの方がPV数は10倍近くあるという。今後の目標として大川氏は、「オフライン&オンラインで一貫したUXの設計」「それに伴うICT投資、アプリ活用」「実現しやすい組織作り」の3つを掲げ、「オルビスの競争力を高め、便利なサービスにしていきたい」と締めくくった。

2020年のCOSME Techは1月20日〜22日に幕張メッセで、9月9日〜11日にインテックス大阪で開催される予定だ。

Text & Photo: 公文紫都 (Shidu Kumon)
取材協力:そごうあやこ (Ayako Sogo)

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