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「フランスらしさ」をデジタル&ビジネスでも追求、新星スタートアップ5社

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パリで行われたBeautyTech Meetupレポートの最終回。登壇イベントの第3部には、フランスで今後の成長に期待が集まる5人の新進気鋭の起業家たちが登場した。シリコンバレーとは違って、起業家同士の情報交換がまだまだ盛んではないフランス。そんななかで、アーリーステージからシリーズAまでの若いスタートアップが、熱心に耳を傾ける聴衆を前に、自らのビジネスモデルや起業に至った背景、投資家とのエピソードなどを詳細かつストレートに語った。

パネルディスカッションの登壇者は以下の通り。

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イラン・コスカ(Ilan Koskas)
Flexybeauty共同創業者

美容サロン、エステ・スパ向けのソフトウエアを開発し、エンジニアの共同創業者とともに2014年に起業。スマートフォン1つでサロンの予約、売上&在庫管理、商品販売、顧客分析などができるアプリを制作。個人経営のサロンを中心にフランス国内4,500以上の顧客をもつ。

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キャロル・ジュージュ(Carole Juge)
Joone Paris 創業者

紙オムツをメインに100% メイド・イン・フランスのベビーケア製品を開発、2017年に起業。製造工程から流通、配送まで余すところなく公開し、透明性の高いD2Cを実現。価格は大手企業の商品より20%ほど高いが、吸収力の高さ、デザインの可愛さでも話題となり、20〜30代の両親を中心に人気をよんでいる。

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イザベル・ラビエ(Isabelle Rabier)
Jolimoi 共同創業者

AIを使った独自のマッチングシステムBeauty Affinityと150名の美のスタイリストが一人ひとりに合った化粧品を見つけだすパーソナル・ショッピングサービス。ネットコンサルティングだけでなく、実際にスタイリストと会って一緒に商品を見つけるB2C2C。25ブランドと提携。3人の女性で起業した女性による女性のための企業。

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ラルフ・マンスール(Ralph Mansour)
Le Closet 共同創業者

2014年、25歳でエンジニアのビジネスパートナーともに起業した、会員制の洋服レンタルサービス。ウィッシュリストに登録すると、好みに合った洋服やアクセサリーを配達し、月額制で無制限に利用できる。送料無料、洗濯やクリーニングの必要なし。ミレニアル世代に向けた、消費のあり方を変えるビジネス。

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シャルロット・カデ(Charlotte Cadé)
Selency 共同創業者

2014年に夫とともに設立したウェブ上のデジタル・ヴィンテージショップを運営。7,000業者と提携しB2Bにも貢献、小物、デザイン家具など8万アイテム以上を揃える。消費者は家にいながらにして、プロの目利きが選んだ一点ものを手に入れられるECサイト。家のデコレーションにこだわるフランスならではのプラットフォーム。

モデレーターのフランソワ・メテイエは、ベンチャーキャピタルAlven Capitalの投資ディレクター。ミレニアル世代に向けたモバイルサービスやAIプラットフォームのB2Bに関心が高く、また、壇上のスタートアップと同世代のメテイエから、さまざまな質問が投げかけられた。

まずは、彼らが起業した動機と社会に与えるインパクトについて考察しよう。第1部でオディール・ルジョルがスタートアップの起業の動機として、「社会や人の暮らしに良いことをしたい」という意識傾向をあげていたように、登壇した25〜35歳の若き起業家は、ビジネスの原動力は、誰かのために頑張る「パッション」だと口々に語っていた。

小規模美容サロンの経営管理をサポート

美容サロンやエステ・スパ向けのソフトウエアを開発し、Flexybeautyを立ち上げたコスカは、「妻が美容サロンを開業し、彼女のビジネスを助けたいという思いから始めた」という。もともとエンジニアの彼は美容業界の知識は全くなかったが、個人経営の美容師や経営者と話をするなかで、彼らは仕事に没頭するあまり、売上や在庫の管理が二の次になっていることを知った。そこで、すべてをデジタル化し、小規模な個人経営者でも大手チェーンサロンと同様の経営管理ができるようにした。

ネット予約が入ると自動的にスマートフォンに通知がくるので、営業時間中に電話に出る必要がなく、美容師は本来のサービスに集中できる。また、顧客データを活用し、ターゲットの嗜好やプロファイルに合わせたキャンペーンをモバイル配信できるので、顧客の固定化にも役立つ。月額70ユーロで4,500店が利用しており、経営困難に追い込まれていた個人経営者から「このシステムのおかげでサロンを閉店せずに済んだ」と感謝された日のことは今でも忘れないという。

100%フランス製であることと製造過程の透明性にこだわり

フランス製の紙オムツを提供するジュージュは、以前、若い母親や妊婦のソーシャルネットワーキング企業で働いていて、彼女たちが紙オムツの安全性に強い不安を抱いているのに気づいたのをきっかけに、商品企画から製造、配達まで、過程が最初から最後まで消費者に見える紙オムツの開発を手がけた。

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フランス製にこだわる紙オムツを提案するキャロル・ジュージュ

ジュージュは提携工場に許可を得てカメラを複数設置し、すべての製造の過程を毒物学の専門家に細かく分析させた。ラベル表記方法や成分情報などはソーシャルメディアでわかりやすく説明し、消費者だけでなく、工場で働く人々の信頼も得た。この徹底的な透明性は、商品を買う人だけでなく、産業全体の意識向上と再教育を目的としている。吸収力など機能性にも優れていることから熱烈なファンが多い。フランス国内に生産ラインを持ち、同国の雇用創出にも貢献しているのに加え、デザインの可愛さでも注目される。

ブルーマリーンのボーダーや季節限定デザインなど、紙オムツもファッションと捉えるところがフランスらしい。パリとシュネーブのフォーシーズンズホテルのアメニティにもなっている。オムツを替えるスキンシップは、親にとって我が子が愛おしく感じられる時間であり、それをより幸せにできることに心からやりがいを感じるという。

テクノロジーと人力を組み合わせたパーソナルショッピング

ラビエは2010年に40代以上の女性を対象とした自然派化粧品の訪問販売Dermenceを立ち上げたが、市場が限られ、顧客は1つのブランドだけでは満足しないことを学んだ。そこで、2017年に2人の経営者を迎え、AIによるマッチングシステムと人間のカウンセラーの双方を介して、最適な化粧品を見つけるEC、Jolimoiを立ち上げた。ネット上だけにどどまらず、実際に会って購入まで付き合うB2C2Cのパーソナライズドサービスを提案する。

定期的にビューティパーティを企画し、提携する25ブランドの商品をアットホームな雰囲気のなかで試すことができる。

AR技術によるメイクアップのシミュレーションを導入している大手企業は多いが、化粧品は実際に試さないとわからないというのがラビエの持論で、彼女によると、70%の化粧品は使用されずにゴミ箱に捨てられているという。「テクノロジーとマンパワーで一人ひとりにピッタリの商品を見つけ、無駄をなくしたい。“消費そのもの(販売量)”は減るかもしれないが、“より良い消費(使用)”を促したい」と語る。また、カウンセリングを行う150名の美のスタイリストはSNSで募集し、プロの美容師、メイクアップアーティストなどが副業として収入を得られるほか、美容好きの一般女性もトレーニングを受けて登録でき、女性の雇用を応援する企業でもある。

賢くファッションを楽しむ衣服のレンタルサービス

Le Closetのマンスールは 「女性も男性も洋服を衝動買いするが、その50%は1、2度着たらクローゼットに眠ったままの状態。そこで、会員制の洋服レンタルサービスを思いついた」と語る。レンタルすることで洋服をたくさん買った気分を楽しみつつ、自宅に洋服が溢れることはない仮想のクローゼットを作ったわけだ。ウェブ上でウィッシュリストに登録すると、好みに合うと判断されたアイテムが毎月送られてくるシステム。気に入ったものは購入もできる。月額制(39ユーロ〜)で無制限で利用でき、送料無料、洗濯・クリーニングの必要なしという手軽さが受けている。

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出典:Le Closet

循環型経済を促進するビジネスと言えるが、難しい点はフランスでは洋服のレンタルに抵抗を感じる層がまだまだ多いこと。いかに心理的なバリアを取り除いてミレニアル世代を取り込めるかが今後のチャレンジだ。

豊かな暮らしを提案するデジタル・ヴィンテージショップ

フランスでは、歴史ある家具や味わいのある古道具などが蚤の市やアンティークショップで売られている。フランス人はヴィンテージアイテムを手頃な価格で手に入れて、個性的な空間を作るのが得意だ。もともとデザイン家具が好きだったカデは、ピンタレストでアイデアやインスピレーションを得ては、eBay, leboncoin(中古のECサイト),古道具市などで、掘り出し物を探していた。彼女のようなフランス人は少なくない。そこで、自分が欲しいと思えるようなものが手にはいるプラットフォームを作ろうと思い立った。

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中央でマイクを持つシャルロット・カデ

当時、アンティークショップやブロカント(古道具店・小さな蚤の市といった意味)は全くデジタル化されていなかったため、すべて一から構築。商品販売だけでなく、アイテムを複数組み合わせてコーディネートのアイデアを提案するECサイトを立ち上げたところ、月55万人が訪れ、初年度で100万ユーロを売り上げた。今では7,000業者と契約、8万点以上のアイテムを扱う。

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出典:Selency

消費者は自宅で掘り出し物を注文でき、アンティークショップは接客なしに販売が期待できる。さらに、中古品の再利用なので循環経済の推進にもなっている。投資家もたちまち目をつけ、短期間で資金調達に成功している。

社員とのコミュニケーションを重視する企業文化

投資家にとって、投資先の企業がどんな会社カルチャーを持っているかは重要なファクターのひとつだ。なかでも、社員は企業の内面を映し出すものでもある。登壇した5人のスタートアップ企業は10〜40人規模。まだスタートしたばかりだが、どんな文化を築いているのだろう。

社員参加型マネジメント、情報の透明化、同じ価値や想いを共有するなど、さまざまなワードがシェアされたが、共通していたのはトップが社員との密なコミュニケーションを重視していることだった。

10人の社員のほかに、150人の美のスタイリストを抱えるJolimoiの例では、創業者のラビエはスタッフをインスパイアするために、できるだけ多くの情報をシェアしている。どんなに小さなシステムトラブルでも、正社員はもちろんフリーランスのスタイリストにも原因と現状を細かく報告。また、彼らの話を聞く機会も頻繁に設け、良いことも悪いことも誠実にフィードバックする。双方向のコミュニケーションを大切にすることによって、彼らがミスを犯した時にも隠すことなく報告され、大きなトラブルを未然に防ぐことができるという。

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社内では情報をオープンにしていると話すイザベル・ラビエ

スタートアップの企業内ではコミュニケーションのアクセサビリティはおおむね高いようだ。

パッションと自分のビジョンを大切にする企業経営が成功を導く

今回のミートアップには登壇者から学びたいと願うアーリーステージのスタートアップがたくさん集まった。5人の登壇者は、起業を通して学んだことを、良い思い出や苦い失敗などリアルな体験の披露も交えながら、後続のスタートアップにエールを送った。

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真剣な表情の聴衆

Selencyのカデは、2014年に自己資金10万ユーロで始めたが、LinkedIn のプレミアムアカウントを作り、有力な投資家にコンタクト。すぐに彼らの関心をひき、2カ月足らずで15人ほどのエンジェル投資家から50万ユーロの資金を調達したという。そんな彼女のアドバイスは「有力な投資家を見つけ、ためらわずにすぐコンタクトすべし。ただし、支援を求めるメールは最長2行、できるだけ簡潔に」と具体的。

また、1度目の起業で失敗を経験したコスカとジュージュからは、その苦い経験から心のこもったアドバイスがあった。

コスカは「失敗の理由はビジネスの内容に自分のパッションがなかったから。顧客、協力者、投資家に対して魅力を語り続けることができなかった」と打ち明け、「新しいビジネスモデルを作ることが目的では続かない。心から好きなことを仕事にすべきだ。」と伝えた。今はやりがいを感じるビジネスに取り組んでいるコスカは、2017年150万ユーロ、2018年4月に700万ユーロの資金調達に成功した。同じ価値を共有できる投資家に出会えたことが一番嬉しいと話す。

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失敗から学んだ経験を話すイラン・コスカ

同じく1度目の起業に失敗したジュージュは、「アメリカ企業から出資を受けたが、投資家に気を遣い、自分のビジネスを追求できなかった。」と振り返る。「投資金額よりも、価値を共有できる投資家を選ぶべき。いくら何百万ユーロの投資をしてくれる人でも、メイド・イン・フランスにこだわっている私に、今後は中国で生産しようと提案するような投資家とは組まない」として、投資家がどんな人物かもきちんと調べる必要性を語った。

また、マンスールは「世界で成功しているビジネスモデルを真似るのも1つの手だ」と語り、ARなどテクノロジーを利用するためにビジネスを考えるのではなく、ニーズがあることを掴んでから、どのテクノロジーを活用できるかを考えなければいけない」と、テクノロジーファーストの考え方に疑問を投げかけた。

以上で、第1回BeautyTech Parisのミートアップは終了。会場は拍手に包まれ、カクテルタイムには、本イベントの趣旨どおり、スタートアップ同士の情報交換が盛んに行われた。

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会場は終始、活気がありつつも和やかな雰囲気

フランスには長い時間が醸成したノウハウやライフスタイルが根付いていて、すべてのものに文化が反映されている。現代のBeautyTech系起業家たちも例外ではない。こうしたフランスらしさを備えた起業家同士の情報交換の機会をさらに増やし、コミュニティの力を強化するため、発起人のルジョルは6ヶ月後に第2回@BeautyTechSF Meetup in Parisを開催することを発表した。

フレンチ・テックにはフレンチ・タッチが息づいていることを印象づけた今回のミートアップ。それをいうなら、洗練された独自の文化や歴史という意味では日本だって負けてはいない。フランスのスタートアップの発想や姿勢から学べることはたくさんある。

Text: 谷 素子(Motoko Tani)


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