韓国美容インバウンド施策が活況、カラー診断資格取得からホテルのパッケージ商品まで
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韓国の訪韓外国人観光客数は、コロナ禍前の2019年の水準まで回復。なかでも韓国コスメをはじめとするKビューティ関連の商品・サービスは観光客を惹きつける主要なアイテムとなっている。外国人観光客の誘致を目指す韓国の各企業は、Kビューティの影響力を活かすためのさまざまな施策を講じている。
オリーブヤングのインバウンド売上は前年比263%増加
2024年1月〜9月にかけて韓国を訪れた外国人観光客の数は約1,214万人を記録し、前年同期比58.7%の増加となった。韓国のインバウンド数は、パンデミック前の2019年に1,750万人で最高を記録している。今回発表された1,214万人という数字は、2019年同期比では94%の水準となる。着実に復調するインバウンド需要を見込み、韓国政府は2,000万人の誘致を当面の目標に掲げている。
インバウンドの回復によって、大きな恩恵を受けている業界のひとつが化粧品業界だ。業界小売最大手のオリーブヤングが公開しているデータによれば、同社2024年第1四半期のインバウンド売上は、前年同期よりも263%増加。国別としては、中国(673%増)、日本(285%増)、米国(230%増)、台湾(229%増)などからの観光客が、インバウンド関連売上に大きく寄与しているという。
インバウンドの回復によって、ソウル最大の観光スポット明洞のロードショップも活気を取り戻してきている。2023年下半期から2024年上半期にかけて、同エリアではインバウンド需要を取り込むための新規出店が相次いでいるが、なかでも目立つのが化粧品店の進出だ。コロナ禍後、明洞エリアで新規オープンした店舗数では化粧品店が1位であり、全体の約21.1%を占めているとのデータもある。
韓国2024年上半期の化粧品輸出は48億2,000万ドル(約7,437億円)で最高値を更新しているが、国内市場においても、化粧品が訪韓客を惹きつけるコンテンツとなっていることがうかがわれる。
訪韓外国人観光客向けに美容関連の資格取得プログラムも提供するCreatrip
以前にも増して化粧品産業の影響力が高まるなか、訪韓観光客向けのサービスを提供する企業が自社サービスに化粧品やKビューティの要素を組み込む事例も増え始めている。訪韓客にローカルの観光情報などを提供するインバウンドサービス企業Creatripもそのひとつだ。
Creatripは2016年に設立された旅行関連スタートアップで、社名と同名のプラットフォーム「Creatrip」で、韓国に滞在する外国人や観光客向けのショッピングや語学研修といった詳細な現地ローカル情報を提供。2024年11月現在、ユーザー国数75カ国、月間ユーザー数150万人にのぼる人気サービスとなっており、2023年の売上規模は推定で約5億5,000万円規模だ。
CreatripのWebサイトやアプリ上では、韓国国内のツアー、トレンド商品、各種体験、エンタメなどに関する情報コンテンツが紹介されている。ユーザーは韓国に行く前にコンテンツから直接ツアーやホテルを予約したり、韓国現地の商品を購入(越境EC)することができる。同社では語学留学にも力を入れており、韓国国内にある教育機関の情報配信や留学サポートも行っている。
そして、Creatripが現在、力を入れているのが、Kビューティ体験を旅程に組み込んだツアー企画商品の開発だ。2024年11月には、外国人観光客に人気の高いパーソナルカラー診断に加え、美容室でのヘッドスパ、皮膚科およびホワイトニングなど歯科での施術といったオプションを選択できる「Kビューティパッケージ」の販売を開始した。
韓国では、消費者向けに肌や瞳の色など身体的な特徴を分析して顧客それぞれに似合うパーソナルカラー診断を手掛ける企業が増えており、MELTING;P、chrysomilo、myshopperなどが代表的だ。
CreatripはKビューティ体験を組み込んだパッケージ商品を販売する一方で、こういった企業と提携しパーソナルカラー診断を行うカラリストの資格を取得したい訪韓客向けのパッケージ商品の開発も進めていくとしている。韓国ではパーソナルカラー関連の資格取得はポピュラーなものだが、外国人に特化した取得プログラムやツアーがセットで組まれた事例は、今のところほかに見当たらない。Creatripでは、2024年6月にソウル・江南にあるパーソナルカラー診断事業者の資格取得プログラムのコンテンツを試験的に掲載。今後も同様の掲載を増やしていく方針とする。
パーソナルカラー診断資格のほかにも、メイクアップアーティストを目指すためのカリキュラムや、各種資格取得後の起業コンサルティングプログラムなどが予約できるサービスも順次運用していくという。すでに運用している留学支援サービスのコンセプトを拡張するかたちで、Kビューティ関連ビジネスを始めたい外国人需要を取り込んでいく狙いだ。
こうしたCreatripの動きに多くの美容企業が反応しており、Creatripと提携している美容関連企業の数は2024年10月現在、約1,200社となっている。もともとロッテ免税店などの大手企業と提携していたが、最近はビューティ関連事業者との連携を強化しており、2023年9月比では提携企業が2倍以上増加している。2023年までは飲食店との提携が最も多かったCreatripだが、2024年10月時点では美容・化粧品関連企業が1位(22%)となっている。
Creatripは美容医療関連も商品に取り込んでいく計画であり、ボトックスやリフティングなどのプチ整形(注入治療や簡単な整形)と旅行をセットにした企画商品の販売も拡大していくとしている。
インバウンド専門の部署を立ち上げたオリーブヤング
化粧品小売大手オリーブヤングは、前述したようにインバウンド復調の恩恵を大きく受けている企業のひとつだ。2024年上半期にオリーブヤングを訪れた外国人観光客の数は約400万人と集計されている。同期間のインバウンド数が約630万人ということから考えると、10人中7人がオリーブヤングに来店したことになる。
オリーブヤングは増加するインバウンド客に対応するため、2024年1月に「グローバル観光商圏営業チーム」という新部署を立ち上げている。各国ユーザーのショッピングパターンや特徴を分析し、売り場に施策として反映するのが同チームの役割だ。ソウルなど首都圏や観光スポットが多い地方エリアの店舗などを中心に、インバウンド客の売上比率が50%以上の店舗を専門的に管理している。
グローバル観光商圏営業チームが担当している約90店舗には、英語や中国語など外国語を話せるスタッフが優先的に配置されており、外国人観光客が商品説明やプロモーションの案内を円滑に受けられるようにしている。
観光客が最も多く訪れる店舗は明洞エリアの売り場で、売上げの90%以上を外国人客が占めているという。また韓国第二の都市である釜山エリアや国内屈指のリゾート地である済州エリアなどでは、グローバル観光商圏営業チームの立ち上げ後、インバウンド売上が300%以上増加(昨年上半期比)したと報告されている。
オリーブヤングでは新部署の立ち上げ以外にも、さまざまなインバウンド施策を推し進めている。タックスリファンド(免税手続き)は全国の店舗で実施されており、パスポートを提示すれば1万5,000ウォン(約1,650円)以上の購入で消費税の払い戻しをその場で受けることができる。また、全国の売り場に16の言語をサポートできる翻訳機も導入した。
また2024年8月からは、仁川空港から明洞までインバウンド客をバスで送迎するサービスも運用開始している。事前予約すれば訪韓外国人観光客は無料で乗車可能で、オリーブヤングで販売されている商品のサンプルやバウチャー、クーポンなどを受けとれる。バス送迎サービスは2025年1月末まで試験的に運用されており、その後は効果や反応を分析して継続が検討される予定だ。
ホテル業界もKビューティとのタイアップ施策を開始
インバウンド客の誘致が過熱するホテル業界も、Kビューティを取り込んだ施策を続々と開始している。
ハンファホテルズ&リゾートが運営するホテルTHE PLAZAでは、2024年10月から外国人観光客を対象としたパッケージ商品「ワンダーラストコリア#2」を販売開始。同パッケージのAタイプでは、スキンケアブランド「朝鮮美女(Beauty of Joseon)」のマスク、トナー、セラムをセットにしたディスカバリーキットが提供されている。
一方、フォーシーズンズホテル ソウルでは2024年6月から8月まで「ウエルネス・エスケープ・ルームパッケージ」において、韓国ヴィーガンブランド「Talitha Koum」のボディケアセットを提供した。また、コートヤード・バイ・マリオット・ソウル南大門 の場合、2024年11月からオリーブヤングのギフトカード2万ウォン分が含まれた「ソウルビューティトラベルパッケージ」 の提供を開始した。
このほかにも、外国人観光客誘致のために韓国国内ビューティブランドとタイアップするホテルのパッケージ商品の事例は枚挙にいとまがない。興味深いのは、これまで外国人観光客に対しては、エルメスやブルガリなど外資ラグジュアリー化粧品ブランドの商品をアメニティとして提供してきた高級ホテルが、韓国で人気の新興ブランドを採用し始めている点だ。各ホテルではグローバル市場におけるKビューティの影響力の高まりに注目しており、観光客誘致に大きな効果を発揮すると分析しているとされる。
Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image: Creatrip公式サイト