LVMHは「デジタルで遅れをとった」は本当か。ラグジュアリー王者の戦略

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前回は、LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(以下LVMH)全体のラグジュアリービジネスにおける戦略について紹介したが、今回は、2017年に元アップルの音楽部門幹部をチーフ・デジタル・オフィサーに迎え、新たな展開をはじめたLVMHのデジタル戦略について取り上げる。

希少性をビジネスのコアとするラグジュアリーとネットは合わない、と長らく言われてきたが、LVMHは意外にも早いタイミングからネットビジネスに取り組みはじめている。動きはそれほど速くはないが、グループ内に十分な知見を貯めながら、動かなければいけないときに動けるように投資を続けてきている。

基本方針は、「アーリーアダプターにはならなくてもいいが、ラガートにもならない」だ。特に、ここ数年はデジタルネイティブであるミレニアル世代がラグジュアリーの主要顧客層となってきており、また急成長している中国市場等の顧客に対応するためにも、デジタルシフトを速めている。

LVMHは、1990年代半ばからネットビジネスに取り組みはじめた。まず、サンフランシスコに「eラグジュアリー(eLuxury.com)」を設立。2000年にサイトをローンチし、デザイナーアパレルやアクセサリーをネット販売した。eラグジュアリーは、2009年に撤退が発表された。2007年には約100億円の売上があり、対前年比で20%アップしていたが、LVMHのネット戦略シフトと共に、その役目を終えた。

後継となったのは、2009年にローンチされたデジタルマガジン「NOWNESS.com」だ。単にモノを売るチャネルとしてのネットではなく、LVMHのブランドを作る、ブランドに興味を持ってもらうための場を作りはじめた。ここは「ラグジュアリーに関する無償の学びの場」(出典元: LVMH and Nowness.com Offer the Luxury Education Kanye University Lacks)として位置づけられている。アート、デザイン、カルチャー、ライフスタイルまで、独自のコンテンツを無料で配信しているが、サイト自体には、LVMHがオーナーだという明記はない。ブランドロゴを出さないことで、LVMHのブランドに興味がない読者も巻き込めるように工夫した。

その上で、ラグジュアリーと親和性が高い読者の好みを自分たちが学んでいけるように、初期は各コンテンツにLove/Don’t Loveボタンをつけてデータ化していった。現在では、ハートマークの数で好みを数値化している。これは読者側にとっても、自分の好みのコンテンツを自動的にレコメンドしてくれるというメリットがある。2012年には中国進出もとげて、ラグジュアリー消費の巨大マーケットを学ぶ足掛かりを作った。

グループ全体としてのデジタル施策の動きは緩やかではあるが、1997年に買収したセフォラは、ラグジュアリー化粧品のブランド価値を守りながら、ブランドに販売網をリアルでもデジタルでも提供している。

セフォラ単体の詳細についてはまた別の機会に紹介する予定だが、概略を述べると、1969年に創業、1997年にLVMHに買収されて世界最大の化粧品小売りに成長した。セフォラ単体の売上は非公開だが、2013年頃にグローバルで約40億ドルの売上があったと推定されており、現在LVMHの成長の牽引になっているとも言われている。

元アップル幹部のイアン・ロジャーズのもと、デジタルエコシステムを強化

LVMH全体のデジタル戦略が大きくシフトしたのは、2015年4月に、Apple Music(アップル・ミュージック)の代表だったイアン・ロジャーズをCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)として招き入れたことだ。

なぜアップルからだったのか。それは、LVMHがラグジュアリーを生業としているからだろう。デジタル領域強化のために、GoogleやAmazon、Facebookなどから幹部を招集するケースも多いが、彼らのビジネスモデルはラグジュアリー市場とは異なる世界だ。どんなバックグラウンドを持つ人であれば、LVMHのCDOにふさわしいのか。アップルが、その希少性の価値を損なわずに成長したことを見極め、自分たちの戦略に合う人物を招聘した点にLVMHの本気度が感じられる。

イアン・ロジャーズは、全部門のデジタルエコシステムを強化し、各部門が新たな機会を探っていくための指南役として期待されている。彼は、リアルな店舗の変革、マーケティング手法の変革、そして、中国をはじめとする成長市場への対応が軸であることを理解しており、それらに対応すべく様々なアクションをおこしている。

その彼の指揮のもと、2017年6月にすべてのブランドをネットで購入できるように、新しいウェブサービス、24 Sèvresを立ち上げた。傘下にある高級百貨店ル・ボン・マルシェのECサイトとしてオープンし、ルイ・ヴィトンやディオール、フェンディなどの傘下のブランドをはじめ、150のブランドを扱っている。LVMH傘下のブランドだけでなく、他のブランドも販売している点が大きな特徴である。これは、ル・ボン・マルシェ、DSF、セフォラ等が、自社ブランドだけでなく、他社ブランドも取り扱って大きく伸びた戦略をそのまま継承している。

出典:24Servres

時期を同じくして、2017年6月には、高級ワインとスピリッツのブランドを中心に展開するClos19をローンチ。こちらはLVMH会長のベルナール・アルノーの姪、ステファニー・アルノーが立ち上げた。「別格の経験」を提供するため、試食会やプライベートディナーパーティーといったラグジュアリーな旅行なども提供している。ヴーヴ・クリコの持つぶどう畑で、ぶどうの収穫にあわせてプライベートジェットで2日間のシャンパンを楽しむ旅などは、ここでしか販売されない。前編でも紹介した4つの希少性をオンラインとリアルを通じて組み合わせたケースだ。

デジタル・スタートアップへの投資も加速

2018年1月には、パリのステーションFのスタートアップキャンパスでアクセラレータープログラムをローンチした。50のインターナショナルなスタートアップを支援するとアナウンスをしている。BeautyTech.jpではこのうちのいくつかを実際に取材する記事も進行中だ。今後どのように発展していくのか、注目したい。ちなみにステーションFの設立者グザビエ・ニールの妻は、ベルナール・アルノー会長の娘、デルフィーヌ・アルノーである。

2018年5月には、eコマースをさらに推し進めていくために、ファッション・サーチ・プラットフォームのLystに6000万ドルの資金調達をサポート。6000万ドルのうち45%がLVMH経由だと言われている。Lystはベルナール・アルノー会長の家族が経営するGroupe Arnaultが数年前に4000万ドルを出資しており、今回の出資でイアン・ロジャーズが役員として送り込まれた。この投資がどのようにグループ本体の機能としてとりこまれていくのかについても、今後フォローしていきたいポイントのひとつだ。

出典:Lyst.com

LVMHのデジタルシフトは本当に遅れているのか?

2017年の24 Sèvresローンチ時に、ベルナール・アルノー会長がデジタルシフトの遅れを認める発言をしている。しかし、本当にそうだろうか。前回でも紹介したように、LVMHの売上高や利益率は伸び続けている。ラグジュアリー業界では、デジタルシフトを急いだ結果、間違った方向でブランドの価値を大きく下げてしまうことのほうが代償が大きい。

アルノー一族は長年テクノロジー業界に投資をしてきており、ノウハウや人脈はあったはずだ。少し遅いタイミングだと言われても、撤退ができる範囲でトライアルを重ね、データを取得し、そこから新たなやり方を創造して最も効率のよいオペレーションに落としこむ試行錯誤をしてきたのではないか。

その結果、彼らがもつ70ものメゾンの自由なクリエイティビティと希少性の価値を保証しつつ、デジタル戦略で、チャネル、マーケティング、ブランディングのスケールメリットを確保した。デジタルシフトは彼らにとっての「矛盾」を解決するツールにすぎないのだ。

これが意味するのは、ラグジュアリー業界は必ずしも、華やかな技術でトップにたたなくてもよいということである。各社各様の、ブランド価値を高めるためのデジタル活用があるはずだ。

Text: 秋山ゆかり(Yukari Akiyama)
Top image: bmszealand via Shutterstock.com

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