
サンゴ礁も肌も守る。日焼け止めの新潮流はオーガニック&生分解性成分
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2018年5月1日、サンゴ礁に有害な日焼け止め成分を禁止する法案がハワイで可決され美容業界に衝撃が走った。そこで脚光を浴びているのが、紫外線を遮断する効果を持つ天然由来成分と、微生物によって分解可能な生分解性成分だ。各地のラボで研究が進む、日焼け止めを根本から変える物質とは?
オキシベンゾンとオクチノキサートがもたらす重大被害
長年にわたって美容業界は、老化やがんのリスクを高める紫外線から肌を守るためSPFが表示された製品を使用するよう消費者に呼びかけてきた。だが、その裏では、年間1万4,000トンもの日焼け止めが、海水浴客の遊泳や生活排水を通じて海へ流れ込んでいた事実もある。
Image: Yanguang Lan via Unsplash
なかでも、店頭に並ぶ日焼け止めの多くに使用されている紫外線カット成分のオキシベンソンとオクチノキサートの2つの化学物質は、海洋環境と海の生態系に重大な被害をもたらしていることが、非営利の学術団体の調査で明らかにされた。とくにサンゴ礁への影響が大きく、サンゴにこれらが染み込むと内部に住む藻類が死滅して白化現象を引き起こし、すでにダメージが広がりつつある世界のサンゴ礁の壊滅の危機にますます拍車がかかることになる。
これを受けて、ついに米ハワイ州が成分にオキシベンソンとオクチノキサートを含む日焼け止めの販売を禁止する法案を可決した。該当する製品は、グローバルで販売されている大手企業の主力ブランドなど3,500以上にのぼるとみられる。
こうしたなか、化学物質を使用しないオーガニック系化粧品会社の日焼け止めに注目が集まっている。その1つ、Goddess Gardenでは「人体にもサンゴにも安全な天然ミネラル・サンスクリーンの利点を消費者に伝えるのがミッション」と意気込む。
また、薬剤師が開発したロンドン発のオーガニックコスメThe Organic Pharmacyは、サンゴ礁が破壊されている状況に警鐘を鳴らすSave Our Reefsキャンペーンを英国内で開始し、希望者には化学物質を含む日焼け止めと同社の商品サンプルを無料交換すると発表している。
Image: Maciej Serafinowicz via Unsplash
SPF効果をブーストする紅花オレオソーム
環境と肌に優しい化粧品を志向する現代の消費者の眼が、日焼け止めにも向けられてきたことをいち早く察知した企業では、有害な化学物質の代替えとなる天然素材の日焼け止め成分の開発に力を注いでいる。
カナダのカルガリーに本拠を構える、美容プロダクツ用天然素材の開発製造メーカーであるBotanecoでは、紅花オイルなどシードオイルに存在するオレオソーム(脂肪体)に着目した。抗紫外線の機能を保った状態のオレオソームを分離する技法は研究室など小規模スペースではかなり以前から成功していたが、高熱や溶解剤を必要とせず、商業ベースに対応できる大量のオレオソームを種子から分離する、より簡単な新技術を確立。紅花オレオソーム配合の日焼け止めの実現を可能にした。
Image: Mohamed Thasneem via Unsplash
一般的に、オーガニック系の日焼け止めは化学物質を原料としたものに比べ、紫外線を遮断するパフォーマンスが低く、それが市場に浸透しにくい理由の1つでもあった。だが、紅花オレオソームを配合したSPF30のオーガニック日焼け止めと、市販されている大衆ブランドのSPF30の日焼け止めの抗紫外線効果を比較する実験を行ったところ、市販品よりも、オーガニック製品は紫外線の活動をおよそ80%少なく抑制する力があると確認されたのである。
このようなことが起こる原因はまだ完全にはわかっていないが、紅花オレオソームがほかの天然原料と化学反応を起こすことで、紫外線をカットする力がブーストされるのは間違いない。赤ちゃんや子どもも安心して使える成分で、しかも、より効果的な紫外線対策ができる道がひらかれたという意味で画期的だ。
がんの発生を抑制するメドウフォーム抽出成分
植物に備わっている力を利用しようという試みはほかにもある。オレゴン州立大学の研究者チームは、日光によるダメージから肌を守る可能性を持つ成分を発見したと発表した。
image: shutterstock メドウフォームの花
太平洋岸北西部、カリフォルニアやブリティシュコロンビアなどに生息する、アブラナ目の植物メドウフォームはシードオイルの原料として知られ、保湿効果の高さからシャンプーや石鹸、リップバームなどに活用されている。
同大学チームでは、3Dプリンターで作成した人間の皮膚と同質の人工皮膚にUVBを照射して人為的に日焼けの状態をつくり、メドウフォームの種子から抽出した成分を塗ってトリートメントをしたところ、がんを引き起こす原因につながるDNAクロスリンクを起こりにくくする働きがみられたという。さらには、がんの初期ステージにしばしば発症する組織の異常な増殖を抑える効果も確認できた。
日焼けによるダメージを緩和し、がんのリスクを減らすこうした発見は、科学的な意義はもとより、スキンケア製品への応用も大いに期待できるとして歓迎されている。
水中や地中で自然分解するバイオプラスチック原料
一方、生分解性の性質を持つバイオポリマーの製造特許を所持するイタリアの化学会社Bio-onは、2018年初旬、パーソナルケア用品向けの原料として2つの新成分を発表した。
そのひとつであるMinervPHB Rivieraは主にサンケア製品に適しており、もうひとつのMinervPHB Riviera Plusはカラーコスメやスキンケア、ヘアケア製品に利用できるもので、どちらも、UV、UVB、UVAを遮断するフィルター効果のブースターとして機能する、リサイクル可能な植物由来のバイオプラスチックである。
これらを配合することで、紫外線カット量を強化できるのに加え、耐水性もアップする。同社は、Rivieraシリーズを使用すれば、企業は日焼け止め製品に含まれるUVフィルター物質を減らすことができ、結果的に海や大地の汚染をくいとめ、最終的にはサステイナブルな環境に貢献するとしている。
出典:Bio-on
ハワイがとったサンゴ礁を守るための法的措置と同様の規制は、遅かれ早かれほかの地域にも広がっていくだろう。消費者もまた、若い世代を中心に、自分自身と環境のために、使用する製品にどんな成分が含まれているのかを知るべきだという意識を高めており、より厳しい目で選別しはじめている。
紫外線がもたらす悪影響への理解が進んだ今、日焼け止めを使わないという選択肢はない。エシカルで安全な日焼け止めを求める顧客の声に応えた素早い対応が望まれる。
Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)