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5兆円市場に向かうフェムテック、国際会議で語られた「男性の理解」と「女性の知識」

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オンラインで開催されたグローバルイベント「FemTech Forum 2020」では、急成長するフェムテックの市場性から、その課題と今後の展望まで、幅広く意見交換が交わされた。「男性の“真”の理解の推進」と「女性自身が正しい知識を身につける」をキーワードに、まさに動こうとするフェムテック業界の現在地が浮かび上がる。

2020年6月25日、バーチャル開催としては世界初のフェムテック・カンファレンス「FemTech Forum 2020 」が、女性とテクノロジーをサポートする国際組織「Women of Wearables(WoW)」ロンドン本部の主催で開催された。

英国時間の9時から18時まで途中休憩をはさみながら8つのトークセッションが設けられ、参加申込み総数は800以上、各セッションとも世界各地で約300人が視聴するなか、起業家や投資家、女性問題の専門家、公的機関のオブザーバーなど、フェムテック業界を支える28名のパネリストが、フェムテックの現状や課題、今後の取り組みなどについて、丸一日熱い議論を交わした。このイベントの様子をレポートする。

女性のライフステージを幅広く
カバーするフェムテック

フェムテック業界は、2025年までに500億ドル(約5兆4,000万円)規模に成長が見込まれるといわれており、すでに「ニッチな市場」ではない。

「#MeToo」時代の今、男性にどう見られるかを気にするのではなく、自分のニーズに正直であろうとする女性たちは、これまでの男性視点の論理のもとで一括りに考えられてきた臨床実験や医療、ヘルスケア商品のあり方に疑問を感じ始めている。

今回のフェムテック・フォーラムのパネラーには、こうした近年の女性の意識や消費行動の変化を象徴するような、白人男性中心のビジネスの世界で奮闘する女性起業家が顔を揃えた。

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彼女たちのスタートアップは、たとえば、生理周期を活用して女性の体の仕組みに即したエクササイズを設計するアプリ「WILD.AI 」、妊娠する可能性の高い日を測定する避妊アプリ「Natural Cycles 」、同じく排卵日が分かるウェアラブルブランド「Ava」、更年期障害に特化したオンラインクリニック「gennev」、セクシャルセルフケア・アプリ「Ferly」、女性のための遠隔医療ネットワーク「Maven」など、そのサービスは多種多様である。ひとえにフェムテックといっても、生理、妊活、不妊治療、出産に加えて、産後、更年期障害、性生活、医療現場のジェンダーギャップなど、女性の全ライフステージにおいて、テクノロジーを武器に幅広いアプローチが行われているのだ。

男性向けと比較し未だタブー視される
女性のセクシャルウェルネス

包括的に裾野が拡大しているフェムテック業界だが、いまなお社会的な抵抗が強く残る分野もある。その最たるものが女性のセクシャルヘルスだ。「セクシャルウェルネスは未だにビジネスやベンチャーキャピタルにおけるタブーなのか?(Is Sexual Wellness Still a Taboo in Business and Venture Capital?)」と題されたパネルから、フェムテックが直面する課題を考えたい。

このパネルに参加した女性事業主のためのベンチャーキャピタル「Portfolia」の創業者兼CEOのトリッシュ・コステロ(Trish Costello)氏は、フェムテックスタートアップの起業家が大手VCに対し資金を募る際に「毎週月曜の役員定例会で、女性器についてなんか話し合いたくない」との理由で、投資が却下される場面に遭遇してきた。

欧米では、ベンチャーキャピタルに加え、医療機関や学術機関も白人男性のマネジメント層の占有率が高い業界だ。男性の性的快楽や性機能障害へのソリューションは、医学的な研究も進み一大ビジネスとして扱われていながら、女性のセクシャルヘルスは、今なお資金と決定権を持つ男性たちからないがしろにされている。

また、セクシャルヘルス関連企業は、男性だけでなく、保守的な価値観を持つ女性からも「ふしだらだ」と常に抗議を受けるという。女性器にまつわる言葉は、忌まわしいもののように扱われ、FacebookなどSNSのアルゴリズムでも自動的に遮断される。広告を出稿することさえ難しいのが現状だ。

セックステック・スタートアップ「Lora DiCarlo」の創業者兼CEOのローラ・ハドック・ディカルロ(Lora Haddock DiCarlo)氏が語った、世界最大級の家電見本市Consumer Electronic Show(CES)にまつわる一連の出来事も、フェムテックの現況と課題をよく表している。

2019年度のCESでLora DiCarloの生物模倣とロボティクスを応用した女性用バイブレーター「Ose」は、ロボット工学カテゴリーでイノベーション賞を獲得。ところがのちに「下品、不道徳、わいせつ」というジェンダーバイアスを理由に受賞を取り消されたうえ、ブランドはCESに出展禁止処分となった。

この決定に対するディカルロ氏の抗議は、多くのメディアで取り上げられ、時流に合わない性差別だと炎上。米消費者技術協会(CTA)は、受賞取り消しを撤回して謝罪し、CESのヘルス&ウェルネス展示カテゴリーにセックステックを含める一方、VR関連の展示などでは“ポルノ”は女性蔑視として拒否するという、よりインクルーシブなものへとポリシーの革新を行った。

実際に、2020年度のCES会場では、セックステックやセクシャルヘルスのスタートアップのブースがいくつも設置されていた。さらにLora DiCarloの2つの新製品は、2020年もロボット工学カテゴリーでイノベーション賞を受賞している

ディカルロ氏は、自分たちが人々に考える機会を提供し、CESのチェンジエージェントになれたことを誇りに思うとしながらも、まだまだ女性のセクシャルウェルネスをタブー視する社会の実情を訴えた。

課題解決には「科学的な教育」と「オープネス」が鍵

このような課題を解決しフェムテックを進化させるために必要な取り組みは何だろうか。カンファレンスを通して、パネラーたちによる議論からみえてきたのは、鍵となる下記の2点である。

1つ目は、科学やデータにもとづいた「正しいエデュケーション(教育)」だ。

女性には、家族・社会の一員としてはもちろん、ビジネス対象としても価値があるという事実を、男性が「真に」理解することが、フェムテックの進化には欠かせない。

カンファレンスの最中、多くのパネラーたちが繰り返し口にしていたのが、「女性はマイノリティではない。人口の半分を占めるマジョリティだ」という言葉だ。当たり前のことのようだが、新分野であるフェムテックの視点からみると、ほぼ同じ人口を持つ女性と男性は対等に扱われているとはいえず、社会には女性を女性であるというだけで軽んじる傾向が残っている。

パネラーたちは、何も全ての男性に生理の仕組みや更年期障害の症状について教えるべきだと主張しているわけではない。男性がこれらを自分には関係がないと軽く扱うことがないよう、たとえばガンのようにマジョリティの関心ごとでビジネスになるとか、社会保障や福利厚生が進むべき分野だということを説得できる環境にするべきだといっているのだ。こうした意識を高めるアクションを「教育」と呼んでいる。

また、フェムテックにおける必要性を、自らの経験からすんなりと理解できる女性たちを決定権のある役職へと積極的に登用すれば、フェムテックがもっと前に進むという意見も多かった。

同時に、消費者やユーザーである女性への教育も大切だ。

卵子凍結などにより出産というライフイベントの選択肢を提供する「Lilia」の創業者兼CEOのアリッサ・アトキンス(Alyssa Atkins)氏は、多くの女性が「妊娠のしやすさのテストや卵子凍結は早ければ早いほどいいのに、若いうちは自分にはまだ時間があると後回しにする。そしていざ子供が欲しいとなった時、簡単に妊娠できないことにショックを受ける」として、女性の体やライフプランに関する情報を広く一般に知らしめる必要性を示唆する。

また女性のセクシャルセルフケア・アプリFerlyの創業者兼CEOのビリー・クィンラン(Billie Quinlan)氏は、「教育が必要なのはティーンだけではない。むしろ、きちんとした性教育を受けてこなかった大人の女性に必要だ」と語る。

女性のウェルネスは、年齢や妊娠・出産、あるいは結婚や離婚といったさまざまなライフイベントとともに変化するにも関わらず、学校を出てから性教育を受ける機会がないため、女性特有の不調を誰にも相談できずにひとりで苦しんだり、改善を諦めたりしている人も少なくない。女性たちにとっては、自分の体について正しい知識を身に付けることが、選択肢を増やし、より自由に社会で活躍するための有用な道具になる。フェムテック企業は、創業者自らが女性たちと対話の機会を設けたり、リサーチを行ったりして、積極的に情報を発信している。

フェムテックはメジャーなビジネス機会に満ちたスペース

もう1つの鍵は、女性の性や生理が隠すべき「秘めごと」ではなく、メディアや職場、夫婦、親子間などでも大っぴらに語られる「普通のこと」にすることだ。オープンに話せるようになれば、教育の機会も増える。

この分野のメインストリーム化に貢献しているインフルエンサーとして、フェムテックや女性のウェルネスに関して積極的に発信する「goop」のグウィネス・パルトロー氏や、セレブ患者を抱えニューヨークタイムズでコラム連載をする産婦人科医ジェニファー・ガンター(Jenifer Gunter)氏などの名前が挙げられ、時代は確かにその方向へと動いていることを感じさせた。

ガンター氏は、自身の著作のタイトル『Vagina Bible(膣のバイブル)』に対し、出版社から懸念を示された際に、「膣のことを書いた本なのに、膣を題名に入れられないなんておかしい、“肘”と同じ気軽さで口に出せるべき言葉だ」と抵抗したという。

パネリストの1人でMaven Clinicの医療ディレクターのジェーン・ヴァン・ディス(Jane van Dis)氏も「みんな、毎朝、起きるたびに膣、膣、膣と連呼するべき。私は、ことあるごとに膣、膣と言い回ってる」とジョークを交えて話し、言葉につきまとう恥を払拭すべきだと強調。Lora DiCarloのディカルロ氏も、「ユーモアが大切」だと、医学的でも蔑称でもない女性器の愛称をリストアップして喝采を浴びた。

同様に、ほかにも多くのフェムテックの起業家たちが、自らの体験を語ったり、個人的な体験を共有できるコミュニティを構築するなど、オープンな会話を促進するための取り組みを進めている。

Ferlyのクィンラン氏は、「初めて両親を前に、ママが最近マスターベーションをしたのはいつ?と聞いたら、父は驚いてコーヒーを吹いた」と笑うが、両親と性についてオープンに話すことができるようになった今、お互いに学べることが増え、より良い関係が築けているとする。女性特有の問題についても、性別や年齢などの垣根を超えて、ごく自然のこととして話し合い、互いのニーズを認め合えるような環境が、フェムテックをより豊かに育てていくのだ。

家族の健康管理や男性主導の職場事情を優先し、自身の健康やニーズを後回しにしてきた女性は世界中に数多く存在する。そんな女性のウェルネスを手間や大きなコストをかけずにサポートし、キャリア、家族、趣味など、女性が自分の人生をもっと楽しむためにフェムテックがある。

「女性たちが正しい知識を手にして、声をあげることが大切だ」とパネリストたちは語る。「今、時代が変わってきている、自分たちがそのムーブメントの一翼を担っている」という自負、ポジティブな意思と力強さが彼女たちから伝わってきた。フェムテックは一過性のブームではない。人口の半分を占めるマジョリティのニーズの深化に合わせて、これからも産業として大きく成長していくことは間違いない。

Text: 東リカ(Rika Higashi)

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