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クラランスも挑むZ世代向け共感マーケティング。エシカル、ヘルシー、自己肯定が鍵

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2019年1~3月までの数ヶ月のうちに、クラランスをはじめ、世界の大手化粧品会社が次々と新商品やスマート店舗を発表した。共通するのは、1990年代後半から2000年前後に生まれたZ世代をターゲットにしている点だ。次の消費の牽引役となるZ世代に向けた、グローバルな化粧品業界での商品展開と施策事例を紹介しよう。

ベビーブーマー、ジェネレーショX、ミレニアル…と、核となる各世代には名前が付けられ、それぞれの特徴にあわせた商品開発や広告展開がこれまでも行われてきた。米国では、2016年に最も人口の多い世代は7,400万人を数えるベビーブーマーだったが、世代交代が進む2028年にはZ世代の人口がベビーブーマーを追い抜き、ミレニアル世代に続いて人口構成比の第2位を占めると予想されている

また、投資銀行Piper Jaffrayによる6千人あまりの米国のティーンズを対象にした消費動向調査では、彼らが購入する商品は、食品、ビューティ関連、ゲーム関連の割合が大きく、なかでも、ビューティ製品に対するZ世代の女性の消費額は年間368ドルで、前年同期比18%増となっており、数字の上でも、化粧品業界がZ世代を無視できないことが裏付けられた

SNSフル活用でブランディング

ミレニアル世代は、PCやスマホが普及し始め、それをいち早く取り入れた「デジタルパイオニア」といわれる。これに対し、Z世代は初めて手にしたコンピュータがスマホであり、「デジタルネイティブ」と表現される。生まれたときからスマホが当たり前に存在している彼らは、テレビを見る時間よりもネットにつながる時間の方が長い。ミレニアル世代の1週間のスマホとテレビの視聴時間が、それぞれ14.8時間なのに対し、Z世代はスマホが15.4時間でテレビは13.2時間と、テレビよりもスマホへの接触時間が長い

さらに、Z世代は情報収集と発信、コミュニケーション手段にも、チャットやYouTube、Instagram、TwitterなどSNSを多用する「SNSネイティブ」でもあるのが1番の特徴だ。当然、マス広告よりも、SNSを利用したブランディング手法が有効なのは明らかだ。

Image: Monkey Business Images via shutterstock

SNSを活用した戦略的デジタルマーケティングの成功例といえば、2014年のローンチから一気に人気ブランドになったGlossierだ。現在の評価額は12億ドルとも言われ、2019年に入ってユニコーン(未上場で10億ドル以上の企業評価額のあるスタートアップ)入りを果たしたとして話題になった

創業者のエミリー・ウェス(Emily Weiss)は「VOGUE」のスタイリングアシスタントを務めていた2010年に、自身の美容ブログ「Into the Gloss」を開始した。セレブのインタビューなどをとおして、リアルな女性たちがどんな化粧品を使い、日々どんなスキンケアをしているのか知らせることで、人気に火がつき、150万人もの人がブログを訪れるようになった。当時の化粧品メーカー各社がモデルや女優をアイコンに美というイメージ=幻想を売っていたのに対し、人々のナマの声と具体的な悩みやその解決法を提示したのが新しかったのだ

読者からのブログのフィードバックをもとに、Glossierブランド立ち上げ後も、オンライン・プラットフォームは顧客と直接つながるコミュニケーションの場として機能している。とくに、人種や体型もさまざまな一般の人々がGlossier製品とともに写っている画像で溢れる公式Instagramは、Glossierのブランディング戦略とファンコミュニティを重視する姿勢を明快に示す。フォロワー180万人を有する同公式アカウントには1分間に5件のダイレクトメッセージが届き、店舗には毎月5万人の客が訪れる。そこから得られた顧客の意見や感想を集約して、Glossierは新商品の開発に活かしている。

Glossierは2019年3月、新ブランド「Glossier Play」を発表。これまでの“ミレニアル・ピンク”を基調にしたデザインとは打って変わり、70年代のディスコシーンを彷彿とさせる、キラキラとしたカラーが印象的なラインナップで、Z世代にはこのレトロさが逆に新鮮にうつり、何よりインスタ映えすることは間違いない。

ミステリアスなGのロゴを添え、光が弾けるようなホログラフィックな画像のGlossier Playの登場予告投稿に対しては、24時間で5万7,000人のフォロワーがついた。ブランドの詳細など、まだ何も発表されていない段階での話である。

また、SNSを活用してブランド認知を拡大した例としては、キッズメイクアップのPetite‘N Prettyにも注目だ。

一説に、ミレニアル世代の集中力持続時間は12秒、これに対して、Z世代は8秒というデータがある。 つまり、Z世代は瞬間的に物の「好き・嫌い」を判断する傾向が強く、画像中心で視覚的にアピールできるInstagramが有効なのはこのためだ。

Petite‘N Prettyは、4~18歳の女の子をターゲットに、2018年7月にローンチ。立ち上げ当初からInstagramに注力し、フォロワーが70万〜80万人の“キッズインフルエンサー”に予算を当てて、同ブランドの製品を無料で提供している。このインフルエンサー、Petite‘N Prettyが呼ぶところの「ミニMUA(メイクアップアーティスト)」たちの多くは地方の州に在住し、Anastasia Beverly Hillsばりの凝ったメイクを楽しみ、12歳にして撮影から編集まで自分の力で巧みにこなすという。ただし、学校にはせいぜいリップグロスをつけていくぐらいで、メイクアップはあくまでInstagramで披露する“作品”であるらしい。彼らのおかげで、Petite‘N Prettyのアカウントのフォロワーは、すでに5万人を超えている

一方、レトロポップなパッケージが特徴的でZ世代からの支持が厚いBenefitは2019年2月、インフルエンサーをマネージメントするための新しい部署「インフルエンサー・エージェンシー」を社内に設立した。キャンペーン情報の拡散など、これまでにおよそ500名のインフルエンサーと仕事をしてきたというBenefitだが、マーケティング部とインフルエンサーの間にあった意識や理解のズレを埋め、対費用的にもより効果的なデジタルマーケティングをすることが目的だ。インフルエンサーの不正行為を防ぐとともに、適切なタイミングで有効な投稿を行い、確実にリターンを得られるようにするのを目指す。キャンペーンのピーク時には、最大で14名のスタッフがこの新部署で働くことになるようだ。

さらに、リアルとネットを融合するオムニチャネル店舗を創設したのはM・A・Cである。2019年2月に上海にオープンした店舗は、Z世代にターゲットを絞っている。ウェブサイトと実店舗の両方で彼らの購買行動を半年以上にわたり綿密に調査し、仕様はすべてZ世代向けに設計された。

顧客はWeChatを利用してチェックインし、18色のリップを30秒で試せるバーチャルミラーで心ゆくまでトライアルができるショッピング体験を楽しむ。アイシャドウ・セクションでは、6名のインフルエンサーによるパレットから好きなものを選び、さらに自分用にカスタム、購入する際はWeChatでタッチスクリーンをスキャンすると、3Dプリンティングされたパレットを受け取れる。支払いもWeChatPayで行う。デジタルデバイスと実際の商品がシームレスに結びつくニューリテールを提案するものだ。

ヴィーガンやクルエルティフリーへの共感

Z世代の2つめの特徴は、ミレニアル世代とも共通するが、ナチュラル志向であるということだ。

Z世代は商品購入の決め手となる要素について、1番に「価格」を挙げ、その次に「エシカルな企業・商品」を選んでいる。またサスティナブルな製品について、「通常価格より50%または100%以上高くても購入する」と答えた人がZ世代では他の世代よりも多く、環境保護や企業の倫理観への意識がとても高い

Image: ARTFULLY PHOTOGRAPHER via shutterstock

さらに最近では「クリーンビューティ」という言葉も生まれ、美しい肌は健康的な食事や生活スタイル、クリアなメンタルがあってはじめて手に入るという、心と体のバランスを美の基本におく考え方が、Z世代には広まってきている。そんな流れを汲み取り、化粧品メーカー各社はZ世代向けの商品にはヘルシー志向をコンセプトの柱に取り入れている。

フランス発のラグジュアリーコスメとして知られるクラランスは2019年2月、18~25歳向けに新ブランド「My Clarins」を発表した。同ブランドは、クレンジングミルク、モイスチャライザー、ミストなど9つのスキンケアアイテムが揃っているが、いずれも原料はヴィーガンで、その88%が天然由来だ。さらに、パッケージにはエコフレンドリーなリサイクル可能な素材を使う。

さらに、コーセー傘下のナチュラルコスメ、Tarteも2019年2月に、クルエルティフリーコスメライン「Sugar Rush」をローンチ。Z世代受けを狙い、30ドル以下の低価格に加え、写真に撮ったときに絵になる、カラフルでポップ&キュートなパッケージデザインを採用しながら、動物実験への反対姿勢をブランドとしてしっかり示すことで差別化を図る。

2社の新製品はあくまで一例で、クルエルティフリーとヴィーガンコスメ製品の数は2013~2018年の5年間で175%増大、世界規模では2025年までに208億ドル市場に成長すると予想されている。 

ダイバーシティからジェンダーレスへ

3つめのZ世代の特徴には、ダイバーシティへの高い意識がある。

化粧品小売大手のUltaでは2018年9月、ダイバーシティをテーマにしたキャンペーン動画を公開した。そこでは、年齢や人種、性別、体のサイズなどが異なる人々が登場し、「可能性は美しい」とメッセージを発している。

Ultaのキャンペーンは、それぞれ異なる個人が共存する社会のなかで、よりリアルな美を提案する同社の姿勢を明確にするもので、人種や性別といった区分けは要らないと考えるZ世代へのアプローチである。

Z世代の「美」への概念は、これまでとは異なってきているようだ。それを象徴するのが、かつてはセクシーなランジェリーで女性から絶大な人気を誇っていたヴィクトリアズシークレットの衰退だ。同ブランドは、全米で1,000店舗以上あるうちの53店舗の閉鎖を、2019年2月末に発表した

ヴィクトリアズシークレットが毎年開催するファッションショーでは、きらびやかに装ったセレブのスーパーモデルが多数登場。なかでも、「ヴィクシーエンジェル」のステイタスを得たモデルは、ブランドの顔としてCMからカタログ、新作PRなどの活動を行い、モデル業界でも最大の名誉ともてはやされた。このように、女性たちの憧れの的であったヴィクシーモデルだが、現代の女性たちは、現実とかけ離れたスーパーボディに違和感を感じはじめている。2018年末にTV放映されたショーの視聴者数は過去最低、2019年の業績予測も期待を下回った。

ヴィクトリアズシークレット2018
出典:Harper's Bazaar

現在ランジェリー業界の主流は、一般女性のボディにフィットする幅広いサイズ展開や、楽なつけ心地をうたい、ヴィクトリアズシークレットのようにプッシュアップブラでバストを強調するような、ことさらに女性性を打ちだすことは避ける方向へシフトしている。多様性を重視したブランドFenty Beautyを手がけるリアーナのランジェリーブランド「Savage x Fenty」もコスメライン同様、どんな人種・体型・肌の色でも自分らしくいようという方向性だ。

そんななかで、Z世代を中心に人気を上げてきているのが、アメリカンイーグルが手がけるティーン向けの下着&スイムウェアブランドAerieだ。同ブランドはいわゆる“スーパーモデル”を起用せず、あわせて、広告の写真修正を一切行わないことを宣言。 モデルたちのソバカスやシワ、たるみを消さず、ウエストや二の腕がぽっちゃりとした女性の画像を、キャンペーン広告やオンラインショップのイメージ写真として使用して、「人はそれぞれ違うのが当たり前。ナチュラルなありのままの姿でいい」というブランドメッセージを伝えている。

こうしたダイバーシティを尊ぶ考え方は、化粧品業界に着実に浸透してきている。近年は男性のためのメンズコスメ製品も数多く誕生し、パートナーとシェアできるユニセックスな化粧品であることを示すため、男性モデルが起用されることも珍しくない。クラランス傘下の香水ブランドMuglerが、男女どちらでも使える香水の新作を2018年に発表したように、「化粧品=女性が使うもの」という概念自体がもう存在しない。今後はさらにジェンダーレスな商品が増えていくと予想できる。

今から5年後には20代半ばから後半になるZ世代は、消費者層の中でも主要なターゲットとなることは明らかだ。美の概念や化粧に対する考え方など、彼らの新しい価値観にあわせて、化粧品業界全体の動きも大きくシフトしていくだろう。

Text:佐藤まきこ(Makiko Sato)、編集部
Top image: lunamarina via shutterstock

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