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独スキンケアブランド「yepoda」など、海外美容起業家が注目するKビューティ関連ビジネス
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新興ブランドを中心に勢いを増す韓国化粧品業界は、2024年には海外への輸出額の過去最高額を更新した。こうした状況で、韓国以外の海外起業家たちがKビューティというコンセプトにビジネスチャンスを見出し、自国や海外市場に参入する事例が現れている。Kビューティにインスパイアされたドイツの化粧品ブランドyepodaや、韓国ブランドの南米市場向けマッチングプラットフォームKosmetricsなどを中心にレポートする。
Kビューティコンセプトを欧州に広めるドイツのスキンケアブランド「yepoda」
2020年頃を前後して、Kビューティに魅了された韓国以外の国の起業家たちが、自国や海外で韓国スタイルの化粧品ブランドを設立するケースが出てきている。
2024年に韓国および海外でもっとも話題となったのは、ドイツ・ベルリンに拠点を構えるスキンケアブランド「yepoda(イェポダ)」の事例だ。イェポダというブランド名は、韓国語できれい、かわいいの意味を持つ「예쁘다(yeppeuda / イェップダ)」から名づけられたものだ。
ブランドスローガンは、「K-Beauty for you, No compromises(あなたのためのKビューティ、妥協はなし)」で、5つのブランド価値として「Kビューティ」「クリーンビューティ」「持続可能性」「効果・効能」「面白さ」を定義している。すべての製品はヴィーガンかつクルエルティフリーであり、パッケージもプラスチックの使用を最小限に抑えた。持続可能性や環境配慮の価値観は、欧州の消費者からも高い共感を得ているとする。
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同ブランドは、2020年にサンダー・ジュンヨン・バン・ブラデル(Sander Joonyoung van Bladel)氏と、ベロニカ・ストロットマン(Veronika Strotman)氏の2人が共同設立したビューティスタートアップだ。ブラデル氏とストロットマン氏は、もともとドイツ・ベルリンのファッションスタートアップで一緒に働いていた同僚だった。
ブラデル氏はオランダ人の父親と韓国人の母親を持ち、母方の親族と面会するため韓国にひんぱんに訪れていた。彼の周囲にいるヨーロッパの友人たちはKビューティに関する興味が高く、ブラデル氏は旅行のたびにお土産としてコスメを大量に買い込んでいたという。
友人たちに韓国の化粧品を渡すうちに、やがてブラデル氏自身もKビューティに高い関心を持つようになる。韓国のビューティ市場には多様なコンセプトの製品があり、なかでも、さまざまなアプローチのスキンケア製品が充実している点がヨーロッパとは異なっていたからだ。情報収集を続けるなか、Kビューティのグローバル市場における地位や影響力の高まりを確信したブラデル氏は、その哲学や価値をヨーロッパに知らせたいと考えた。そして、2020年4月にローンチしたのがyepodaだった。
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出典:yepoda公式Linkedinアカウント
ストロットマン氏はブラデル氏と同僚時代に交際関係にあり、2017年頃からサンダー氏の親戚に会うために一緒に韓国を訪問していた。韓国に通ううちにストロットマン氏もまた、Kビューティに対して強い関心を抱くようになり、意気投合した2人はブランドを共同設立することを決めたという。
西洋のビューティカルチャーとの違いを分析しブランド構築
朝鮮日報のインタビューのなかで、ブランドの立ち上げにあたり、ブラデル氏とストロットマン氏はまず、西洋のビューティカルチャーとKビューティを比較しながら、その長所やメリットを分析したとしている。たとえば、西洋では化粧品で肌の欠点を隠すことにフォーカスするが、韓国では肌質そのものを向上させるためにスキンケアに集中する傾向が強い傾向があるという。
また、Kビューティにおいては肌悩みを解決するためのスキンケアルーティンが段階別に分かれており、悩みに応じて使用する製品の順序や種類も変わるケースが多い。長期的に取り組んで良い肌の状態を生み出し、維持することを目指すという点が、西洋のビューティカルチャーと異なっていると考えた。さらに、韓国コスメでは肌悩みの解消やスキンケアの質を高めるために、高品質な成分や自然由来成分を使用することが多いのも特徴だとストロットマン氏は指摘。2人は欧州のコスメと比較した際にKビューティが持つこうした強みを反映して、yepodaというブランドを構想したという。
ブランドローンチ時には2人で始めたyepodaは、約4年が経過した2024末時点で約80名体制となるまでに成長を遂げた。主にオンラインチャネルを中心に商品の販売を展開しているが、すでに80万人以上の顧客に製品を提供し、リピート率も着実に上がっているという。SNSや自社サイトなどを通じたオンラインコミュニティには、約100万人のフォロワーも有している。
yepodaの自社ECの情報では、緑茶などの成分を含む目元ケアパッチ「The Depuff Eyespresso」や、ザクロ成分やサリチル酸が配合されたクレンジングフォーム「The Bubble Double」、オリーブとココナッツオイル成分配合のクレンジングバーム「The Calm Balm」などが売れ筋商品とされている。
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出典:yepoda公式サイト
同ブランドでは、顧客体験向上を目的に2024年を前後してヨーロッパ各地で4つのポップアップストアも開設している。そのうちのひとつであるイタリア・ミラノ中央駅に設置されたポップアップストアは、Kビューティと外国人起業家のつながりを示す事例として、イタリア現地メディア「La Repubblica」にも取り上げられた。
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出典:yepoda公式Linkedinアカウント
イタリア・ローマ、フランス・パリで実施したポップアップストアでは、製品販売だけではなく、AI肌診断を活用したオーダーメード型スキンケアソリューションも提供。韓国ではすでに関連技術やサービスが普及しはじめているが、欧州の顧客には目新しい体験となり、ポジティブな評価が多かったという。
投資家や業界関係者たちからもyepodaのビジネスは好意的に評価されている。創業初期にエンジェル投資家から資金を獲得したyepodaは、その後、英国VCであるJam Jar Investments、グローバルファンド V3 Ventures、ドイツのVCのSlingshot Ventures などからも投資を受けることに成功している。またエスティ ローダーの北米グループ元プレジデントであるクリス・グッド(Chris Good)氏も投資に参加しており、アドバイザーに迎えられている。
Kビューティ関連の資格や起業に関わる外国人数は増加傾向に
Kビューティが海外の美容系起業家に注目されている点についていえば、Kビューティ関連資格の取得を目指す外国人も増加傾向にある。たとえば、ソウル・江南にあるメイクアップショップでは、メイクアップやパーソナルカラー診断などが行える韓国国内の美容関連資格を取得するためのプログラムを受講する外国人が急増中だという。2023年に月間100名にも満たなかった外国人受講生は、2024年5月時点で月間1,000名程度と約10倍増加したと報じられている。
Kビューティ人気を背景に、自治体が教育機関で独自に関連学科の運営を開始するケースもある。一例では、ソウル市が運営する職業教育センターの中部・南部技術教育院(Seoul Institute of Technology & Education)では、2023年末からインドネシアやカザフスタンなどソウル市が姉妹提携を結んだ国の受講生を対象に「Kビューティ学科」を新設した。すでに最初の受講生20名が美容関連資格を取得し帰国しており、今後はコロンビアやモンゴルからも受講生を募る計画だ。
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出典:中部・南部技術教育院の公式サイト
外国人受講生たちは旅行ビザを活用したり、留学生として韓国に滞在中に副次的にプログラムを受講するパターンが多く見受けられる。Kビューティ関連の資格を発行している主体の多くは民間事業者であり、国策として特別なビザ発行など環境が整備される動きはまだないようだ。
Kビューティブランドを立ち上げる起業家や、美容の専門家になる教育を受ける外国人が増える動きと並行して、韓国コスメのグローバル進出をサポートする外国人起業家も現れている。
韓国で建築家として働くことを目標にしてきたメキシコ人のミゲル・スアレス(Miguel Suarez)氏は、建築関連事業を展開することが難しいと判断。南米地域でもKビューティ人気が高まっていることを受け、化粧品業界への参入を決心し、2023年にKosmetrics(コスメトリックス)というスタートアップを立ち上げた。同社は競争力のあるKビューティブランドを南米の小売業者に紹介し、市場進出を支援する企業だ。
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南米14カ国34の流通業者とパートナーシップを結んでいるKosmetricsは、「Kosmetrics Analytics(コスメトリックスアナリティクス)」という、韓国コスメの成分情報を提供するプラットフォームを独自開発。韓国最大の成分クチコミプラットフォームであるHwahae(ファヘ)から着想を得た同プラットフォームで、韓国ブランドと南米小売業者のマッチングを支援している。またスペイン語圏のコンテンツクリエイターと協業し、各国での韓国ブランドの認知拡大もサポートしている。また、同社のビジネスモデルおよび収益源は、マッチングやマーケティング支援のコミッションフィーとプラットフォーム利用料とされている。
Kosmetricsは、610億ドル(約9兆2,580億円)規模の巨大な南米美容市場において、韓国コスメ製品のシェアがまだ3%に過ぎないことに着目。内需が大きいメキシコやブラジルを中心に市場参入のチャンスが高いと分析している。近年ではKビューティに対する認知度が南米全体で徐々に高まっており、インフルエンサーのバイラル効果で、ある特定の韓国ブランドや製品が注目されるケースも頻繁に起きるようになったという。訪韓観光客の増加やKビューティブランドの海外進出が続くなか、今後もKビューティーという軸でビジネス展開を考える外国人起業家の数は増えていきそうだ。
Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image: yepoda公式Linkedinアカウント