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CEW France、美容業界エグゼクティブがスタートアップに学ぶエコシステムと透明性

◆ English version: CEW France spotlights the potential of startups amidst big beauty brands
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美容業界の大企業とスタートアップのエコシステム(協力関係)はグローバルでどう違うのか。そしてそれをどう考えていくのか。こんなトークセッションを開催したのが、美容業界の女性管理職のための国際組織、コスメティック・エグゼクティブ・ウーマン「CEW」のフランス支部CEW Franceだ。

フランスは高級化粧品、自然派化粧品ブランドを数多く抱え、美容大国というイメージが強いが、欧米、アジアにおけるD2CやEコマースなどのスタートアップ台頭にともない、今後、フランスの化粧品企業が世界でどのようにプレゼンスを高めていくのかというのも大きな課題だ。CEW Franceでは、国内外の注目企業やトレンドに関する講演会や交流イベントを積極的に行い、会員の視野を広げるとする。

その一環として11月19日に開催されたトークセッションでは、サンフランシスコ発の美容やファッション関連起業家と投資家をつなぐコミュニティFaB(Fashion and BeautyTech Community)代表オディール・ルジョル(Odile Roujol)氏と2人の女性起業家が招かれた。CEW Franceの代表フランソワーズ・モントネイ(Françoise Montenay)氏は、元シャネル社長で、現在は同社の監査委員長を務める。その背景もあり、化粧品関連業界の関係者100名ほどが集まったこのセッションはシャネル本社のオーディトリアムで行われた。

①登壇者4名

左からキャロル・ジュッジュ氏、
オディール・ルジョル氏、
イザベル・ラビエ氏、
ロランス・ムーラン氏

CEWとは、1954年に米国で発足した美容業界で働くエグゼクティブの女性のためのアソシエーションで、1986年にフランス支部、1992年には英国支部が誕生した。現在世界30カ国、1万名の会員組織に拡大し、美容業界におけるキャリアと知識を伸ばすための交流イベント、講演、調査レポートなどを通して、互いがネットワークを築く機会を創出している。発足当初は女性のみの組織だったが、2010年以降、男性も会員になることができるようになった。

今回の登壇者は3名だ。FaBを率いるオディール・ルジョル氏は、シャネル、イヴ・サンローラン、ロレアルグループのランコムCEOと美容業界に20年以上のキャリアをもつ。その後、フランス大手通信会社オランジュで顧客・データ戦略ディレクターとして約7年の経験を重ね、2017年にシリコンバレーでFaBを発足した。現在、世界15都市に、3,000人以上の起業家のネットワークをもつ。2018年には美容&ファッションのD2Cビジネスに投資・支援するFab Co-Creation Studio を立ち上げ、さらなるエコシステムの充実化を目指す。

イザベル・ラビエ(Isabelle Rabier)氏は、FaB Parisのオーガーナイザーの1人でもあり、AIを使った独自のマッチングシステムと美のスタイリストが一人ひとりに合った化粧品を見つけだすパーソナル・ショッピングサービス「Jolimoi」の共同創業者だ。

Jolimoiはネット上のコンサルティングだけでなく、実際に美のスタイリストが顧客と会い、30ブランド以上のラインナップから最適な商品を見つけるB2C2Cで、そこから得られる膨大な顧客データが同社の強みだ。現在350名のスタイリストを、2020年末までに1,500人まで増やす計画で、2017年には業界でもまだ少ない女性CTOを起用し、注目を集めた。

2019年9月に行われた美のスタイリスト
とのミートアップの様子

キャロル・ジュッジュ(Carole Juge)氏は、製造工程の徹底した透明性と優れた機能性で、業界に新風を巻き起こしたベビーケア製品「Joone」の共同創業者だ。

②Jooneの透明性の図

同社のウェブサイトでは
価格設定のプロセスを公開している
(出典:Jooneの公式サイトより)

メイド・イン・フランスでキュートなデザインにもこだわった製品を取りそろえ、オムツの販売数は月300万個を超える。シャンプー、ボディソープなどベビーケア製品に加え、ベビーウェア、妊婦用のボディオイルなどラインナップも拡充している。日本を含め14カ国に配送可能だ。

Jooneのオムツの一例

妊婦用のローズのマッサージ
オイルと保湿クリーム

ジュッジュ氏は、France Digitale Dayの主催者であるFrance Digitaleの2020年度のボードメンバーにも選出され、ビジネス系TV番組に出演するなどメディア露出も高い。また、ラビエ氏、ジュッジュ氏ともに、女性起業家の資金調達率アップを目指すSistaの活動にも積極的に参加している。

モデレーターを務めたCEW France ディレクターのロランス・ムーラン(Laurence Moulin)氏は、FaBが世界15都市にネットワークをもつことから、それぞれの都市の大企業とスタートアップのエコシステムの違いについて質問を切り出した。

③ロランス・ムーラン氏

CEW France ディレクターの
ロランス・ムーラン氏

社会・文化の違いがにじみ出る多様なエコシステム

まずは、シリコンバレーとフランスの違いについてだ。ルジョル氏によると、シリコンバレーはさまざまなエコシステムや文化がミックスされ、起業したばかりのスタートアップでも、オラクル、グーグル、フェイスブックなど大手企業の社員が気軽に面談の時間を作ってくれるという。

一方、フランスは大手企業とスタートアップの垣根はそれほど低くはないようだ。たとえば、毎年パリで行われる欧州最大級のテックイベントViva Technologyでは、大手企業のブース(枠組み)の中で複数のスタートアップが紹介される形式であることから、ルジョル氏は「対等な関係ではない」と感じたという。

シリコンバレーでは、大手企業や投資家たちはスタートアップたちを「未来のアマゾンCEO」と表現し、ニッチで小さい存在のようには扱わないと語った。

④登壇者4名のトーク様子

和やかな雰囲気で、
ざっくばらんに語る登壇者

ラビエ氏は、ルジョル氏が開催した第5回のFaB SF(サンフランシスコ)のトークセッションに登壇したが、その後の起業家たちとの食事会では、ブラジル、中国、韓国、インドなど12カ国の女性起業家とテーブルを囲み、サンフランシスコのインターナショナルな環境とそこで活躍する彼らの野望、ビジネススケールの大きさに圧倒されたという。

ジュッジュ氏は、米国でMBAの取得中に、シリコンバレーにある大手ソフトウエア会社であるSAPを起業家として訪れる機会に恵まれた。その際、彼女がSAPの社員に「なぜスタートアップに会いたいのか」と尋ねたところ、「現在のNYダウの企業は50年後には存在しない。君たちのようなスタートアップにとって代わる」と発言したことに驚いた。当時、フランスでそのようなことを言う人はいなかったからだ。

また、フランス人は理論家でアクションまで時間がかかるのに対し、米国人は実践的で先の未来を見据えて行動する国民性の違いを指摘し、「米国は文化的、社会的な貴族意識や障害がなく、前に進むのみ」と印象を述べ、そんな環境に自由を感じるようになったという。

ビューティテックのスタートアップの傾向とは

また、ルジョル氏によると、サンフランシスコにおけるビューティテックのトレンドは「Self expression(自己表現)」で、LAで出会うスタートアップは、企業の価値やコミットメント(サステナビリティ、循環社会、クリーンビューティなど)を誠実に表現するという。また、LAではウエルネスがすでに美容の一部となっており、まずは目指すターゲットのコミュニティをつくり、ニーズを吸い上げ、そのデータを活用して顧客にダイレクトにコンタクトしていると話す。

こういったエコシステムや文化の違いから、シリコンバレーでFaBを立ち上げたルジョル氏だが、数ヶ月前にLAに引っ越したという。

都市ごとに異なるエコシステムの違い

ルジョル氏によれば、美容市場そのものについても、米国それぞれの都市で特徴があるといい、たとえばNYは、パリやロンドンに似て、リュクスなブランドや製品も多く、メディアも含めさまざまなマーケティング手法で顧客にアプローチをしている。

サンフランシスコではD2C商品をリアル店舗で紹介する新コンセプトショップRe:storeなどリアルな場を重要視するスタートアップも登場しているが、やはり土地柄からテック系企業が多く、一方、LAはライフスタイルやサステナビリティを大切にしたモードやビューティ系のスタートアップが数多く存在する。

西海岸と東海岸のスタートアップの方向性の違いをあげるならば、西海岸の2都市では、まず小さくてもコミュニティを作り、データを入念に集める傾向があるという。その後1〜2年、時間をかけてからビジネスをスタートすることも少なくなく、まず製品ありきで、マーケティング重視のNYとはマインドセットが異なる点を指摘した。

アジアに関しては、まだそれほど詳しくないと打ち明けたうえで、FaB上海が発足した中国では、さまざまなアプリケーションがWeChatなどのソーシャルツールやビジネスに組み込まれており、欧米企業によるミレニアル世代へのアプローチも目覚ましいスピードで進んでいると強調した。また、商業施設でも持続可能な社会を訴えるポスターが貼ってあるなど、環境意識の高まりが感じられたという。

ちなみにルジョル氏は、調査会社のLuxurynsightとメディア FashionNetworkのコラボメディアによるインタビューで、「将来、中国から高品質で透明性の高いクリーンなグローバルブランドも誕生するだろう」と語っており、今回のトークでも「透明性とサステナビリティは、もはやグローバルスタンダードである」と参加者に訴えかけた。

また、シンガポールやインドネシアでは、すでに欧州と同様のプラットフォーム、ビジネスモデルが存在しており、テクノロジーも含め、想像を超えた発展を遂げているというのが正直な感想だと述べた。

ブラジルを含むラテンアメリカでは、有望なスタートアップも多いが投資環境がまだ熟していないため、マイアミで投資に関するプラットフォームを作る計画が進んでいるという。アフリカ系のマーケットに関しては、2019年11月に開催されたFaB Africaに登壇したスタートアップの例をあげながら、欧州のアフリカ系、そしてアフリカ出身の起業家が米国市場で活躍するチャンスがあるとの見解を示した。

⑤会員たち

真剣に耳を傾ける
CEW Franceの会員たち

ベルリンではフェムテックが熱い

また、欧州に関しては、ベルリンが興味深いという。ベルリンのスタートアップは自国にとどまることなくグローバルに活躍し、徹底的な透明性の追求、環境意識の高さが際立ち、クリーンビューティ系の製品も多い。

さらに、特筆すべきはフェムテックが進んでおり、生理のトラブルやセックス時の潤滑ゼリーなど、人前で話しづらいとされてきた内容でも抵抗なく話すオープンなマインドに驚き、今後の動きにも注目しているという。

ロンドンは、サステナブルファッション(循環型社会、セカンドハンド)をはじめとし、美容分野でもマーケットプレイスやプラットフォームなどさまざまなスタートアップが登場し、ブロックチェーンなどテック関連ビジネスも盛り上がっている。

また、ロンドンではベンチャー・キャピタルが、モデストファッション(ヒジャブに代表される露出を控えたファッション)が盛り上がる中東市場への投資も活発に行っているという。スペインも同様の傾向のようだが、ルジョル氏は「欧州は市場としては小さく、初期の段階からグローバルを見据えて活動すべきだ」と会場にいるフランス人スタートアッパーらにアドバイスをした。また、半年に5〜6回ほど無料で助言をくれるメンターを持つ大切さも強調した。

仏アプリが浮き彫りにした透明性を伝える難しさ

今回の参加者は、美容業界関係者のほか、有名女性誌エディター、ビジネススクール教授、マーチャンダイジングの専門家など、さまざまな職種の会員も参加していた。トークセッション前に、グラスを片手に情報交換も活発に行われ、場が温まっていた。

⑩講演前の交流

終了後の質問タイムには、透明性をめぐって、フランスで普及している食品や化粧品の成分リスクを確認するアプリケーションYukaの話で持ちきりとなった。

⑥CEW Franceの男性会員

透明性のあり方に関して問題提起する
CEW Franceの男性会員

Yukaとは、2017年に仏スタートアップがリリースしたアプリで、スマートフォンで食品や化粧品のバーコードをスキャンするとその成分を瞬時に読み取り、リスクの高さを「Bad」「Poor」「Good」「Excellent」の4段階で評価するものだ。評価の悪い商品には、リスクの低い代替え商品が紹介される。対象商品は80万点、すでに1,200万人以上がダウンロードしている。

Yuka利用者の94%は評価の低い商品の購買を控えるという統計もあり、消費者へのインパクトが強い状況から、一部のメーカーはレシピやフォーミュラの見直しを余儀なくされている。

⑦Yuka評価1

Yukaの評価の例
成分が表示され、それぞれ
リスク度合いが示される
(出典:Yuka アプリより)

⑧Yukaの評価2

評価の悪い商品には、
リスクの低い代替え商品が紹介される
(出典:Yukaアプリより)

化粧品業界では、ロクシタンが「シア リッチボディローション」からフェノキシエタノール(防腐剤)、ジメチルポリシロキサン(シリコン)などを取り除くと発表し、男性用化粧品Horaceは、すべての商品でフェノキシエタノールの使用をやめた。

YUKAは100%独立系の団体で、いかなるブランドや産業の影響も受けていないと公表しているが、ルジョル氏は「評価は正確とはいえないところもあり、消費者がパニックに陥る可能性さえある。慎重になるべきだ」と警鐘を鳴らし、会場に集まった美容関係者から拍手があがった。

ジュッジュ氏は消費者が専門的な成分の危険性を自分で判断するのは難しい状況と、彼女自身が大企業の透明性の低さに疑問をもち起業した経緯から、「起業家が透明性を徹底し、コミュニティに価値を伝え続け、教育していかなければいけない」と強調した。

⑨熱心に語るジュッジュ氏

透明性の重要さを
熱心に語るジュッジュ氏

Yukaはすでにベルギー、スイス、リュクサンブール、スペイン、英国でもサービスを開始しており、年末には米国やカナダにも進出予定だ。消費者だけでなく、業界にも大きな影響を与えることから、透明性をめぐって、さまざまな議論が巻き起こることが予想される。

CEW Franceのこうしたセッションでは、大手企業のエグゼクティブが新しいトレンドを学び、起業家や当事者を招いて賛成も反対も含めた活発な議論を行うことに意義がある。その試み自体がまた新しいエコシステムをつくりだすきっかけになるだろう。

Text: 谷 素子(Motoko Tani)


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