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韓国医療機器メーカー「InBody」と「LAMEDITECH」がウエルネスと美容の融合でグローバル市場へ

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韓国のウエルネス・医療機器メーカーが、蓄積した技術や知見を生かし、ウエルネス、美容分野でも積極的にグローバル市場への進出を開拓している。今回は、国内外で高い評価を得る高精度体成分分析機メーカーのInBodyと、レーザー技術を用いた採血機や美顔器を展開する医療機器メーカーLAMEDITECHの2社を紹介する。


「体成分」分析でBMIに代わる精緻な体重評価を可能とするInBody

1996年に設立された医療&ヘルスケア機器メーカーのInBody(設立当時の社名はBiospace)は、高精度な体成分分析機をグローバル市場向けに製造・販売している医療&ヘルスケア機器メーカーだ。法人向け/一般向け体成分分析機のほかにも、体水分測定器、血圧計、体重計、身長計、各種ヘルスケアソリューションを提供している。

メディカル、フィットネス、リハビリ用体成分分析機(左)とコンパクトな一般向け体成分分析機(右)
出典:InBody公式サイト

InBodyが表現する「体成分」とは、水分、タンパク質、ミネラル、体脂肪など、人体の構成要素であり、栄養・健康状態と深く関連した各種成分を指す。これらを継続して計測することで健康的な美につながるとして、韓国ではこれらの分析機が美容アイテムとしての認知も高い。

InBodyの説明によれば、下記に示すように、体成分を分析する方法として一般的にいくつかの方法があるものの、そのどれもがコストや精度のばらつき、測定対象者の身体的・精神的負担などの課題を抱えているとする。

  • DEXA法
    2種類の異なる放射線を照射し透過前後のエネルギー量減衰率から、体重を筋肉量、体脂肪量、骨ミネラル量に区分して測定する

  • 空気置換法
    密閉された個室カプセル内に入り、空気の圧力変化を測定して、人体の体積と身体密度を測定する

  • MRI
    人体の断面をスキャンして得られた断層画像から、骨格筋量や脂肪組織などの各組織の量的評価・質的評価をする

  • キャリパー法
    キャリパーと呼ばれる機器を用いて、皮下脂肪の厚さを実測する

こうした既存の測定法の課題を解決すべくInBodyが開発した体成分分析機は、端末とプログラム、ユーザー向けアプリが一式になったソリューションだ。ハンドルと足場から身体に微細な電流を流し、その際に現れる電気抵抗値の変化を測定して体成分の比重を分析する。たとえば、70%が水分で構成された筋肉は電気抵抗値が低く電流がよく流れるが、水分の少ない脂肪は電気抵抗値が高く電流が流れにくい。このように電気抵抗値の変化を基準にして、水分、タンパク質、脂肪、無機物など対象となる体成分を複雑なプロセスを必要とせずに測定し、従来の測定方法が抱えている課題を解決するとしている。

またInBodyは、自社で独自開発した「DSM-BIA法」(部位別直接多周波数インピーダンス測定法)を体重評価の指標として用いている。体重変化については、BMI(Body Mass Index)という指標が広く活用されているが、InBodyはBMIが身長と体重のみで算出されるため、体重が変化した際に筋肉が増えたのか体脂肪が増えたのかを判断することができないとして、不十分な指標であると指摘している。DSM-BIA法は「筋肉量や体脂肪量等の体重を構成する成分をそれぞれ分けて算出する」とともに、BMIと体脂肪率を組み合わせた手法であるため、より正しく体型・体重を評価できるとする。

InBodyはこのような分析機器に加えて、ユーザーが分析情報を一覧できる専用アプリも提供。あわせて、データを活用した新たなソリューション開発にも注力している。

InBodyの体成分分析アプリ
出典:App Store

直近で公開されたものとしては、パーソナルトレーナーのためのヘルスケアソリューション「LB Trainer」がある。世界1億人以上の体成分データおよび1,800万人以上の体重・体型変化トラッキングデータを活用し、体成分の変化予測、姿勢測定評価、健康管理に適した食品検索などの機能を提供する。

そのほかにも、分析内容、運動、献立、栄養サプリメントのガイドラインなどの提供を通じて、ユーザーが自身で健康・美容状態を管理できる「InBody Touch」や、企業用の健康管理・運動ガイドソリューション「LB Corporate」などのソリューションを相次いでローンチしている

InBody製品は、前述のように韓国国内では健康アイテムとしてだけでなく、美容アイテムとしても広く認知されている。YouTubeやSNS上には、インフルエンサーらが同社製品を使って体成分のバランス=“インナービューティ度”を分析したり、アプリに表示される評価点数の向上を目指しエクササイズやサプリを試す美容企画コンテンツが数多く投稿されている。業界や産業の境界が曖昧になっている昨今、InBodyが蓄積したデータを活用し、健康な肌や美しい身体づくりなどのソリューションをさらに増やし、ビューティ領域での存在感を強めていく可能性も感じられる。

InBodyの売上は2021年1,378億ウォン(約151億円)、2022年1,600億ウォン(約176億円)、2023年1,704億ウォン(約187億円)と右肩上がりに推移。その売上の78%を米国、日本、中国、オランダ、マレーシア、インド、メキシコなどの海外市場が占めている。2023年には米フィラデルフィア、オーストラリア、シンガポールに現地法人を設立し、2024年4月現在、海外現地法人数は合計12社となっている。また、2024年内にはベトナムにも法人を設立する計画だという。韓国証券会社やメディアは、グローバル市場への進出を加速させている同社が、2024年に年間売上2,000億ウォン(約220億円)を突破すると予測している

レーザー採血機メーカーは「PURAXEL」ブランドで美容機器市場に参入

2012年設立でレーザー採血機で知られるLAMEDITECHも、近年ビューティ市場に進出した韓国医療機器メーカーだ。

同社の主力商品は、針を使わずに抹消血液を採取できるレーザー採血機だ。LAMEDITECHの解説によれば、「レーザーには高い水分吸収性があり、皮膚に接触した際に高エネルギーが発生する」として、同社のレーザー採血機「HandyRay」シリーズは、発生したエネルギーで短時間(1万秒分の1以下)で皮膚を蒸発させることで生じた穿孔から採血を行う。痛みが少なく簡単に採血でき、殺菌効果を同時に得られるのが特徴だ。また個人利用の回数あたりのコスト的負担も、既存の採血機と比較して低く抑えることができるとする。糖尿病患者などが採血をする際に活用する用途が見込まれている

レーザー採血機「HandyRay」シリーズ
出典:MEDI:GATE NEWS

HandyRayは、レーザー採血機としては、米FDAにあたる韓国政府機関の食品医薬品安全処の認可を唯一取得しているといい、FDAの認可やCEマーク(EUの基準に適合していることを表示するマーク)も取得するなど、グローバル市場においても安全性や効果が認められている。

LAMEDITECHは採血機のほかにも、レーザー技術を活用した機器を販売している。そのうちのひとつが、自社美容ブランド「PURAXEL」の美容機器だ。PURAXELが展開する商品には、一般ユーザー用のレーザー美顔器「PURAXEL・ME」と、エステティックサロンなど法人向け美容機器「PURAXEL」「PURAXEL・MX」「PURAXEL-HAIR」などがある。

コンシューマー用レーザー美顔器「PURAXEL・ME」
出典:PURAXEL公式サイト

PURAXELシリーズは皮膚再生レーザーを使って皮膚の表皮層に均一なマイクロホール(機器によって一度に約1,000~6,000個)を生成し、肌の自己細胞改善能力を向上させる機能を有している。またホールを生成することにより、化粧品などに含まれる有効成分の吸収率をアップさせ、肌トラブルの改善をサポートするとうたう。

浸透率を高める超音波モード、微細な電流を流してマイクロホールからより成分浸透を促すガルバニックモードなど、複数のモードが搭載されているのも同シリーズの特徴だ。各製品の詳細をみると、コンシューマー用、法人用ともにほぼ同様の技術が備わっており、PURAXEL-HAIRは脱毛予防など頭皮ケアが用途となっている。

PURAXELシリーズは韓国国内だけでなく、香港、タイ、マレーシア、シンガポールなどに輸出されており、今後は米国や欧州などへの進出も視野に入っていくと予想されている。LAMEDITECHを起業したチェ・ジョンソク(최종석)氏は、もともとサムスンの半導体製造装置子会社SEMESの機械設計エンジニアだった。結婚後、ライフワークバランスの観点からサムスン総合技術院医療機器事業部に転職し、同社で医療機器用の半導体開発に携わる。同時にレーザーを利用して、虫歯などの治療の一環として歯の傷んだ部分を掻き出す製品や、脂肪をレーザーで溶かし汗や尿として排出させる製品の開発に従事したという。

韓国メディアに起業のきっかけを問われたチェ氏は、「甥の存在が決定的だった」と回想している。

「私の甥は生まれたときから糖尿病を患っていたため、糖の数値を確認するために1日に5、6回採血しなければならなかった。痛みはもちろん、手や腕のあちこちにできた“たこ”のような針跡を隠すため、夏でも長袖のシャツにこだわっていて、それを不憫に思った。私はそれまで開発してきたレーザー機器を少しだけ改良すれば、痛みがなく、傷も小さくて済む採血機器がつくれると考えた」(チェ氏)

出典:朝鮮日報

チェ氏らがレーザー採血機の開発を進めていた当時は、食品医薬品安全処には関連製品に関する規定もまだ存在していなかった。それでも製品化を成し遂げるという一心で、大学病院と協力して臨床試験や論文作成を継続。起業から約5年後の2017年にHandyRayのリリースにこぎつけている。

新分野のR&Dのハードルを乗り越えたLAMEDITECHは、30以上の特許を保有する有望な医療機器スタートアップに成長。2022年の売上は20億ウォン(約2億2,000万円)を超え、2023年には米CESのイノベーションアワードを受賞した

LAMEDITECHは現在、2024年上半期を目標にIPOの準備を進めている。コスダックの技術特例上場適用のための技術信用評価では、「技術完成度」「競争優位性」「技術開発環境およびインフラ」「製品・サービス事業化水準」のすべての項目で最高のA等級を獲得している。

2024年2月末には、スキンケアのみならず美顔器で有名な韓国美容企業APRが上場を果たし、時価総額が約2兆4,000億ウォン(約2,640億円)に達したとして国内外から大きな注目を浴びた。医療とビューティの2領域で製品展開するLAMEDITECHが、次のユニコーンとして、その流れに続くことができるかに関心と期待が集まっている。

Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image: InBody公式サイト

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