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アイスタイル「共通カウンセリング台帳」が目指すのは、業界変革と一貫した顧客体験

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ブランドごと、店舗ごとに分断されていた顧客台帳を共通にできないか。その考えと、プラットフォーマーだからこそできる役割として「共通カウンセリング台帳」をリリースし、自社の@cosme STOREに導入したアイスタイル。将来的にはオンラインとオフラインの顧客体験と美容部員の活動を、データ含めシームレスにつなぎこみ、@cosme STORE以外の他流通・ブランド向けにも展開を目論んでいる。その構想の全容を紹介する。

「共通カウンセリング台帳」とは

コスメ・美容の総合サイト「@cosme(アットコスメ)」の企画・運営をする株式会社アイスタイルは、1999年の創業当初より、消費者情報を活用する企業横断型の新しいインフラの実現を目指してきた。

同社が2020年1月にリリースしたのが、化粧品のシームレスな購買体験を提供する基盤となる「共通カウンセリング台帳」だ。現在は、アイスタイルが運営するコスメセレクトショップ「@cosme TOKYO」及び「@cosme STORE ニュウマン横浜店」で先行導入されており、同年12月には全国の@cosme STOREに広げていく予定だという。

 TOKYO外観

東京・原宿の旗艦店
@cosme TOKYO

「共通カウンセリング台帳」とは、これまでブランドごと・店舗ごとにしかなかった顧客台帳を、ブランド横断・店舗横断で共通管理することを目的としたシステムだ。

デジタル化が遅れていると言われる化粧品業界において、「共通カウンセリング台帳」はどのような価値をもたらすのだろうか。株式会社アイスタイル リテールテックタスクフォース タスクフォース長 兼 株式会社コスメネクスト Flagship store事業部 部長 坂井 亮介氏に話を聞くとともに、先行導入している2店舗から見えてきた実績を紹介する。

化粧品業界の顧客情報をつなげる狙い

アイスタイルの歴史をさかのぼると、1999年にコスメ・化粧品・美容の総合情報サイト「@cosme」をオープンし、2002年にはECサイト「cosme.com(現:@cosme SHOPPING)」をオープン。その後、2007年にはルミネエスト新宿に「@cosme STORE(アットコスメストア)」第1号店をオープンし、現在は国内外30店舗以上に広がっている。

こうしてオンライン・オフラインともに顧客との接点を広げてきた同社だが、「それぞれの顧客情報がつながっていない」という業界の課題感を長らく抱えていた。とくにリアルでの動きは追いにくい。

そこで約2年前に「共通カウンセリング台帳」プロジェクトの構想がスタート。アットコスメの旗艦店となる「@cosme TOKYO」のオープンが決まったことを受け、2019年5月から本格的に始動した。

ここでユニークなのが、情報サイト、EC、店舗と自社が保有する顧客IDの統合によるオムニチャネル化を図るだけでなく、化粧品業界全体のデータを共通利用できる基盤を構築するという壮大な構想を掲げたことである。

台帳の流れとやれること

アイスタイルが「共通カウンセリング台帳」の実現に踏み切った背景には、次の3つの狙いがあった。

①店舗体験の質の向上

化粧品市場全体のEC化率は2019年時点でもいまだ6%であり、過去5年の上昇率は2%にも満たない。この数字は、化粧品の購入において、“いかに店頭での体験が重要であるか”を物語っている。

「化粧品を購入する際には、店舗での体験が重要だと考えている。データをもとに、店舗体験の質を上げることで、『選ばれる店』『選ばれるサービス』を生み出していくことが、化粧品業界全体を良くしていけると信じている」(坂井氏)

②オフラインにおける購買前の情報探索行動の見える化

これは化粧品業界に限った話ではないが、店頭ではPOSで「商品が売れた」ことしかわからず、「なぜ売れたのか」を知る由もない。オンラインでは当たり前に見えている購買前の情報探索行動が、オフラインになるとまったく見えなくなるのだ。

「オンラインの広告で接触した人が初めて来店し、サンプルを渡した10日後に、ECで購入された」とわかったら、どうだろうか。オンライン・オフラインを縦断して、購買意思決定プロセスを可視化することで、顧客理解が深まることは明白だ。

顧客一人ひとりの行動データは、商品開発や店舗体験の質の向上、購買を促すCRMなど、あらゆる活動に生かすことができる。

③分断された顧客データの活用

化粧品業界では、アナログな紙管理をしているブランドも多く、カウンセリングデータを生かしたマーケティングができている企業は、大手のごく一部に過ぎない。

実際、化粧品売り場において、「ブランドごとに何度も個人情報を書かされる」「異なる店舗に行くと過去の購買履歴が共有されておらず、一からカウンセリングを受け直さなければならない」など、データが共有されていないことによる不便さを感じている消費者も少なくない。

このように、店舗やブランドを横断したデータの共同利用は、企業と消費者の双方に、大きなメリットをもたらす。当初、この構想を打ち明けた際、各メーカーは難色を示したというが、「データの共同利用で得られるメリットの大きさは、隠すことによって得られるメリットをはるかに上回るはずだ」と坂井氏は説いて回った。

アイスタイルは、化粧品業界のDXを進めるべく、業界全体のより良い未来を目指して、立ち上がったのだ。

現場の美容部員の動きは、どう変わるのか

では、具体的に「共通カウンセリング台帳」によって、化粧品売り場の現場はどのように変わるのだろうか。

まず、「共通カウンセリング台帳」を利用する、各メーカーから派遣された美容部員一人ひとりに、「BeautyID(以下、BID)」と呼ばれるIDが付与される。現在、@cosme STOREでは、@cosmeのほか、アルビオン、カネボウ、コーセー、資生堂、ヴェルジェ、ハリウッド、ポーラの美容部員にBIDが付与されている。

美容部員は@cosme STOREから配布されたiPadを使い、カウンセリングした顧客の個人情報や肌の悩み、肌情報などの「顧客情報」や、提案した商品や購入した商品、お渡ししたサンプルなど「カウンセリング活動の記録」を残す。その際、顧客の過去のカウンセリング履歴や購買履歴を参考にしながら、接客を行うことが可能だ。

「共通カウンセリング台帳」には、@cosmeで培われたメソッドに基づく「ヒアリング情報」があらかじめ登録されており、その項目に従って必要事項を入力できるほか、「顔メモ」機能を使って、顧客の悩みや肌状態を手書きで書き込むこともできる。カウンセリングで使用される肌測定機器はメーカーごとに異なるため、水分量・油分量など、一般的な数値を入力して保存できる仕組みとなっている。

iPadイメージ

これらのデータは、「共通カウンセリング台帳」を利用するブランドは、他ブランドのデータも含め、すべて横断的に見ることが可能だ。すべてのデータは@cosmeの商品IDに紐づいているだけでなく、@cosmeアプリとも連携している。また、POSとも連携しているため、カウンセリング後に、実際、どの商品が購入されたのかも一目瞭然だ。

「今はまだ@cosme SHOPPING(EC)の購入履歴とは連携していないが、いずれこちらも反映させていくつもりだ」と坂井氏は話す。

ひとつ懸念が残るのが、各社が保有する従来の顧客管理の仕組みはどうなるのか、ということである。仮に、従来の顧客台帳と「共通カウンセリング台帳」の両方に記帳する必要が生じれば、美容部員の作業負担が2倍になってしまうからだ。

この点に関して、坂井氏は、「『共通カウンセリング台帳』で十分な顧客管理が可能であることが証明されたため、各社から導入している従来の顧客管理台帳は原則利用しない方針だ。

セキュリティに対しても対策は万全だ。@cosme STOREの店舗から離れて、Wi-Fiのエリア外からアクセスした場合、「共通カウンセリング台帳」のアプリケーションが一切開かないような設計となっている。

データによって浮かび上がった顧客心理

「共通カウンセリング台帳」は、「@cosme TOKYO」と「@cosme STORE ニュウマン横浜店」においての先行導入が始まっている。(「@cosme TOKYO」は2020年1月10日から、「@cosme STORE ニュウマン横浜店」は2020年6月24日から、それぞれスタート)この約半年間で、どんなことが見えてきたのだろうか。「共通カウンセリング台帳」で取得された接客状況のデータをもとに、坂井氏はいくつかの例を示した。

まず、@cosmeのスタッフに絞ってみると、顧客に提案している商品は、制度品系ブランドだけではなく、外資系ブランドの高価格帯商品が多いことがわかった。これは「高級な化粧品ほど、美容部員に相談して特別な提案を受けたいというニーズがあるものの、カウンターがある店舗や百貨店などでは躊躇してしまう層に対する接客数が多くなっているからではないか」と坂井氏は見ている。

 TOKYO接客

また、ブランドごとに月別の提案回数を見てみると、たとえばポール&ジョーボーテは6月が164回、7月は186回と、さほど大きな差はないが、メイクアップフォーエバーは6月の70回から7月の465回へと大きく跳ねていることがわかった。

これは、@cosme STORE及び「@cosme TOKYO」では、多数のブランドの商品を有するため、季節などに応じて案内を強化する商品を決めており、7月はメイクアップフォーエバーの強化月間であったことに起因しているという。

そこでメイクアップフォーエバーの活動量を643%(約6倍)に増やしたところ、店舗での売上は222%(約2倍)に増加した。このことから、「人の活動を強めると、売上が増加することが証明された。いかに接客が重要であるかを示している」と坂井氏は語る。

こうした定量的な効果だけでなく、定性的な効果も得られている。美容部員から「タッチアップの内容やサンプルの内容を記入する時間が短くなった」「会員様の台帳を探す時間や取りに行く時間が短縮されて、接客にすぐ入れる」といった喜びの声があがったのだ。

「iPadを持ち歩けるので美容部員はカウンターに縛られる必要がなくなり、紙の顧客台帳を管理する手間も不要になった。これらによって作業効率が30〜40%改善できたと話すメーカーもあった」(坂井氏)

ほかにもわかったことがある。ブランド専属の美容部員については、接客した顧客1人当たり平均3.37個の商品を提案しており、そのうち販売につながっているのは平均1.6個だ。一方で、ブランドを横断している@cosmeスタッフのスペシャリストは、平均すると2.5個の商品を売り上げていたことがわかった。こうしたデータから、「接客の質が売上に反映されるのはもちろんのことだが、ブランドを横断して提案することで、顧客の信頼と売上につながっているのではないか」と坂井氏は分析する。

まだ少ないケースだが、「@cosme TOKYO」で接客を受けて、サンプルを受け取った顧客が、後日「@cosme STORE ニュウマン横浜店」でその商品を購入したという例も見られたという。このような顧客の動きは、「共通カウンセリング台帳」なしにしては、間違いなく知り得なかったものだ。

データドリブンな世界を目指すアイスタイルの取り組み

「共通カウンセリング台帳」プロジェクトは、道半ばだ。まずは、今年の12月に「共通カウンセリング台帳」の@cosme STORE全店舗展開が控えている。

また、顧客体験の観点から見ると、「@cosmeアプリ」内で、店舗で受けたカウンセリング履歴を見られるようにする、どの店を訪れても過去の購買履歴などに基づくレコメンドやクーポンをリアルタイムに受け取れるなど、顧客側の利便性を高めるためのデータ活用の余地は、多分に残されている。

差替え台帳

さらに、接客状況のデータによって、美容部員の価値を正しく評価できるようになることで、各メーカーの美容部員の育成やキャリアアップの支援につながる可能性も秘めている。

いずれにせよ、「共通カウンセリング台帳」によって、オンライン・オフラインを問わず、一貫した顧客体験を提供できる基盤は整った。オンラインだけでなくオフラインのデータも手にしたことで、アイスタイルのプラットフォーマーとしての価値が高まったとも言えるだろう。

はたして「共通カウンセリング台帳」は、化粧品業界のデファクトスタンダードとなり、データドリブンな世界へと導いていけるのだろうか。アイスタイルの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

Text: 野本纏花(Madoka Nomoto)

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