
P&G、資生堂、LVMH、2022年下半期デジタル施策総まとめ
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2022年下半期の化粧品グローバル売上トップ5社と日本でなじみのあるLVMH(グローバル売上第8位)のデジタル施策と事業開発をまとめた。後編では、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、資生堂、LVMHについて紹介する。
※ランキングは、BeautyPackaging のTOP20 GLOBAL BEAUTY COMPANIESより
2022年は、パンデミックに伴う中国のロックダウン、ウクライナ危機、米国の歴史的なインフレ、それに続くFRB(米連邦準備制度理事会)による利上げといった厳しい状況が続いた。前編ではグローバルトップ3位(ロレアル、ユニリーバ、エスティ ローダー)の企業動向を紹介したが、そういったなかでもロレアルは増収増益、ユニリーバは株価低迷に苦しみつつも事業再編と人員削減の実行、価格転嫁にも成功し復調した。一方でエスティ ローダーは中国市場への偏向が大きく苦戦を強いられた。
2022年下半期は、全体としては、ダウ平均株価指数は7.95%、S&P500指数は1.3%。ナスダック総合指数は-5.1%という結果だった。NYダウは、2022年前半は波乱の相場だったが、すでに株価が悪材料を織り込み済みだったことや、後半はインフレ率の鈍化傾向もあり、ダウ平均株価指数は年度後半に向け上がり基調だった。一方、S&P500も、IT企業が多く参加しているナスダック総合指数も、企業業績の利益予想下方修正が続き、下期は10月には年初来安値を更新するなど苦境が続いた。P&Gの2022年下半期株価平均上昇率が6.1%、資生堂は17.5%、LVMHは16.9%となり、今回紹介する3社についても、2022年グローバルで戦うすべての企業が直面する課題を同様に抱えているが、その結果は3社3様だった。
P&Gは原材料高騰のコスト増を吸収するために、他社と同様、商品の平均価格を継続的に引き上げてきたものの、2022年下半期では、インフレで消費者が支出に敏感になるなかでP&G製品の出荷量は減っていった。2022年7~9月期までは増収を維持していたが、2022年10~12月期には売上高は減少に転じた。こうした状況から、P&Gの消費者への価格転嫁は限界にきていると報じられた。
資生堂は2022年10月に入り、日本が海外からの渡航者の受け入れを実質的に全面解禁したことでインバウンド需要本格化への期待がふくらみ、株価は上昇した。しかし、今期ガイダンスは市場想定を下回り、2023年2月10日の決算発表以降、大幅に株価は下落した。2025年に向けた中期経営戦略を発表し、海外市場と比較して回復が遅れている日本市場への施策に触れているが、インバウンド需要の取り込み以外に、財布のひもがとくに固くなっている日本の消費者をどこまでハイエンド商品で取り込めるのかは、市場に明確に説明ができていないようにみえる。2023年1月には、グローバル戦略を推し進めていくために、約9年ぶりに社長が交代し、常務で中国地域を統括していた藤原憲太郎氏が社長に就任した。
一方、LVMHは、不透明な経済状況や地政学リスクのあるなか、2023年1月26日に発表した2022年決算は、増収増益で、売上高は対前年比23%増の792億ユーロ(約11兆4,578億円)、経常利益は対前年比23%増の211億ユーロ(約3兆525億円)を記録した。主力のルイ・ヴィトンの売上高が初めて200億ユーロ(約2兆8,934億円)を超えたことも話題となった。市場予想を上回る伸び率だったことで、株価の推移も堅調で、2023年1月に入ってからは過去最高値を更新し続けており、時価総額は4,000億ユーロ(約57兆8,680億円)を超えた。2023年も好調なパフォーマンスが予測されている。

出典:Yahoo! Finance
プロクター・アンド・ギャンブル(P&G) 成長のためのクリエイティビティとM&Aに依存しない戦略

2022年10月19日に発表された2023年度第1四半期決算(2022年7~9月)と2023年1月19日に発表された2023年度第2四半期決算(2022年10月~2022年12月)によると、2022年下半期の売上高は414億ドル(約5兆6,241億円)で、対前年同期比0.2%増だった。ビューティの売上高は、77億6,800万ドル(約1兆552億円)、純利益は19億2,200万ドル(約2,611億円)、グルーミングの売上高は32億6,800万ドル(約4,439億円)、純利益は、8億500万ドル(約1,093億円)という結果になった。
P&Gは原材料高騰のコスト増を吸収するために、商品の平均価格を継続的に引き上げてきたものの、2022年下期においてはインフレで消費者が支出に敏感になり、製品の出荷量が減少。2022年7~9月期までは増収を維持していたが、同年10~12月期の売上高は減少に転じた。
四半期の売上高が5年ぶりに減少したものの、自社ブランドへの継続的なマーケティング施策は行うとしている。たとえば、ベビーケア部門のメディア支出は50%削減したが、リーチは20%、第一想起(真っ先に思い浮かんだブランド)としての認知度は26%増加し、売上自体も10%成長したことをふまえて、メディアを活用したマーケティングの生産性向上を今後はほかの部門でも推進する可能性を示唆している。
カンヌ ライオンズでは、チーフブランドオフィサーのマーク・プリチャード(Marc Pritchard)氏が「成長のためのクリエイティビティ」を語ったが、それは、クリエイティビティが市場を拡大し、イノベーションを刺激して、その市場に新しい人びとを惹きつけることでより多くの購入とそのことによる市場活性化で富が生まれ経済的包括を促すという内容で、P&Gのこれまでのマーケティング手法もよく表したものとなっている。
子どもを持つ親を応援するクリエイティブで知られるパンパースだけでなく、ビューティ・グルーミング領域では、たとえば「Men Have Skin Too(男性だって肌がある)」キャンペーンで、黒人男性を起用し、男性も保湿ケアやフレグランスなどの恩恵にあずかりたいと思いながらも、そうした想いを共有するのは得意ではないことを語っている。
2022年上半期のP&Gの動きでも述べたが、D2C領域の買収を活発に行い、ポートフォリオの強化をはかってきたP&Gは、2022年1月にプレステージ・ビューティ領域で、スーパーフードを配合したスキンケアラインのTULA Skincare(トゥラ スキンケア)の買収後、2023年1月11日に”textured hair care”と呼ばれる黒人女性向けのヘアケアアイテムのD2CブランドMielle Organicsの買収を行っている。だが、2022年11月に開催されたインベスター・デーでは同社CEO ジョン・メラー(Jon Moeller)氏が、今後はM&Aに大きく依存しない戦略をとると語った。今後、P&Gの成長の大部分はオーガニック(既存のブランドポートフォリオ)から創出していくとしている。
P&Gのデジタル関連での主な動き
■ 2022年7月27日 カンヌ ライオンズでチーフブランドオフィサーのマーク・プリチャード氏が基調講演で「成長のためのクリエイティビティ」というメッセージを発信。クリエイティビティがどのように市場を拡大し、イノベーションを刺激して、市場に新しい人びとを惹きつけ、より多くの人びとがより高い収入、富の増加、より多くの購入を通じて経済的包摂を促進するかを語った
P&Gその他の動き
■ 2022年10月7日 「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2022』で女性従業員の活躍実感度ランキング、経営トップ実行力ランキングの2部門で1位を獲得
資生堂
復調の遅れが目立つ日本市場への投資で抜本的回復を目指す

2023年2月10日に発表した資生堂の2022年決算実績は、売上高実質対前年比1%増の1兆674億円、コア営業利益は4.8%の513億円で、対前年比20.6%となった。コストマネジメントの推進、構造改革、為替の影響で増益となった。Eコマース比率は33%で、その売上成長率は1%だった。中国のダブルイレブンで、ハイプレステージブランドの商品ラインが健闘し、全体でプラス成長となった。中国では他社同様にロックダウン等での厳しい市場環境で出荷減となったが、シェアは拡大し、2022年上半期に苦戦した中価格帯も徐々に回復してきている。欧米市場では好調で、アジアパシフィックはコロナからの回復基調にあり、円安に伴い為替もプラスに影響した。
中国・日本市場の回復が遅れ、資生堂に限らず、多くのスキンケアブランドが苦戦するなか、クレ・ド・ポー ボーテが6%増、NARSが22%増、フレグランスが12%増と成長した。日本国内は、低価格帯商品は成長しており、中価格帯は復調傾向にあると資生堂は発表している。

また、2023年2月10日に資生堂は中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」を発表した。まずWIN2023で達成したこととして、収益性を高める選択と集中で、不採算事業や非中核事業の売却や撤退をあげている。DXの加速、FOCUS(2019年11月から行っている同社の業務変革プロジェクトのひとつで、業務プロセスの標準化と統合基幹システムの構築や導入)推進、先端工場・物流体制の構築など、ここ数年掲げてきたことが実現できたとしている。課題としては、日本事業の回復の大きな後れ、中国市場の経済減速の見極めの難しさ、世界におけるインフレと原材料費の高騰、ウクライナなどの地政学リスクなどをあげた。
中期経営戦略SHIGT 2025 and Beyondでは、コア営業利益率15%目標に再チャレンジすることを掲げ、地域事業戦略は積極投資により継続的な安定成長を実現すると約束している。2023年から2025年は、ブランド強化のために1,000億円超を投資。イノベーション加速のために売上高比率3%をR&Dへ投資。2023年秋設立予定のShiseido Future University構想で人材育成への投資もあわせて発表した。さらに、「他に類を見ないユニークな価値」を提供することで、付加価値経営モデルの構築を目指す。
資生堂のデジタルでの主な動き
■ 2022年10月21日 顔の3次元形状を測定し、目周りの凹凸感や、頬からフェイスラインにかけての骨格感の特徴と全体のバランスから顔のタイプを判定する、顔分析機能を搭載したメイクアップWebコンテンツを「マキアージュ パーソナルビューティチェック」に新搭載。同機能は、自分に似合う“運命の”カラーやファンデーションのカラーだけではなく、各アイテムの塗布部分のガイドラインが画面上にリアルタイムで表示され、一人ひとりの顔立ちに合わせた部位ごとのメイクのHOW TOの提案を可能にし、デジタル上での接点が増えるなかでも、個々の生活者の魅力を引き出す体験をサポートするとうたう
資生堂の事業開発での主な動き
■ 2022年7月8日 オープンイノベーションプログラム「fibona(フィボナ)」は、JAXA主催「THINK SPACE LIFE アクセラレータプログラム2021」にて株式会社テックドクターを採択。「生活・体内リズムの可視化とリズムを整えることによる新たな美容ソリューション開発」の実現に向け、テックドクターと共同で技術・事業開発を進め、地上での新しい事業価値の創出とともに、宇宙における未来の暮らしへの応用を目指す
■ 2022年7月13日 fibonaは、新たな香り体験システムをS/PARKに設置
■ 2022年7月21日 fibonaは、Makuake第2弾「リトリートスティック」プロジェクトを開始。研究によって生まれたテクノロジーのβ版をよりスピード感を持って市場に導入することを目的とした「Speedy Trial」のプロジェクトの一環
■ 2022年8月1日 資生堂久喜工場と資生堂ベトナム工場において営むパーソナルケア製品の生産事業の譲渡を決定
■ 2022年8月5日 弘前大学 大学院 医学研究科に共同研究講座「ビューティウェルネス学研究講座」を開設
■ 2022年8月10日 資生堂中国の投資ファンドTrautecへリードインベスターとして出資、機能性スキンケアの新領域開拓の加速を推進
■ 2022年9月15日 fibonaは、中国で、メディカルビューティ、ホリスティックビューティ分野のスタートアップとピッチイベント開催
■ 2022年10月24日 資生堂ジャパン、大阪府と「大阪府民の健康づくりに向けた連携協定」を締結。化粧によるQOL向上を目指す活動で、がん治療の副作用による美容上の悩みや、外見上の変化(肌の色変化、眉・まつ毛の抜け毛など)をスキンケアやメイクアップによってカバーする「外見ケア」の普及・啓発に注力し、誰もが持つ「自分らしくありたい」という願いを美の力で支援し、大阪府民の健康的な生活の実現を図る
■ 2022年11月1日 NPO法人JHD&C、アデランスとともに医療用ウィッグ「wig+(ウィッグプラス)」を共同開発。社会貢献活動の一環として資生堂とアデランスがノウハウを無償提供する
■ 2022年11月25日 資生堂とDeNAライフサイエンスがデータ解析に関する包括連携協定を締結
資生堂その他の動き
■ 2022年7月4日 古くから多くの薬草が栽培されてきた滋賀県、岐阜県にまたがる伊吹山の自然保護活動を開始
■ 2022年7月6日 資生堂、積水化学、住友化学の3社協業によるプラスチック製化粧品容器の 新たな循環モデル構築に向けた取り組みを開始
■ 2022年7月8日 GPIFが採用するすべてのESG指数の構成銘柄に継続選定
■ 2022年7月20日 がんサバイバーのための取り組みのグローバル展開を開始。「LAVENDER RING MAKEUP PHOTOS WITH SMILES」は、がんサバイバーの自分らしいメイクと、そのいきいきとした姿を写真に収めて発信する取り組み。
■ 2022年9月16日 次世代を担うリーダーの人財開発施設として「Shiseido Future University」設立、2023年秋開校予定
■ 2022年9月16日 創業150周年に「OUR MISSION動画」を公開
■ 2022年9月21日 「自分らしい美しさ」を制限する無意識の思い込みや偏見への取り組みとして体験型Webサイトの開設、企業/団体向け「SEE, SAY, DO.」プログラムの提供を開始
SEE(知る)のステップでは、Unconscious Beauty Bias(UBB・無意識の美への偏見)」をなくすために、世の中に存在するUBBの実態を知ること目指し、リサ・ジェンキンス博士監修のもと、世界10カ国(オーストラリア、ブラジル、中国、フランス、ドイツ、イタリア、日本、タイ、アラブ首長国連邦、米国)でオンライン定性調査を実施し、5,000の体験談を収集。SAYのフェーズでは、人びとが抱える思い込みや偏見について語ったり、実際にUBBを感じた体験談などを通じて議論する。DOでは、これまでのSEEとSAYのフェーズで明らかになった「私たちを取り巻くUBB」をより多くの人と共有し、具体的なアクションを順次展開する
■ 2022年12月13日 「DJSI World」および「DJSI Asia Pacific」の構成銘柄に継続選定
■ 2022年12月14日 CDPの気候変動に関する調査において最高評価「Aリスト企業」に選定
■ 2022年12月22日 資生堂 掛川工場の取り組みが「2022年度省エネ大賞」の「資源エネルギー庁長官賞」を受賞
LVMH
不透明な経済環境下で、すべてのビジネスが記録的成長

LVMHが2023年1月26日に発表した2022年決算によると、売上高は対前年比23%増の792億ユーロ(約11兆4,578億円)、経常利益は対前年比23%増の211億ユーロ(約3兆525億円)を記録した。主力のルイ・ヴィトンの売上高が初めて200億ユーロ(約2兆8,934億円)を超えた。欧州、日本、米国での事業が大きく成長し、市場予想を上回る伸び率だったことで、株価の推移も堅調で、2023年1月に入ってからは過去最高値を更新し続けており、時価総額は4,000億ユーロ(約57兆8,680億円)を超えた。
フレグランス&ビューティの売上高は77億2,200万ユーロ(約1兆1,171億円)で対前年比17%増(実質ベースで10%増)。利益は6億6,000万ユーロ(約954億円)で対前年比3%減。利益が2桁成長でなかった唯一のセグメントとなった。これは、プレステージ領域において、ターゲット顧客を絞り込んだ販売方針を貫いた結果だとしている。ディオールは目覚ましいパフォーマンスでシェアを拡大。フレグランスでは、「ミス ディオール」と「ジャドール」が成長に貢献した。リアーナがプロデュースするFenty Beauty (フェンティビューティ)は、流通ネットワークの拡大により、収益が2倍になったと発表されている。
セレクティブ・リテーリング全体の収益は26%増で、店舗活動が回復したことで、セフォラは収益と利益の両方で記録的な業績を達成している。オンラインと店舗の双方で顧客の購買体験を継続的に改善するために、セフォラのオムニチャンネル戦略に投資が行われた。販売ネットワークは、米国のコールズとのパートナーシップにより、とりわけ拡大を続けた。一方でセフォラのロシア事業は売却された。
デジタル領域では、上半期と同様、さまざまな取り組みをしており、データ活用はもちろんのこと、Web3を活用したマーケティングを模索している様子がうかがえる。
LVMHのデジタルでの主な動き
■ 2022年11月9日 ラゲージブランドのリモワは、ナイキ傘下のRTFKTと協力してNFTプロジェクトをローンチ。物理的な職人技とデジタルの職人技の世界を融合させることで、メタバースに命を吹き込み、リモワ愛好家とWeb3コレクターの双方に新しい体験を提供
■ 2022年11月10日 メゾン ヘネシーはFriends With Benefits(FWB)とWeb3パートナーシップを開始し、未来のユニークな文化的ソーシャルクラブであるCafé 11を立ち上げ。こうしたイニシアチブに参加する最初の高級ブランドとなる
ちなみにFWBとは、2020年9月に始まった、クリエーターや思想家のためのDAO(自律分散型組織)で、デジタルとリアルの両方の世界で活動を行う組織だ。FWBに興味を持った人は、参加申請をし、申請が受け入れられたらFWBトークンを購入し、メンバーとなる。志を同じくするメンバーとプロジェクトを立ち上げたりすることが可能で、オンライン/リアルのイベントにも参加が可能
■ 2022年11月15日 LVMHデータサミット開催。LVMHグループは、データ活用をさらに推進するために多くの社内プロジェクトをローンチしており、2019年には機械学習モデルの精度を競い合うKaggleという世界最大のコンペティションプラットホームと提携、2021年にはGoogle Cloudとの戦略的パートナーシップを締結。VivaTech2022の期間中、LVMHはデータアカデミーを立ち上げ、900人を超える従業員が学び、2022年10月には社内コラボレーションメディアプラットホームを展開して、デジタル全般にわたる情報や取り組みを共有・推進している。今回のデータサミットは、11月14日にLVMH x Kaggle Days主催で、セフォラ、ルイ・ヴィトン、ディオール、セリーヌ、ブルガリを含むメゾンがサポートする、データ サイエンスの専門家によるミートアップとワークショップを開催し、11月15日~16日にはサミットを開催。小売、メディア、eコマース、サプライ チェーン、デジタル マーケティング、CRMなどを含む日々の活動でデータを活用しているメゾンの上級幹部とのディスカッションをする。
LVMHの事業開発での主な動き
■ 2022年8月25日 ステラ・マッカートニーとLVMHが提携し、LVMH Beauty部門の新しいメゾンとして「STELLA」をローンチすることを発表
2019年に始まったパートナーシップをビューティにも拡大し、ヴィーガンとクルエルティフリーの精神に根差した、自然由来の“コンシャス・ラグジュアリー”なスキンケアラインを発表した。
LVMHのその他の動き
■ 2022年7月29日 フランスの主要なLGBTI+ メディア têtuと提携して制作された4つのビデオシリーズ内で、Netflixの「クィア・アイ」のスター、アントニ・ポロウスキが、”Voice of Inclusion – PRIDE Conversation”でLVMHグループのメンバーとディスカッションをした
■ 2022年7月28日 Prix des ArtisanesでELLEと2年連続で提携
■ 2022年9月15日 フランス共和国大統領とフランス政府の要請を受け、エネルギー効率化計画を発表。冬場など電力需要のひっ迫に対処するため、LVMHグループは2022年10月の時点で、まずフランス、そしてグローバルで、グループ全体として電力消費を削減することを決定。2022年10月から2023年10月までの間に、グループのメゾン店舗は22時から翌朝7時まで、管理棟は21時までに消灯、すべての場所で室内温度を通常よりも冬季は-1度、夏は+1度の温度設定にすることで、エネルギー消費量を10%削減する
■ 2022年10月25日 LVMHのLIFE 360環境イニシアチブの一環として、エネルギー消費削減のため、中国で約100のモールを保有する香港Hang Lung Propertiesとの最初のパートナーシップに署名し、エネルギー効率のコラボレーションのための枠組みを構築
■ 2022年11月25日 ELLEとLVMHが第2回Prix des Artisanesの4人の受賞者を発表
■ 2022年12月9日 COP15で、生物多様性を促進する新しいイニシアチブを発表
■ 2022年12月12日 2017年より、社内プロジェクト「DARE」では、LVMHの従業員が自分のアイデアを実現し、具体的な事業に発展させる機会を提供。DAREというプロジェクト名には、破壊(Disrupt)、行動(Act)、冒険(Risk)をして、起業家(Entrepreneur)になる、という意味が込められている。LVMHメゾンのCEOや外部の起業家などのメンターのサポートを受けながら、DAREの参加者は、ビジネスモデルの改善、プロトタイプのテスト、最終的なピッチの準備に取り組む。優勝チームは、スタートアップの手法にのっとり、最高レベルの組織的支援を受けられる
■ 2022年12月13日 CDPからトリプルA評価を授与
全体まとめ
この数年の動きをみていると、パンデミックを経て、ロレアルとLVMHが圧倒的な強さでビューティの世界をリードしている。世界のラグジュアリーを求める層のニーズにこたえるために、ラグジュアリーブランドをポートフォリオに持ち、盤石な顧客基盤を築き上げ、そして、顧客とともに成長し続けている。
それを確実なものとしているのが、強い財務基盤であり、顧客の心をつかみ続ける製品開発力とあわせて、ESG(環境、社会、ガバナンス)の全ての要素をしっかりとその経営に根付かせることができる点にある。外部に向けたパフォーマンスではなく、環境問題、社会課題、企業統治の課題を自分ごと化できているかどうかは、こうした問題に敏感なグローバルのZ世代が冷静に評価しているポイントだ。
また、10年後にはグローバル市場で消費に影響力を持ち始めるα世代も見据えているのがユニリーバだ。音声検索やAIによるレコメンデーションが当たり前の世界で育ってきた子どもたちが、よりよい購買体験だけでなく、「倫理的」な面も強く求めてくる未来を予測し、今から倫理的・道徳的なマーケティングを実施していくことで、顧客との距離の取り方を企業内にデータとして蓄積していく姿勢がある。
同社では、13~16歳未満の子どもに対して、食育という観点で食品マーケティングのこれからのあり方や、デジタル世界でのマーケティングのあり方の理想を掲げ、それを具現化したプロジェクトを複数ローンチしている。ユニリーバ顧客だけでなく、インターネットの世界でより適正な顧客コミュニケーションのポリシーを進化させていくことで、ユニリーバ自身をブランド化していこうとする部分は、多くの企業にとって参考になるだろう。
Web3についてはLVMHの取組みが多くの示唆を含む。派手ではないが、自分たちのブランド価値を毀損せずにデジタルの知見をこつこつと社内にためて、いざというときに活用できるようにしている。
LVMHのこれまでの取り組みは、コロナ禍で一転してデジタルでの成長を支える役割を果たし、その有効性を証明したかたちだ。Web3は少なくとも、今後しばらくの間は、現在のインターネットとともに使われていくことが予想される。並存するのか、それとも移行するのかを見極めるにはもう少し時間がかかるだろう。もちろん、LVMHはそれも考慮にいれているはずだ。
さまざまな挑戦をしていくうえで不可欠なのが、それをサポートするための財源だ。企業として盤石な財務基盤を持つことで、地政学リスク、インフレリスクなどのリスク下でも、顧客の求めるものをしっかりと届け続け、そして、顧客が受けたいサービスレベルとチャネルを維持すること、つまり、国や地域のパンデミックの状況や顧客の好み、ライフステージなどの影響を受けつつも、オン/オフラインを行き来しやすくしながら、企業としての倫理観・道徳観も明確に提示し続けていくということだ。それは一朝一夕にできることではないが、これをやり抜きながら進化し続けた企業のみが、生き残っていくのだろう。
Text: 秋山ゆかり(Yukari Akiyama)
Top image: one AND only via Shutterstock