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コーセーのWEB-BC SYSTEM、運用3年で高速開発・少人数運用・顧客体験向上を同時に実現

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株式会社コーセーが、コロナというパンデミック下のDX施策としてスタートさせたカウンセリングプラットフォーム「WEB-BC SYSTEM」。3年でこのプラットフォームは大きく進化し、高速で新サービス(アプリ)をリリースできる体制を整えている。スピードと効率化で、各部署やブランドのDX、そして、顧客体験の向上に従事する同社 情報統括部 DX推進課 横山春佳氏に、その背景とこれからの展望を聞いた。


機能拡張と他ブランドへの横展開が進む「WEB-BC SYSTEM」

コーセーがカウンセリングプラットフォーム「WEB-BC SYSTEM」を稼働開始したのは2021年9月16日。同システムは、店舗でのリアルな接客が困難になったパンデミックに対応した新たなDX施策として運用が始まった。

この仕組みは、オンラインカウンセリングのためのツールとして機能するだけではない。社内の各ブランドや部署を横断するプラットフォームであり、構成要素は「共通業務アプリ」「個別カウンセリングアプリ/プロモーションアプリ」「インフラ共通フレームワーク」の3つである。端的にいえば、このプラットフォーム上の共通のフレームワークを活用することで、ブランドは独自の体験を実現するサービスをスピーディに構築できる。しかも、後述するが、このプラットフォーム自体の運用・保守を担うのは、リーダーと主要メンバーが20代の3名という少人数チームだ。

このWEB-BC SYSTEMが、立ち上がって3年ほどでこのような進化をとげた理由は、このプラットフォームの思想・設計と運用ポリシーに加え、社内との「協業」スタイルにあるといっていいだろう。まずは改めて、WEB-BC SYSTEMの全容を紹介したい。

WEB-BC SYSTEMの全体像

共通業務アプリには、予約、ID連携、商品を紹介するブック(デジタルパンフレット)、デジタルカルテ機能など、各ブランドに共通した業務を効率化するためのアプリ群が含まれる。一方、個別カウンセリングアプリ/プロモーションアプリは、各ブランド独自の要素を取り入れながら、問診から商品の紹介までをWeb上で完結可能なアプリケーションとなる。3つめのインフラ共通フレームワークは、デジタル上で各アプリを展開するための基盤であり、構築したすべてのアプリケーションがAPI連携できることが要件として検討された。

2021年9月のリリース段階では、WEB-BC SYSTEMは同社ブランド・コスメデコルテのオンラインカウンセリングシステムとしてのみ運用が開始されたが、2024年9月現在では多様な形で機能が拡張されており、各ブランドや部署を横断するDXプラットフォームとして活用されている。

同プロジェクトの初期メンバーであり、開発・運用をリードする株式会社コーセー 情報統括部 DX推進課 横山春佳氏は「WEB-BC SYSTEMは導入から3年が経過した。同システムをベースとしたコスメデコルテの『DECORTÉ Personal Beauty Concierge(以下、PBC)』に関しては、リリース後に毎月のように大小様々な機能拡張を繰り返してきた。また、プラットフォーム全体の機能を拡充しながら、次々と他ブランドにおいてもアプリを実装するなど横展開に注力している」と説明する。

株式会社コーセー 情報統括部 DX推進課 横山春佳氏
プロフィール/2020年、コーセーに新卒で入社し、情報統括部に配属。「ブランドの世界観をデジタルで体現する」という情熱を原動力に、オンラインカウンセリングや店頭接客用アプリのシステム開発をリード。現在はシステムの枠を超え、事業部門と連携し新たな価値創造に挑戦。ビジネスとITの架け橋として、企業の成長に貢献するべく奮闘している

共通業務アプリとしてはまず、PBCの予約機能の横展開が進められており、ジルスチュアートの店舗カウンセリング予約、メゾンコーセー銀座でのイベント予約、雪肌精の最高峰シリーズ「雪肌精みやび」の限定品予約のためのアプリとして活用されている。また美容部員(以下、BC)のカウンセリングツールとなるブック(デジタルパンフレット)は、オンラインに限らずオフラインにも活用の場を広げ、店頭用のアプリとしてインフィニティファシオ雪肌精など8ブランドの商品を紹介できるように内容・用途が拡充された。

個別カウンセリングアプリに関しては、PBC以外に雪肌精での透明感測定、ルージュ デコルテのオンラインARリップメイクアプリなど横展開の数が増えている。また直近では、コスメデコルテのファンデーション体験フローラノーティス ジルスチュアート香り診断などにも取り入れたという。

個別カウンセリング/プロモーションアプリの概念図

「個別カウンセリングアプリの開発ポイントは、問診・撮影・解析・解析結果のアウトプット、商品レコメンド、バーチャルトライオン、ECサイトという共通フローを応用していることだ。各部署にシステムに詳しい人材がいない場合でも、最適な形でサービスを提供できるようになっている。また、コーセーの研究所のナレッジを取り込んでいることも強みだ。計算ロジックに研究所のデータや研究成果を盛り込みレコメンドに反映している」(横山氏)

WEB-BC SYSTEMの稼働初期から運用が開始されたコスメデコルテのPBCにも、さまざまな機能が追加され、顧客体験向上に寄与している。

たとえば、店舗でのカウンセリング時には、顧客に実際に商品を使ってもらいながらBCが問診やアドバイスを行うが、コーセーではオンラインでもモノに触れることの重要性を捉え、PBCでのカウンセリング前に商品のサンプルを届ける機能とシステム全体を連携させた。

また、オンラインでのカウンセリングやその後の商品購入が増えると店頭の売上が下がってしまうのでは、との社内の懸念点に対して、OMO施策としてPBCを店頭でも利用できるよう機能を拡張したという。

「オンラインカウンセリング中に、パーフェクト社と共同開発したバーチャルトライオンを利用できるよう機能のカスタマイズも行った。BCが商品をおすすめする際、お客さまの顔にARイメージを投影してその場で色味などを体験してもらいながら説明できるようにするためだ。あわせて近年では、PBCとECの連携も強化している。これまでは予約がないと利用できなかったオンラインカウンセリングだが、ECで商品を悩まれているお客さまのために、予約をしなくてもその場ですぐに使えるクイックビデオカウンセリング機能を追加した」(横山氏)

テスト自動化ツールの導入で開発・拡張のスピードをさらに高める

WEB-BC SYSTEMを全社横断型のプラットフォームとして活用してきたコーセーだが、アップデートや新アプリをリリースするスピードの早さゆえの課題も生じた。

「WEB-BC SYSTEMの開発と活用は順調に進んできたが、ある時点からシステムの数があまりに多くなり運用工数が劇的に増えてしまった。しかし、社内の運用メンバー体制は、20代の社員5~6名で、今後を見据えるとひとりあたりの業務量や業務範囲が増加するのは明らかで、システム運用が潤滑にいかなくなることが想定された。そこでまず目をつけたのがテスト自動化による省人化と工数削減だった」(横山氏)

システムやアプリの手動テストは、リグレッションテスト(機能の追加や変更、改修などに伴うプログラムの変更によって、その他のプログラムに意図しない影響が発生していないかどうかを検証するテスト)まで含めると、1アプリあたり2時間ほどの時間がかかる。またWEB-BC SYSTEMでは、開発環境、検証環境、本番環境、BCをトレーニングするための教育環境など、複数の環境でテストを実施する必要があった。一種の単純作業ではあるものの、「プログラムの扱いに慣れている開発中核メンバーしか効率的に進められない」(横山氏)という悩みがついてまわった。そこで導入したのが、AIでテストを自動化するソリューションAutifyだった。

出典:Autify公式サイト

「Autifyを導入する際には初期設定の登録が必要だが、一度作業が済んでしまえば、ほぼワンクリックでテストが完了する。Autifyはまだ全13アプリ中4アプリにしか適用できていないものの、すでに5~6名の作業時間を年間(2023年)で110時間以上削減することに成功している」(横山氏)

Autifyの導入が完了した現在、WEB-BC SYSTEMおよび関連アプリの運用は、当初、割いていた人員の半分以下の社員3名体制で進めることが可能になったという。今後は同ツールを他チームのシステム開発にも活用できるよう、検証とノウハウ蓄積をさら進めていく計画だとする。

横山氏は、110時間という数値もさることながら、「人材が本来業務へ集中できる点が、最も高い価値だ」とテスト自動化ツールの導入を評価する。

「今後のAI発展の動向を考えると、システム構築自体は人間がやり続ける仕事ではないと思う。むしろ今後は、システムを活用してどうビジネスを拡大していくかなど、戦略やアイディアの検討に人材がより時間を充てられる環境を整えていくべきではないか。Autifyの導入はそのような環境構築の最初の一歩といえる。今後も全社的な効率化を見据えて、ツールを使いこなせる体制を拡充していきたい」(横山氏)

若手を中心業務に据える環境整備で開発スピードを向上

WEB-BC SYSTEMの構築・運用により、コーセーの新アプリ開発のスピードは半年にひとつリリースできるというレベルにまで高まっている。横山氏はWEB-BC SYSTEMの順調な拡張や開発スピード向上を実現している要因のひとつとして、若手の力を活かす社内の環境づくりがあると説明する。

「一般的に入社して間もないスタッフはテストや確認作業を任せられることが多い。しかしコーセーでは、年齢や職歴に関係なく、適切な人材が中心業務に力を注げる環境が全社的に整備されてきた。若手の頃から主要システムやビジネスの中心課題に正面から取り組む経験は、成長機会としてとても貴重だ。そして、より早く成長した若手が、開発スピードの向上を支えるという好循環が生まれている」(横山氏)

コーセーは2018年からDXの推進に取り組んでおり、WEB-BC SYSTEMの構築・運用を契機として、さらにその歩みを進めている。以前は、横山氏らが所属する情報統括部は、ほかの部門からシステムの開発依頼を受けるような立ち位置だったが、一連のDX推進をきっかけに、部署をまたいでつないでいくための鍵、いわば“相談役”としてのポジションを築きつつある。

「情報統括部はPBCをひとつの起点として、各ブランド・部署との連携を大事なミッションに掲げてきた。コラボレーションの中心に立つことを目標とし、その重要性を社内に説きながら、各部署とのミーティングやコミュニケーションを積極的に促している。現在、各部署から相談を受けた際、それぞれのシステムをつなげるためにナレッジを活用して価値を発揮するという立ち位置はすでに確立しつつある」(横山氏)

横山氏は、今後は、各部署がやりたいこと、叶えたいことをよりスピーディかつ効率的に実現するために、経営資源の有効な活用方法やシステム運用のノウハウをアドバイスするという役割において、情報統括部が率先して取り組んでいきたいとする。

「たとえば、アプリ活用からキャンペーンまで、プロジェクトの『タイトル』がついた段階、まだ漠然とした時点から情報統括部に相談してほしいと社内に呼びかけている。私たちの持っている知識と経験を活かし一緒にプロジェクトを形にしていくことで、お客さまにとっても、社内にとってもより早く、より良いものができると考えている」(横山氏)

Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image & photo: 株式会社コーセー