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新創刊『Cosmetic Science』、日本の最先端研究や産学連携事例を国内外へ発信強化

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2024年6月に、化粧品研究開発専門誌『Cosmetic Science』が創刊された。これまでの「業界誌」の既成概念にとらわれず、日本の化粧品R&Dの最新研究成果を国内外に発信していくという。発行人の株式会社ソフィアリンクス 代表取締役 三原誠史氏と編集長 友吉由紀子氏に、今後の展望について話を聞いた。


若手研究者の人材育成機会としての役割を『FRAGRANCE JOURNAL』から踏襲

『Cosmetic Science』の創刊は、1973年から50年近く続いた香粧品研究開発技術の専門誌『FRAGRANCE JOURNAL』が2023年12月末で休刊となり、大手化粧品企業や原料メーカー・商社、OEM企業など業界各方面から惜しまれる声が多く集まったことがきっかけだ。『FRAGRANCE JOURNAL』の理念を引き継いだ新雑誌を創刊すべく、株式会社ソフィアリンクス 代表取締役 三原誠史氏を中心に新創刊準備委員会(以下、準備委員会)が結成され、約半年かけて準備が進められた。編集長は、元日経BP 医療局編集委員で、長年専門誌の編集執筆を手掛けた友吉由紀子氏だ。

株式会社ソフィアリンクス 代表取締役 三原誠史氏
プロフィール/1986年大学卒業後、大手家電メーカー、大手出版社を経てその後、独自のブランディングプロデュース事業を開始。化粧品メーカーの新商品開発、ブランド開発などを多数手がける。また、化粧品業界に新規参入を目指す企業からの依頼に応え、事業戦略構築も積極的に行っている。2010年10月より現職
『Cosmetic Science』編集長・友吉 由紀子氏
プロフィール/東京大学医学部保健学科卒、同大教育学部修士号(体育学・ スポーツ科学)取得。元日経BP 医療局編集委員。日経BPで27年半にわたり、『日経メディカル』などの専門雑誌で取材・執筆。女性誌創刊にも携わり、『REAL SIMPLE JAPAN 』副編集長、『日経ヘルス プルミエ』美容担当チーフディレクターを務めた。2024年6月新創刊号より、『Cosmetic Science』編集長

『Cosmetic Science』は下記の3つの理念を掲げており、そのうちの01と02は、『FRAGRANCE JOURNAL』の理念を踏襲している。というのも、『FRAGRANCE JOURNAL』は、学術的な基礎的知見を集積した読み物として幅広い読者を獲得してきた歴史があり、大手化粧品企業にとっては、『FRAGRANCE JOURNAL』への寄稿はある意味、若手研究者たちの論文寄稿の登竜門であり、人材育成の機会としても活用されていたからだ。

『Cosmetic Science』創刊の理念

そして、03は「産・学連携の促進と化粧品研究における大学教育の支援」として『Cosmetic Science』が新たに掲げた理念だ。これからのオープンイノベーションの時代は、産学連携がより活発になっていくことが予想される。そういった取組みにスポットライトをあてるため、創刊号から産学連携の事例紹介記事を連載している。

編集長の友吉氏は、「産学連携の事例は大手企業に多く、中小企業にとってはまだまだ敷居が高いという声を聞く。そこで、共同研究を行う大学の選定方法や、どのように産と学が交渉しプロジェクトが実現したのかといった具体的な事例を通した情報を掲載することで、どんな化粧品企業にとっても役立つ情報となるはずだ。こうした記事編集スタイルがオープンイノベーションの裾野を広げる一助になればと考えている」と話す。

論文のテーマ特集に加え、産学連携の事例紹介、連載で構成

『Cosmetic Science』の毎月の特集テーマは、すでに2025年4月号まで決まっているという。そのテーマに沿った論文を毎月8〜10本を掲載し、そのほか、産学連携の事例紹介と各種連載で構成されている。

『Cosmetic Science』創刊号

また同誌では、原料メーカー・商社やOEM企業の広告が多く掲載されている。創刊にあたり、広告が多いと学術誌としての体裁を保てないのではないかという議論もあったが、準備委員会のなかで、「広告そのものも業界の動向を知る貴重な情報で、原料メーカー・商社が今一番何を推しているのか、どういう研究成果が製品につながっているのかを知る機会になる」という結論に至り、広告も業界内をつなげる貴重な情報として、一定のボリュームを持って掲載していく方針だという。

デジタルアーカイブも。国内外のサイトとのコンテンツ連携も強化

『Cosmetic Science』は紙媒体として創刊したが、今後は毎回掲載される論文をデジタルアーカイブ化して検索閲覧性を高め、デジタル会員制度も導入するという。研究者が頻繁に利用するWebサイト「Cosmetic-Info.jp」と「化粧品成分オンライン」とのコンテンツ連携も予定している。

コンテンツ連携のイメージ

「Cosmetic-Info.jpは、月間約130万件、化粧品成分オンラインは月間30万件のアクセスがあるサイトで、化粧品企業の研究部門の方々が1日数回接触するような非常に利用頻度の高いサイトとして親しまれている。こうしたサイトとコンテンツ連携をして利便性をさらに高め、『Cosmetic Science』の掲載論文の利用範囲を一気に広げていけるようなスキームをつくっていきたい」と三原氏は語る。

また、学生にも化粧品業界のR&Dに興味をもってもらいたいと、化粧品開発・研究に関連する学部やコースのある国内の約70大学に対して、紙媒体は毎号無償配布、デジタルアーカイブが実現すれば対象大学の学生にIDとパスワードを無償提供し、いつどこにいても『Cosmetic Science』の論文に触れ、学べる環境整備を支援するという。

並行して、中国や韓国の化粧品業界メディアとの連携も少しずつスタートしていく。三原氏は、ここ数年で中国や韓国の化粧品業界の成長速度がさらに早くなり、日本のプレゼンスが相対的に下がっていることに対して非常に危機感を持っていると話す。

「インドは今後の世界の化粧品市場を牽引していく有望な市場として注目を集めている。現在、そのインド市場は英国、中国、韓国からの輸入が主流で、日本は圏外だという。急成長する市場で戦えないと、日本のプレゼンスはさらに下がってしまう。そうならないためにも、日本国内の先進的な研究成果を、日本だけでなくグローバルに向けて発信していくことで日本の存在感を示すことが非常に重要だと考えた」(三原氏)

提携する中国・韓国の業界メディアは、日本の化粧品開発技術の先進性や安全性の担保、その技術に支えられた品質を高く評価しているという。記事を相互に掲載することで、日本の最新の研究成果をいち早く海外で発信することができる。三原氏は、「これまでの化粧品業界誌の枠組みに収まるのではなく、海外に対しても発信力を高め、日本の化粧品R&Dについて知りたい海外の新しい読者層にも情報を積極的に届けていきたい」と意気込む。

現在、協議・調整中の中国・韓国の化粧品業界メディア

開かれた媒体として、日本の国際競争力向上への貢献を目指す

日本でも、独自のR&D部門をもつ大手化粧品企業のブランドだけではなく、OEM企業と組むインフルエンサーブランドや、ファブレスで製品開発を行い、自社はマーケティングにリソースを集中し成長している企業やスタートアップも増えてきた。三原氏によれば、そういった企業こそ『Cosmetic Science』をさらに活用してほしいと語る。

「R&D部門を持たないファブレス企業にとっては、OEM企業や原料メーカー・商社とどうコミュニケーションを取るかが商品開発の鍵だが、OEM企業の提案に対して、ディレクション可能な経験やスキルを持つ人材がファブレス企業側に不足しているケースも多々あるのが現状だ」(三原氏)

編集長の友吉氏も「原料のコンセプトや開発背景を理解してはじめて新しい化粧品のコンセプトが生まれることも多い。原料メーカー・商社やOEM企業と対等にコミュニケーションが取れる情報量を、まずは化粧品をつくりたいブランドや企業は蓄積する必要がある。そうした人材育成のための教科書的な読み物として、『Cosmetic Science』を活用していただきたい」と話す。

友吉氏によれば、2024年8月に発売となる第2号から原料メーカー・商社とのコミュニケーション時に活用できる「原料GUIDE」の掲載を予定しているという。「美白とブライトニング関連原料」「エイジングケア原料」といったテーマを毎月設定し、該当する原料の情報を掲載していく。

「こうしたコンテンツを今後も充実させていき、研究職の方々以外でこれから化粧品ブランドを作りたいと考えている人にも手にとってもらえる開かれた媒体のイメージをつくっていきたい」(友吉氏)

Text: 小野梨奈(Lina Ono)
Top image: Dark Gel via shutterstock
画像提供:株式会社ソフィアリンクス