見出し画像

ウルタ・ビューティが米ターゲット店舗で展開、双方の思惑は新しいコスメ購入体験

◆ New English article
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

米大手リテールのターゲットがウルタ・ビューティと提携。今秋、100店舗でウルタのショップ・イン・ショップをオープンする。独自のキュレーションで化粧品部門の充実を図り、総合スーパーから一歩進んだ「ショッピング・ディスティネーション」を目指すターゲットの戦略に迫る。

ターゲット、100店舗にウルタのショップ・イン・ショップを開設

パンデミックにより、消費者の化粧品の購買行動は大きく変化した。米国では多くの都市で化粧品専門店が休業を余儀なくされたのに伴い、ショッピングの場所が実店舗からオンラインへと移行した。2021年第1四半期で最高益を発表したアマゾンの利用はもちろん、ウォルマートなどの総合スーパーのECサイトから、食品や生活必需品を注文するついでに、化粧品アイテムもまとめ買いする人々が増えたのだ。

こうした大手リテールはフルフィルメントサービスが整備されており、豊富な品揃えと値ごろ感のある価格、スピーディな配送で、パンデミック時の巣ごもり需要にこたえて躍進したとされる。米ディスカウントストア大手のターゲット(Target)は、2020年のオンラインの総売上は166億ドル(約1兆8,200億円)を超え、前年比145%増を記録している

2020年11月、ターゲットは、1,100店舗以上を展開する全米最大手の化粧品専門小売りチェーン、ウルタ・ビューティ(Ulta Beauty)との提携を発表した。2021年の秋より、米国内のターゲット100店舗で、ウルタの「ショップ・イン・ショップ」を展開し、徐々に店舗数を増やしていく計画としている。

現状のターゲットのビューティエリアに隣接して設置されるショップ・イン・ショップの規模は、ウルタの通常サイズの店舗の約10分の1にあたる1,000スクエアフィート(約93平方メートル)で、カラーコスメ、スキンケア、香水、ヘアケアのカテゴリーでインディーズおよび中・高価格帯ブランド40以上をセレクトして取り扱う予定だ。接客はウルタのトレーニングを受けたターゲットのスタッフが担当するという。

画像1

出典: A BULLSEYE VIEW

また、店頭にはウルタのECサイトにも装備されているバーチャルトライオンツール「GLAMlab」を設置するのに加え、貯まったポイントに応じて割引が受けられるウルタのロイヤリティポイントプログラム「Ultamate Rewards」と連動するほか、ターゲットが提供しているECやアプリから注文した商品を店舗で受け取る「Click and Collect」や、ターゲット傘下の即日配送サービスShiptを利用した「Same Day Dellivery」にも対応する。

ターゲットのCEOブライアン・コーネル(Brian Cornell)氏は、同社のプレスリリースで「ビューティリテール体験の再定義を見据え、信頼のあるこの2つのブランドが手を組むことは、このうえない喜びだ」とし、さらに「この提携は、ウルタの人気ビューティラインナップや美容業界の専門知識、顧客ロイヤリティと、ターゲットにおいて急激に伸びているビューティビジネス、そして、業界を牽引する便利なフルフィルメントサービスを組み合わせることになる」とその価値を語っている。

ビューティ分野を強化するターゲットの企業戦略

ターゲットは近年、これまでの総合スーパーの位置付けのように、単に洗面所で必要な消耗品を買い足す場所ではなく、新たなブランドを発見できる「ワンストップショップ」を目指してビューティ部門の充実に力を入れてきた。

2020年には、ビューティ部門をリニューアル。2021年に入ってさらに「顧客に共通する価値と個々の多様で異なるニーズ、その双方を満たす商品ラインアップ」の実現のため、取り扱いブランドを30以上追加した。存在感を増した売り場には、「ニュートロジーナ」「エッシー」など定番ブランドに加え、パーソナライズ、エクスクルーシブ、クリーン、エシカル、サステナブル、ウエルネス、また、D2Cビューティといったキートレンドを反映するブランドが並んでいる。

例をあげると、「BeLoved」「Hey Humans」「MIX:BAR」「Jason Wu Beauty」「BYBI」のようなヴィーガンやクリーンな処方、サステナブルに配慮するブランド、また「AHC」「Sweet Chef」など人気上昇中の韓国系ブランド、「Range Beauty」「TPH」「Golde」「Beauty Bakerie」「Mented Cosmetics」といった、黒人の創業者による多様な肌トーンやBIPOCの髪質に適した製品を提案するブランドだ。

あわせて、ポップ&キュートなパッケージデザインのカラーコスメ「Winky Lux」、メンズスキンケアの「hims」や「Harry’s」、アスリートのための「Art of Sport」など、個性が際立つD2Cブランドもラインナップする。

一方で、パーソナライズシャンプーの先駆け「Function of Beauty」がターゲットの独占ブランドとして加わるほか、グローバルで人気を博す低価格帯コスメ「Makeup Revolution」「e.l.f.」「NYX Professional Makeup」など、いわばZ世代向け新定番も販売されている。

これらは、すべてオンラインでも注文可能で、ECサイト上では植物由来であることやクリエリティフリーであることを示したり、どんな肌質にあっているかを表示するアイコンを採用し、充実度が増す商品群のなかから自分に合ったものを選びやすくしている。たとえば、2019年から採用している、ターゲット独自の基準にもとづき有害なケミカルが不使用であることを示す「ターゲット・クリーン」マークに加えて、「ブラックオーナー」「女性オーナー」といったアイコンが追加されている。

スクリーンショット 2021-05-13 10.29.05

アイコンの一例
出典: Target公式サイト

ここには消費者の声を商品選びに反映し、ルーティンともいえる日用品の買い物のなかでも新たな発見や楽しみを提供しようというターゲットの姿勢がみてとれる。地球や社会にポジティブなインパクトを与える製品をサポートする「コンシャスビューティ」を掲げるとともに、多様性を推進する「MUSE」キャンペーンに取り組むウルタとの提携は、ターゲットのビューティ部門の商品ラインアップやサービスの充実はもとより、社会的なコミットメントを深めることにもつながるだろう。

ウィン・ウィンを目指すウルタとターゲット

ターゲットの戦略が当たり、両社の提携が成功するかが気になるところだが、2社の提携発表後、両社の株価はウルタが7%、ターゲットが2%とそれぞれアップしており、ウォール街は発表を歓迎しているようだ。

ウルタ側の一番のメリットとしては、新しく独自の店舗を開くことなく、新たな顧客を獲得できることがあげられる。ウルタのCEOメアリー・ディロン(Mary Dillon)氏がゴールドマンサックスのオンラインインタビューで話すように、「1週間に3,000万人もの、今までウルタの店舗に足を踏み入れたことのない顧客」が期待できる。パンデミックの影響で、店舗の売上は落ち、予定していた出店数に至っていないウルタの現状を打破する手段にもなるだろう。客層が幅広いターゲット店舗内ということで、パンデミック収束後は、顧客が思いがけない商品と出会える「ディスカバリーショッピング」が促進されると考えられる。

メアリー・ディロン氏のインタビュー

また、ウルタのプレスリリースでは、ディロン氏は「ターゲット(の経済圏)に入ることで、オフラインとオンライン、双方の可能性を十分に引き出し、よりシームレスな購入体験を提供するというウルタのオムニチャンネル戦略をさらに進化させる」と述べており、ターゲットが持つフルフィルメントサービスを含む総合力に期待を寄せている。

ターゲットにとっては、ウルタとの相乗効果でビューティ部門が充実することで「ワンストップショップ」の実現に近づくのではないだろうか。ターゲットらしい “手が届きやすい価格” を維持しつつ、ウルタの知見を活かして、流行や消費者が求める機能などのツボをしっかりと押さえた品揃えが提供できれば、日用品の買い物のついでに立ち寄るだけではなく、Z世代の「ビューティデスティネーション」になる可能性もあるだろう。

同時に、ウルタの売上の90%を支えるという3,000万人以上のロイヤリティメンバー、そしてターゲットの6,000万人以上のロイヤリティメンバーの来店も、双方にとってのメリットである。

成功の鍵を握るのは、多様なスタイルをもつターゲット店舗のどこにウルタが入るかという選定だ。ショッピングセンター内、郊外のオープンモールの一角、都市のハイストリートの路面型などさまざまなタイプの店舗がある。コンサルティング企業AlixPartners 役員のジョナサン・グリーンウェイ(Jonathan Greenway)氏が指摘するように、もし、専門性の高いブランドよりも安価な消耗品を求める顧客が多い店舗を選んでしまうと、ウルタショップのスペースの売上が落ち込むだけでなく、顧客が別の量販店へと流れてしまう恐れがある。

また、投資調査企業Jane Hali & Associatesの創業者のジェーン・ハリ(Jane Hali)氏は、ウルタが取り扱う高級化粧品ブランド側が、ターゲット店舗内に陳列されることに難色を示す可能性も少なくないと推察する。マスマーケットの日用品と隣り合うことでブランドのイメージが損なわれることを、高級ブランドが懸念するというのだ。

しかし、米国ではパンデミックで高級ブランドが集まる百貨店のほとんどが閉鎖され、また、若い層での化粧品購入先がオンラインストアやD2Cブランドへと流れるなか、安定した集客力のあるターゲット内のウルタショップは、ハイエンドなブランドにとっても魅力的な売り場といえる。

価格を含めた親近感と品質の良さという高級感、ほかではなかなか体験できない特別感、この3つのバランスをとりつつ、いかに店舗の顧客プロフィールに合致する商品ラインアップの棚を作れるかが重要となるだろう。

画像3

出典: rblfmr via Shutterstock

スターバックス、ディズニー、薬局チェーンのCVS、そして今回のウルタ・ビューティと、業種を超えた意欲的なパートナーシップを進めてきたターゲット。ハリ氏は「ターゲットはビューティ、ファッション、ホーム、おもちゃなど、消費者の様々なニーズに対応している。新バージョンの百貨店といっても過言ではない」と述べている。

その意味でも、ターゲットは今後、デジタル面の充実を一層進めると同時に、世相を反映した商品選択をすることで、新しいビューティリテール体験を提供するコスメショッピングの場になる可能性は十分にある。

Text: 東リカ(Rika Higashi)
Top image: Sean Wandzilak, Jon Kraft via Shutterstock

ありがとうございます!LINE@で更新情報配信中です。ぜひご登録を!
13
美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディアです。詳しくは → https://goo.gl/7cDpmf  BeautyTech.jp(English)move to https://medium.com/beautytech-jp