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香水ブランド「サノマ」、創業者が挑む後世に残る名香へ1,000分の1のこだわり
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香水ブランド「サノマ」、創業者が挑む後世に残る名香へ1,000分の1のこだわり

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金融業界出身の異色の日本人香水クリエイターとフランスの著名調香師がタッグを組んで生み出した香水ブランド「サノマ(çanoma)」は、大手ブランドのストラクチャーとニッチブランドの斬新さを兼ね備えた開発過程をふんでいる。トレンドの変化も激しい香水市場で、歴史に残る名香を生み出すための「ディレクション」を担当する、サノマのファウンダー兼クリエイター 渡辺裕太氏に話を聞いた。

日本人の感性とフランスの高度な調香技術に根ざす新ブランド

「(歴史に残るような)普遍的にいい香りを創りたい。そこに大前提がある」

2020年9月にパリでデビューし、同11月に日本に上陸した香水ブランド「サノマ(çanoma)」のファウンダー兼クリエイター 渡辺裕太氏はインタビューの冒頭でこう語った。

「では、それはどういう香水なのか。老舗の大手ブランドのよくできたストラクチャーと、独立系の、いわゆるニッチフレグランスの新しさを掛け合わせたところに生まれると思う。こうした香りは10〜30年後も世に残る」と渡辺氏は続ける。

その一例として、デザイナーズフレグランスとして90年代に発表されたカルバン クラインの「ck one」をあげる。同じカルバン クラインでも濃厚でフェミニンなフローラルノートの「エタニティ」などが流行っていた時代に、シトラスメインのジェンダーレスな香りは人々に新鮮な驚きを与え、年代・性別を超えて愛された。

渡辺氏は香水ブランドの“クリエイター”として、調香師ではなく、自身の役割はディレクションにあるとする。サノマの調香は、ジャン・パトゥやロシャスで活躍し、ドルチェ&ガッパーナやヨウジヤマモトの香水なども手掛けた、フランスのジャン=ミシェル・デュリエ(Jean-Michel Duriez)氏が担当している。そして、渡辺氏が思い描くイメージや求める方向性をプラスするコラボレーションによって、サノマの香水は創りあげられる。

十代の頃から香水が好きだったという渡辺氏は東京大学大学院を卒業後、モルガン・スタンレー証券に入社し金融業界に3年ほどいたのち、香水の世界に飛び込むことを目指した。ファイナンス領域での経験を活かしマネジメントの側からの参入を考え、フランスに留学しMBAを取得、香水メーカーでのインターンを経て、デュリエ氏と出会い、日本ブランドでありながら、メイド・イン・フランスのサノマを立ち上げた。

サノマ(çanoma) ファウンダー兼クリエイター 渡辺裕太氏
プロフィール/東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻卒業後、モルガン・スタンレー証券投資銀行部門に入社。みずほ証券プリンシパルインベストメントを経て渡仏し、Panthéon-Sorbonne(パリ第一大学)およびParis-Dauphine(パリ第九大学)にて MBAを取得。その後ニッチフレグランスブランドJean-Michel Duriez Parisにて経験を積み、2020年9月にフレグランスブランド「サノマ(çanoma)」をローンチ

グローバルや日本向けといったユーザーターゲットは設定していないが、「私が持つ日本の感性が入っているから、日本人の方に使いやすい香水ではないかという仮説にもとづき展開している」と渡辺氏は明かす。デュリエ氏と渡辺氏は徹底的に話し合うことで香りを作り込み、香料を1,000分の1単位で調整して香水を完成させるといい、2人のフュージョンがうまく作用し、良いクリエイティブのためのコラボとなっているところがサノマの強みだとする。

ストラクチャーの部分は調香師歴35年の知識と経験を持つデュリエ氏が高い品質を担保し、アイディアの部分は「夏の終わりに一瞬吹き込んでくる秋の冷たい風のイメージ」(第一弾の香水を制作する際のキーフレーズ)といった渡辺氏の感性を注ぎ込み、バランスをとりながら香りの独自性を打ち立てているのだ。つまり、テクニカルなパートと感覚とをどう融合するかに重きをおいている。

サノマでは現在、「1-24 鈴虫」「2-23 胡蝶」「3-17 早蕨」「4-10 乙女」の4種類のオード トワレのラインナップに加え、2022年5月に老舗の香メーカーと協働し、3-17 早蕨の香りをステックタイプのお香に仕立てた「3-17 早蕨 お香」をローンチした。

商品名の数字は制作した順番と試作の回数を意味する。たとえば、1-24 鈴虫なら、第1番目のクリエイションで、24回の試作を経て完成したことを表す。また、先入観を避けるため、ボトルに貼られたラベルには、あえて“鈴虫”の表記を入れず、「源氏香」と呼ばれる、『源氏物語』の帖のタイトルがふられた香道の組香で用いられる香の図(記号)と数字のみとする。「1-24」に添えられた記号は「鈴虫」にあたり、香水の背後にあるストーリーをさりげなく象徴しているのだ。こうした、知的好奇心を刺激される仕掛けも渡辺氏のディレクションあってのことだ。

1-24 鈴虫(オード トワレ) 30ml

香水市場でヒット商品を生み出す秘訣とは

こうしたニッチで、かつ丁寧な開発プロセスをふんだフレグランスは、どの程度受け入れられるのか。少し背景をみてみると、世界の香水市場そのものは活況だ。2021年には335億ドル(約4兆5,480億円)規模に到達。2027年には476億ドル(約6兆4,630億円)に達するとされ、2022年から2027年の間に6.1%の年平均成長率(CAGR)を示すとの予測もある。あわせて、香水業界に新たに参入するニッチブランドも、ここ5年間にグローバルで毎年300ほど誕生しているともいわれる。香水のニーズがそれほど大きくなかった中国でも市場が急成長しており、中国発のブランドも増えている状況だ。

「(香水業界でのビジネスを構想していた)2018〜2019年当時、新興のニッチな香水ブランドはおよそ2,000あった。ざっくりいって、市場全体の割合としては大手が90%、ニッチが10%、成長率では大手が0.1%で、ニッチが10%」と渡辺氏は説明。実態としては、ジョー マローン ロンドンのようなブランド規模が大きなニッチフレグランスが成長の数字を押し上げていたというが、新規参入するブランドが急増し、香水業界の活性化が始まっていたことを感じさせる。だが、新規ブランドにとっては、この状況は絶えず競合が増えることを意味し“差別化合戦”が起きていたと渡辺氏は振り返る。

また渡辺氏は、香水づくりにおける大手とニッチの違いを、サラダを料理することになぞらえる。大手は食材の種類やそれぞれの量、味わいや食感をバランス良く配して、“完成された”一皿のサラダを食卓に出す。一方のニッチは美味しくて新しいサラダを目指し、サラダには普通使われないような食材や、あえて過剰な量を盛る奇抜なコンセプトで勝負していると説明する。そして、ある意味で及第点を超えるフレーバーの(香水)レシピができたら、OEMで生産し、あとはマーケティングの力で販売していく手法をとるケースが多いという。

「2〜3年間のヒットを狙える製品を出したいなら、今売れている香りのトレンドをきちんと押さえながら、ひと匙のオリジナリティを加えることで、ブランドとしていけると思う。だが、30年以上世に残る名香を創ることは、希少な鉱泉を掘りあてるようなものだと考えている。一生のうちにひとつみいだせるかどうか」と渡辺氏は話し、五感を頼りに深い地中を探索するかのような、たゆまぬ努力が必要であることを示唆する。

そして、香水ビジネスをするうえでもうひとつ忘れてはならないのは、「香水を最後にジャッジするのはランダム(無作為)なマスとしての消費者」だと渡辺氏は強調する。

「たとえば、メゾン マルジェラの熱狂的なファンは、メゾン マルジェラの名を冠した製品だからという理由でフレグランスを買うかもしれない。だが、それを実際に身にまとい、香りを楽しむかどうかは個人の判断だ。気に入らず棚に飾っておくだけの場合もあるだろう」(渡辺氏)。“良い香水”かどうかを決めるのは、専門家よりも、あくまでも購入するユーザーだとする。

偶然の出会いから始まる香水との付き合い

近年は、質問票への回答などをもとに、AIが各自にあったおすすめの香水をレコメンドしてくれるパーソナライズサービスも増えた。直近では、イヴ・サンローラン・ボーテ(YSL)が各国の旗艦店への実装を予定するAIコンサルテーションデバイスは、脳科学を応用し、脳波の神経反応と香りの嗜好を結びつけて、既存のYSL製品のなかから顧客の感情にあった香水を提案する。

このようなレコメンドサービスは、多様化する消費者の好みやフレグランスを使う生活シーンが多岐にわたるなかで生まれたものだが、渡辺氏は「何かわからない(けれど気になる)ものを買うのが楽しいのがショッピング。(こうしたサービスは)それを奪ってしまうという側面もあるのでは」と疑問を呈する。つまり、そもそもフレグランスが持つ大きな価値として、偶然に出会い、心惹かれた香りを手に入れて身につけたときの変化や自分との相性を楽しむ、そんな個人的な体験にこそ香水との付き合い方の醍醐味があるという示唆だろう。

そのため、サノマでは、“たまたま出かけた先で香水を見つけた”というシーンが生まれるリアルなショップでの販売を重視している。ECでは、自社サイトのほか、メンズグルーミングサイトのDRESSKINや三越伊勢丹オンラインストアなどに出品するが、東京・銀座の蔦屋書店で常設販売をするほか、トゥモローランドやノーズショップを中心に、サノマと感性が近しい日本各地のセレクトショップで主に取り扱われている。また、各都市でポップアップイベントを開催するのに加え、直営の路面店の開設にも意欲を示す。

渡辺氏は、現在2022年内の発表を予定する新作のオード トワレの試作を進めているところだ。ニッチフレグランスブランドでありながら、マス消費者が動いてくれる名香づくりに挑むという難しさに、芸術作品を作り上げるような開発プロセスが答えを出せるのか、期待がかかる。

Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image and photo: サノマ


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