先進国も途上国も。全方位で顧客へアプローチするユニリーバの成長戦略

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2017年9月のユニリーバによる韓国化粧品大手カバーコリアの買収のニュース熱が冷めやまぬ12月。ナチュラル系スキンケアのサンダイアルブランズ買収のニュースが流れた。立て続けにビューティー領域でM&Aを行うユニリーバの狙いはどこにあるのか。その過去を見ていくと、競争の激しい消費財領域で、先進国も、途上国も、すべてのマーケットで短期的・長期的な成長をするための活動が見えてきた。

美容業界での激しい競争の中で、確実に成長を持続させるべく、消費財各社はデジタル戦略を刷新したり、AIなどの先端技術をマーケティングや製品に取り入れたり、様々な工夫を凝らしている。その中でも、突出して攻めの姿勢でいるのが、ユニリーバだ。

2017年だけでも、ヘアケアブランドのリビングプルーフ、メイクアップブランドのアワーグラス、韓国の化粧品大手カバーコリアやナチュラル系スキンケアのサンダイアルブランズなどの買収を発表している。

出典:Carver Korea公式サイトより

美容業界におけるM&Aは3年ほど前から加速させており、スキンケアブランドのミュラドダーマロジカケイトサマービルRENなども傘下に収めている。

2015年から2017年のユニリーバの主な買収案件を下記にまとめてみた。赤文字が化粧品関連企業だ。

出典:ユニリーバの買収・売却一覧

これまでのユニリーバの活動を見てみると、美容領域の激しい競争を生き抜くために、先進国と途上国の2つの領域で攻めていることがわかる。

・ 先進国における成長領域への投資―プレミアム、サステイナビリティ、パーソナライズの3つの領域
・途上国におけるソーシャルイノベーションを戦略としたチャネルづくりとブランディング

先進国でも途上国でも売り上げを伸ばすことができなければ、成長モデルが作れないのを良くわかっているからであろう。成長領域にフォーカスし、先進国では短期間に成果が出せそうなものを、途上国ではソーシャルイノベーションを軸とした中長期シナリオで売上を刈り取っていく策である。

先進国における成長領域への投資は、ボルトオンM&Aが主軸

3年ほど前からユニリーバはボルトオンM&Aと呼ばれる既存事業の補完となる事業の買収を主軸にしてきたのだが、ここに至るまでには紆余曲折があった。その歴史は2002年にさかのぼる。2002年に異なるステージ・目的に応じて3つのCVCを立ち上げた。高級パーソナルケア店舗を展開したり、デオドラントブランドの名を冠した理髪チェーンを展開するも、新規事業を育成しきれず失敗に終わった。

そして、2006年、アーリーステージの新技術投資を行うUnilever Technology Venturesとユニリーバの支援で立ち上げられた機能性食品インキュベーターのBrand New BrandsなどのメンバーでPhysic Venturesを立ち上げ、仕切り直しをはかった。しかし、ファイナンスレベルでは、ベンチャーキャピタルとしてある程度の成功とはいえるレベルまで達することができたものの、事業育成という観点では失敗に終わっている。このPhysic Venturesも2017年には活動を終了している。

このように、ユニリーバは歴史的にみてもリサーチを活かした新規事業創出はできても、その後の育成が苦手な会社である。過去には、研究所発の技術を商品化と初期販売に成功するも、その後スケール化できずに撤退したり、別の事業では商品化するも育成ができずP&Gが買収という形で撤退するなど、失敗の事例は数多い。

そこで、ボルトオンM&Aという形で、すでにある事業領域の拡張という形を取ることにした。先進国で今後の成長が見込まれるプレミアム領域を買収で取り込み始めたのだ。プレミアム商品のイメージが無いユニリーバは、すでにある程度の成功が見えている事業を買収することで、顧客も知名度も合わせて入手できる。自社の持つ販路などを有効活用すれば、スケールアップも夢ではない。むしろ、ユニリーバのノウハウが活かせるであろう。

ただし、それぞれの買収に市場価格の3~4倍ほどのプレミアを払っているとのうわさがあり、これらの企業の価値を最大化し、リターンを最大化できるのかが課題である。

途上国では、ソーシャルイノベーションによる市場開拓

その一方で、途上国からの売上比率は世界トップと言われているユニリーバ。その背景には、ソーシャルイノベーション(社会変革)を経営戦略の1つに組み込み、途上国の市場開拓として位置づけているユニークさが際立つからだ。ソーシャルイノベーションに取り組む企業は多いが、中長期の視点が足りないケースが多い。すぐにリターンが得られないからと撤退してしまったり、現地NGOなどの外部パートナーシップをうまく築き上げることができなかったりするからである。

そしてなによりも、途上国の市場開拓には、現地に住み込んでプログラムを指揮するマネジャーが不可欠だ。農村部や過疎地域でどのような生活を人々が送っているのか、彼らのニーズは何か、何が未来を生み出すのかを観察し、企業プログラムとして示唆を出していける人材である。ユニリーバには、それをやってのけるスタッフがいる強みがある。

ユニリーバの現地法人Hindustan Unilever Limited(通称HUL, )によるソーシャルイノベーションプログラム「プロジェクト・シャクティ」は、2000年にインド南部Andhra Pradeshで開始されたプログラムだ。インドの都市から離れた農村部では、鉄道や道路網・スーパーマーケットなどが発達していないため、HULの手が届かない人たちが多く存在した。

このような農村地域にリーチするために、ユニリーバは潜在顧客が抱える社会的な課題にアプローチすることを決断した。これらの地域では、衛生状態がよくなく、毎日多くの幼い命が奪われていた。そして、女性の経済的自立ができていないことも、社会的な課題となっていた。

出典:unilever.com

そこで、インドに数百万ある女性自助会に参加し、シャクティお母さん(Shakti Amma)として勧誘を始めた。彼女らに簡単な商業知識や簿記などを教育し、マイクロファイナンス等で10,000~15,000ルピー(約1万5千円~2万5千円)を貸し付ける。彼女たちはそのお金でユニリーバ製品を仕入れ、近隣の村で販売した。

また、低所得者層が購入できるよう、低用量の小型パッケージも導入した。開始からわずか5年で7,000万人の新規顧客へのアプローチを実現した。その後、デジタル化もされ、i-Shaktiで教育プログラムを提供したり、金融機関と提携して保険商品をはじめ、クレジットや金の取引、証券サービスなども提供している。2017年現在は、7万2000人のシャクティ起業家たちが、4万8000人のシャクティお母さんに支えられている。

女性の経済的自立支援のための職の提供、教育の提供が、農村地域での売上に繋がったのだ。現地NGOを積極的に巻き込み、協力を得ることで、啓発活動や販売網の構築を安価に実現することができた。その後、この活動は、バングラデッシュ、ベトナム、スリランカ、エジプトなどに拡大している。途上国での販売ネットワーク構築のために、ソーシャルイノベーションを戦略の1つに据えた好事例である。

スーパーマーケットブランドから脱せるか?

一方、先進国でユニリーバがスーパーマーケットブランドのポジションから脱するには、M&Aをした企業のインテグレーション(統合)にかかっていると言っても過言ではない。多くの日本企業でもインテグレーションがうまくいかずに、多額の投資金が回収できなかった経験もあるだろう。

ユニリーバも二十年近く前の2000年に、約203億ドル(2兆円強)もの大規模な現金買収によるベストフーズの痛い経験がある。クノールをはじめとするベストフーズが持つ優良ブランドを手に入れるのが目的であったが、価格は想定以上に高騰し、リターンを得るまでに時間がかかった。今回の一連のM&Aは、ユニリーバにとって規模は小さいものの、先進国におけるそれらの企業の位置づけは大きい。

彼らが途上国で持つ現場力は、このインテグレーションに活かせるのかどうか、見守りたい。5年後には、その結果がはっきりと出ているはずだ。

Text: 秋山 ゆかり(Yukari Akiyama)

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