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スマホのスキャンでバーチャル店舗を制作、MUJIの銀座店も再現されたKDDI「αU place」

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KDDIが2023年10月から提供を開始したバーチャル店舗サービス「αU place(アルファユープレイス)」。実店舗をバーチャル空間にそのまま再現し、空間内を歩き回って自由に商品を見たり、ECサイトに移動して購入したりすることができる。従来と大きく異なるのは、店舗のスタッフがスマホで店舗内をスキャンすることで、実店舗を容易にバーチャル店舗として再現できる点だ。手軽さが魅力の新しいスタイルのバーチャル店舗のメリットと可能性について、KDDI株式会社 XR推進部 αU placeチーム 藤城大樹氏に聞いた。

実店舗をiPhoneでスキャンして仮想空間に再現

「αU place」は、KDDIが2023年から取り組むメタバース・Web3サービスプラットフォーム「αU(アルファユー)」の1サービスとして展開されている。

そのルーツとなっているのが、2021年に行われたバーチャル店舗の実証実験「デジタルツイン渋谷」だ。このときは、リアルな店舗の空間でスマホをかざすとバーチャル店舗側にいるアバターが表示されるなど、やや複雑な仕組みを持つものだった。αU placeは、仮想店舗をより簡単に実現するサービスとして、バーチャル店舗の制作・運用にフォーカスした形でリリースされた。

バーチャル店舗の制作は、店舗向けアプリ「αU place for BIZ」から実店舗をスキャンすることで行える。LiDARスキャナが搭載されたiPhone(iPhone 12 Pro /12 Pro Max以降のモデル)が必要になるものの、専門的な知識や特別な技術は必要ない。動画を撮るような感覚で店内にスマホをかざしてスキャンを行い、アプリ上からそのデータをアップロードすれば、200平方メートルほどの店舗なら2週間程度で仮想店舗空間が完成する。

iPhoneのカメラを使って簡単に店舗のスキャンが行える

ユーザーは、「αU place」アプリからバーチャル店舗に入り、店内を自由に移動しながら商品を見ることができる。購入可能な商品には目印として白い丸が表示され、タップすると商品情報が表示される。実際に購入する場合は、そこからECサイトに移動する。購入可能な商品の選定やリンク先の指定は店舗向けの管理用Webサイトから自由に設定できるので、自店舗の状況にあわせて柔軟に決めることが可能だ。

白い丸が表示されている部分をタップすると商品情報が表示され、そこからECサイトに遷移可能
(著者撮影)

ゲームやエンタメの要素が強いメタバース空間の場合、若年層のユーザーが多く集まる傾向にあるが、αU placeを訪れるユーザーは30代〜40代が多いという。「経済的に比較的余裕がある世代が利用していることや、先進的な取り組みとして注目されたことで、技術的な面に関心を持った層にリーチしていることが要因」と藤城氏は分析する。

KDDI株式会社 XR推進部 αU placeチーム 藤城大樹氏
プロフィール/2006年、KDDI入社。運用部門を経て、商品部門で商品企画・開発に従事。2020年よりXR推進部にてXRを活用した新しいサービスの企画や開発に従事している

無印良品では新たな顧客接点として銀座の旗艦店を再現

決まったフォーマットのなかで商品画像が表示される一般的なモール型のECサイトの場合、ブランドが大切にしている世界感を表現しきれないケースも多い。その点で、実店舗をそのまま再現できるαU placeは、そのブランドが持つ雰囲気や魅力もあわせて、わかりやすく伝えられることが大きなメリットとなる。

たとえば無印良品では、グローバル旗艦店である銀座店をαU placeに再現している。海外からの旅行客からの注目度も高い同店舗の雰囲気をそのままオンラインで実現することで、顧客との新たな接点を生み出している。

無印良品は、ブランドの世界感や雰囲気をそのまま伝えるために活用
(著者撮影)

一方、独自の使い方をしているのが、食品問屋のヒョウベイだ。同社はそもそも実店舗を所有しておらず、バーチャル店舗の制作時には、自社の倉庫内に商品を並べて店舗のような空間をつくりスキャンを行ったという。普段は一般顧客との接点が少ない業態の企業も、バーチャル店舗を通して自社を知ってもらう機会を作ったり、さらにそこからECへの動線を設けることができる。

実店舗をもたない「ヒョウベイ」は、自社の倉庫に商品を並べて仮想店舗を制作
(著者撮影)

実店舗を訪問できない既存顧客へのアプローチに活用するのが、渋谷パルコ2Fで、さまざまなブランドやアーティストのポップアップイベントを開催する「2G POPUP STUDIO」だ。開催されるイベントは会期が1~3日間と短いものが中心となるため、時間的な制約から会場に足を運ぶことができないファンも多い。会期終了後もバーチャル空間内に会場を残すことで、リアルでの訪問が叶わなかった人にも当日の雰囲気を感じられるようにしたり、商品を購入できるようにしている。

「2G POPUP STUDIO」は、ポップアップイベントの会場をバーチャルで残している
(著者撮影)

ここで注目したいのは、いずれのケースも自社の世界感を伝えることや、新たな顧客との接点を作ること、既存顧客との関係性を強めることを目的に利用されている点だ。「体験」を重視するメタバースは、必ずしもすぐに数字につながるとは限らない。サイト訪問者やECの売上を増やす目的というよりも、現段階ではPRやブランディング、あるいはバーチャル店舗のトライアルで知見をためる施策の一環として考えるのが望ましいといえる。

気軽に人によるオンライン接客を受けることも可能

αU placeには、オンライン接客の機能も用意されている。店舗内のパネルをタップするとスタッフの一覧が表示され、それぞれのスタッフの対応可能状況が表示される。ビデオ通話が可能なスタッフがいる場合、アイコンをタップすると通話が開始され、実店舗のスタッフと実際に顔を見ながら相談できる。事前予約も可能だ。テキストチャットのみのコミュニケーションでも接客を受けることができ、東京・渋谷にあるKDDI直営ショップ「au Style SHIBUYA MODI」のバーチャル店舗では、オンライン手続きが不安な顧客にも、機種変更や料金プラン変更などの手続を可能にしている。

バーチャル店舗内から、実店舗にいるスタッフにビデオ通話やチャットで相談
(著者撮影)

「実際にau Styleでバーチャル接客を受けたお客さまから、『実店舗より気軽に相談できた』との声をいただいた。携帯電話ショップのリアル店舗には入りづらいと感じている方にも、予約なしでふらりと来ていただけることが、バーチャルならではの強みになっている」(藤城氏)

オンライン接客は人的リソースの確保が必要なこともあり、現状では常時対応可能な状態で導入している店舗はau Styleのみとなるが、期間を決めてイベントとしてバーチャル店舗接客を使う方法であれば、さまざまな店舗で活用の可能性があると藤城氏はいう。

3DCGと360度カメラ撮影方式の「いいところ取り」の制作方法

このαU placeの最大の特徴は、なんといっても簡単にバーチャル店舗をつくれるところだ。従来のバーチャル店舗の制作方法は、3DCGを使って制作する方式と、360度カメラで撮影した映像を使う方式の2種類が主流だった。このうち3DCGを使うものは、空間デザインの設計・企画から始め、何を再現するかを細かく作り上げていく必要があるため時間がかかり、コストも高額になりがちだ。一方の360度写真を使ったバーチャル店舗は制作の手軽さに強みを持つ反面、空間内でユーザーが移動できる場所が限られてしまうため、実店舗を自由に歩き回っているのと同じような体験は再現しづらい。

αU placeは、実店舗をそのままスキャンするという手法をとることで、低コスト・短時間で制作しながら自由度の高いユーザー体験も担保するという、これまでの2つのアプローチの中間的な位置づけのサービスを実現しているのだ。

それに加えて、空間の更新のしやすさも強みとなっている。αU placeでは、店内の柱などの変わることのない位置を起点に空間を制作する仕組みをとることで、部分的な差し替えを可能にしている。一部の商品やスペースだけを入れ替えた場合にすべてを作り直す必要はなく、最新の状態を再現することができる。

今後はAI活用の新機能やブラウザ対応も検討中

今後はバーチャル空間ならではの体験として、AIを使った商品相談機能も導入予定だという。Googleの生成AIモデル「Gemini Pro」などとの連携により、チャット画面上で質問や予算を選択するとおすすめの商品が提案されたり、生成AIを利用して、ユーザーが入力した質問に自由に回答したりするサービスが想定されている。

希望の商品や予算を伝えることで、AIがおすすめを提案

2024年3月21日〜4月14日には、AIQ株式会社の独自特許技術を活用した接客AI(デジタルスタッフ)がαU place内でユーザーを接客し、サービス提供を行う実証実験も実施している。

接客AI(デジタルスタッフ)が接客
(著者撮影)

アパレルブランド向けには、バーチャル試着の機能の搭載も検討されている。ユーザーが自分の写真をアップロードすると、その写真の構図に合わせた自然な姿で選択した商品を着用している自身の写真が作成され、着用イメージや今持っている服との組み合わせを確認できるというものだ。

単に画像を重ねるのではなく、写真の構図に合わせた形で試着画像を作成

さらに、今後はWebブラウザからのアクセスも可能にしていく予定だという。現在のアプリは日本国内でしか利用できないが、ブラウザなら海外からもアクセスできる。外国人旅行客の多い店舗では、日本を訪れる前の下見として使われることも増えるかもしれない。

2024年3月現在、αU placeに出店するのは7店舗とまだ数が少ないが、「今後は20〜30店舗を目標に店舗数を増やし、ショッピングモールとしての回遊性を高めていきたい」と藤城氏は話す。

メタバース未経験者層へのハードルを下げる試みとして注目

メタバースの店舗を訪れて買い物をするという体験は、まだまだ一般的になっているとはいえない段階だ。作り込まれた3DCGのリッチな空間は、慣れているユーザーにとっては楽しいものである一方で、メタバースを知らない人や、ゲームなどになじみのない人にとっては、どのように操作すればいいのかわからず、若干ハードルが高い場所となりがちである。

一方で、αU placeのような実店舗を再現したバーチャル店舗は、「リアルで訪れたことのある店舗に再度バーチャルでも行ってみる」「いつか行きたいと思っている店を見学する」といった、自身の体験と結びついた形でアクセスできる。そんな「リアルに近い分かりやすさ」は、メタバース未経験層に対するハードルを下げ、新たな体験のきっかけを作ることに貢献しそうだ。

店舗にとっても、実店舗をスキャンするだけという手軽さはメリットが大きいだろう。バーチャル店舗に興味があるものの、専門的な知識を持っている人材が社内にいない場合でも取り組みが容易になる。αU placeは、ユーザー側・店舗側双方にとって、「気軽にメタバースに踏み出す機会をもたらす」ものとして、さまざまな可能性を秘めたサービスといえる。

Text: 酒井麻里子(Mariko Sakai)
Top image: KDDIニュースリリース
画像提供: KDDI株式会社

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