シャネルのスキンケアR&Dは植物成分に注力、世界各地のラボからゲノムコホートまで
見出し画像

シャネルのスキンケアR&Dは植物成分に注力、世界各地のラボからゲノムコホートまで

◆ 9/1よりリニューアルしました。詳細はこちら
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

シャネルのスキンケアに関するR&Dは一貫して「植物成分」の研究に大きな比重を割いている。世界に5カ所あるシャネル化粧品研究所は外部機関とも連携し、スケールの大きな研究体制を持つ。その1つとして、京都大学とともにゲノム疫学調査という地道な研究を進め、長期間にわたって得られたデータをもとにした、自社開発の植物成分による製品も誕生している。そのR&Dの全体像を詳しく紹介する。

自社による植物栽培から独自成分開発まで、シャネルの植物成分研究は全方位

シャネル化粧品研究所は、フランス、米国、日本、韓国、中国の5カ国に拠点をもち、250名以上の科学者が密に連携しつつ基礎研究から製品開発にまで取り組んでいる。日本は2004年に3番目の研究所として設立され、おもにアジア人の肌特性の研究やアジア市場の調査、処方開発などを担っている。日本の研究チームがプロジェクトリーダーとして開発を進める製品も複数あるという。

シャネルの研究所は、植物成分についての研究にフォーカスし、在籍する植物学者や植物科学者が、新しい可能性を秘めた植物を求めて世界中を探索している。さらには、自然環境に適合した環境で植物を栽培し分析する研究の場という着想で、世界各地に「オープンスカイ ラボラトリー」を2002年より開設している。高品質、かつ独自の有効成分を開発するために、伝統的な栽培を行う生産者や、それぞれの土地とエコシステムに精通した地域の有識者と協働しながら、原料となる植物を栽培し、観察、実験を行ってきた。

現在、マダガスカル島、フランスの南アルプス、フランス南西部ピレネー山脈のゴジャック近郊、コスタリカのニコジャ半島という異なる気候帯に属する4つのオープンスカイ ラボラトリーがあり、生物多様性を保持・保護しながら、独自有用成分の研究や、それぞれの植物に最適な分離抽出技術の開発を行っている。

外部から供給される原料についても、自社栽培と同等の厳正な基準を満たし品質を保証するための基本原則を定め、その供給経路は100%追跡を可能としている。

マダガスカル島で栽培されているヴァニラ

こうした一連の研究のなかで、最先端の分野で研究を行っている外部機関やスタートアップとの協働によるオープンイノベーションにも積極的だ。創業者であるガブリエル・シャネルの時代からオープンイノベーションを推進しており、ファッションにおいては、さまざまなアーティストとのコラボレーションや交流を通して、つねに革新的なスタイルを世の中に提案してきた。その思想は、ビューティにおいても変わらないという。

2018年に発表した「セネッセンス」と呼ばれる老化細胞がたどるプロセスにアプローチする画期的な研究と化粧品ソリューションもその一例だ。セネッセンスとは、細胞が活動を停止し、組織の機能を低下させるだけでなく、近くの細胞まで巻き込む老化のメカニズムをさす。

シャネルは、加齢の原因を理解し、老化が肌細胞に与える影響を改善することを目的に、分子老化研究の世界的な権威であるウィーン天然資源・生命科学大学バイオテクノロジー・エイジング部門のヨハネス・グリラーリ教授と協働。約10年間の共同研究により、肌細胞の機能をサポートし、エイジングのプロセスを遅らせる効果をもつキク科の植物ソリダコから抽出されたエキスを発見した。ソリダコエキスには、老化を回避するSNEVというたんぱく質の量を約2倍に増やし、老化細胞を55パーセント減らす働きがあり、シャネルの「サブリマージュ」ラインに配合されている。また、「イドゥラ ビューティ」シリーズには、ハーバード大学の研究チームによって進歩を遂げた微小流体技術を応用。このテクノロジーのエキスパートである先駆的な企業と協力し、化粧品業界では初めて応用している。

このように、シャネルは最先端をいく外部機関や研究所とコラボレーションしながら、10年単位で研究・開発を進めている。長期的な視点で取り組めるのは、プライベートカンパニーだからこそともいえる。

京都大学との大規模な疫学調査から生まれた「ル ブラン セラム HLCS」

そして、日本では、アジア人の肌特性をより深く理解するために、2014年から京都大学と長期的なパートナーシップを開始。京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター センター長 松田文彦教授が率いる滋賀県長浜市における公共健康に関する大規模ゲノム疫学研究調査「ながはま0次コホート」に、化粧品分野の企業として唯一参画している。

コホート研究とは、同じ地域に住む集団を追跡し、その集団からどのような疾病が発生したか、また健康状態の変化などを観察して各種要因との関連を明らかにしようとする疫学調査だ。

「ながはまコホート」は、2012年から約20年間、約1万人の同じ被験者集団を5年ごとに健康診断などの詳細調査を行って長期的に観察する研究プロジェクトだ。通常のコホート研究と異なるのは、日常的な生活習慣や環境に関するアンケート調査や身体検査・測定を行うだけでなく、血液、腸内環境、肌画像データ、遺伝子(ゲノム)などの測定も行い、多角的な観察手法で幅広く生体データを取得し、蓄積していく点だ。

松田教授は「ながはまコホートは、古典的な疫学研究とは異なり、一連のパラメータにもとづいて、客観的かつ徹底的に測定値を収集し分析するもので、世界にも類をみない」とその特徴を語る。

京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター
センター長 松田文彦教授

シャネルとの協働研究の第一弾では、34〜79歳の女性1,054名と男性198名を調査し、環境、生活習慣、遺伝などの要因が、肌とエイジングにどのように影響を与えているのかを調査した。

具体的には、シャネルが提唱する「シミや色ムラのない健康的なピンク味を帯びた肌」を「ヘルシー ロージー グロウ」肌と定義し、その肌を持つ人の共通点を導き出すというものだ。分析結果では、ヘルシー ロージー グロウ肌の持ち主は年代を問わず存在し、遺伝子データを分析すると、ほかの人よりもアミノ酸代謝がよいという特徴があることがわかった。

そして、アミノ酸のさまざまな機能のなかでも、肌細胞のエネルギー産生量を高める働きと、肌細胞のバリア機能を高める働きの2つが、ヘルシー ロージー グロウにとって重要であることを突き止めた。アミノ酸代謝以外にも、事前に用意していた仮説をもとに検証したところ、さまざまな因子との相関関係がみられたという。

合同会社シャネルR&I
化粧品技術研究所
所長 原田康子氏

この調査について、合同会社シャネルR&I 化粧品技術研究所 所長 原田康子氏は、「ヘルシー ロージー グロウとはどういう肌なのか、たとえば、赤みや色ムラ、キメのなめらかさなど、感覚的なものを画像解析、数値化することで、ゲノムとの関連性がわかってきた。肌解析や皮膚研究に知見のあるシャネルと、ゲノム医学的なアプローチを得意とする京都大学が協働し、お互いに持っているノウハウや技術を合わせたからこそ導き出せた成果だった」と語る。

この成果をもとにシャネルは、アミノ酸代謝に関与する遺伝子の発現を高める働きをもつ成分として、屋久島にあるシャネル専用農地で栽培されたガーデニアから抽出された「ガーデニア フルーツ エキス」を開発。それを配合した「ル ブラン セラム HLCS」を2021年3月に発売した。コホート研究の成果を化粧品開発に落とし込むアプローチは、世界でも例がないという。

松田教授は、コホート研究の社会的な意義をこう語る。「コホートは研究インフラであり、使ってもらわないと意味がないと考えている。このような研究に民間企業が参画する意義は、自社で欲しいデータを蓄積していけるという点にある。今後、参画する異業種企業間で協業が生まれる可能性もある。ながはまコホートから、新たなイノベーションが生まれることを期待したい」

2021年1月に開催された
オンライン記者発表の様子
出典:京都大学公式サイト

2回目の追跡調査では、肌の経年変化研究に意欲

ながはまコホートの第2回目調査は数年前から計画しているものの、パンデミックにより延期を余儀なくされている。現在は、いつでも実施できるよう準備を進めている状態だ。

「コホート研究のよいところは、経年変化をみていくことができる点だ。シャネルでは、年齢とともに、エイジングサインがどのように出現するのか、それにはどのような因子が関連しているのかを追跡調査でみていく。とくに、女性の肌に関しては、閉経前後で大きく状態が変化するので、コホート研究で取得されるさまざまなデータとの相関関係を調べていきたい」(原田氏)

Text:小野梨奈(Lina Ono)
Top image:JoeZ via shutterstock
画像提供:シャネル合同会社

ありがとうございます!LINE@で更新情報配信中です。ぜひご登録を!
美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディア。最新記事から過去1ヶ月分は無料でお読みいただけます。それ以降の記事は「バックナンバー読み放題プラン」をご利用ください。詳しくはこちらから→ https://goo.gl/7cDpmf