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co-storeの実現を阻む課題

なぜ、変化が大事だとわかっていても進めないのか

今まで、新しい小売店舗のあり方、そして実際に私たちが取り組んでいることについてお話してきました。

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基本にあるのは、

  • 小売店舗は今までのように店舗売上だけを数値目標にすると厳しくなる

  • 新しい小売店舗モデルへの転換・投資が必要

ということです。しかしこれは、私たちだけではなく、業界全体に関わっている方みなさんが感じていることだと思います。にもかかわらず、なかなか変化が進みません。投資するプレイヤーがいないということとは別に、もっと根本的な課題があると考えています。各ブランド・メーカー毎に事情は違いますが、あくまでも最大公約数的な一般化した話として、その課題をまとめてみたいと思います。

店舗の目標(売上)とデジタルマーケが連動していない。

ひとつは、店舗の売上とデジタルマーケティングが連動していない現状です。正確にいえば、店舗の売上責任を負う人がデジタルマーケの方針・戦略・実行に関わることができないということです。いままでのマスを中心としたマーケティングであれば、
「GRP広告をいくら出稿するから、店舗ではこれくらい売れるだろう」
という予測が立っていました。小売店側もその広告出稿に合わせて仕入をし在庫を揃えていまので、マーケは良い広告を出稿し、販売部門は店頭向けに営業する、という分担ができていました。

しかしデジタルが主流になったいま、SNSで何人フォロワーが増えたとか、YouTubeでどれくらいのユーザーに見てもらったからといって、小売店舗にどれだけ仕入れてもらえばよいのかわかりません。本来は店頭に製品が並んだときにリアルタイムにSNSで発信できたらよいのですが、販売部門側にはその体制もないですし、デジタルマーケ側も店頭で商品を動かすことを第一目標にしているわけではありません。結果、ECとデジタルマーケの目標は連動してることが多いのですが、店舗との連動性はあまり見られません。 多くの人はもっと上手くできるはずだと思っているのですが、いままでのやり方の延長線上で話をせざるを得ないので、店舗の目標(売上)とデジタルマーケがうまく連動していないのです。

購入前ユーザーの母集団形成に予算がついていない

本連載でこれまでお伝えしてきたのは、

小売店舗は「商品を売る場所」から「商品と出会う場所」→ 売場からマーケティング(顧客づくり)の場へ

ということです。店頭のほうが一人当たりの顧客接点コストが安くなるからです。つまり店頭で求められているのは「購入前ユーザーの母集団を作る」ということです。母集団ができれば、購入するのは、ネットでも店舗でも構わないのです。この母集団を作る方法は、ネットだけではなく、店頭やイベント・サンプル配布などいろいろあります。これこそ店舗の強みです。母集団ができれば、リアルだけではなくネットも含めて、ユーザーが何の情報に接触し、どのサンプルをいつ手にしたのか、どのイベントにいつ参加したのか可視化できるようになります。

アイスタイルでは、この母集団(どこでどう購入前ユーザーを構成していくのか、どうやって購入まで引き上げていくのか)をブランドオフィシャル(BO)というサービスを通して可視化することができます。しかし、この「購入前ユーザーの母集団形成」ということを目標にして予算をつけているブランドが少なく、キャンペーン毎のリーチや売上高が目標になってしまっています。自社のSNS/EC/CRMだけでなく、小売店舗もこの「母集団形成」に組み込んでいくことが非常に大事なのではないでしょうか。

データ分析からわかった本質でも、決済権限を超えたアクションはできない

各ブランド・メーカの方々は、それぞれ喫緊の課題を抱えられており、それに対していろんな手を打たれています。そういった課題を解決するために、よく@cosmeのデータ分析をしたいという話をいただくことがあります。しかし正直にいえば、この20年、すごく大きな成果があったかというと僕は考え込んでしまいます。

なぜかといえば「いまの業務フロー・スキームの中でできることだけを、新しいデータを使ってアップデートしたい」からではないでしょうか。我々がブランドやメーカーの方々とデータを一緒に分析しながら、たとえば「EC部門と店舗の売上部門を一緒にしたほうがよい」とわかっていても、「それはこの分析結果の対象外(の課題)だから」と言われてしまいます。データは今の業務のためだけにあるのではなく、構造全体をどう変えていくのか、ということと合わせて検討していく必要があると思います。その意味でいえば、全体を見渡せて決裁権を持つ人がもっとデータを見ていくことが大事なのではないでしょうか。

組織の目標・KPIをアップデートする必要がある

目標やKPIの設定、予算の割り振り方、ひいてはデータ分析含めて組織のあり方全体を見直していかないと、店頭だけを変えても小売店舗へのミライにはつながりません。いま求められているのはいわゆるDX・BXですが、この言葉がバズワードとして一人歩きし、デジタルシフトとビジネスの構造改革が混同されていることからもあまり本質的ではありません。昔から実は言われていることの本質は変わっていないんだなあと思います。つまり、構造全体をアップデートしていこうということです。

実はアイスタイルとして自社を見ていていも、できていないことはたくさんあります。なぜ同じ会社なのに連携ができないのだろうと思うことも多々あります。しかしそれは現場の問題ではなく、会社・組織の目標設定・構造の問題なんだと感じています。同時に、自分たちだけではどうしてもできないこともたくさんあります。業界の慣習含めて、できるところから、できるブランドやメーカー様と一緒に、ユーザーとブランドの方々があるべき繋がりを持てるよう、前に進んでいきたいと思っています。

次回はいよいよ最終回です。本コラム連載を総括し、小売店舗のミライへの提案をまとめたいと思います。

次回予告:最終回 - 小さな変化の積み重ねの先にある「小売店舗のミライ」


<著者プロフィール>

吉松徹郎
株式会社アイスタイル 代表取締役会長 CEO

東京理科大学基礎工学部卒業後、アクセンチュア株式会社入社。1999年7月に有限会社アイスタイル(現:株式会社アイスタイル)を設立し、代表取締役社長に就任。同年12月、コスメ・美容の総合サイト「@cosme」をオープン。2012年、東証一部上場。現在は「Beautyの世界をアップデートしながら、多くの人を幸せにしよう」をミッションとして事業を拡大、アジアを中心にグローバルにビジネスを展開。また、公益社団法人 経済同友会東京オリンピック・パラリンピック 2020 委員会副委員長、公益社団法人 経済同友会幹事を務めるほか、公益社団法人アイスタイル芸術スポーツ振興財団を設立し、理事長として現代アートの制作・展示への助成支援やスポーツイベント開催活動への助成支援を行うなど、活動の幅を広げている。「第6回ニュービジネスプランコンテスト」優秀賞(1999年)、ICS「第14回 ポーター賞」(2014年)、「EY Entrepreneur Of The Year Japan 2018」 Growth部門 特別賞(2018年)など、受賞歴多数。