最終回 - 小さな変化の積み重ねの先にある「小売店舗のミライ」
6月から、約5カ月にわたってお付き合いいただいた本連載も、今回でいったん最終回となります。いままでこのような形で自分の考えや戦略を書き記すことはなかったのですが、コロナ禍を経て世の中が大きく変化していく中で、アイスタイルも僕自身も大きな変化・進化を遂げていくために、社内外の方と同じ未来を共有したいと思い筆をとりました。
今回の連載を通してお伝えしたかったことを、最後に改めて振り返りたいと思います。
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小売店舗のビジネスモデルは進化が必須
連載を通してずっとお話しさせてもらっているのは、
「小売店舗の今のままのビジネスモデルでは限界ではないか」
「小売店舗の進化にだれが投資をするのか」
ということです。
小売店舗のビジネスモデルは、原則
「店舗での売上 = 店舗での決済(レジ通過金額)の最大化」
にあります。
しかしECが発展していく以上、小売店舗売上の総和は減少傾向でしかありません。そのうえ、このコロナ禍で店頭での売上は大きく減少しました。コロナ禍が落ち着いてきたとしても、この流れは変わりません。しかも人件費や店頭のデジタル化のコストなど、費用はかかる一方です。大事なのは、いまのビジネスモデルをデジタルに置き換えるのではなく、新しいビジネスモデルを見据えたDX化です。そのための投資でなくてはなりません。
その中で、いま改めて軸になってくるのは「ユーザーの体験」です。ユーザーは店舗もECの存在も当たり前として捉え、その時々で自分の都合のよい方を利用します。従って店舗やブランド側は、その体験がよりよいものになるように、両方を合わせて設計していく、再構築していく必要があると考えています。業界全体として、新しいモデルを確立しなければいけないのです。
だからこそ、次世代の小売店舗のビジネスモデルとして提案させていただいたのが「co-store戦略」です。
「co-store戦略」は、小売店舗を「ユーザーとブランドとの出会いの場」と捉え、ブランドにとっての将来顧客・見込み顧客の母集団を作るマーケティングの場所して、ブランド・小売店舗が一緒になって企画・運営していくという考え方です。
このコンセプトを実現していくためにも、まずは多くの人に理解してもらう場所が必要でした。その一歩としてスタートしたのが@cosme TOKYOです。いや、@cosme TOKYOを企画しているときには、まだふわっとした確信の持てていなかったビジネスモデルでしたが、@cosme TOKYOの実現とともに具体化してきたといっても過言ではありません。
いままでの商品の品揃えや価格だけでの魅力づくりではなく、ユーザーにとって価値ある場所としての店舗のあり方、ブランドにとって小売側と一緒につくっていく店舗のあり方・新しい小売店舗のビジネスモデルのあり方を、小売側とブランドが一緒に模索していく必要があると考えています。
だれのためのオンライン・オフラインの融合なのか?
今回の連載の途中で、米国アマゾン社との業務資本提携の発表をさせていただきました。今回この連載を始めたいと思ったのも、この発表とともに「アイスタイルはアマゾンとともにECに大きく舵をきった」と誤解が生まれないようにするためです。
今回の業務提携の発表後に多く寄せられた質問の一つは「アマゾンに出店する店舗と@cosme SHOPPINGをどう棲み分けるのか?」ということです。
それぞれのECサイトに来てくれるユーザーや、品揃えも違ってくると思われ、十分棲み分けはできると考えています。しかし、そもそもの前提として、どっちのサイトを使いたいかはユーザーが決めるもので、僕たちが棲み分ける必要はないと思っています。
というのも、実店舗の@cosme TOKYOや、@cosme STOREの店頭に来てくれるユーザーは、ECサイト@cosme SHOPPINGのお客様だけでなく、アマゾンや楽天、Yahoo!ショッピングだけでなく、ブランドサイトのECなどいろんなサイトで買い物をしているユーザーのはずです。集めているポイントやお得なクーポンなど、そこで買うべきいろんな理由がある以上、店頭にきたユーザーを@cosme SHOPPINGだけに誘導することは、ユーザー体験としてよいものにはなりません。いろんなECサイトと連携するからこそ、ハブとしての店舗が活きてくるのです。
だからこそ、僕自身は@cosmeの戦略を「OMO」「O2O」「オムニチャネル」といった言葉を使って原則説明しないようにしています。なぜなら、「OMO」「O2O」はブランドが主語のマーケティングの言葉だからです。
多くのブランドが「オンラインとオフラインの融合」として、自社サイトやSNS、ECそして店舗をつなごうとしていますが、その大多数が自社IDを振ってユーザーを統合することに主眼を置きがちです。ただこれはブランドが主語の「オンラインとオフラインの融合」でしかありません。
ユーザーを主語にするのであれば、いろんな選択肢をユーザーに提案することです。どのユーザーがどのECサイトや決済アプリを使っていても、気持ちよくコスメと出会えて、購入やその他の体験がスムーズな環境を実現していくことが「生活者中心の市場」なのです。
実際に@cosme STOREがスタートした時も同じような状況でした。店舗を立ち上げたものの、仕入れできるブランド・商品は限られていました。ただ、ユーザーにとって必要なのは、小売店にとって販売できる商品をただ並べてある店舗でなく、いろんな商品が並んでいて試せるお店です。なので、仕入れできないもの・販売できないものも自分たちで買ってきて店頭に並べたうえで、近隣で販売しているお店の紹介をしていました。
当時は、僕たちがやっていたことと同じ提案を他の小売店の方々にもしていたのですが、「売れない商品を並べるのは品切れと同じ状態」「他店舗を紹介する理由がわからない」といわれました。
今回の「co-store戦略」も新しい提案であるがゆえに、理解が進みにくいのは、店舗をスタートした時とある意味同じ状況です。大事なのは「『ユーザーにとっての』オンラインとオフラインの融合」を実現していくことです。そのためにいろんなECとつながることも前提におきながら、店舗の持つ価値→リアルの場としてのハブを強化していきたいと思っています。これこそ@cosmeの思想の根底に流れていることなのです。
皆さんともっと議論していきたい
今回、「小売店舗のミライ」を書かせていただきましたが、美容業界の多くの方々にとっては既知のことだったり、同じ課題意識をもっていらっしゃったりすることも多いと思います。私たちもいろいろな経験を積み重ねながら、業界の方々から教えていただいたことを一つひとつ対応しながら今日に至っています。
@cosme TOKYOもいろんなアイディアを試す場所としてようやく形になってきました。しかし「co-store戦略」というコンセプトを実現していくには、いろいろな物の考え方やルールを変えていかねければなりません。しかも、私たちだけではできないことなのです。
店頭のルールを変える、プロセスを変えるといったことは、簡単なことではないのは重々理解しています。ただこのままでよいわけではないのも、皆さん共通の認識として持っていらっしゃいます。
そのためにも、皆さんとの議論をもっともっと深めていきたいと思っています。その中で新しいトライをできる方・できる商品・できるブランド・できる店舗から1つずつ変えていけたらと思います。
実はこの景色、つまり少し先の新しいことを始めるときの景色のことですが、これを僕は10年ごとに見ているような気がします。20年前、@cosmeを立ち上げて事業を始めたときに最初に言われたのは、
「インターネットの予算というのはない」
「Webもメディアの一つだから代理店を通して」
「Webメディアの指標って何をみるの?」
こんなところから始まっていますし、代理店からは「クライアントの悪口が書いてあるメディアにだれが広告出すの?」と言われていた時代でした。
それでも1人の方が理解を示してくれて、1ブランドとお付き合いができるようになり、1社とお取引ができるようになりました。その1社が2社になり、4社になり、と少しずつご理解を示していただけるブランドが増えて、今のアイスタイルがあります。
ECや店舗を始めた時も一緒です。常に変化は業界の多数決ではなく、新しいビジネスの在り方とともに歩んでくれる仲間がいて進んできています。今回の「小売店舗のミライ」も、その中で提案させていただいている「co-store戦略」も、その中にある「将来顧客の母集団形成」も、まだまだ話を始めたばかりです。たとえ現在予算がついてなかったり、担当の窓口になるような部署がなかったりしても、いままでと同じように5年後10年後を見据えながら、新しい小売店舗のあり方、新しい化粧品業界のあり方を一緒に議論をし、進んでいただける仲間が増えてこそ、本当の変革・イノベーションは起こるのだと思っています。
そして最後に。
アイスタイルが小売店舗を運営し始めて、もう16年になります。会社を立ち上げて23年ですから、実はもうその半分以上、小売店舗やECに取り組んできました。@cosmeというと、皆さんやはり“クチコミサイト”という印象が大きいと思いますが、私たちアイスタイルがずっと向き合ってきたのは、あくまで「ユーザーとブランドとの出会いをいかに心地よくするか」ということでした。
こちらは、いまから23年前に会社を創立した時の事業計画書の最初のページに書いたアイスタイルのビジネスモデルの概要図です。当時描いた未来に少しずつですが近づくよう、事業を進めてきました。
私たちアイスタイルはずっと「Market Design Company」を標榜しています。新しい市場のあり方を提案し実現していく会社です。まだまだアイスタイル自身至らないことだらけですが、化粧品業界・ビューティの世界の可能性をむちゃくちゃ信じていますし、そこに関わる方々の笑顔が増えていくことをミッションに、それぞれの事業を進めていきたいと思っています。
本連載がそのきっかけとなり、ぜひ一緒にこの業界の発展のために手を取り合っていただける方が増えるのであれば、こんなに嬉しいことはありません。
今後ともアイスタイル一同、何卒よろしくお願いいたします。
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