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モーンガータが挑むカラーコスメバルクのアップサイクリング、供給の仕組み作りにも着手

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株式会社モーンガータが取り組むのは、生産の過程や消費期限などで、従来廃棄処分せざるを得なかったカラーコスメバルク(カラーコスメ原料)を、絵の具やインク、ペンなどの色材としてアップサイクルさせ、かつその流通の仕組みまで整えていこうという試みだ。「あえてサステナブルであることを強調しない」と話す同社代表取締役 田中寿典氏に、その取り組みの全容について話を聞いた。


廃棄化粧品を活用し、新たな価値を創出する

株式会社モーンガータがアップサイクルするものには、大きく2通りある。ひとつは、消費者の手元で使わなくなってしまったカラーコスメ。もうひとつは、化粧品メーカーやOEM企業でカラーコスメの原料(カラーコスメバルク)が使用されずに余剰や廃棄予定となってしまうものだ。代表取締役の田中寿典氏の前職はアルビオンでの研究開発であり、化粧品製造における余剰や廃棄の課題を目の当たりにしてきた。なかでも、化粧品会社だけの努力ではコントロールしにくいカラーコスメの原料について田中氏はこう説明する。

「50キログラム必要な材料の最低発注量が100キログラムで、結果、どうしても半分余ってしまったり、開封後は使用期限があるため廃棄となるケースがある。また、新商品開発のためのサンプルワークや品質保証のための防腐試験、耐光性試験、安全性試験に使用したものなども廃棄対象となる。弊社でのフェルミ推定(いくつかの情報や知識を手がかりに数値を算出したもの)では、日本の化粧品メーカーでは化粧品原料の廃棄に年間30億円もの費用がかかっていると考えられる。在庫や返品を加えるとさらに多くなるだろう。化粧品の開発をしてきたなかで、自分が開発したものが捨てられることを悲しく思い、自身のサンプルワークでの廃棄にも心を痛めてきた。そんなとき、姉が化粧品で紙に色をつけて遊んでいたのを見て『コスメ以外の方法でアップサイクルすればいいんだ!』と気づきを得たことが起業のきっかけとなった」(田中氏)

モーンガータが算出した、国内化粧品企業による1年間の廃棄処分費用

田中氏は、キャンドルやアクセサリー制作などを手掛けてきた姉と2人でモーンガータを起業。廃棄せざるを得ない化粧品、とりわけカラーコスメ原料のアップサイクルに取り組んだ。そこには、日本の化粧品業界へ恩返しをしたいという思いがあった。

「日本の化粧品はIFSCCで1位に選ばれるほどの品質がある。化粧品の再生利用スキームを構築するという別の側面からも日本の化粧品の価値を国内外に訴えかけ、これまでお世話になってきた化粧品業界に恩返ししていきたいと考えた」(田中氏)

同社ではあえてサステナブルやSDGsという言葉を強調しない。一般の人々には使わなくなったカラーコスメを楽しんで使ってもらうことを、印刷や建材業界にむけてはカラー原料がその他の色材と同じように活かせるということを浸透させていきたいという。

「環境のためという思いだけでは継続されにくいので、アップサイクルで市場価値のあるものを創出することが継続性につながると考えている」(田中氏)

株式会社モーンガータ 代表取締役 田中寿典氏
プロフィール/2012年東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻修了後、株式会社アルビオンに入社。メイクアップ製品の研究開発に従事し、2018年2月同社退社。2019年9月20日、世界で初めてカラーコスメを色材化する事業を展開した株式会社モーンガータを設立し、廃棄化粧品を色材化する特許技術を開発。役目を終えた化粧品から多様なUXを介した新ジャンルの楽しみを提供するB to Cブランド「SminkArt」やB to B向けの開発素材を提供している

カラーコスメを色材へと変身させる「マジックウォーター」を開発

モーンガータが廃棄化粧品に新たな価値を創出するために開発したのが、アイシャドウやチーク、パウダーファンデーションといった粉末状の化粧品を色材として使えるようにする「マジックウォーター」だ。こうした化粧品は汗で落ちないよう粒子が油でコーティングされているため、そのままでは水に溶くことができない。界面活性剤を使えば簡単に溶くことができるが、田中氏は界面活性剤フリーのマジックウォーターを開発することにこだわった。油でコーティングされた粒子の表面を水馴染みのいい状態に変えるという仕組みで、国内外で特許を取得している。

このマジックウォーターを使い、化粧品企業やブランドがユーザー向けのイベントを開催する機会も増えている。化粧品を使いきれず捨てることに罪悪感を感じている消費者は少なくない。マジックウォーターがあれば、手元に残った化粧品も手軽にアップサイクルが可能だということを知ってもらうための活動のひとつでもある。

86.3%のユーザーがコスメを使いきれずに捨てることがあるという調査結果

「化粧品は肌につけるものなので薬機法をクリアし、安全性が高い。その特長を損なわないよう、界面活性剤を使わずに開発したかった。製造は化粧品のOEMメーカーに依頼し、色材としてだけでなく、フェイスペイントやボディペイントとして肌の弱い方にも安心して使っていただける処方としている。マジックウォーターは、粉状であればどんな化粧品でも溶くことができる。また、一度マジックウォーターが付いた化粧品を再度化粧品として使うことも可能だ。画材として使うことで『良い色だ』と実感し、改めてメイクに使ってみたという声もいただいている」(田中氏)

一方、化粧品企業からの余剰のコスメ原料はモーンガータがバルクで購入し、水に溶けるよう色材として加工したプロダクト「SminkArtときめくペイント」として販売している。マジックウォーターはユーザーが使い切れずに残している化粧品を溶いて色材化するためのものであるが、このSminkArtときめくペイントは水道水で溶いて使用できる。

「コスメは肌の透け感を活かして発色するので、そうした化粧品特有の発色感が従来の絵の具などと違うところだ。また、カラーコスメの多くはさまざまな種類のラメやパールが入っているため、キラキラとした質感や見る角度による表情の変化も楽しめる。マジックウォーターは乳化するようにもつくっているので、香水やアロマオイルを混ぜて香り付きの絵の具やキャンドルにするといったこともできる」(田中氏)

化粧品とマジックウォーターで描かれた絵
アクセサリーやキャンドル、レンガなどさまざまな色材として活用できる

TOPPANとの協業で余剰カラーコスメ原料を印刷インクに

モーンガータでは、余剰のカラーコスメバルクを印刷インクや建材などにアップサイクルする取り組みも行っている。TOPPANとは、水性のフレキソインキ、生地用インキ、シルクスクリーン印刷に対応した紫外線硬化スクリーンインキの3種類をラインナップする「ecosme ink®」を開発し、紙や布、樹脂などさまざまなものに印刷が可能だ。化粧品企業には、自社の余剰カラーコスメ原料をインク化し、化粧品パッケージや販促物などとして自社で活用する仕組みも提供している。

「このプロジェクトは、TOPPANからお声がけいただいた。技術的にはスムーズに開発できたが、化粧品企業から配合成分などを開示してもらう必要があり、そこが大きなハードルとなった。どこまでなら情報の提示を許容できるかを各化粧品企業と相談して水準を決めることで実現した。サステナブルな活動に賛同してということもあるが、化粧品ならではのキラキラ感などを魅力に感じてもらい、アパレルのショッパーなどで使っていただくことも増えている。インクの価格も通常の1.2倍ほどに抑えることができ、活用いただきやすくなっている」(田中氏)

TOPPANとの廃棄化粧品をインク化する取り組み

文具メーカーのサクラクレパスとは、カラーコスメバルクを色材とした水性ボールペン「SminkArtペン(スミンクアートペン)」の共同開発も行った。まずは、兼ねてからメイクアップ化粧品のアップサイクルに共同で取り組んでいるコーセーと花王にノベルティとして提供し、2024年10月9日に多摩美術大学の学生らによるSminkArtペンを活用したデザインコンテストを実施する予定だ。また、2025年4月にはモーンガータより全国展開の雑貨量販店における一般発売を予定している。

「サクラクレパスには、こちらからペンの開発を相談した。水性ペンはペン先が細いため、大きめのラメやパールがひっかかる。そこを解消しつつキラキラ感を出す点に苦労した。こちらは発表してから文具好きの方々からのリアクションが大きく、問い合わせを多くいただいている」(田中氏)

サクラクレパスとの、廃棄化粧品を水性ボールペンのインクにする取り組み

ほかにも、コロナ禍でパーテーションとして使われたあと、廃棄が増えたアクリルに混ぜてカラーのアクリルにリサイクルしたり、ペットやポリエチレン、ポリプロピレン、ABSなどさまざまな樹脂に混ぜて容器にすることなどを検証している。大日本印刷と開発した、紙と衣類の繊維の破砕物にカラーコスメ原料を混ぜた強度の高い紙製カラーボードは、店頭什器や展示会ボードにも活用できる。塗料の色材としても利用され、化粧品原料商社の倉庫兼オフィスの塗装に使われる予定だ。コンクリートにも強度を落とさず混ぜられ、カラーのコンクリートも開発している。

「起業してしばらくは、マジックウォーターを活用した消費者向けプロダクトやイベントで我々の活動を知っていただくことが大事だと考えていた。同時に、事業を継続させていくためにBtoBの素材開発が軸になるだろうと当初から想定しており、それがやっと今実ってきているところだと感じている」(田中氏)

モーンガータのビジネスモデル

コーセー、花王など大手化粧品企業との協業

2022年にはコーセーと花王がモーンガータとの協業を発表している。各社から余剰のカラーコスメ原料を仕入れてアップサイクルするほか、店頭でのマジックウォーターの販売や化粧品ボトルへのアップサイクルなどさまざまな取り組みを行っている。

「コーセーは前職のアルビオンの親会社で人脈もあったため、廃棄せざるをえないカラーコスメ原料を提供してほしいと相談し取引できることになった。そしてコーセーと花王がサステナブル領域で提携していることから、花王とも協業できることになった。こうした社会的信用のある化粧品企業との取り組みができたことが我々の信頼となり、賛同していただける企業が増え、2024年9月現在は16社と取引している。最初は化粧品業界から廃棄問題にフォーカスされたくないという思いも感じていたが、今では、我々の取り組みがポジティブに捉えられるようになっている」(田中氏)

余剰のカラーコスメバルクの購入は、まず化粧品企業各社から廃棄予定の原料のリストをもらい、そのなかでアップサイクル可能なものをバルクで購入していくというプロセスだ。

「無料でもよいという企業もあったが、リサイクル法の観点からは無料で引き取ってアップサイクルすること自体がグレーゾーンであり、社会的信用を失うようなことはできない。プロダクトの材料としての購入という形を取ることで、法規制に抵触しないようにした」(田中氏)

協業先とは、マジックウォーターを活用したワークショップの開催で化粧品メーカーと顧客とのコミュニケーションづくりをしたり、商業施設や化粧品メーカーで消費者が使い残した化粧品を回収する取り組みをサポートしたりもしている。

「ワークショップは、消費者の声を聞けるコミュニケーションツールとして、企業の方々に活用いただいている。消費者の使い残した化粧品のアップサイクルは、ケースからかき出したり、色分けしたりという作業が大変なので一部商業施設やブランド等だけで実施しているが、その作業を障害者の方の就労施設にお願いすることで障害者の方の雇用創出にもつなげられたらと考えている」(田中氏)

新たに取り組む化粧品の重油化と収集・供給の仕組みづくり

今後は口紅やクレンジング材といった固形や液体の化粧品、あるいは、分別が大変な消費者から集めたものや、店舗から返品・在庫などで回収した商品をパッケージごとアップサイクルできるよう、新たな取り組みをはじめている。化粧品企業の返品や在庫の廃棄処分費用は、バルクや原料以上の金額規模で、大きな市場となる。

「新たに取り組んでいるのは化粧品の重油化だ。中身だけでなく容器に含まれる炭素資源も原料となるので、化粧品をボトルごと重油にすることができ、分別の手間が必要ない。実績としては、1,500キログラムのクレンジングオイルから1,200キログラムの重油ができた。残渣として残る炭は雪を溶かす融雪剤として使えるので、何を材料にするかにもよるが、90%以上を有効活用できる」(田中氏)

こうした取り組みには、原料となる余剰化粧品の収集や、管理の仕組みを効率化していく必要もある。モーンガータでは、TOPPANと総合商社と組み、それらの課題解決と合わせて、廃棄物の可視化や廃棄せざるを得ないカラーコスメ原料の業界内流通の仕組みづくりにも取り組んでいる。

「TOPPANには既存事業において培った3PL(物流)の強みがあり、総合商社には各方面とのパイプやファイナンス、仕組み構築のノウハウがある。弊社を含めたこの3社で、まずは、どのような廃棄物がどこでどれくらい排出され、それらが何%有効活用されているかが可視化できるシステム構築を実施し、環境負荷指標を算出するためのトレーサビリティの提供とDPPによる認証サポートを展開したい。また、化粧品各社への原料調達のみならず、調達後のトラックで化粧品各社からの廃棄物を回収するといった、物流の2024年問題を見据えたコスメ原料の調達と廃棄回収の効率化を図るモデルを考えている」(田中氏)

今後は、海外進出も視野に入れている。マジックウォーターは海外でも特許を取っており、すでに中国、フランス、シンガポール、米国などに輸出している。

「生活者のエコ意識が高く共感を生みやすいフランスなどから始めて、海外でもビジネスを展開していけたらと考えている。まだまだ消費社会は続くと思うので、そのなかで廃棄をゼロにするという理想論を掲げるよりも、持続可能な社会にするための現実的な手段を地道に積み重ね、余剰や廃棄せざるを得ない化粧品の有効活用100%を目指していきたい」(田中氏)

Text:平田順子(Junko Hirata)
Top image & photo:株式会社モーンガータ