見出し画像

アフリカ美容市場動向、DXとアクティブな消費者増でスタートアップが躍進

◆ New English article
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

若年層の比率が高く、人口の大幅な増加が予測されている巨大なアフリカ市場は、化粧品原料となりうる植物性天然資源も豊富で、美容業界にとって大きなポテンシャルを秘めた地といえる。欧米に本拠地を構えるアフリカ系スタートアップの参入に加え、DXが一気に進むアフリカ各国で地場の消費者ニーズに対応したサービスが続々と登場している。

2050年には世界の4人に1人がアフリカ人、大きな可能性を秘めるアフリカ市場

アフリカは54の独立国で構成され、人口は2019年時点で約13億人だ。国連の人口統計によると、2050年には約25億人に倍増し、世界の4人に1人をアフリカ人が占めるという。アフリカは豊富な地下資源が眠ることで知られるが、近年は、若年層の比率が高く、流行に敏感で消費意欲も旺盛な中間層や富裕層も増加していることから、さまざまな領域において巨大市場として注目を集め、存在感を増している。また、欧米の大学やビジネススクール、研究所などで学んだ学生が本国に戻ってテクノロジー分野で起業しており、アフリカンテックへの投資も活発化している。

美容やファッション業界でも、欧米を中心に、アフリカ大陸またはアフリカ系の消費者をターゲットにしたスタートアップの積極的な展開がみられる。また、2020年のブラック・ライブズ・マター(アフリカ系米国人に対する警察の残虐行為をきっかけに米国で始まった人種差別抗議運動)をきっかけに、ロレアルやユニリーバが “美白” 製品の販売中止や名称変更を発表するなど、グローバル企業の間でもアフリカ系の消費者を意識したコミュニケーションや製品開発が進んでいる。

今回は、これからの成長が見込まれるアフリカ市場と躍進するアフリカ系スタートアップをレポートする。

アフリカ大陸の消費者向けEC「Jendaya」はパーソナルスタイリングサービスも

パンデミックでデジタル化が進むなか、アフリカの消費者の購買意欲を刺激するサービスが登場している。英ロンドン発のプラットフォーム「Jendaya」はその一例で、2021年7月にラグジュアリーに特化したECをスタートする。プラダ、ジバンシィといった欧米ブランドやアフリカのプレタポルテ、アクセサリー、高級化粧品などを販売するほか、アフリカ系モデルを積極的に起用し、ファッションウィーク、シーズンごとのコレクション情報などを発信する。

WWDによると、ローンチ時には招待制で約10ブランドを展開、その後、エクスクルーシブなコラボアイテムの販売や、人気のヘアスタイルにあわせてファッションをパーソナライズするスタイリングサービスも展開予定だ。アフリカで課題となっている配達日数の長さの解決も目指す。

このプラットフォームは、デジタルネイティブでオンライン決済に抵抗のないアフリカの若年層や富裕層にラグジュアリーブランドにアクセスする機会を広げるものだ。同時に、アフリカの伝統技術の価値を向上させるとともに、若いアフリカ系デザイナーのビジビリティを高めるとする。

ヘア関連のケア&ビューティをメインに成長が見込まれる美容市場

アフリカの人々にとって髪はファッションの重要な一部である。所得層を問わず、人毛あるいは人工の毛髪でできたエクステンション(付け毛)やウィッグ(かつら)を使ったヘアスタイルが人気で、アフリカ系シンガーやアーティストなどセレブリティが頻繁に髪色やヘアスタイルを変えることから、トレンドとして模倣する人も多いとされる。

仏メディアによると、アフリカ大陸の女性の髪関連の年間消費支出金額は50億ユーロ(約6,250億円)で、欧州女性の約6倍だという。セネガルでは良質なウィッグの価格は平均給与の1ヶ月分以上で、高額なものでは800ユーロ(約10万円)を超えることから、借金をして購入する人もいる。また、日中に路上でスクーターによるウィッグのひったくりに遭うなどの被害も出ている。また、定期的に美容サロンに通う富裕層は髪を美しく保つための投資をいとわない。こうした状況を考えるとヘアスタイリストやカラーを含むヘアケア、ウィッグなどの関連サービスの需要は今後も伸びそうだ。

また、大手化粧品企業が開発する製品には、アフリカ系女性のニーズに合った製品が少ない。生まれながらの髪質や肌色に自身のアイデンティティとして誇りをもつ消費者が多く、彼らの髪質や肌質に合った製品・サービスを提供するスタートアップが次々と登場している。

仏パリをベースにアフリカンテック産業のエコシステムを構築するAfrobytesは、こうしたアフリカ系スタートアップの支援を牽引している。共同創業者ハウエア・モハメド(Haweya Mohamed)氏は、FaBアフリカの初代代表を務めたのち、2021年1月にはアフリカ系のファッション&ビューティのコミュニティ「The Colors」を発足、アクセラレーターとして独自のスタートアップ支援プログラムもスタートした。

ビューティ分野の支援プログラム第1期生は、アフリカ独特のヘアスタイリングを専門とする美容師の出張サービスアプリを展開する「Ma Coiffeuse Afro」、アフリカ系女性の肌トーン専用のスキンケア「4・5・6 Skin」、アフリカ系男性専用のコスメライン「Oju-Wa」、アフリカ産の原材料を使用したコスメ「Lakroz」など7社で、フランスをベースにしてEU化粧品規制にしたがって商品開発をしている。

「4・5・6 Skin」は紫外線に対する反応の違いで分類されるスキンタイプ(Phototype)で4・5・6にあたるメラニン色素の多い肌に特化したスキンケアで、処方のパーソナライズも可能だ。

そのほか、アフリカ系の移民が多い米国でも、アフリカ系の子ども専用のヘアケア製品「Young King」、アフリカ産のシアバターを使用したケアシリーズでフェアトレードにより現地女性の自立を支援する「Shea Yeleen」などが登場しており、ダイバーシティ、インクルージョンの視点からも、アフリカ市場に特化したビジネスへの投資が活発になっている。

化粧品産業におけるアフリカ産原料のポテンシャル

Afrobytesは毎年5月25日の「アフリカの日」にアフリカンテックのイベントを開催している。アフリカの日は、1963年5月25日にアフリカ統一機構(アフリカ地域諸国の連帯・団結により、政治的・経済的発言力を強化するほか、植民地主義と戦うことを目的とする国際組織)が発足したことを記念して定められ、アフリカ諸国が結束を強める日となっている。また、1年前、奇しくもジョージ・フロイド氏が亡くなった日でもある。パンデミックの影響で、今年のイベントはオンラインでの開催となり、金融、農業、教育、健康などの分野で注目されるスタートアップや、ナイジェリア、ガーナ、モロッコなど成長がめざましい国の起業家がピッチを行った。

2020年にStation Fで開催された
Afrobytes主催イベントの様子

ビューティ領域のセッションでは「なぜ化粧品産業がアフリカの農業にとってチャンスとなるのか」をテーマに、モハメド氏がモデレーターを務め、美容に関わる企業3社が登壇した。農業は食品生産に結びつけて考えられがちだが、原材料などとして、化粧品やそのほかの産業にイノベーションを起こしうることがうたわれ、持続可能でクリーンな処方が世界的なトレンドとなるなかで、アフリカの農業がどのように恩恵を受けられるかについて意見が交わされた。

図1

アフリカは、フレグランスやスキンケアで使用されるイランイラン、シア(シアバター)、スーパーフードで注目を集めるモリンガなど天然資源が豊かだ。また熱帯雨林など過酷な環境条件で育つ草木花は、未知の可能性を秘めており、それらの研究開発への戦略的な投資が必要だ。

アフリカ特有の成分に着目して、2011年にヘアケアブランド「Adeba Nature」を立ち上げたリンダ・デンパ(Linda Dempah)氏は、西アフリカに位置するコートジボワールに育つカラパの木のオイルを原料とし、伝統的な製法で製品開発を行っている。「アフリカの人々が(日々の生活で)活用している植物の効果や利用方法などの知識は、それぞれの村で受け継がれており、世の中にほとんど知られていない」とする同氏は、R&Dに力を入れ、アフリカで使われている植物などの成分・効能分析を進める。

モハメド氏は、大手企業もアフリカ原料に着目して有用性を証明している例を示し、アフリカ産原料のポテンシャルを強調する。「LVMH傘下のディオールは、スキンケアの『カプチュール トータル』シリーズで、マダガスカルに育つ花ロンゴザを(肌をいきいきとさせる神秘的な有用成分として)使用している。また、『ワン エッセンシャル』シリーズでは、西アフリカのブルキナファソで栽培された(デトックス効果を持つ)ハイビスカスを採用し、いずれの製品も100ユーロ(約1万3,000円)以上の価格で販売している」(モハメド氏)

ディオールはマダガスカルや
ブルキナファソなどに独自の
ディオール ガーデンを設け、
ロンゴザなどを栽培

だが、アフリカのスタートアップが歴史ある大手企業と同じ成分を使用しても、いまの段階では同価格で販売することは難しい、と指摘するのが米国でアフリカ系のタレントエージェンシーEGMNYを経営するヤスミナ・エドワーズ(Yasmina Edwards)氏だ。「大手企業は卓越したマーケティング能力だけではなく、長年にわたり築いたブランド価値と信頼がある。小さな会社はそれをまだ持っていない」と指摘し、そのギャップを埋めるには、消費者がブランドの価値を認め “意識的”にお金を使うことが必要であり、そのために起業家は自社のフィロソフィーやストーリーを正しく伝え、啓発する必要があると説いた。

課題はそのほかにもある。モハメド氏によると、アフリカにはヨーロッパのEU化粧品規制、米国のFDA(米国食品医薬品局)のような品質をコントロールする機関として、南アフリカにはSAHPRAがあるものの、すべての国で品質管理が徹底されているわけではない。アフリカ製のファッション、美容製品などを販売するプラットフォーム「Moonlook」を展開するネリー・ワンジ(Nelly Wandji)氏は「米国のようにファクトチェックをして成分の有用性をデータで示し、アフリカを国際的なレベルに引き上げる必要がある。そのために戦略的に投資を集めるべきだ」と強く訴えた。

セネガル政府が支援する化粧品産業のエコシステム

アフリカ最西端のセネガルでは、政府が化粧品産業の支援を始めている。2021年5月中旬の仏大手新聞ル・モンドによると、2021年4月に首都ダカールに化粧品研究の専門学校 Farifima International Cosmetology Schoolが設立された。化粧品事業の起業家育成コースと品質管理や研究所など化粧品産業で働くための国家資格を取得するコースがあり、政府が9割近く学費を補助している。7万6,225ユーロ(約950万円)の予算で120名が支援される予定だ。

設立者であるマリアン・ウァタラ(Mariane Ouattara)氏は、カナダで化学の博士号を取得。2018年に祖国に戻り、ラボラトリーを開設して化粧品ブランドを立ち上げた。セネガルには原料が豊富だが、製造部門で働く人材が足りないことから、雇用条件に適う能力を身につけるための学校の設立に至った。人口の76%を35歳以下が占めるセネガルでは、失業率が高く、若者の国離れも問題になっている。美容サロンの養成学校、化学者や化粧品研究者、皮膚科医の育成など、まだまだ支援が必要との声もあるが、化粧品産業を雇用創出や成長の有望な市場とみなし、政府が大きな一歩を踏み出したといえる。

ビューティテックがアフリカでいち早く普及する可能性

アフリカでは道路など物理的な社会・経済インフラが十分に整っていないことから、逆に最先端テクノロジーを利用した新規サービスが一気に進んでいる。いわゆるリープフロッグ現象(カエルが跳ぶように飛躍的に発展すること)だ。

たとえば、アフリカの農村地には近くに銀行やATMがない、あるいは銀行口座が作れない人も多い。ケニアでは自国の通信会社Safaricomと英国Vodafoneが2007年にモバイルマネーサービスM-PESAを共同で立ち上げた。この金融サービスはスマートフォンの急速な普及とともに拡大し、4年たらずでケニアの成人の約80%に利用されるようになった。また、米スタートアップZiplineはドローンに規制が少ないのを活かし、2016年にルワンダで、ドローンによる輸血用血液や医薬品など人命救助のための物資配達サービスをいち早くスタートした。最高時速128kmで運び、目的地に到着したらパラシュートで地上に降ろす。道路網が行き届いていない地域にも数分で最適な温度を保ちながら届けられるという。

化粧品においても、アフリカ系の髪質や肌質に合った製品や販売店が少ないことから、美容分野でもたとえば、IoTデバイスやデジタルミラーによるパーソナライズしたコスメ、デジタルネイルプリンターなどが急速に普及する可能性もある。この巨大市場をどうとらえていくのか、スタートアップの動きをこれからも注視する必要がありそうだ。

Text: 谷 素子(Motoko Tani)
Top image: Dragana Gordic via Shutterstock

ありがとうございます!メルマガで隔週で更新情報配信中。ぜひご登録を!
25
美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディアです。詳しくは → https://goo.gl/7cDpmf  BeautyTech.jp(English)move to https://medium.com/beautytech-jp