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クリーンビューティ先駆けとして28年の信頼感、米国「OSEA」のコミュニケーションと成長

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1996年、米カリフォルニアで設立されたクリーンビューティの先駆けのひとつであるスキンケアブランド「OSEA(オーシア)」。資生堂が買収を検討しているとの報道も流れた同ブランドがいかにして成長を維持し、ファンコミュニティとの関係を深めてきたのか、美容コーディネーターの弓気田みずほ氏が、代表的な商品を実際に試用したレビューとともに解説する。


自然の力を活用したビューティウエルネスに早い段階で着目し家族で創業

OSEA」は、1996年に米カリフォルニア州マリブでジェニファー・パーマー(Jenefer Palmer)氏とメリッサ・パーマー(Melissa Palmer)氏の母娘によって設立されたスキンケアブランドだ。ブランド名は「Ocean(海)」「Sun(太陽)」「Earth(地球)」「Atmosphere(大気)」の頭文字からとられている。多種類の海藻など100%植物由来成分を配合したヴィーガンでクルエルティフリー処方がコンセプトで、その製品は、北米をはじめとし世界30カ国以上に配送可能な自社ECサイトのほか、アルタビューティや百貨店、化粧品専門店などで販売されている。

ブランドの原点は、米国のカイロプラクターの第一人者であったジェニファー氏の祖母が足の怪我が原因で寝たきりの状態になった際、当時住んでいたロングアイランド湾の極寒の海に足を浸けるという療法を思いついたことにあるという。リハビリの過程で得た知見を家族で共有したことが、海の恵みを活かす化粧品という発想につながったとされる。

ジェニファー氏は考古学者のキャリアから転身して指圧などのマッサージセラピーを身につけ、南カリフォルニアで最初のウエルネスコンセプトのスパのひとつでディレクターとなる。祖母を癒した海の力に着目して自宅でスキンケアを作り始め、抗酸化効果や保湿効果をもつ海藻をベースにした製品を完成させて、1996年に「OSEA Malibu」のブランドを立ち上げた。娘のメリッサ氏も共同設立者となり、10年ほどは自宅のガレージで梱包、出荷などすべての業務を行っていたという。

有名セレクトショップ「フレッドシーガル」での取り扱いをきっかけに、スパやホテルをはじめ、卸売やオンラインにも販路を拡大。ブルーミングデールズ、ノードストロームなどの百貨店、ブルーマーキュリー、アルタなどのビューティセレクトショップを通じて、全米に1,000拠点を持つまでに成長した。2020年末にはオーストラリア、ニュージーランドにも進出を果たしており、直近の年間売上高は約1億ドル(約143億円)とされている。

2024年7月には、資生堂が買収を検討しているというニュースも一部で流れた(後日買収は中止)が、クリーンビューティの王道をいくコンセプトとユニークなブランドストーリー、消費者からの製品への高い評価、世界展開の伸びしろなどを考えると、グローバル大手のビューティ企業がブランドポートフォリオに加えたいブランドのひとつであることは間違いないだろう。

ベストセラーのセラムなど4製品を実際にトライアル

OSEAの製品には海洋由来の成分が多く配合されているのが特徴だ。褐藻・緑藻などの海藻エキスや海塩、珍しいところでは海底火山周辺の熱水から得られる発酵物が活用され、肌のマイクロバイオームのバランスを整えてバリア機能を高めるとともに、抗炎症・抗酸化効果でエイジングケアにも寄与するというのが基本的なアプローチだ。これら海洋由来の天然成分をベースに、アーユルヴェーダなどで伝統的に用いられてきた薬用ハーブ、植物性スクワラン、ヒアルロン酸などが製品処方の目的に応じて配合されている。

今回はブランドを代表するベストセラーやロングセラーアイテム4品を試用した。公式サイトでは6問の質問に答えることで、各自に適したクレンザーとモイスチャライザー、肌悩みに対応するアイテムが提示される。質問は肌の状態のほか、生活環境、ストレスを感じるレベル、紫外線を浴びる機会など、ライフスタイルを聞くものが多めだ。年齢に関する質問では、肌にふさわしい製品を選ぶために年齢の情報が必要であることを説明し、年齢で区別されることを好まないユーザーに配慮するなど、丁寧なコミュニケーションにブランドのオープンな姿勢が感じられる。

⚫︎Hyaluronic Sea Serum

Hyaluronic Sea Serum 30ml 88ドル(約1万2,600円)

OSEAのベストセラー美容液。高分子・低分子の2種のヒアルロン酸が肌表面を含む角質層内で水分を抱えこむことで高い保水効果を発揮し、キメをふっくらさせる。ヒアルロン酸とのコンビで、肌の水分を効果的にとどめるように働く「海松(ミル)」という海藻エキスに加え、抗炎症作用と鎮静作用をもち「次世代のヒアルロン酸」として欧米で注目されているスノーマッシュルームエキスが配合されている。水分補給に特化した処方のため、ニキビに悩む人や脂性肌が多い傾向の男性ユーザーからも支持を受けている。

浅瀬の海を思わせるような薄いグリーンの美容液は、かなり粘りのあるテクスチャーだが、肌になじむとベタつきが残らず、みずみずしいうるおいが長持ちする。ただし、皮脂が少ない乾燥肌の人は、このあとクリームなどを重ねる必要がありそうだ。

⚫︎Atmosphere Protection® Cream

Atmosphere Protection® Cream 60ml 54ドル(約7,700円)

軽い感触の乳液状モイスチャライザー。フリーラジカルから肌を保護しながら肌のマイクロバイオームのバランスを整え、外的環境からのバリア機能を高める。UVケア機能はないが、紫外線による肌ダメージにも対応。抗酸化・抗炎症作用をもち薬草として用いられるキク科のハーブのエルフドックのほか、海洋性多糖類のブレンドやシアバター、ナイアシンアミドが保湿・保護効果を発揮する。日中の保湿として、また化粧下地としてもベースを邪魔しない仕上がりになる。OSEA製品にはいわゆるUVケアアイテムが存在せず、この製品を日中の「プロテクション」と位置付けている。

⚫︎Collagen Dream Night Cream

Collagen Dream Night Cream 55g 68ドル(約9,700円)

夜間の修復機能に着目し、ストレスを受けた肌のエイジングサインに集中的にアプローチするナイトクリーム。2週間続けて使用することでストレスや睡眠不足の肌に表れるくすみや乾燥、クマ、シワ、ハリのなさが改善され、中程度から高程度のストレス下にある被験者による連用試験でも、ほぼ100%の満足度を得られたという。

配合されている藍藻類から得られるブルーアルジーエキスは、肌への刺激が極めて少ない「次世代レチノール」として近年注目されている。アーユルヴェーダでも伝統的に用いられてきたというハーブのキングオブビターズは抗炎症作用をもち、疲れた印象を払拭する効果があり、ピンクロックローズエキスはメラノサイトの活性化・メラニン生成の両方を抑える働きをもつ。ベタつきのない適度な保護感で、翌朝まで肌のうるおいが守られている感覚が得られ、朝の洗顔後にもなめらかさを実感できる。

⚫︎Ocean Cleansing Milk

Ocean Cleansing Milk 150ml 54ドル(約7,700円)

敏感肌にも安心して使えるなめらかなクレンジングミルク。肌の汚れやメイクアップ、大気汚染物質などを穏やかに取り除く。ボディケアシリーズにもメインで配合されているワカメの一種の褐藻エキス、肌を引き締めるウィッチヘーゼルエキス、サフラワー種子油のほか、天然保湿因子に近く肌と親和性の高い異性化糖により、肌のうるおいを奪わずにやわらかく保つ。

ダブル洗顔を好む場合はこのあと洗顔料を使う。厚みのあるミルクで肌を摩擦せずに使用できるが、もちのよいタイプのファンデーションやリキッドアイシャドウなどフィット感の高いメイク品は、やはり落ちにくい。コンセプトやユーザーのライフスタイルを考えると、ファンデーションを使わない人の洗顔料代わり、もしくはごくライトなメイクをオフするものという印象だ。

社会活動へのコミットメントとブランドストーリーの拡散

OSEAはブランド誕生当初から「ヴィーガン」「サステナブル」「エシカル」に根差した製品づくりに取り組んできた。クルエルティフリー、容器リサイクルなど一般的な取り組みに加え、企業活動によって発生する炭素の量を相殺する「クライメートニュートラル」の認証を取得。カーボンオフセットにより得られた財源を海の環境保護と海藻の再生プロジェクトに充てている。さらに、原料となる海藻を持続可能な方法で養殖されたものに切り替える取り組みにも着手している。また、化粧品原料の安全性にも着目し、地元カリフォルニア州において、がんや先天性異常などを引き起こす可能性のある成分の表示を義務付ける「安全化粧品法」の成立にも貢献した。

ブランドの急成長と社会活動へのコミットメントの背景には、2016年にCEOに就任したメリッサ氏の存在が大きい。同氏は10代でOSEAブランドの創始者に名を連ねたのち、自身のビジネスを立ち上げるために数年間ブランドを離れ、D2Cビジネスとソーシャルメディアマーケティングを学んだ。メリッサ氏はOSEAに戻った2016年以降、ソーシャルメディアでのプレゼンスを高めるための戦略を強化した。Instagramでのインフルエンサー施策に加え、ポッドキャストで自身がブランドやビジネスについて語る場を設けたほか、ブログを通じてブランドの理念やライフスタイルを伝えるなど、製品の背景にあるストーリーを消費者に届けることで人々のブランド理解を深めるコミュニケーションを徹底した。

2018年にはロサンゼルスの中心街に初の直営店をオープン。2021年にはウエルネスに貢献する企業に投資を行うベンチャーキャピタルのCAVUパートナーズから少額の資金提供を受け、コロナ禍の厳しい状況にありながらも製品開発やマーケティングを加速させた。

Instagramのフォロワーは2024年9月現在で約44万人。ブランドの名前のとおり、美しい海とその恵みを享受するライフスタイルを伝える投稿で埋め尽くされる一方で、公式サイトのユーザーレビューでは40代~60代以上のレビューが半数を占めている。長く愛用しているというコメントも多く、製品だけではなく、ブランドの理念に共感をもつファンの層の厚さを感じさせる。

ソーシャルメディアを活用してブランド認知を広めるとともに、パーマー母娘が自らメッセージを発信して理解を深めるという「拡大」と「深化」両軸のコミュニケーションが奏功していると考えられる。

OSEAは北米以外に、ハワイやモルジブ、西インド諸島などのリゾート地にも進出している。すべてのロケーションがブランドの根幹である海に面しており、ブランドの理念や取り組みを伝えるために最適の場所を意識して選んでいるようだ。

「クリーンビューティ」というワードがトレンドになるはるか前から、北米市場には西海岸独特のナチュラル・ウエルネス志向から生まれた“クリーン”なビューティブランドが数多く存在する。また、ベアミネラル、ドランク エレファントなど、女性創業者が自宅で始めた小さなビジネスが、グローバルブランドに成長を遂げた例も少なくない。しかし一方で、大手企業による買収や多額の投資を受けて急速に拡大路線に乗ったがために、海外展開でのローカライズに苦しむケースもある。

母娘のファミリービジネスから始まったOSEAの年間売上高は、前述したように約1億ドルにまで伸びたが、現在でも70名程度のスタッフで運営されているという。外部からの資金調達により積極的な成長戦略を推し進めながらも、少人数で着実にブランドのコントロールを行ってきたことが、OSEAがあまたのクリーンビューティブランドのなかで、30年近く存在感を発揮しつづけている理由のひとつではないだろうか。

Text: 弓気田みずほ(Mizuho Yugeta)
Top image and photo: 編集部撮影