スクリーンショット_2019-08-05_13

エスティ ローダーなどNY「テック先進組」が議論する次世代型パーソナライゼーション

New English article
◆ 新着記事をお届けします。以下のリンクからご登録ください。
Facebookページメルマガ(隔週火曜日配信)
LINE:https://line.me/R/ti/p/%40sqf5598o

画期的テクノロジーで顧客の関心をひく時代は終わった。2019年6月にニューヨークで開催された「The Global Beauty Tech Forum」で示された強いメッセージだ。これからは、顧客との「人間的ふれあい」を重視し、個々の悩みやニーズに応えるテクノロジーという新たな可能性に挑戦すべきだと、主催者のパーフェクト・コープをはじめ、エスティ ローダーやベネフィット・コスメティクス、そして、ウルタ・ビューティ、ニュートロジーナなど各ブランドがそれぞれの立場からの活発な意見交換を行った。その模様を2回に分けてレポートする。1回目はテクノロジーによりパーソナライズを深化させる各ブランドの試みについて。

2019年6月18日、ニューヨークでThe Global Beauty Tech Forumが開催された。主催したパーフェクト・コープの発表によると、ブランド、リテール、メディア関係者など当日の参加者は約400人。スピーチや4つのパネルディスカッション、デモンストレーションなどが行われた。

会場には約400人が詰めかけた

好みやニーズまで理解したパーソナライゼーションになる

「若い人たちにとって、商品を購入する前にそれを試すのはもはや当たり前。商品を試す人が増えれば、それだけ購入者も増える」。冒頭の基調講演のなかで、バーチャルメイクアプリ「YouCamメイク」を提供するパーフェクトの創業者兼CEOのアリス・チャン(Alice Chang)氏は、何度もこの言葉を繰り返した。

同社アプリ上で行われた「ARお試しメイク(トライアウト)」の件数は2018年だけで70億回に達し、2019年は105億回、さらに2021年には2018年から倍増の149億回に達すると予想する。アプリ利用者の76%はミレニアル世代とZ世代だ。

基調講演を行ったパーフェクトのチャン氏

こうした消費者の変化を受けて、ブランドやリテールはどのように変わろうとしているのか。その解の一つが、大量のデータとAIを駆使したパーソナライゼーション・サービスの強化だ。たとえば、肌色に合ったファンデーションを提案するだけでは、顧客はもはや物足りないと感じるかもしれない。顧客がどんな悩みを抱え、何に対し嬉しいと感じ、自分をどのように表現しようとしているのか、個々の好みやニーズを理解したうえで、それに応える「選択肢」を提示する。これまでよりもさらに深化したパーソナライゼーションが求められている。

パーフェクトは開発中の新技術として
「AI肌チェック」を披露した

パーフェクトのチャン氏は、カメラ技術とビジュアル・コンピューティング、AIとビッグデータ、そしてオムニチャネル対応の3分野の開発を同時に進めることで、「顧客の視点に立った」一歩先を行くパーソナライゼーションを目指す同社の方針を説明。開発中の中核技術として、8万9,969 種類もの色味から顧客の肌にもっともフィットするファンデーションを検出して提案する「AIスマート・シェード・ファインダー」、肌のシミ・シワ・キメ・クマに加え、水分量、皮脂量、赤味などを分析する「AI肌チェック」、そして、肌の色や状態、個々の好みやスタイルに応じてメイクを提案する「AIビューティ・アシスタント」などを実演した。

話題作りに貢献、顧客満足度もアップ

化粧品ブランド各社が顧客体験に関する取り組みを紹介するパネルに登壇した、エスティ ローダーのグローバル・リテール・エクスペリエンス担当VPの小幡元氏は、「(商品や顧客体験の)パーソナライゼーションに力を入れており、ここ数年はそれをさらに進めるテクノロジーの活用法を模索してきた」と語り、昨年よりはじめた新たな施策2件を披露した。

ブランドによるパネルに登壇した、
写真左からモデレーターを努めた
Real Simpleの
ビューティ・ディレクター、
ヘザー・ミューア・マフェイ
(Heather Muir Maffei)氏、
ベネフィット・コスメティクスの
ダイブワッド氏、
コティのゲランタビー氏、
ニュートロジーナのライエ氏、
エスティ ローダーの小幡氏

1件目は、カスタムデジタルプリンターを使って作る口紅ケースの提供だ。店舗で口紅を購入した人向けの特別な無料サービスで、好きな模様や名前、メッセージを入れることができる。同様のサービスは他社も提供しているが、同社の場合、その場でケースを制作して顧客に渡すところが新しい。

エスティ ローダーの口紅ケースを
作る店頭用デジタルプリンター 
画像提供:エスティ ローダー

英国の数店舗でキャンペーンに合わせて試験的に導入したところ、ギフト用などに口紅を購入する人が急増。インフルエンサーやメディアにも取り上げられ、話題作りに貢献した。今後は同様のサービスをアジアでも展開する計画という。

2件目は、店頭で顧客に好きな色を数色選んでもらい、その人だけの特別な口紅を作るというサービス。こちらも英国で試験的に行い、その後、香港と米国でも実施した。いずれも好評だったことから、イベントの集客材料としてアジアとヨーロッパで展開する考えだ。

直近では、AIスマート・シェード・ファインダーをパーフェクトと共同開発した。顧客の肌色やつけているファンデーションの色をカメラとAIによって認識し、さらに肌色に合った色を提案する。

しかし、自身の肌色に完璧にマッチするとされた色を、消費者が必ずしもよしとして欲しがるとは限らない。たとえば、アジアでは“最適な色”よりも薄い色を好む傾向がある。そこで、その人に合った色に加えて、暖色系や寒色系などバリエーションも提示して、ほかの色もバーチャルにトライできるようにしたのである。

「エスティ ローダーのダブル ウェア ファンデーションは全部で60色以上(世界合計)あり、そのなかにはその人にピッタリの色が必ずあるはずだが、種類が多いと探すのも大変だ。AIによって肌色にパーフェクトにあう色を提案すると同時に、顧客が好みそうな色の選択肢をあわせて提案する」と小幡氏。パーソナライゼーションを追求した結果、「個人にパーフェクトな色」の定義を抜本的に見直した結果といえるだろう。

エスティ ローダーは2017年にはパーフェクトと提携し、「30 Shades 30 Seconds(30秒で口紅30色を試そう)」というキャンペーンを英国で実施した。店舗を訪れた人が一度に試す色はせいぜい2~4色程度、しかも使い慣れた系統の色味に偏りがちだが、店頭に設置されたデバイスを使用したバーチャルトライなら何色でも簡単に、そして普段は手を出しにくい色でも気軽に試すことができる。

これにより「顧客が1回の来店で購入する口紅は普通1本だが、2~3色まとめて買う人が増えた。(バーチャルメイクに興味を持ち)カウンターに足をとめる人も増えた」と小幡氏は明かす。同社は現在、約40カ国の一部店舗にバーチャルメイク用デバイスを置いている。

創造性と実用性を提供

ベネフィット・コスメティクスも、テクノロジーによってパーソナライズした顧客体験の創出にこだわっている。アイブロウ・エキスパートとして評判の高い同社らしく、アイブロウ分野にとくに注力したバーチャルメイクサービス「Brow Try-On 」を公式サイトなどで提供しており、顧客は自分の眉を好みの形に変え、さまざまの色を試すことができる。

ベネフィット・コスメティクスは、
動画を使ってBrow Try-Onを紹介した

ベネフィットのグローバル・デジタル・マーケティング担当アソシエイト・ディレクターのエミリー・ダイブワッド(Emily Dybwad)氏は、バーチャルメイクを採用した理由を「当初は販促にモデルを起用していたが、それではアイブロウによって顔の印象がどれだけ変わるかを、顧客に伝えることができなかったからだ」と振り返る。

同社のBrow Try-Onは現在20以上のウェブサイトでの利用が可能で、最近ではウルタ・ビューティが一部店舗で試験的に提供を開始した。

ダイブワッド氏によると、Brow Try-Onを試した人は、そうでない人よりも「商品をカートに入れる率(add-to-cart)が44%高い」。同社は今後、Brow Try-On利用者からフィードバックを集める仕組みを導入し、顧客体験の改善に生かす計画だ。

コティ のデジタル・イノベーション担当グローバルVPのフレッド・ゲランタビー(Fred Gerantabee)氏は、バーチャルメイクには「創造的側面と実用的側面の両方がある」とする。創造的側面とは、たとえば自分には絶対似合わないと思う色でも、バーチャルなら試してみようという気になるかもしれず、つまり、テクノロジーがその個人にとっての「新たなビューティ」を見つける手段となり得るという意味だ。そして、実用的側面とは、手間をかけずに複数商品を簡単に試せる点を指す。

「私たちは、(テクノロジーによって)創造的側面と実用的側面の両方を提供したいと考えている」とゲランタビー氏。今後の課題として、「実用性提供のためには、顧客がテクノロジーにアクセスしやすい環境を整えることが大切だ」と指摘した。

個人の意見を尊重する選択肢

スキンケアブランドのニュートロジーナは1月、専用のスマートフォン用カメラとスキャナーを利用し、ひとり一人の肌状態に応じて、美容成分の配合や分量をカスタマイズできるフェイシャルシートマスク「MaskiD」 を発表した。まず、2019年第3四半期に米国で提供をスタートし、2020年第1四半期には中国でも販売を開始する。

鼻や目など顔のパーツの形や位置、肌状態を分析し、肌のどの部分にどんなスキンケア成分が必要かをAIによって提案。3Dプリンターを利用し、必要な成分を必要な部位に届けるシートマスクを個々の顔の形状に応じて作成する。

ニュートロジーナのMaskiD
画像提供:ニュートロジーナ

利用者にとってMaskiDは、自分に必要なケアは何かを理解でき、さらに1枚のマスクでケアがトータルにできる点が魅力だ。目元用にはこの商品、口元にはこれと、複数の商品を購入する必要もなければ、それらを別々に顔につける面倒もない。

ニュートロジーナのデジタル・トランスフォーメーション・アンド・サステナビリティ担当グローバル・ディレクターのエドリン・ライエ(Edlynne Laryea)氏は、商品企画にあたり留意した点として、「あなたにはこの成分が必要だと、商品を押し付けることはしたくなかった」と話す。「誰しも自分の肌について、すでにいろいろな考えを持っている。だから、個々の意見を尊重した選択肢を提供することにした」と振り返り、選択肢を検討して選ぶことも、購買体験における楽しみの1つであるとした。

ブランド側にとってはマスクを注文する人が増えればそれだけ、顧客ニーズについてデータを集めることもできる。それらを研究開発部門にフィードバックすることで、商品提案の精度を高められると今後に期待する。

これらの登壇者が示した施策の数々からみえてくるのは、現在、人々が求めているのはAIによる“正しい解答”ではなく、個々人の気持ちにまで寄り添った“納得出来る提案”だということだ。そして、こうした消費者心理の変化は、リアル店舗の現場でも起きている。

次回、ニューヨークでのThe Global Beauty Tech Forumからのレポートの後半は、テクノロジーを活用した、リテールにおける新しい購買体験の創出について紹介する。

Text: 鶏内 智子(Tomoko Kaichi)



ありがとうございます!LINE@で更新情報配信中です。ぜひご登録を!
10

BeautyTech.jp

美容業界の国内外のイノベーションを発信するメディアです。詳しくは → https://goo.gl/7cDpmf  BeautyTech.jp(English)move to https://medium.com/beautytech-jp

BeautyTech.jp記事

BeautyTech.jpのすべての日本語コンテンツはこちらからご覧いただけます
4つ のマガジンに含まれています