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いま、ブランドに起きていること(2) - 知ってもらうことの難しさ

前回、ブランドの変化として増え続けるデジタル投資コストのことを話しました。一方で、その投資が売上につながっているのかはまだ発展途上です。その中でブランド側からみたユーザーとの関係について、今回は話を進めていきたいと思います。

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ユーザーに「商品」を知ってもらうことの難しさ

ECが本格的にスタートし、SNSをはじめとしたユーザー(ここでは将来のお客様)とのダイレクトなコミュニケーションも活発になって、新しいユーザーとの関係も進化し続けています。その中で、いま一番難しくなってきているのが、実はその「ユーザーに知ってもらう」ことなのではないでしょうか。

ひと昔前は、マスメディアと言われるTVや雑誌を通して新しい情報を伝えることができました。タレントやモデル、読モという身近な存在がユーザーにとっては一つのお手本で、流行を形作っていく大きな要素でした。

しかし、いまはInstagramやTwitter、YouTubeにTiktokとユーザーが見るメディアはどんどん分散しています。しかも接触しているコンテンツ量が莫大に増えている(昔のTVが主流だった時代と比べると桁が違うコンテンツにユーザーは接触している)ので、どのプラットフォームのどのコンテンツに接触しているかで伝えるべき情報が全然違ってきます。昔のように、自社ブランドのターゲット層のペルソナにあったメディアを選ぶというより、増え続けるコンテンツをAIがマッチングしてくれているので、もうリーチでしかわかりません。

ある意味、自社のブランドにマッチしているユーザーにリーチするには効率はよいのだと思います。しかし、それ以外の新しいユーザーに出会うのが難しくなってきています。新しいブランドや商品であればあるほどです。そのため、ユーザーに知ってもらうということは、リーチとして情報を届けるだけでなく、ユーザーに見つけてもらうことが非常に重要になってきています。

お客様を知ることと、好きになってもらうことは違う

ユーザーに見つけてもらう、ということは、Web時代に入ってこの10年20年近く言われてきたことでもあります。しかし、この「見つけてもらう」ということも、Web1.0時代の検索からだけでなく、SNS時代、そしてこれからと大きく変わってきています。以前のマス広告のようにメディア属性を通じて広く認知してもらうのが難しくなったいま、お客様一人ひとりを把握、理解するために、ユーザーデータをたくさん集められるようにもなってきました。

お客様を理解するという意味ではデータは非常に役に立ちます。しかし最近私が感じているのは、「お客様を知る」ことと「お客様に好きになってもらう」ことは全く違うということです。お客様のことを知ることにお金をたくさん費やせば、その人が自分を好きになってくれるかのようなコンサルタントの話をやりとりをたまに耳にしますが、そのお客様に、適切なタイミングで情報を出せば好きになってもらえるわけではないのです。

お客様に好きになってもらうとは、どういうことなのか。そのためにどういうコンテンツや情報コミニケーションが必要なのか。ここが実は非常に多様化しています。さかのぼれば人は源氏物語の時代から、人に好きになってもらうために悩んできているのであって、テクノロジーやAIが進んだから急に解決されるわけではないのと一緒です(笑)。

特に化粧品で言えば、自社ブランドの潜在顧客として、百貨店のラグジュアリー化粧品からチェンジするお客様と、通販の化粧品からチェンジするお客様とでは、明らかにコミニケーションが違うはずです。

情報伝達だけでなく「体験」の場が必要

マスメディアがなくなり、見つけてもらうのも難しい。ましてや相手を詳しく知っても好きになってもらえるかはどうかわからない。どうしたらいいのでしょう。

何か一つやればいいのではなく、いろんなシーン、方法でコミュニケーションを積み重ねていくしかありません

何をどう伝えていくのか。伝えるべき内容も変わってきているのでしょう。ブランドにストーリーが必要だということもそうですし、いまのSDGsの潮流もブランドが伝えるべきストーリの一つかもしれません。その伝えるべき内容のアップデートとともに、伝える場としての「体験」も非常に大きな要素になってきています。

この「リアルでのコミュニケーションが大事」というのはいまに始まったことでありません。ブランドの方々はよく知っていることですが、実は化粧品こそ、この「体験」というのを大事にしてきている業界でもあります。店頭でのタッチアンドトライやサンプル配布などもそうです。ただ、「使ってもらう」というだけでは「体験」のアップデートにはなっていません。

伝える情報も伝え方も、デジタルで大きく変わってきています。ユーザーが持っている情報量も大きく変わってきています。ここで「どういう体験をしてもらうとよいのか」のアップデートを考えていく必要があると思っています。これはリアルとデジタルを組み合わせて実現していくことですし、ここに小売店舗との新しい可能性があるのではと思っています。

次の回では、ではブランドはどのような体験設計を考えていけばよいのか、を考えていきたいと思います。

次回予告:いま、ブランドに起きていること(3) - ユーザーとの接触コストは、ネットよりもリアルが安くなる

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<著者プロフィール>

吉松徹郎 株式会社アイスタイル
代表取締役社長 兼 CEO


東京理科大学基礎工学部卒業後、アクセンチュア株式会社入社。1999年7月に有限会社アイスタイル(現:株式会社アイスタイル)を設立し、代表取締役社長に就任。同年12月、コスメ・美容の総合サイト「@cosme」をオープン。2012年、東証一部上場。現在は「Beautyの世界をアップデートしながら、多くの人を幸せにしよう」をミッションとして事業を拡大、アジアを中心にグローバルにビジネスを展開。また、公益社団法人 経済同友会東京オリンピック・パラリンピック 2020 委員会副委員長、公益社団法人 経済同友会幹事を務めるほか、公益社団法人アイスタイル芸術スポーツ振興財団を設立し、理事長として現代アートの制作・展示への助成支援やスポーツイベント開催活動への助成支援を行うなど、活動の幅を広げている。「第6回ニュービジネスプランコンテスト」優秀賞(1999年)、ICS「第14回 ポーター賞」(2014年)、「EY Entrepreneur Of The Year Japan 2018」 Growth部門 特別賞(2018年)など、受賞歴多数。