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「ゲーミフィケーション」「美容×メンタルヘルス」がキーワード【海外トレンド 2023年10月-11月】

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毎月1回、ビューティ業界にインパクトを与える海外ニュースを俯瞰し、注目すべきポイントと報道の裏側にある背景を解説。グローバルな視点からビジネスの潮流をひも解く。今回は、ゲームプラットフォームのロブロックスに参入するなど新しい顧客層へのアプローチにゲーム要素を応用するブランドの動きと、新たな美容カテゴリーのひとつになるとも目されるメンタルヘルスに着目したビューティブランドについてレポートする。


e.l.fやメイベリンがロブロックスに新規参入。ニュートロジーナ、セフォラはゲーミフィケーションで顧客アプローチ

★注目ポイント
ビジネスや学習の現場に、他者との競争やポイント・報酬の獲得といったゲームの要素を取り入れることで参加者の意欲やモチベーション、エンゲージメントを上げる「ゲーミフィケーション」は、化粧品マーケティングにおいても活用が進んでいる。潜在顧客であるZ世代やα世代が集まるメタバースゲームへの進出をはじめ、ソーシャルメディアコンテンツやロイヤリティプログラムでも“ゲーム化”は新しい体験として受け入れられている。

e.l.f Cosmeticse.l.f Skinは2023年11月、ユーザーがゲームを作成、共有したり、他のユーザーが作成したゲームをプレイしたりできるメタバースゲーミングプラットフォームのロブロックスに、独自ゲーム「e.l.f UP!を立ち上げた

これは、ユーザーが仮想空間でe.l.f製品に関連したテーマのショップを運営し、ロブロックス内で流通する通貨を稼いで億万長者を目指す起業家ゲームだ。e.l.fのマスカラの名前から採った「Big Mood」レコーディングスタジオや、同じくプライマーの名を冠したボルダミング(クライミング)ジム兼テック系スタートアップの「Power Grip」など、4つのタイプのビジネスが用意されている。さらに、e.l.fはゲーム内で使用や収集できる仮想アイテム100万個を無料で提供し、より多くのユーザーの関心を惹きつけている。

e.l.fのCMOのコリー・マーチソット(Kory Marchisotto)氏によれば、この施策は「ユーザーに我々の仮想世界の一員となってもらうことで、何度でも帰ってきたいという欲求をもたらし、ほかの人々におすすめしてくれる流れを作る」もので、e.l.fと人々との関係性を深めファンを増やすことに貢献するとしている。

ロブロックスが先ごろ公表した2023年第3四半期収益報告書によると、同プラットフォームのデイリーアクティブユーザーは約7,020万人にのぼり、前年比20%増加した。また、ロブロックスユーザーの67%が16歳未満で、22%が17歳〜24歳とされる。このユーザー分布はZ世代とα世代をメインターゲットとするe.l.fに合致している。

一方、メイベリン ニューヨークも2023年10月、クラブで踊ったりDJになったりができるミュージックゲーム「Splash」とコラボレーションし、ロブロックスに参入した。メイベリン ニューヨークは、デジタルメイクやミニゲーム、オリジナルの楽曲を提供。ユーザーがさまざまなバーチャルメイクスタイルを探求しつつ音楽活動を楽しむのをサポートすることで、これまで接点が少なかったゲームユーザーのなかにいるメイク好きな層にアプローチしたい考えだ。

また、ロレアル パリはストリートハラスメントに立ち向かうことをサポートする「スタンドアッププログラム」のロブロックスでの展開を開始した。

2020年3月に、ロレアル パリがハラスメント対処のエキスパートであるNGOのRight To Be(元Hollaback!)と提携して始動した同プログラムは、世界中の女性と少女が直面しているストリートハラスメント、つまり公共の場におけるセクシャルハラスメントを社会課題として認識し、人々を啓発するとともに、ストリートハラスメントを目撃したり経験したりしたときに安全に対処するためのトレーニングを提供している。

ロブロックス版のスタンドアッププログラムは、家や車を所有したり、旅行ができるなどアバターとしての日常生活が送れる、いわば仮想空間内でのもうひとつの社会である“ロールプレイ・テーマパーク”「Live topia」に実装された。「Distract 気をそらす」「Delegate 誰かに頼む」「Document 記録する」「Delay 後から行動する」「Direct 直接言う」の5Dの方法論にもとづく同プログラムのアンチストリートハラスメント・トレーニングを、ロブロックスならではのエフェクトや機能を使いながらアバターでも学習できるようにしたものだ。

ロブロックスでは、すでにFenty BeautyUrban DecayNYX Cosmeticsなど、少なくない数のビューティブランドが進出している。だが、同時に、ゲームプラットフォームではなく、SNS上でのコンテンツ配信や自社サイトなどを利用してゲーム要素を取り入れる“ゲーミフィケーション”施策で、自社の顧客コミュニティを活性化させている事例も現れている。

ニュートロジーナは2023年9月、米国の陸上選手で、2020年東京オリンピックで金メダルを獲得し、女子400mハードルの現世界記録保持者でもあるシドニー・マクラフリン(Sydney McLaughlin-Levrone)氏をブランドアンバサダーに任命。ニュートロジーナの15万1,000フォロワーを擁するTikTokや、同じく96万2,000フォロワーのInstagramアカウントで配信されるリアリティ番組「The Great Face Race」のホストにマクラフリン氏を起用した

ニュートロジーナが展開する「Skin’s Vitals」キャンペーンの一環であるThe Great Face Raceは、コーチ役の皮膚科医と選手役のインフルエンサーやクリエイター2名で構成された4組が、「ハイドレート」「バランス」「リジェネレート」「クリアスキン」の4つのチームに分かれて、それぞれ与えられたニュートロジーナ製品を使った、スキンケアにより肌のバイタルを高めるミッションをクリアしていくことでポイントを競う、ゲームショースタイルのコンテンツだ。同年10月1日に最初のエピソードが公開され、1カ月にわたり随時、各チームの奮闘ぶりが投稿された。

同シリーズのようなゲーミファイドコンテンツを作成することで、ニュートロジーナが何十年も取り組んできた科学技術の成果をシンプルにわかりやすく伝え、より多くの人がアクセスしやすくすることを目指していると、マクラフリン氏はブランドの意図を代弁する。加えて、消費者はいくつものステップを踏む必要のある複雑なスキンケアルーティンや、市場に溢れるたくさんの製品、ソーシャルメディア上のさまざまなアドバイスに混乱しており、そのことも今回のシリーズを制作した理由であると指摘している。

また、セフォラは2023年9月、同社のロイヤリティプログラム「ビューティインサイダー(Beauty Insider)」の会員向けに、自社の公式ECサイトやアプリ上でゲーム感覚の体験を通じてより多くのポイントが付与されるキャンペーン「Beauty Insider Challenge」をスタートした

Beauty Insider Challengeは商品の購入が必要なタスクと必要ないタスクの2種類で構成されており、一般からVIPまで全ての層の会員が参加できる。たとえば、最初のチャレンジ「Ready, Set, Sephora」では、「オンラインで購入した商品を店舗でピックアップする」「セフォラのテキストアラートにサインアップする」「オンライン購入で会計の際“サンプルをもらう”をクリックする」「店舗に設置されている自分に適したファンデーションカラーを見つけるシェードファインダー『Color iQ』を試す」という4つのタスクが求められる。

会員は1つのタスクを終了するごとに100ポイントが与えられ、4つ全てを完了するとさらに100ポイントのボーナスがもらえる仕組みだ。また、全てのチャレンジをコンプリートした会員には、Beauty Insider Cashと引き換えることができ、次回の購入時に10%オフ、あるいはほかの特典が受けられる500ポイントのボーナスが付く。

Beauty Insider Challengeには、セフォラの公式サイトのアカウントページまたはモバイルアプリからアクセスできる。あわせて、会員が進行中のタスクや完了したチャレンジを確認するための追跡システムも備えている。

「この新機能の目的は、店舗とオンラインの両方で、私たちが取り扱う楽しくエキサイティングな製品への興味を高めるとともに、セフォラに継続したエンゲージメントとロイヤリティを持ってくれているコミュニティに報いることだ」と、ロイヤリティプログラム部門の長はGlossyの取材で話している。あわせて、セフォラの主要な顧客層であるZ世代を惹きつけるためには、ロイヤリティプログラム特典や、会員だけのアクセスといった特別感が重要であり、タスクを終了するごとにポイントが貯まるなどのゲーム感覚のアクションが好まれることをセフォラは理解していると明かしている。

メンタルヘルスにフォーカスしたビューティブランドが増加

Marcel Strauß via Unsplash

★注目ポイント
政治的な緊張や戦争、気候変動による自然災害の多発など、社会全体が人々の不安やストレスをあおる状況にある昨今、美容に求められる役割や美の概念が変化してきている。メイクアップやスキンケアなどのセルフケアが、ユーザーの気持ちを上向きにする効果は知られているが、多くの消費者の考えがこれまで以上に喜びと安心感を求める方向に向かうなか、心理的な幸福と健やかな美しさの創造をうたい、メンタルヘルスに焦点を当てるビューティブランドが注目されている。

市場調査会社NIQが2022年に発表した消費者行動調査によると、「今後12カ月の間にどの分野があなたにとって重要になるか」という質問(複数回答可)に対し、回答者の65%が「メンタルウエルネス」と答え、2位の「フィジカルウエルネス」の63%を上回り最も多い回答となった。あわせて、同じ質問で4番目に多かった回答は「ストレス管理/リラクゼーション/睡眠」で59%にのぼった。

こうしたメンタルヘルスを優先する人々の意識を示す調査結果を背景に、消費者は幸福を求め、心理的な健康を改善しストレスに対処して心を鎮めてくれるビューティ製品やルーティンに興味をもっていると分析し、天然成分配合やサステナブルな処方、ホリスティックなアプローチなど、いわゆるクリーンビューティにカテゴライズされる企業やブランドが支持を集めている理由のひとつとする美容業界の専門家もいる

セレブが立ち上げたビューティ&ウエルネスブランドから、グローバル大手のマスブランド、ドクターズコスメまで、メンタルヘルスの向上にフォーカスした製品コンセプトに加えて、メンタルヘルスの理解のための啓発活動や、売上の一部を関連団体に寄付するなどの、具体的なアクションを起こしているブランドをピックアップして紹介する。

COSMOSS

出典:COSMOSS公式サイト 

「COSMOSS」はスーパーモデルのケイト・モス氏による「ソウル(魂)とセンス(意識)のウェルビーイング」をうたうブランドで、自分を慈しむという観点からのセルフケアの重要性を説く。その製品はモス氏の人生経験、旅、変化を映し出すと表現され、自然の力を借りて、内なる魂から外面へのつながりを回復することを目指すとする。クレンザー、フェイスクリーム、2種類のお茶、香水、オイルをラインナップ、いずれも持続可能な資源を利用し、ヴィーガンでクルエルティフリーの製品だ。

2024年1月から、COSMOSSは心と体のスピリチュアルヒーリングを推進する非営利組織のチョプラ財団と一連のイベントで協力し、同団体のプラットフォーム「NeverAlone」において発信を共有していくことが発表されている。

DOVE

ユニリーバのパーソナルケア製品ブランド「ダヴ」は長年、ボディポジティブを訴える啓発活動を推進してきた。2023年は、ソーシャルメディアの潜在的な悪影響に着目した「Toxic Influence(有毒なアドバイス)」キャンペーンを展開している。“完璧な美しさ”を体現しているかに見えるインフルエンサーの言動やメッセージに囲まれた若い女性の2人に1人が、自分自身と引き比べて自己嫌悪や自尊心の低下というメンタルな問題に直面しているとして、ダヴでは、こうした有毒なソーシャルメディアフィードを「解毒する」ための支援をしていくとする

具体的には、摂食障害から回復していく女性を記録したミニフィルムの公開や、ソーシャルメディアコンテンツの法的規制のサポート、若い人々がメンタルヘルスについて相談できる良いアクセスの提供などが行われている。

Philosophy 

コティは2023年4月、傘下のスキンケアブランド「Philosophy」が新しい処方基準のもとに生まれ変わり、新製品をリリースしたと発表した。Philosophyは2014年に、売上の1%を自社の「Hope & Grace(希望と恵み)基金」に寄付することで女性のメンタルヘルスの改善を支援するイニシアチブをスタートしており、こうした活動の先駆けとして知られる。調達した資金は過去9年間で580万ドル(約8億7,800万円)とされ、毎年、メンタルヘルスと幸福の促進やメンタルヘルスの悪化に関連して起こる問題の防止と治療などを目的とするさまざまな組織に、財政的な助成金を授与している

Raf Five 

著名な皮膚科医や、製薬会社グラクソ・スミスクライン出身の医薬品開発化学者、生化学者でCBDのエキスパートらが集まって開発した「Raf Five」は、カンナビノイド配合処方のニキビケアに特化したスキンケアラインを提供するブランドだ。科学的に効果が認められた特許出願中のニキビ治療技術Zylormaにより、ニキビの発現を防ぐとする。

深刻なニキビ肌のトラブルは、とくに10代の若い人々の心に大きなダメージをもたらし、不安やうつ病、社会的な孤立のリスクを高めるとの認識のもと、Raf Fiveでは同社の商品が購入されるごとに1ドルをNAMI(National Alliance on Mental Illness:全米精神疾患同盟)に寄付している。NAMIは精神疾患と診断された人々の家族によって立ち上げられた非営利の草の根団体で、精神疾患に苦しむ人々の回復支援や、訓練を受けた60名以上のボランティアが毎月6,000件以上寄せられる相談の窓口となるヘルプラインの運営などを行なっている。

Dr.Brandt 

1995年に「Dr. Brandt」を創始したフレドリック・ブラント博士は、ボトックスなどの当時の最先端の美容医療に通じた名医として知られた皮膚科医だ。同時に、東洋医学と西洋科学の双方にインスパイアされた、ホリスティックかつ医学的な皮膚治療の手法も取り入れたスキンケアコンセプトの最初の提唱者のひとりでもある。皮膚科クリニックで行われるマイクロダーマブレーション(角質剥離)技術を一般の店頭で販売される化粧品に落とし込んだクリームスクラブ状の「Face Exfoliator」は、今でも同ブランドを代表するアイコニックな製品である。

2015年、ブラント博士が自殺により亡くなったのち、Dr. Brandt財団は、多様で十分なサービスが受けられていないコミュニティのメンタルヘルスと幸福をサポートし、うつ病や自殺予防などの課題に対する意識向上のためにさまざまな支援活動を行なっている。また、メンタルヘルスについて語ることに対する偏見や誤った負のイメージを払拭するために、アーティストやアスリートらをフィーチャーしたトークイベント「#SayILoveYou」スピーカーシリーズを主催している

Text: そごうあやこ (Ayako Sogo)
Top image: The Cleveland Museum of Art via unsplash

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