
韓国APR、ユニコーン級美容スタートアップとしてめざす「美容業界のBTS」の意味
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「APRILSKIN(エイプリルスキン)」をはじめ、スキンケアから美顔器まで幅広いビューティソリューションを提案する「MEDICUBE(メディキューブ)」など数々のブランドを運営するスタートアップAPRコーポレーション(以下、APR)は、韓国を代表するユニコーン企業のひとつへと成長を遂げようとしている。創業から8年で、年間約400億円の売上を生み出すグローバル企業へと飛躍できた理由とは何か。同社の成り立ちや現況、今後の展望についてレポートする。
美容家電含むビューティソリューションブランドMEDICUBEが成長を牽引
韓国ビューティテック企業APRは、2023年3月中旬にプレIPO(上場前段階の資金調達)を実施した。その際、7,000億ウォン(約700億円)の企業価値となりユニコーン級企業として、美容業界にとどまらず、韓国経済界全体で大きな話題となった。
APRは2014年創業で、現在は、ビューティソリューションブランドMEDICUBEをはじめ、スキンケア&メイクブランドAPRILSKIN、ストリートファッションブランド「NERDY」、ライフスタイル&ビューティブランド「FORMENT」、健康機能食品&ヘルスケアブランド「GLAM.D」、インスタントフォトブースブランド「PHOTOGREY」など、6つの事業およびブランドを運営し、急成長を遂げている。

2014年に設立されたAPRの1年目の売上は約2億ウォン(約2,000万円)だったが、2021年には1,000倍以上となる2,591億ウォン(約259億円)を記録。2022年にはさらに大きく伸長し、4,000億ウォン(約400億円)を突破したこととを現地メディアが報道している。2023年の目標は売上高5,000億ウォン(約500億円)、営業利益10%アップだ。
数ある保有ブランドのなかでAPRの急成長に最も貢献しているのが、ビューティソリューションブランドMEDICUBEだ。

出典: MEDICUBEオンラインショップ
MEDICUBEはさまざまな化粧品や美容消費財を展開するブランドだが、なかでも「AGE-R」「ユーセラディープショット」「ダーマエアショット」「スキンブースターショット」などの商品で構成されるホームビューティデバイス(スキンケア美容家電)の「AGE-R」シリーズが大ヒット商品となっている。正式な販売開始から約2年となる2023年2月時点で、累積販売台数70万台、売上1,500億ウォン(約150億円)を突破した。デバイスの普及とあわせて、AGE-Rと親和性が高く、一緒に使用することが推奨されているMEDICUBEブランドの化粧品シリーズの売れ行きも好調で、同ブランドは今後もAPRの売上を牽引していくものと考えられている。
MEDICUBEは、2022年4月にAGE-R APPというアプリケーションサービスも提供開始している。同アプリはデジタルクリックというコンセプトのもと、肌タイプ診断、肌管理コンテンツ、レビュー作成機能、チャットを通じた商品使用ガイド、ユーザー同士の美容ルーティン共有機能などが実装されている。アプリを通じてユーザーとの直接的なコミュニケーションを強化し、D2Cモデルをさらに拡大していく計画だ。
MEDICUBEはSNSのみならず、テレビCMやホームショッピングなど全方位的にマーケティングを拡大しており、ここ数年で、既存顧客層であった10~30代に加えて、40~50代にまで認知度を広げている。また、韓国国内だけではなく、グローバルにビジネスを展開しているのもAPRの特徴だ。2022年には売上のうち36%(1,437億ウォン)が海外市場からのものだった。米国や日本、東南アジアなどでビューティデバイスの販売を開始しており、今後は英国、フランス、オーストラリア、南米市場などにも積極的に進出していく計画が公表されている。
APRは2014年に25歳の大学生が起業した美容スタートアップ
創業10年以内で、企業評価額が10億ドル以上の未上場スタートアップを指す「ユニコーン企業」にもっとも近い美容系企業として韓国で注目されるAPRは、どのように誕生し、成長を遂げてきたのか。
APRを起業したのは現代表を務めるキム・ビョンフン氏とイ・ジュガン氏だ。2人はそれぞれ大学在学中から事業を運営しており、スタートアップ関連のイベントで知り合ったことをきっかけに意気投合したという。

出典:APR公式ブログ
出会った当時、成均館大学校経済学科に在学していたイ氏は、化粧品流通関連のスタートアップを運営していた。一方、延世大学校経営学科に在学中だったキム氏はオンライン広告事業を手掛けていた。「良い化粧品をつくり消費者に直接知らせたい」という共通の関心を持っていた2人は、それぞれの事業を整備して、2014年にAPRの前身となる株式会社Aprilskinを共同で設立し、同名の化粧品ブランドAPRILSKINの展開を開始した。創業当時、キム氏は25歳だった。
コストパフォーマンスに優れたナチュラル化粧品ブランドというイメージを前面に掲げたAPRILSKINは、インフルエンサーなどを数多く動員し、メディアサイトにおける情報発信とECサイトでの商品販売を掛け合わせたメディアコマース戦略で、若年層を中心に人気を獲得。高いカバー力をうたう「マジッククッション」ファンデは400万個、また、「国民石鹸」という愛称で親しまれた石鹸は100万個が売れるヒット商品となった。

出典:IT Daily
APRはこうしたメディアコマース戦略による同社初のブランドの成功をベースに、次々と他ブランドをローンチ。2016年には、現在、看板ブランドに成長したMEDICUBEを立ち上げている。
キム氏らは、APR設立直後からメディアコマースでユーザーを獲得する一方、当時はまだそれほど主流ではなかったスマホなどのモバイル経由のD2Cにも注力してきた。また、自社プラットフォームに集まるデータの価値についても早くから着目。この2つの着眼点が自社の競争力を高めてきたとキム氏は振り返っている。なお、現在APRはD2C企業というカテゴリーでは、韓国内トップの売上を誇る。
「20代半ばに創業したため、どうすれば業界を革新できるかを深く考えた。最初に試みたのは流通革新だった。当時は自社モールビジネスとも呼ばれていた、いわゆるD2Cモデルが功を奏した。中間流通業者や大手プラットフォームに頼らず、自社で構築したオンラインモールで製品を販売するビジネスモデルだ。自社モールが重要な理由は、購買データが蓄積されること。顧客レビューを蓄積・分析することで、既存製品を変化させることができる。データから顧客を研究し、製品を改良し続けた結果、消費者に繰り返し選ばれるという好循環が起こった」(キム氏)
APRはマーケティング力だけでなく、韓国化粧品業界の常識を疑い、製品開発に力を注ぐという実直さも持っていた。このように製品力と販売力の両方を兼ね備えることができたことが、APRの競争力につながったとキム氏は振り返っている。
「当初、私たちのビジネスモデルや製品について韓国で説明すると、『化粧品は結局のところ保湿』といった言葉がよく返ってきた。(化粧品に求められる機能はつまるところ大差ないという)そのような意見に私たちは同意しない。米国などグローバル市場では肌にさまざまな効果を与える成分がバラエティ豊富に使用されている。実際に効果のある成分と製品のコンセプトを決定する成分は、(マーケティングの観点から)異なる場合もあるが、(韓国化粧品業界には)あまりにコンセプトだけを気にする傾向があった。簡単にいえば『製品はそれほど変わらないので、マーケティングで勝負しなければならない』というのが業界の通念だ。私たちはマーケティングには自信があったため、『良い製品とは何か』について追求することを心がけた」(キム氏)
客観的にみて、MEDICUBEの成長には時流も大きく関係していると考えられる。外出が制限されたコロナ下において、韓国市場では自宅で肌をケアする「ホームケア」が美容業界のトレンドとして浮上した。ここ数年、ホームケアデバイスの売れ行きは全体的に好調だが、APRおよびMEDICUBEは、拡大するホームケア市場を追い風に、積み重ねてきた製品力とマーケティング力をフルに活用することでシェアの獲得に成功したとの見方もできる。
マーケティングに強いメディアコマース企業からビューティテック企業へ
早くから新しいビジネスモデルやマーケティング手法を取り入れ、集積したデータを反映させた製品開発を続けてきたAPR。同社が今後より注力していくとするのが、ビューティテック領域だ。APRは化粧品開発においてOEM事業者などと協業や交流を拡大する一方、グローバル皮膚科学研究院という社内組織を立ち上げている。同研究院では、皮膚科学の専門家によって、化粧品の効果・安定性などを体系的に検証する研究が進められている。
また2023年1月には、子会社としてR&DセンターのADCを設立している。ビューティデバイスに関する最先端研究を担うADCでは、MEDICUBE製品の改善、新規デバイス開発、関連特許の出願などを総括するとしており、すでに約30件の特許出願を終えた状況だという。
また、APRが独自開発したビューティデバイス関連の技術としては、「Glow Poratin」「Toning Poration」「Deep Shot」などが公式サイトで紹介されている。
Glow Poratinは、周波数や出力エネルギーなどの変数を的確に制御し、電気刺激を通じて表皮のみに瞬間的なエンボシングホール(型押しした穴)を形成することで、刺激や痛みを抑制しつつ、有効成分の皮膚透過度を高めるニードルフリー技術と説明されている。

出典:APR公式サイト
一方、Toning Porationは、独自開発の電気放電技術によって生み出された高電圧の電気を超短時間で肌に照射する電気針を活用し、肌を損傷させることなく角質層に微細なホールを形成し、角質除去や毛穴改善を促す先端技術と解説されている。

出典:APR公式サイト
Deep Shotは、高周波を活用したコラーゲン生成技術と、超音波を活用した細胞活性化技術を通じて、皮膚組織内の細胞活性化とコラーゲンの生成を促進する新技術とされている。

出典:APR公式サイト
キム氏は「ADCで研究されている革新的な技術は、APRとほかのビューティ企業の違いを明確にするだろう。(中略)先進的な技術をベースに、国内外の消費者の満足度を上げることを持続的に追求していく」と説明。今後、研究開発体制の拡充とグローバル市場進出強化を図り、IPOを本格的に進めていくとしている。
APRは、若い世代の起業家が、美容業界の既存通念を打ち破る自分たちの新しい感覚と戦略を積極的に活かし、爆発的な成長を実現したビューティ企業のひとつだ。2022年時点のAPRのスタッフは約350名で、平均年齢は20代後半、離職率が低く、逆に非正規職勤労者の正規職転換率や女性の雇用率が高いとされる。しかも、政府の補助金や支援に頼ることなく、高い雇用効果を発揮している点も評価されている。働き方や会社の在り方も、韓国社会においては先進的だ。
キム代表は企業価値については「ユニコーン企業やデカコーン企業を目指したい」とはっきり明言している。また目指す企業像については、次のように話す。
「私たちの目標は『(美容やヘルスケア関連などの)消費財業界のBTS』だ。BTSファンはBTSが韓国のアイドルだから夢中になっているのではなく、自分が世界で最も好きなアイドルだから熱狂している。弊社製品もKビューティだからではなく、グローバルな製品のなかで一番好きだから購入される製品でありたい。世界で最も売れる製品を作るという意味では、HYBE(BTSの所属事務所)が私たちのベンチマークのひとつだ」(キム氏)
Text: 河 鐘基(Jonggi HA)
Top image: APRILSKIN公式サイト