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エクセルが試みる店頭でのアバター接客、業務効率化とCVRなどデータの可視化

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非接触リテールを実現するためのさまざまなサービスおよびツールが登場するなか、店頭での「アバター接客」の可能性を探る動きが始まっている。アバターとは「分身」を意味し、仮想空間に生成されたキャラクターを使って、美容部員・販売員が顧客とコミュニケーションやエンゲージメントを図ることを指す。日本では2021年3月から常盤薬品工業株式会社が、自社展開するメイクアップブランドのエクセルの売り場に、遠隔アバター接客ツール「TimeRep」を導入し実証実験を行っている。その成果と今後について、常盤薬品工業株式会社 サナ事業部 サナ営業部 東京支店 第3グループ統括リーダー 綱川徹也氏、TimeRepの提供元である株式会社UsideUの代表取締役社長 高岡淳二氏に話を聞いた。

販売員ひとりが3店舗で同時に接客が可能なTimeRep

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出典: BRIDGE

常盤薬品工業株式会社のメイクアップブランド「エクセル」がTimeRepを導入した理由は、ポストコロナの市場において新たな非接触リテールを実現するためだ。顧客が店頭に戻ってきたとしても、対面の接客やタッチアップなどへの抵抗感はしばらく残るはずだとして、そんななかでも「化粧品を選ぶ楽しみを手助けしたい」という思いから、アバター接客の導入にチャレンジしたと綱川氏は説明する。

「店頭に来られたお客様に、非接触ツールで何か新しい体験を提供できないかという思いがまずあった。チャットボットなどいろいろと方法を検討しながら、最終的に導入を決めたのが遠隔アバター接客ツール TimeRepだった。理由としては、非接触とはいえ人間味を残した接客を実現したかったからだ。そこで、毎年好評の『エクストラリッチパウダー』の発売時期や、初めて20色を揃えた『アイプランナー』の販促期間に合わせて、新宿や池袋などの店舗で17日間にわたりTimeRepを実証実験した」(綱川氏)

綱川写真

常盤薬品工業株式会社 サナ事業部
 サナ営業部 東京支店 第3グループ統括リーダー
綱川徹也氏

TimeRepの機能の全体像としては以下の通りだ。店頭側にはカメラが搭載されたモニターが用意される。裏側(遠隔地)では人間の販売員がPCの前に待機している。店頭の前を顧客が通り過ぎると、映像が販売員に送信される。カメラで訪問を察知した販売員が顧客に声掛けを行うと、モニターに映しだされたアバター(キャラクター)が連動して会話を始めるというものだ。

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出典: UsideUプレスリリース

販売員が操作するPCには、表情を認識するためのセンサーが備えつけられている。販売員が笑うなど表情を変化させると、アバターの表情も連動して変化する。またPCには、「おじぎをする」「手を振る」などのボタンが備えつけられている。それらを押すと、アバターが対応したアクションを行う。

なお「アバター接客を初めて経験したお客様のなかには、びっくりする方々もいた」(綱川氏)とのことだが、エクセルでは一定の効果を確認することに成功したという。

「お客様がアバターのシステムの前で足を止め、接客から販売までかかる時間は、実店舗の有人接客のそれと大きく変わらないという数字がでた。また、声掛けなどのアプローチから接客までの移管率や、そのうち販売まで至った割合も、有人接客とほとんど変わらなかった」(綱川氏)

エクストラリッチパウダー

アイプランナー

これまで人が行ってきた接客効率と遜色ないという実証結果のほかにも、綱川氏が強調するTimeRepの長所がいくつかある。ひとつは接客業務の効率化だ。

「実際に顧客と会話している際は1店舗しか繋がっていないが、待機している時は、販売員側のPCには3店舗の様子が同時に映し出されている。そのうちのどこかにお客様が訪れると、臨機応変に対応できる仕組みだ。これは、販売員の待機時間=空き時間を減らすことに繋がる。都心の店舗と郊外の店舗では、販売員の空き時間にも差がある。それらを効率的に解消・配置できるのが遠隔アバター接客ツールの大きなメリットだと感じた」(綱川氏)

遠隔アバター接客ツールを使えば、地方や郊外在住の販売員も業務に参加することができる。人材個々人の空き時間だけでなく、より多くの販売リソースを活用するという側面からみても、アバター接客が秘める可能性は大きい。またアバター接客では、デジタルデータで顧客とイメージを共有できるというメリットもある。TimeRepには、ブランド側が用意したカラーチャートや仕上がりイメージをその人の顔に合わせてワンタッチで表示できる機能があり、有人接客よりも商品をより視覚的かつ効率的に訴求することが可能だという。

「1つ課題なのは、これまでの有人接客では、髪色やメイクなど、顧客の雰囲気をみてお声掛けしたり、会話の糸口をみつけることができた。アバター接客だとそうしたタイミングや雰囲気を見計らった接客は実現しにくく、あくまで目の前に止まったお客様への接客に限定されてしまう」(綱川氏)。

今後は顧客に足を止めてもらえる言葉や方法を試行錯誤しつつ、精査していくことが重要になる。また2つめの課題は、アバター接客自体の認知をどうあげていくかだ。

「接客から販売への移管率がリアル接客の場合とそれほど変わらないので、“入り口”をどう馴染みのあるものにするかが実装のカギだと思う。まだ試験的な段階ではあるが、近い将来、全国で水平展開できないかを検討している。顧客に価値ある体験の提供と、販売員が働きやすい環境を構築するという両面でアバター接客ツールには期待を寄せている」(綱川氏)

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出典: UsideUプレスリリース

コンバージョン率と稼働率を可視化するアバター接客

接客業務の効率化、接客リソースの柔軟な確保のほかに、アバター接客ツールを導入する最大のメリットになりうるのが、「データ」の存在だ。TimeRepではどのようなデータを扱うことができるのか。UsideUの高岡氏は説明する。

「すでにさまざまなデータを取得しながら機能を改善している最中だ。現状では、『どれだけ声掛けしたか』、『声掛けのなかからどれだけ商談につながったか』、『商談からどのくらいの購買につながったか』など、いわゆるコンバージョン率をデータとして取得できるようになっている。もうひとつは販売員の稼働率。販売員の稼働時間をデータとして取得できるようになっている。このふたつのデータはオーソドックスだが、売り場を可視化するためにとても貴重だと考えている」(高岡氏)

高岡_UsideU

株式会社UsideU
代表取締役社長 高岡淳二氏

ECなどデジタルプラットフォームにおいては、目的達成の指標であるコンバージョン率が取得できる。一方、実店舗ではPOSによって購買結果はわかるものの、誰がどのように購入したのかという経過や接客によるコンバージョン率を吸い上げることができず、“ブラックボックス化”する傾向があった。TimeRepは接客をアバターやデジタルに置き換えることで、実店舗のコンバージョン率を可視化することを実現した。

TimeRepの特筆すべき機能としては、「メモ機能」もある。販売員は顧客と会話をしながら実に多くのデータに接している。ただ実際に会話をしていると記録がおろそかになったり、忘れてしまうということが往々にして起こる。そこで、TimeRepでは年齢、性別、悩んでいる部分、肌質などの重要な会話データを、項目をワンタッチすることで記録できる機能を実装した。なお、メモ機能と聞くと特別感はそれほど感じないかもしれないが、データを有効活用するうえで重要なキーポイントになると高岡氏は話す。

「AIを開発する際、それぞれのデータが意味あるものになるためには“タグ付け”される必要がある。いわゆるアノテーションという作業だが、それに近い作業を販売員がメモ機能で行うとイメージしてほしい。メモ機能で記録されたデータはすぐに集計に繋げることができる。聞いて書くという作業がバラバラになると集計が難しくなり、コストもかかる。さらに、バラバラに集められたデータは、なかなかインサイトに繋げにくいという事情がある。TimeRepではその煩雑さを解消するため、メモ機能で意味あるデータを抽出し、リアルタイムで集計・解析できるようにしている」(高岡氏)

UsideUは現在、販売員が効率的な販売シナリオをみつけるための機能も開発中だ。対話データを収集・分析することで、会話の“未来予測”や販売の自動化を実現していくのが目的だ。また、顧客らからさらなるデータを引き出すための仕組みも開発中という。

「TimeRepの需要が多い業界の1つは旅行業界で、化粧品業界同様、相談しながら何かを決めていく、もしくは『失敗したくない』という顧客のニーズがあるからだ。実際、顧客と対話しながら嗜好や考えを知ることが重要な業種にとっては、アバター接客は相性がよいと思う。従来のOTC(オーバー・ザ・カウンター)にかかる人件費や設備投資のコストを削減しつつ、全国規模で施策を展開できるためだ。加えて、問い合わせが多いのが駅や空港などの交通系企業。店舗やサービスの無人化などでコストを抑えたいが、クオリティーは落としたくないという要望が多い。ほかにも、なるべく少ない人数で最大の満足度を実現したいという企業やブランドの需要に対して、アバター接客が応えていけると考えている」(高岡氏)

エクセルの実証実験からみえてきたのは、デジタルキャラクターの接客がギミック的なサービスという先入観にならないよう、顧客の体験導線のスムーズな設計、企業やブランドの課題を具体的に解決する機能や仕組みを備えることの大切さだ。そのうえで、直営店舗をもたないブランド、ポップアップストアなどにとって、遠隔で一貫した接客クオリティを維持できるTimeRepのようなアバター接客は、非接触リテールの有力な選択肢のひとつとなるだろう。

Text: 河 鐘基(Jonggi HA)
Top image & photo: 株式会社UsideU

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