
ロレアル、ユニリーバ、エスティ ローダー。2022年下半期デジタル施策まとめ
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グローバル化粧品企業の上位3社、ロレアル、ユニリーバ、エスティ ローダーの2022年下半期の総括をレポートする。後編では、4~5位のプロクターアンドギャンブル、資生堂、そして、日本でなじみのあるLVMH(グローバル売上第8位)を取り上げる。
※ランキングは、BeautyPackaging のTOP20 GLOBAL BEAUTY COMPANIESより
2022年下半期、グローバルマーケットでトップのロレアルは、2023年2月9日に2022年度の増収増益を発表し、株価は上昇した。S&P500指数の2022年下半期の平均上昇率が1.3%で、ナスダック総合指数が-5.1%だったのと同じく、ロレアルは-1.3%だった。
ユニリーバは、2022年はじめに、グラクソ・スミスクライン(GSK)の一般用医薬品事業の買収計画の断念を発表後、事業成長への懸念が高まり2022年3月に年初来安値をつけた。そのなかで事業再編や人員削減による業績の立て直しを進め、悪化するインフレのなかでも各製品の値上げを推し進めた結果、10月下旬に発表した2022年7~9月期決算で売上は対前年同期比10.6%増だったと発表し株価は持ち直した。また、2022年9月にアラン・ジョープCEOの2023年度末での退任が発表されるとさらに株価が上昇。2023年1月30日、オランダの酪農協同組合フリースランド・カンピーナのCEOを務めるハイン・シューマッハ氏が、同年7月1日付でCEOに就任すると発表され、新体制のもとで変革が進められる見通しだ。株価平均上昇率は9.9%と好調だった。
エスティ ローダーは中国のロックダウンの影響を強く受け、減益減収で、株価平均上昇率は-2.6%となった。中国市場への依存度の高さがこれまでは成長の源となっていたが、今回はリスクとなった。今後、どのような形で中国市場とつきあっていくのか。また、北米市場でどのようにシェア回復を試みるのかを市場は冷静にみている。

出典:Yahoo! Finance
ロレアル
中国、インド、ブラジルが好調で、売上高5兆円突破

2023年2月9日に発表されたロレアル の2022年12月期決算では、売上高が前期比10.9%増の382億6,000万ユーロ(約5兆5,353億円)、営業利益は同21.0%増の大幅改善で74億5,690万ユーロ(約1兆788億円)、純利益が同22.6%増の60億5,410万ユーロ(約8,758億円)と増収増益だった。これを受け、CEOニコラ・イエロニムス氏は「このような質の高い業績により、経済性と企業業績という2つの目標に沿いつつ、社会的・環境的なコミットメントを一貫して支えられる」と述べた。
部門別でみると、プロフェッショナル製品が、対前年比10.1%増の44億7,680万ユーロ(約6,477億円)の売上高となり、なかでもプレミアムヘアケア市場の成長は、売上高が初めて10億ユーロ(約1,446億円)の大台にのったケラスターゼと、金属ストレス(シャワーや雨、プール・海水浴などで、水に含まれる金属が次第に髪に蓄積されてダメージを与える現象)が、毛髪内部および表面に与える影響に着目し、メタルデトックスのイノベーションに成功したロレアルプロフェッショナルのクレンジングシャンプー「セリエ エクスパート」の業績に大きく牽引された。
コンシューマー製品の売上は、過去20年で最高の成長となり、対前年比8.3%増の140億2,130万ユーロ(約2兆285億円)。メイクアップ部門では、メイベリン ニューヨークのリップ「SPステイ ヴィニルインク」、NYX Professional Makeupの「ベアウィズミー」「ジャンボ フォルスアイラッシュ」などが好調で、この時期に最も急速に成長した部門となった。
スキンケアでは、ガルニエの「ビタミンCブライトニングセラム」が部門の成長に最も貢献している。北米と欧州は非常に好調で、中南米とSAPMENA-SSA(南アジア太平洋、中東、北アフリカ、サハラ以南のアフリカ地域)などのポテンシャルの高い国々での成長が大幅に加速。中国の厳しい市場環境を補う形となった。
ロレアルリュクス事業の売上高は同10.2%増の146億3,810万ユーロ(約2兆3,782億円)となり、ロレアル最大のカテゴリーへと成長。ラグジュアリー市場のなかで最も成長が加速しているフレグランスカテゴリーが強化され、イヴ・サンローランの「リブレ」やランコムの「ラヴィエベル」、アルマーニ ビューティの「アクア ディ ジオ」などの世界的ベストセラーが売上を牽引した。スキンケア部門では、ヘレナ ルビンスタインなどが抜きんでた成長を遂げ、一般的なラグジュアリースキンケア市場における成長率の3倍もの成長を遂げたという。2022年下半期は、中国市場の大幅な減速など不安定な環境にありながらもグローバル市場でのシェアを大きく拡大している。メイクアップ領域も、イヴ・サンローランとアーバンディケイの2ブランドにより成長した。
アクティブ コスメティックス(ロレアルの事業部門の1つであり、臨床皮膚医学の知見にもとづいて作られたスキンケア製品ブランド群)は、同21.9%増の51億2,450万ユーロ(約7,413億円)とロレアル自身が「卓越した成長率」と表現したほどの成長であった。レコメンデーションモデルを強化し、北米、SAPMENA-SSA、中国本土で顕著な業績を上げている。なかでも、この部門内での売上が最大規模となるラロッシュポゼは、傷や皮膚再生に特化した「シカプラスト」(日本未発売)とニキビケアの「エファクラ」を柱に、画期的なイノベーションの日焼け止め「UVMune400」(日本未発売)の成功により、その勢いを持続した。皮膚科医と共同開発されたブランド、CeraVeはグローバルに事業拡大を続け、とくに米国で目覚ましい成長を遂げた。第4四半期には米国のドクターズコスメ、Skinbetter Scienceを買収し、ポートフォリオを充実させている。
地域別にみると、2022年前半と同様、SAPMENA-SSAが対前年比22.4%増の29億6,240万ユーロ(約4,285億円)と大きく成長。消費者が店舗に戻ってきたことを受け、この地域の実店舗において活況な売上を記録した。この地域でもフレグランスと、ラロッシュポゼやCeraVeなどのスキンケアが好調だった。また、ラテンアメリカが同18.6%増の23億7,600万ユーロ(約3,437億円)、ヨーロッパが同11.6%増の114億3,670万ユーロ(約1兆6,545億円)、北米が10.4%増の101億6,400万ユーロ(約1兆4,704億円)、北アジアが同6.6%増の113億2,140万ユーロ(約1兆6,378億円)と、北アジアを除く地域で2桁成長を遂げた。中国本土では、美容市場がロックダウンの影響を大きく受けたものの、Tmallやダブルイレブンなどのイベントを活用し、オンライン売上を2桁増やすなどの底力をみせた。高級品市場では、市場シェア30%を超える結果を残した。
ロレアルはまた、ソーシャルアクションにもさらに力を入れてきている。ロレアル・フォー・ユースを立ち上げ、30歳未満を対象に年間2万5,000件の就業機会を提供するほか、ロレアル・フォー・ウーマン基金を設立して3,080万ユーロ(約44億円)を割り当て、世界中の弱い立場にある120万人以上の女性を支援するなどの行動で、CDP から7年連続で「AAA」を獲得した世界で唯一の企業となった。また、サステナビリティにおいてもEcoVadis(サステナビリティ評価団体)により、ロレアルは環境および社会的パフォーマンスにおいて世界トップ1%の優良企業にランクインされ、プラチナメダルを獲得している。あわせて、Ethisphere(企業倫理の基準を定義し推進を行う米国企業)による「世界で最も倫理的な会社」に13年連続で選出された。ロレアルはもともと環境・社会的な活動に力を注いできたことで知られているが、その源泉は強い財務力だ。そして、このような社会的な活動を積極的に推進していることが、消費者からのサポートに繋がっている。
11月にはメタバース・アバター・プラットフォームの「レディ・プレイヤー・ミー」とビューティパートナーシップを締結した。ロレアルは「このパートナーシップは、メタバースにおけるアバターを通し、自己表現のための信頼性、包摂性、創造性を促進するための取り組みを強化するものだ」とし、消費者の自己表現のためのパートナーシップであると強調している。「私たちは、美の未来は、フィジカル、デジタル、バーチャル空間すべてに広がるものになると信じている。当社のブランドは、仮想空間、ゲーム内でのカスタマイズ体験、仮想世界での広告、仮想アンバサダーやインフルエンサーを使って、没入型の新しい仮想体験を創造している。Web3やメタバースにおける美の未来の礎を築くのは、とてもエキサイティングなことだ」とCDMOのアスミタ・デュバイ氏はコメントした。
ロレアルのデジタル関連での主な動き
■ 2022年11月15日 ロレアル メタバース・アバター・プラットフォーム「レディ・プレイヤー・ミー」と、初のマルチブランド・ビューティパートナーシップを締結、バーチャル・ビューティを始動。メイベリン ニューヨークとロレアル プロフェッショナルは、レディ・プレイヤー・ミーのアバター制作のために、世界の4,000以上のプラットフォームとアプリで使用できる独自のメイクアップとヘアスタイルを提供。両ブランドは、著名なメイクアップ、ヘアスタイリスト、3Dアーティストと協力し、3Dデザイナー兼開発者のエヴァン・ロシェット氏が共同でデザインしたルックを提供する
ロレアルの事業開発での主な動き
■ 2022年9月23日 米国で急成長している医療機関専売スキンケアブランド「Skinbetter Science」を買収。アクティブ コスメティックス事業のポートフォリオの拡大を図る。買収額は明らかにされていない
■ 2022年11月29日 フランスのバイオテクノロジー企業 Microphytとの戦略的パートナーシップを発表。ロレアルのベンチャーキャピタルファンドBOLD (Business Opportunities for L'Oréal Development)がMicrophytの少数株主分を取得。Microphytは、2007年に設立され、微細藻類(活性特性と機能性のために化粧品などの分野で使用される微細な植物性生物)を生産する、低炭素で革新的なプロセスを開発し、世界で最も多様な細藻類の生産企業に成長した。ロレアルとMicrophytは、技術プラットフォームを構築し、材料と人的資源を結集して、微細藻類バイオマスから原料を創出する
■ 2022年11月21日 ホテル新羅およびアンカー・エクイティパートナーズと共同で、ラグジュアリー美容ブランド「SHIHYO(シヒョ)」を立ち上げ。ホテル新羅とアンカー・エクイティパートナーズとのジョイントベンチャーであるLoshianの事業としてローンチする。ロレアルが新たなブランドをジョイントベンチャーの形で立ち上げるのは今回が初めて
ロレアルその他の動き
■ 2022年7月22日 ロレアルの北アジアゾーン、全拠点でカーボンニュートラルを達成
■ 2022年9月27日 若年層の雇用機会促進を支援するグローバルプログラム「ロレアル・ブースト」で、未来を担う次世代が成功するための支援を継続
■ 2022年11月2日 Universum(ユニバーサム)が実施した、経営学を専攻する学生が就職先として最も魅力的な企業を選ぶ世界ランキングで、2年連続5位にランクイン
■ 2022年11月10日 ロレアル「カラーソニック」が、タイム誌の「THE 100 BEST INVENTIONS OF 2022(2022年の最も優れた発明品100)」に選出
■ 2022年11月11日 日本ロレアル「PRIDE指標2022」最高評価のゴールド受賞
日本で初めての、職場におけるLGBTQ+などのセクシュアル・マイノリティへの取り組み評価指標である「PRIDE指標2022」(主催:任意団体work with Pride)において「ゴールド」を受賞
■ 2022年12月13日 世界的な環境NPOであるCDPより、気候変動への対応や森林保護、水保全への取り組みなど、企業の透明性と環境パフォーマンスにおけるリーダーシップが評価され、7年連続でトリプルA企業に認定
ユニリーバ
事業再編、人員削減、各製品の値上げを推進し業績改善

2022年初頭に、グラクソ・スミスクライン(GSK)の一般用医薬品事業の買収計画の断念を発表したあと、事業成長への懸念が高まり2022年3月に年初来安値をつけたユニリーバ。事業を再編し、人員削減による業績の立て直しを粛々と進めるとともにインフレ下で各製品の値上げを進めた結果、10月下旬に発表した2022年7~9月期決算で、売上が対前年同期比10.6%増の達成を発表。株価も持ち直し、今回取り上げるほかのグローバルトップ5の競合と比較しても非常にいいパフォーマンスを示している。
2023年2月9日に発表された第4四半期と2022年度の決算によると、2022年度の売上高は実質ベースの売上高が9.0%上昇し、601億ユーロ(約8兆6,953億円)となった。コスト上昇を受け、価格を11.3%値上げしたものの、販売量を2.1%しか減らさず、インフレ下におけるコスト転嫁を成功させたことが成長の要因となった。営業利益はコスト増の影響を受け、16.1%と前年同期比2.3%減だった。
ビューティ&ウェルビーイング(注:事業編成によりビューティ&パーソナルケアからビューティ&ウェルビーイングに名称変更)の売上高は、123億ユーロ(約1兆7,794億円)、価格ベースでは7.5%増、数量ベースでは、0.3%増となった。営業利益率は、19.6%だった。価格主導で成長したのはスキンケアとヘアケアで、プレステージ・ビューティとヘルス&ウェルビーイングは数量主導で成長した。
ヘアケアは、Sunsilkとネクサス(Nexxus)の好調なパフォーマンスに助けられ、1桁半ばの伸びとなった。地域では、中南米、インド、トルコが成長を牽引し、パンデミックのロックダウンの影響を受けた中国での売上減少を一部相殺した。南アジアと東南アジアでは、LifebuoyとヴァセリンのプレミアムGluta-Hyaのイノベーションの展開により強い成長を遂げた。プレステージビューティでは、スキンケアブランドのポーラチョイス、LA発のヴィーガンコスメHourglass(アワーグラス)が大きく貢献し、今年度も2桁成長を達成。ヘルス&ウェルビーイングでは、電解質ドリンクミックスのLiquid I.V. とOlay(オレイ)が2桁の大幅増収となった。7月にヘアケア製品のニュートラフォールの買収を完了した。
2022年は、値上げをしながらも、競争力とのバランスを慎重にとることで、インフレ環境を乗り切ったが、2023年も引き続き販売数と競争力を向上させながら、力強い売上成長を実現する予定だとアラン・ジョープCEOはコメントしている。
2019年にジョープ氏がCEOに就任後、欧米の大手一般消費財企業の株価と比較して見劣りしていたユニリーバは、前述したようにGSKの一般医薬品事業の買収に失敗後、ジョープ氏のリーダーシップに疑問を持つ声が一部の投資家から出て株価も低迷。2022年9月26日にジョープCEOの2023年度末の退任の発表後に、ユニリーバ株は上昇した経緯がある。2023年1月30日、現在はオランダの酪農協同組合フリースランド・カンピーナのCEOを務めるハイン・シューマッハ氏が同年7月1日付でCEOに就任すると発表された。アクティビストで2022年にユニリーバの取締役に就任したネルソン・ペルツ氏は、新CEOとなるシューマッハ氏を強く支持すると表明している。新体制のもと、全ステークホルダーに向けた業績改善が期待されている。
ユニリーバのデジタルでの主な動き
■ 2022年7月26日 「Web3はマーケティングにとって何を意味するのか?」というタイトルの公式サイト内記事で、コニー・ブラームスCD&CO(チーフデジタル&コマーシャルオフィサー)は、人びとが安全・安心に買い物、仕事、遊びなどをインターネットで行うために、どのように人びとが団結しなければならないかについての見解を発表。
「真のテクノロジーの進化は、実質的な倫理的インフラとポリシーの開発を伴わなければならない。もし安全性が早い段階でコード化されていなければ、将来的に安全性を確保することは非常に難しくなる。Web3は、高い倫理性、透明性、選択性をもとに、思慮深く設計されなければならず、なぜなら、信頼のないインターネットはスキャンダルだからだ」(ブラームス氏)
■ 2022年10月20日 Women in GamesとEpic GamesのUnreal Engineと提携し、ゲーム内の女性キャラクターの多様性を拡大するプロジェクト“リアル・バーチャル・ビューティ(Real Virtual Beauty)”を立ち上げ。
ゲーム内の女性キャラクターは過度に性的に描かれ、非現実的な美の基準で創作されることが多い。同社ブランドのダヴによる調査では、女性の74%が、女性キャラクターが性的に誇張された姿ではなく、実際の女性のように見えることを望んでいる。このプロジェクトは、世界中のゲームでより健康的で多様な女性と少女の表現を創作することを開発者に奨励する最初の団体となる。さらに、無意識の偏見に取り組むためのトレーニングとツールも提供する
ユニリーバその他の動き
■ 2022年7月1日 2022年カンヌ ライオンズで受賞したキャンペーンを発表
ダヴの「リバース・セルフィー」と題した動画は、ティーンのセルフィー文化の浸透によって起きている行き過ぎたフィルターアプリでの加工を描き、ソーシャルメディアによって傷ついた自尊心を表現した。
このほか、産後のプレッシャーにさらされている女性のためのキャンペーンや、ソーシャルメディアに流れる有害な美容情報が少女たちに与える悪影響に警鐘を鳴らす「Toxic Influence」など、ダヴが受賞したキャンペーンクリエイティブが紹介されている。こどもの自尊心を回復させるためのプロジェクトでは、保護者向け、子ども向けなどのさまざまな情報を発信している
■ 2022年11月1日 オーストラリアで週4日勤務の試験運用を開始
■ 2022年12月7日 Cosmetics Europeは、欧州における化粧品業界の環境フットプリントを削減することを目的とした「Commit for Our Planet」を開始し、すべての化粧品・パーソナルケア企業が、温室効果ガス排出量の削減、包装ソリューションの改善、自然のための活動を行う業界共同の取り組みに参加することを奨励。ユニリーバは、創設メンバーとして参画を発表
エスティ ローダー
中国のロックダウンの影響で2桁減収

2023年2月2日に発表したエスティ ローダーの2023年度下半期(2022年7月1日~2022年12月31日)の売上高は対前年同期比14%減の85億5,000万ドル(約1兆1,614億円)、営業利益率14.2%の12億1,700万ドル(約1,653億円)と対前年同期比48%減、純利益8億8,700万ドル(約1,204億円)で対前年同期比50%減と、減益減収だった。
セグメント別でみると、スキンケアの売上は44億8,600万ドル(約6,094億円、対前年同期比20%減)メイクアップは23億2,000万ドル(約3,151億円、対前年同期比9%減)、フレグランスは13億8,200万ドル(約1,877億円、対前年同期比2%減)、ヘアケアは3億4,000万ドル(約461億円、対前年同期比4%増)となった。
スキンケアの大幅な売上減は、中国本土での新型コロナウィルスに関する規制によって、中国リゾート地で観光客が激減し、出荷も大幅に制限されたこと、中国のそのほかの地域でも実店舗での買い物制限に加え、ドル高、インフレ、景気後退の懸念により、米国の小売業者の在庫抑制が影響したとエスティ ローダーは説明している。ファブリツィオ・フリーダCEOは、米国と中国以外では、有機的な売上成長を実現したこと、とくにインドが約50%増となったのを筆頭に、各市場で2桁の大幅な既存店売上増を達成したことを2023年第2四半期決算説明電話会議でアピールした。また、2022年11月に約28億ドル(約3,800億円)で買収すると発表したエスティ ローダーの歴史で最大の買収となるトム フォードが業績に貢献していることも強調した。
このような大きな減速の背景に何があるのだろうか。2022年に提出された10-K(SEC・米証券取引委員会への提出が義務付けられている企業活動の年次報告書)をみると、中国市場と中国の主要顧客企業(社名は非公表)への依存度の高さがみてとれる。これまではエスティ ローダーの中国市場における成長ドライバーだったかもしれないが、今後は大きな問題へと発展する可能性も否定できない。
中国市場が同社の純売上高に占めるシェアは、2018年の13%から2022年度には34%にまで増加している。そして、その最大顧客企業は、主に中国のトラベルリテールで製品を販売しており、2022年度の連結純売上高の13%、2021年は14%、2020年度の7%となっている。また、この企業からの売掛金は、2022年度末で24%、2021年度末で10%を占めている。売上は2022年度で若干の減少だったが、同じ企業からの債権は2倍以上となっている。
地理的および信用リスクだけでなく、売掛金の支払い期限を遅らせることができる中国顧客の存在は、エスティ ローダーにとってリスクとなりかねない。そして、サプライチェーンの混乱に対処すべく、より多くの在庫を積み上げたことにより運転資金も圧迫されており、フリーキャッシュフローが引き続き影響を受ける可能性がある。
これまで高すぎるのではないかといわれた株価も、今回の米国・中国市場での減速により市場の期待値を大幅に下回った結果となった。また、次の四半期予測も、パンデミックの状況の緩和によりアジアでのリテール市場が改善されるとしながらも売上高は12-14%減としており、今後どのように北米で失われたシェアを取り戻していくのかに注目が集まっている。
エスティ ローダーの事業開発での主な動き
■ 2022年7月21日 エスティ ローダーとインドを代表するオムニチャネルの美容およびライフスタイル小売業者のNYKAAが提携し、「BEAUTY&YOU India」 の立ち上げを発表。BEAUTY&YOU Indiaは、次世代のインドの美容ブランドを発見し、スポットライトを当てて成長を促すことを目指す、インドの美容起業家のためのインキュベーションプログラムを提供する
■ 2022年9月26日 エスティ ローダーとバルマンが提携し、バルマンビューティのローンチを発表
■ 2022年9月26日 ギヨーム・ジェゼル氏が、グローバルブランド、トムフォード ビューティ、バルマン ビューティおよびラグジュアリーの事業開発の責任者に昇格
■ 2022年11月16日 エスティローダーがトム フォードを28億ドル(約3,800億円)で買収することで合意したと発表。エスティ ローダーにとって過去最大規模の買収。アイウェアのライセンスは引き続きイタリアのマルコリンが所有し、同社がエスティ ローダーに2億5,000万ドル(約339億円)を支払うため、エスティ ローダーがトム フォードに支払うのは23億ドル(約3,124億円)
エスティ ローダーのそのほかの動き
■ 2022年11月3日 Disability Equality Index ® で最高得点を獲得し障害者インクルージョンに最適な職場」として認められた
Text: 秋山ゆかり(Yukari Akiyama)
Top image: Tina Bits via Shutterstock