
ユニリーバ、3人のCEOの戦略からみるパーパス経営のゆくえと美容分野のこれから
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美容分野の売上高がロレアルに次ぐ世界2位のユニリーバは、パーパスドリブンな経営を行う企業として知られてきた。そのパーパス経営が、のちに利益の伸び悩みによって株主に批判されグループの株価は低迷。同社のパーパス経営への方針はなぜつまづくことになったのか。また、軌道修正をはかりながらどのような未来を描くのか。2009年からのCEOポール・ポールマン氏、2019年からのCEOアラン・ジョープ氏、そして2023年7月1日に新CEOとして就任したハイン・シューマッハ氏のそれぞれの戦略に焦点をあててひも解く。
「パーパス経営」「徳のある企業」として名高いユニリーバ
2009年にネスレ出身のポール・ポールマン氏がユニリーバのCEOに就任し「企業の繁栄と社会貢献の同時達成は可能」と銘打ち、「企業の社会的な存在意義」という意味でのパーパスを軸に、自社の志を明確にし、いかに社会に貢献するかを定めて事業を行うパーパス経営を確立した。これにより、ポールマン氏はハーバードビジネスレビューをはじめ、世界中の経営誌の寵児となった。
ポールマン氏は、それまで停滞していたユニリーバの売上高を一段上に引き上げ、美容分野であるパーソナルケア売上高を全体の26%から、退任直前までに42%とし、食品、ホームケアを抜き最大のセグメントに成長させた。その結果、世界のビューティ企業の売上高としてはロレアルに次ぐ2位企業となっている。2019年にアラン・ジョープ氏がCEOになると、2020年のパンデミックなど厳しい状況を経て株価は乱高下し、売上高も低迷した。最終的には、ジョープ氏はCEOのポジションを株主から追われるかたちで退任、2023年7月に新CEOのハイン・シューマッハ氏が着任している。
「企業の繁栄と社会貢献の同時達成は可能」とし、人々の心を動かし続けてきたユニリーバのパーパス経営に起きたことをひも解くために、今回は、ユニリーバをポールマン氏、ジョープ氏、シューマッハ氏の3つの時代にわけ、それぞれの考え方、戦略、株式市場での評価からのファインディングスをまとめる。

同社IR資料より編集部作成

出典:Yahoo! Finance
ポールマン時代:
“Making-Purpose Pay”の思想で、サステナビリティ主導の成長戦略を実現
2009年にCEOに就任したポールマン氏は、2010年に「サステナブル・リビング・プラン」をローンチし、社会的な意義や環境に負荷をかけないサステナビリティを戦略の中核に組み込んだ。消費者の54%がサステナブルな商品の購入意欲を持ち、そのうちの3分の1がすでに購買行動に移しているという動向を踏まえてとられた戦略だった。このサステナブル・リビング・プランは、パーソナルケアのダヴ、ヴァセリン、アックス、食品のリプトン、クノール、パッカハーブス、ベン&ジェリーズ、ホームケアのセブンスジェネレーションなどのブランドに組み込まれ、同社の他のブランドに比べて46%速いスピードで成長し、ユニリーバ全体の成長の70%を占めていると発表された。
また、サステナビリティを中心にしたバリューチェーンを構築し、たとえば、ダヴのボディウォッシュでは、15%のプラスチック削減につながる自社テクノロジーを開発し、それをオープン化して他メーカーも使えるようにするほか、消費者へのメッセージにもサステナビリティを志向する考え方を織り込んだ。また、2017年からすべての従業員を対象に「自分自身の目的を見つける」機会が持てるトレーニングを開始し、従業員のエンゲージメントを高めることで、ブランドへのコミットメントを強めるなどの施策を次々と行っている。
このような、パーパス・ドリブンなサステナビリティ戦略は、ハーバードビジネススクールをはじめとする多くのビジネススクールでのケーススタディとなり、各国の経営者から注目される戦略となった。日本でも数多くのパーパス経営に関する本で、ユニリーバの事例が紹介されている。
この頃、ポールマン氏がとったユニリーバのビューティ戦略は、ひとことでいえば「全方位戦略」だ。

「先進国も途上国も。全方位で顧客へアプローチするユニリーバの成長戦略」
2018年当時には、インドの農村といったホワイトスペースへの参入に際し、生活の中に入り込みサポートすることから事業スタートなどを行うと同時に、さまざまなチャネルを構築するという全方位からの囲い込みともいえる戦略を行っていた。そのころ競合他社は、特に先進国においては中低価格帯のパーソナルケアよりもラグジュアリー路線にシフトしつつある時期でもあった。2018年1月16日付のBeautyTech.jp記事では、ユニリーバが、先進国マーケットでいわゆるスーパーマーケットブランドからプレミアム市場への移行ができるのかどうか5年後に結果が出ているだろうと締めくくったが、2023年11月時点では、その答えはNOである。
ジョープ時代:
パーパス経営を踏襲するも、そのフォーカスが強すぎたための業績低迷
2019年1月に、10年ぶりのCEO交代があり、ビューティ・パーソナルケア部門の責任者であったジョープ氏がCEOに就任し、ポールマン氏のパーパス経営を踏襲した。

しかし、前CEOのポールマン時代にすでにリスクとして認識されていたサプライチェーンや地政学リスクへの対応は、ジョープ氏もやはり薄かったといえる。
ポールマン時代には、たとえば2014年にFRBによる量的金融緩和の縮小が開始され、為替のドル高圧力の影響で売上が2.7%減少している。その年末には、「OPECによるシェールガスつぶし」と呼ばれた事象で原油価格が突然50ドル台にまで下落し、世界の株価や為替にも大きく影響が出た。
それでもポールマン時代は全体として業績好調であったためにこのようなリスクも吸収できていた。が、グローバル展開する企業にとって、こうしたリスクの評価の甘さはあとで致命的となる部分でもある。加えて、ジョープ時代はパンデミックの起きた時期と重なる。パンデミック自体は予測不能とはいえ、コントロール可能なリスクへの評価については市場においても期待を下回った。
とはいえパンデミックが始まって間もない2020年3月24日に、ユニリーバのパーパス経営は強さを発揮する。新型コロナウイルス対策支援を従業員のみならず、派遣社員・業務委託社員、さらには取引先およびサプライヤーにまで展開し、1億ユーロを拠出した大胆な方策を展開した。パンデミック初期の、これだけ早いタイミングで、パーパスにもとづいた意思決定を行った事例だ。
■ 取引先およびサプライヤーへの施策
– バリューチェーンに関わる人々の生活を守るため、5億ユーロ(600億円)のキャッシュフロー支援。小規模のサプライヤーに対して、資金繰り支援のため、早期支払を行う
– ユニリーバへの依存度が高い一部の小規模小売業者に対して、事業と雇用を守るため、支払期日を延長
■ 従業員
– 本来の業務ができなくなった結果、急激に収入が減ってしまうことのないよう、最大3カ月まで収入補償をする
• フルタイム、パートタイムを問わず、正社員および同社事業所で勤務する派遣社員・業務委託社員が含まれる
• ただし、政府および直接の雇用主による収入補償を受けている場合には対象とならない
同時に、このパンデミックにより、ユニリーバの売上は好調となった。とくに、北米では人々の生活様式が大きく変わり、頻繁に手を洗い、家で自分で料理をするようになった。ロックダウンで、手指消毒剤やマヨネーズのような調味料が買いだめされるようになったことが、ユニリーバの北米市場の売上を牽引した。

しかし、2021年に状況は一転する。売上高自体は、外出制限や店舗の休業などパンデミック関連の規制によってEC市場が拡大したことが追い風となり好調な結果だったが、原料高騰によって利益が圧迫された。
具体的な数字をみると、2021年12月期の売上高は524億4,400万ユーロ(約6兆5,600億円・当時、以下同)と、継続事業・恒常為替レートベースで4.5%増。純利益が66億2,100万ユーロ(約8,290億円)となり前年比9%増加。しかし、原料高騰、悪化するインフレで、さらなる値上げを実施せざるをえなくなったが、消費者への価格転嫁だけでは利益率の改善は難しく、市場での評価は低迷した。

同社IR資料より編集部作成
それまで好調だった手指衛生製品も事態が長引くうちに成長が鈍化し、競合他社がスキンケア分野なども伸ばしている一方で、厳しい状況に置かれた。
こうしたなかで、ジョープ氏はじめ当時の経営陣は、大手製薬会社のグラクソ・スミスクライン(以下GSK)のコンシューマーヘルスケア(大衆薬)部門の買収を試みるも、一部株主からは強い反発を受けた。そもそも同社はM&Aで規模を拡大させてきており、その路線上ではあるが、競合他社がプレミアムブランド強化にシフトしているなか、ここでコンシューマー向けのブランドを増やすべきなのかを問う議論が起きた。
ある株主は
このGSKコンシューマーヘルスケア部門の買収を正当化し、資金を調達し、株主のために価値を提供するという点で、なぜ、そしてどのようにユニリーバは考えているのか、きちんと説明をしてもらいたい
という主旨の発言をしている。
結局、この買収は断念され、当面は大規模な買収を行わない方針も明らかにした。
ユニリーバ株を保有するウェイバートン・アセット・マネジメントのファンドマネジャーは「GSKの大衆薬部門買収提案でジョープ氏の実績に傷がついた。『(ジョープ氏に代わる)新CEO』の下での仕切り直しで同社が勢いを取り戻すと投資家が判断する可能性がある」と述べたほど、ジョープ氏への風当たりは強くなっていった。
このころはパンデミックによる消費者動向も変化し、自分のためによりプレミアムな製品を人々が求め始めたことから、グローバル・ビューティ企業はプレミアム・ナチュラルブランドを中心にM&Aによるポートフォリオの入れ替えを進めていた。その分野に関しての製品ポートフォリオが弱いユニリーバが、M&Aを当面控えるという発表にもCEOとしての判断力に対する疑問の声があがり、打つ手をことごとく批判される状況だったといえる。
その流れで、2022年1月に発表した事業再編やリストラ、そして2019年にCOOに就任したニティン・パランジペ氏が、新設ポストの最高変革責任者と最高人事責任者を兼務することは、社内外でも低い評価となり株価は大幅に下落した。

出典:BeautyTech.jp 2022年4月6日記事
「ロレアル、ユニリーバ、エスティ ローダー。2021年下半期デジタル施策総まとめ」
当時は、競合のロレアルやエスティ ローダーもS&P500指数より高い株価平均上昇率で、ロレアルは史上最高の売上高を達成し、エスティ ローダーも対前年比14%増の売上高で、パンデミック前の成長基調に戻りつつあった。美容分野という観点ではグローバルトップ集団のなかでは、ユニリーバの低迷が目立ったことでの市場の評価といえるだろう。
そして、2022年4月6日に、フィナンシャル・タイムズが「ユニリーバの株主総会(5月4日)が、短期的な業績向上を要求するアクティビスト(物言う株主)と、サステナビリティ(持続可能性)を支持する株主が対立する場になる可能性について論じた」と書き、ジョープ氏のパーパス経営に重点をおきすぎた戦略に対し、公然とした批判も出てくるようになった。
この少し前の2021年3月15日、やはり「ミッション(使命)を果たす会社」として著名なダノンで、ESGの観点を重視した経営を推進した代表的な経営者として知られるエマニュエル・ファベールCEOが、アクティビストから業績不信の責任を求められ、解任された。ダノンの収益力は競合を下回り、株価も出遅れていると批判を受けたのだ。ESGはもちろん大切だが、収益力を伴わなければ持続性に欠けるという風潮が強くなったのもこの頃だ。ジョープ氏や経営陣がこのトレンドを自社と重ね合わせていれば、もう少し違った戦略をとっていたのではないだろうか。

各社のIR資料から編集部作成
2022年7月に入ってからは、モノ言う株主のネルソン・ペルツ氏がユニリーバの取締役に就任し、ユニリーバの再建に対して、事業再編だけでなく、今後、取締役会が社内外からCEOの後継者候補を探すと発言するなど、ジョープ氏に対し多くのプレッシャーをかけるようになる。
このことを受けてユニリーバ経営陣が進めたのは、粛々と事業を再編することだった。人員削減やインフレ下での各製品の値上げなどを進めた結果、10月下旬に発表した2022年7~9月期決算で、売上が対前年同期比10.6%増の達成を示し、株価も持ち直した。2022年9月26日にはジョープ氏の2023年度末の退任を発表するとともに、当時オランダの酪農協同組合フリースランド・カンピーナのCEOを務めるハイン・シューマッハ氏が2023年7月1日付でCEOに就任すると発表された。前述のアクティビストでユニリーバ取締役のペルツ氏は、新CEOとなるシューマッハ氏を強く支持すると表明し、新体制のもと、全ステークホルダーに向けた業績改善が期待されているとも語っている。
新CEO就任までは、ユニリーバはさらにブランド・ポートフォリオの見直し、選定を行い、2023年7月25日に発表した2023年上半期の売上高は、対前年同期比2.7%増の304億2,800万ユーロ(約4兆7,972億円)、営業利益は同22.6%増の55億1,600万ユーロ(約8,696億円)、営業利益率は18.1%で、対前年同期比290ポイント増のところまで回復した。

出典:Yahoo! Finance
新CEOシューマッハ時代へ: ブランドの絞り込み、堅実なコストカットで再生をはかる
2023年7月1日、新CEOシューマッハ氏体制となり、シューマッハ氏は、それまで減り続けていた研究開発投資を増やして優れた製品を販売し、顧客を第一に考えることで減少しつつある市場シェアを取り戻したいと発表した。さらに、ジョープ前CEOが利益よりも持続可能性を優先したとして株主から頻繁に批判されてきた事実をふまえて、持続可能性戦略には正面から取り組みつつも、より少ない目標に焦点を当てるとしている。持続可能性は「当社のビジネスにとって重要な差別化の強みであり、それは私の任期中も継続するだろう」(シューマッハ氏)と四半期プレゼンテーションで語っている。
シューマッハ氏就任とほぼ時を同じくして、ユニリーバは経営陣の刷新を発表した。消費財等の領域での経営者としてのビジネス経験を持つイアン・ミーキンス氏が、同年9月1日に非常勤取締役兼議長に指名され、取締役会に加わり、12月1日に正式にその役割を引き継ぐ予定だ。
さらに、2023年10月26日に、フェルナンド・フェルナンデス氏がユニリーバのビューティ&ウェルビーイング・ビジネス・グループの社長からCFOへ昇進の発表がされ、ジョープ時代の主な経営陣はすべて退任することとなった。
シューマッハ氏のターンアラウンド戦略
ユニリーバの2023年10月発表の第3四半期の成長率が為替の影響で減速し、シューマッハ氏はターンアラウンド(企業改革、事業再生)戦略を発表した。売上高は3.8%減の152億ユーロ(約2兆4,666億円)。減少の要因は為替の逆風と、2016年に10億ドル(約1,050億円)で買収したダラー・シェイブ・クラブを、米国プライベート・エクイティ会社ネクサス・キャピタル・マネジメントへ売却したことによるものだと報告している。
当時、シェービング業界の革命児として鳴り物入りで買収したダラー・シェイブ・クラブが利益を出せていないことを理由に売却が発表されたことは、前CEOの戦略すべてへの決別にもみえる。さらにポートフォリオを簡素化し、70以上のブランドのなかからトップ30のパワーブランドに焦点を当てると発表した。トップ30には、美容分野では、ダヴ、ダーマロジカ、ポーラチョイス、ポンズなどのブランドが入っている。
第3四半期の決算発表のプレゼンテーションからは、トップ30のパワーブランドに入らないブランド、たとえばスキンケアブランドのミュラド、カーバーコリア、クアラ、スマーティパンツなどは「予想を下回っている」と強調され、今後の売却リストに入っている可能性が高いことが感じられる。2019年にその買収が話題となったプレミアムスキンケアのタッチャ(TATCHA)については、言及はなかった。
シューマッハ氏はそのプレゼンテーションにおいて、「簡素化して優先順位を再設定」し、最大のブランドと機会に焦点を当てる時期が来たとも述べている。シューマッハ氏は、イノベーション、つまりバイオテクノロジーにもとづく新しい配合、再生可能な包装、そのほかの持続可能性ソリューションがブランド全体で共有されることを望んでいるとも語った。設備投資も売上高の2.4%から3%以上に引き上げたいと考えており「粗利益を取り戻し」、その資金をトップブランドに回すとしている。
前述したように、GSKの大衆薬部門の買収に失敗するまでユニリーバではM&Aによる成長戦略をとっていたこともあり、設備投資及びR&Dのコストは年々下降していた。しかし、昨今の美容業界は国を問わず、M&Aを含むR&Dへの積極的な投資が盛んになっている。とくに、バイオテクノロジー分野への期待が高い。

同社IR資料より編集部作成
また、パーパス経営の中核であったサステナビリティ計画は、長期視点から短期視点に移すという。現在は「あまりにも多くの長期目標を掲げて薄く広げているが、それが実現するのは『我々全員が去ったあと』だ」とシューマッハCEOは指摘し、そのかわりに、グループと個々のブランドが短期的な目標を設定し、知識を共有し、持続可能性を戦略やブランドの提案に組み込むようにしていくつもりだという。
サプライチェーンの合理化も考えているとして、会社全体でコストを共有する方法と、特定の製品がサプライヤーと小売店の間で移動する必要がある距離を短縮する方法を検討すると述べている。
この決算説明は、シューマッハCEOがここ数年の業績不振を認め、ステークホルダー全員が待望していた事業簡素化計画「集中と選択、シンプルに」という趣旨にそったものだったが、その結果、株式市場からは「その戦略がさえない」との批判もあり、株価は2.8%安となった。

出典:Yahoo! Finance
その「さえない」とされた理由は、過去に多くの企業が使ってきた手法だからだ。たとえば、2000年代以前に米国のトップ銀行だったシティグループは、コンシューマー・リテールや投資銀行などをグローバル展開し、さまざまな業務を行っていた。サブプライム住宅問題で財務状況が悪化し、2008年の金融危機では破綻寸前までいき、その後、現在もまだ改革中だ。やっていることは、“選択と集中”“簡素化”で、ゆっくりだが成果は出る戦略として、ユニリーバも同じ方針をとったことになる。
とはいえ、これも前述したように、ユニリーバの少なくとも美容分野、特に先進国における最大の課題は「ドラッグストアブランドからの脱却」だ。この5年で行えなかったことであり、これから5〜10年かけて、コンシューマーブランドの集中と選択、簡素化をしながらそれが実現するのだろうか、という疑問を投資家が持っていることは否めないだろう。
ユニリーバは、公式サイトで、プレステージビューティビジネスはユニリーバのなかで最も急速に成長している部門のひとつであること、収益の6割は米国から、4割は他の市場から出ており、米国で成長を続けるにはプレステージビューティの存在は不可欠だとしている。この分野で利益を確保しなければ、成長のために必要な投資につなげることもできない。
ユニリーバと同様に、グローバル展開をしながら、コモディティからの脱却とプレミアム事業やウエルネス分野に焦点を絞る企業は、日本でいえば資生堂がわかりやすい事例だろう。資生堂は、2021年にTSUBAKIやunoなどの日用品事業を1,500億円超で投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに売却している。
ユニリーバが今回発表したTOP30のブランドには、ダヴやポンズなどの大規模コンシューマーブランドが入っている。こういったコンシューマーブランドからプレミアムブランドへの転換は、その逆と比べて非常に難しいとされる。また、同社では、ビューティ(パーソナルケア)だけでなく、食品や日用品といったコモディティも抱える。現在、ビューティ分野の売上は最大となり、その占める割合も半分近くに迫っていることから、今後の成長の鍵は美容分野が握っているといっても過言ではない。
シティグループがとった時間もかかるが成功確率の高い戦略は、15年前のことだ。あれから時代は大きく変わり、地政学リスクもより高まっている。投資家サイドからは、企業改革として王道である集中と選択、シンプル化とコスト削減という戦略は現時点で評価されなかったが、美容ではダヴやポンズ、食品ではマヨネーズのヘルマンズやクノールといった新興国に強いメガブランドを抱えるユニリーバには、プレミアムブランドに集中する競合他社とは違う戦略ももちろんとれるはずだ。
先進国ではプレミアムブランドで収益を確保し、途上国のミッドセグメントに向けて、中価格帯の商品をボリューム高く販売し利益を出す手法も可能であろう。いずれにしても、10年後を見据え、思い切った戦略転換をはかるのか。シューマッハCEOの手腕が問われる。
Text:秋山ゆかり(Yukari Akiyama)
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