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英THG、巨大美容&テック企業へ – 美容とヘルスケアのコングロマリット戦略

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英国THG(The Hut Group)は、ECプラットフォームソリューションを提供する「テック企業」ながら、美容小売や美容・ヘルスケアのD2Cブランドを複数持ち、自前のインフルエンサー集団を抱えるなど、売上の半数弱を美容カテゴリーが占める。上場前はユニコーン企業として知られ、2021年5月にはソフトバンクグループなどから1,090億円の資金調達を実施。その独特なビジネスモデルをひもとき、今後の美容業界でのポジショニングを2回に分けて考察する。まずはTHGの全体像を俯瞰する。

美容・ヘルスケアプロダクトをもつ英国テック企業THGの全体像

英国に本社を構えるTHGは、美容、健康、ライフスタイルに特化したプロダクトを世界169カ国でEコマース展開する企業であるとともに、他社に自社のECプラットフォームをソリューション提供する企業としても知られる。2020年9月にロンドン証券取引所に上場した際、英国テック企業として最大となる18億8,000万ポンド(約2,575億円)のIPOとなり、2013年10月11日の英国郵便事業ロイヤル・メールのIPO以来の大型上場となったことで、株式市場で大きな注目を集めた。

日本での知名度はそれほど高くないが、英国では上場前からユニコーン企業として知られ、買収を重ねて傘下の小売ブランドや美容・ヘルスケアブランドを増やしてきた。THGが傘下にもつブランドは、ビューティ、ニュートリション、コンシューマー、ラグジュアリーの4つに分かれており、自社ブランドとサードパーティブランド(傘下の小売店が扱う他社ブランド)を含め、100以上のブランドを抱えている。その1つである「MyProtein(マイプロテイン)」はスポーツ栄養ブランドとしてヨーロッパナンバーワンに成長し、日本でも販売されている。

2021年5月には、10億ドル(約1,090億円)を調達すると発表し、うち7億3,000万ドル前後をソフトバンクグループが引き受けることが明らかになり、日本でも話題となった。同社の全体像としては、公式サイトにあるビジネス構造図に詳しく書かれている。下記のようにTHGのビジネス全体は、BRANDS(ブランド)、Ingenuity(単語の意味は創意工夫、THGのITプラットフォームを指す)、EXPERIENCE(体験、THGが持つホテルなどのビジネス)の3つに大きく分けられる。

このうち、BRANDSは、美容や健康食品などの自社のプロダクトブランドと、傘下の美容小売(EC)を含む。2020年の売上高16億1,000万ポンド(約2,500億円)のうち、最も大きな売上セグメントはビューティで、売上高の約47%を占める。ビューティには、自社プロダクト及び美容小売の売上の両方が含まれる。

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出典: THG公式サイト


THG Ingenuityは、ホスティング、スタジオコンテンツ、翻訳などのデジタルサービスに加え、消費者向けブランド企業にトータルサポートのEコマースソリューションを提供している。クライアントには、P&G、ネスレ、コカ・コーラなどのそうそうたる企業名がならぶ。

EXPERIENCEは文字通り体験型施設で、英国チェシャーのへイルカントリークラブ&スパキングストリートタウンハウスホテルグレートジョンストリートホテルを含む。

ビジネスオペレーションについては4つのカテゴリー、THG Beauty、THG Nutrition、THG Ingenuity、その他(THG OnDemand、THG Experience、THG Luxury)に分かれており、この区分で売上計上がされている。(注、2021年より売上区分はOnDemandが独立し、Beauty, Nutirition, Ingenuity, OnDemand, Otherの切り分けとなっている)

2020年末までの売上と簡単な沿革は、2020年アニュアルレポートの下記図にまとまっている。

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出典:2020年THGアニュアルレポート

このグラフが示す通り、THGは2010年代に入り成長軌道にのり急速に拡大している。もともとは、自社開発のECでエンターテイメント系の物販を始め、そこからEコマースエンジンを提供するいわばITベンダーとなり、さらにその後は買収を重ねて美容・健康食品分野へ参入をはたした。その経緯を少し詳しくみていこう。

オンラインエンターテイメント製品販売業として設立されたTHG

THGは、2004年にマシュー・モールディング(Matthew Moulding)氏とジョン・ガレモア(John Gallemore)氏によって、英マンチェスターで創業した。設立当初、THGは英領タックスヘイブンであるチャネル諸島でのオペレーションにより、CDやDVDなどの商品を英国で販売することでVAT(付加価値税)を回避できる点にビジネスチャンスがあると考え、自社開発のECサイトでCD、DVD、ビデオゲームなどの販売を始めた。このVATの抜け道を活用する方法は現在では規制されており、行うことはできなくなっている。

2005年からは、自社のEコマースエンジンをTescoやArgosといった英国の大型チェーンストアにOEMソフトウェアとして提供を始めた。

大きな転機が訪れたのは、2007年1月のアップルによるiPhoneの発表だ。モールディング氏は、エンターテイメント領域で、世界的プレイヤーであるアップルとの競争には勝てないと考え、THGのビジネスモデルを再検討。そして、自社のEコマースエンジンをD2Cインフラストラクチャーに育てることで、競争優位性を確立することをもくろむ。あわせて、同社のプラットフォームで販売する商品については、自社開発によるタイムロスを考慮して、企業買収により拡充すると決めた。

最初の買収は、2009年3月の英国最大の独立系エンターテイメント小売業者のZavviだった。Zavviは元々はヴァージンメガストアで、2007年にヴァージングループからMBO(マネジメント・バイアウト)をして独立したが、2008年12月に破綻してTHGが買収した。

その後の成長戦略のための資金を確保するために、2010年4月に、ロンドンをベースとするベンチャー・キャピタルのBalderton Capitalから1,400万ポンド(約19億円)を調達、その後2年間にわたり合計で2,430万ポンド(約41億円)を調達した。

iPhoneの登場で、美容とヘルスケアの2つを新たな軸に

一方で、ストリーミングとiPhoneの台頭によってエンターテイメント製品の売上が伸び悩みはじめ、ほかの領域へのシフトを考えたモールディング氏は、美容とヘルスケアを新たな事業の柱にすることを決めた。その理由は、高い収益性が見込め、かつグローバル展開が可能だからだ。

まず、美容カテゴリーを攻めた。2010年に英国最大のオンラインヘルス&ビューティ小売業であるLookfantasticと、オンライン男性用グルーミング小売業のMankind Direct、そして、2011年にヘア、ビューティ、アクセサリーのEC小売業のHQHairを相次いで買収して傘下におさめた。このほか、ウェディングやアクセサリーの小売業であるIWOOT(I Want One of Those)も2010年に買収している。そのほか、後述するが、海外展開のために英国外の海外のオンラインリテーラーの買収も積極的に行なっている。

そして、2011年にスポーツ栄養に特化した英国のD2Cブランドであるマイプロテインを6,000万ポンド(約105億円)で買収し、ヘルスケア領域の拡大に着手した。

2012年頃からは、THG全体をリブランドしながら、美容・ヘルスケア領域の強化、テクノロジーを武器にしたエンドツーエンドのECプラットフォームサービス、そして海外展開と3つの領域で成長を押し進めている。

60カ国の言語に対応、インフルエンサー活用で欧州や米国などへの拡大

2012年には、買収した企業を含め、155の統合宅配サービス、195の配送先、60カ国の言語を扱うようになっていたものの、売上の中心が英国であったため、積極的に海外展開を図ることを目標に掲げた。下記の図からもわかるように、2014年に54.3%あった英国での売上が、2020年末時点では39%と、急速に英国外での拡大を図ったことがわかる。

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THGアニュアルレポートより作成
(2014年は、「それ以外」に米国の売上も含まれる)

英国外への拡大には、インフルエンサーによるマーケティングを積極的に活用した。THGは独自のインフルエンサープラットフォームを構築し、2016年あたりからはクーポンコードの追跡などで、キャンペーンの効果などを可視化し、インフルエンサーたちのパフォーマンスを測定している。自社ブランドとサードパーティーブランドのインフルエンサーは、2020年時点で1万9,000人を超え、THGのアニュアルレポートによると、2019年末時点でインフルエンサー経由でのオンライン売上は11%(2018年1月は1%)と発表している。ここには、インフルエンサーがフォロワーに製品を繰り返し見せたときのインプレッションやブランディング効果などの間接効果は含まれていない。

今回のCOVID-19パンデミックでは、ロックダウン等により多くの企業がグローバル・サプライチェーンやロジスティックスの問題を抱えたが、THGは、2020年5月にはいち早くシンガポール航空とパートナーシップ契約を締結し、100便以上の貨物チャーター便を運航すると発表した。その名もTHG Airとして、定期旅客サービスへの依存を解消し、自社の空輸便として期待しているという。

プレステージビューティ、そして著名ヘルスケアブランドでの攻勢

美容分野では主にプレステージ領域での拡大を図り、ヘルスケアでは健康食品を中心に展開している。獲得したブランドやマーケットプレイスはすべて自社プラットフォームのTHG Ingenuityに統合し、買収による売上効果だけでなく、コスト削減効果も出してきた。美容とヘルスケアカテゴリーは、その後も積極的な買収戦略で売上を伸ばしている。

2010年に英国最大のオンラインヘルス&ビューティ小売業者のLookfantasticを買収後は、ビューティ領域では、2016年にオーストラリアのビューティ小売業SkinStore、2017年に同じくオーストラリアのオンラインビューティ小売業RY.com.au、ヨーロッパのビューティボックスのサブスクリプションサービス事業のGLOSSYBOXを次々と傘下におさめた。

D2Cブランドとしては、プレステージやラグジュアリー系ブランドに焦点をしぼり、買収を重ねている。2017年に英国のメイクアップブランドのIllamasqua(イラマスカ)、R&D機能を傘下にもつ目的もあって、2018年に英化粧品メーカーアチソン&アチソンを買収。同2018年、目元専用化粧品メーカーEyeko、2019年にはフランスのヘアケアブランドChristophe Robin(クリストフロバン)、2020年に米国の実力派ドクターコスメブランドPerricone MD (ペリコン エムディー)などを傘下におさめた。

また、2020年には、米国のプレステージスキンケアとビューティEC企業であり、当時ターゲット傘下であったDermstoreを、2021年に米美容用品のベントレー・ラボラトリーズを買収した

これらの一連の買収企業の内訳をみると、THGのビューティにおける戦略はTHG本体の戦略に沿っており、次にあげる4つの点から、グループ全体のビジネスを成長させる目的があるといえよう。

1.  既存のオンライン小売プラットフォームを補完
英国のオンラインリテーラー、LookfantasticやSkinStore、Dermstoreの買収がここに含まれる

2.  英国以外の市場拡大
SkinStore、GLOSSYBOXは英国以外の収益基盤を作る目的もあった

3. プレミアムビューティブランドの獲得
Eyeko、Christophe Robin、Perricone MDなどの買収により収益性の高いプレステージブランドの顧客層を取り込む

4. THGグループの機能拡張
ベントレー・ラボラトリーズの買収により、自社におけるR&D機能を強化し、自社生産を加速させる

こうした立て続けの買収に加えて、パンデミックによるリアルな小売店舗の閉鎖措置に伴い、顧客がオンラインショッピングへシフトしたことも追い風となった。ビューティ領域の売上は大幅にアップし、2020年末では対前年比51.7%増の7億5,100万ポンド(約1,029億円)の売上を達成した。

次回は、美容領域の売上や成長戦略について、また、ソフトバンクグループが投資に値すると判断したテック企業という側面からのTHGの価値に焦点をあてて解説する。

Text: 秋山ゆかり(Yukari Akiyama)
Top image:  T. Schneider via shutterstock

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