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中国ライブ動画配信サービス覇者「YY」の全容と美容プロモーションの可能性

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中国の動画プラットフォームを考えるうえで、ライブ配信サービスの活況は見逃せない。動画プラットフォーマーのなかにはライブ配信機能を組み込んでいるところもあるが、利用者が多いのは専業のサービスだ。中国最大手のライブ配信サービスである「YY Inc.(歓聚時代)」と、その傘下で、日本でも展開している同じくライブ配信サービスの「BIGO LIVE(ビゴライフ)」についてみていこう。

まずは、中国のライブ動画配信の市場だが、中国調査会社BigData-Researchが発表した「2019年第1四半期中国モバイルライブ動画配信市場研究報告(2019年第1季度中国移動直播市場研究報告)」によると、同期におけるモバイルを利用したライブ動画配信のユーザー数は、前年同期比10%増の3.3億にのぼった。

中国のライブ動画配信は、ゲーム実況とそれ以外の娯楽の大きく2つに分けられ、ゲーム実況における2019年3月の月間アクティブユーザー数(MAU)は、3,375.1万の「DOYU(斗魚)」が第1位だった。一方、娯楽全般では2,855.6万の「YY」が第1位となっている。中国ではゲーム実況のユーザー数が多いという特徴があり、同月の配信数をみると、ゲーム実況が1,825.6万件だったのに対し、娯楽全般は1,751.4万件だった。それゆえに、同じ1位でもDOYUの方がMAUは多くなっている。しかし、売上規模は逆だ。

ジャック・マーに感化され起業

YYを運営するYY Inc.が8月14日に発表した2019年第2四半期の決算報告によると、売上高は前年同期比66.8%増の約63億元(約944.3億円)。他方、DOYUを運営するDouYu International Holdingsが8月13日に発表した同期の決算報告によると、前年同期比133.2%増の約18.7億元(約281.9億円)だった。DOYUが驚異的な伸びを示しているものの、YY が売上規模においては中国のライブ動画配信最大手といっていいだろう。

YY Inc.の前身である「広州華多網絡科技」は2005年に設立されている。現地メディアのインタビューによると、創業者の李学凌CEOは人民大学哲学科を卒業後、雑誌『中国青年報』で記者をしていたという。アリババグループの創業者、ジャック・マー氏やシャオミ創業者でCEOの雷軍氏など中国を代表する経営者を取材した経験が、李氏を起業へと駆り立てた。ポータルサイト「網易」への在籍を経て、31歳の時に広州華多網絡科技を設立すると、ゲーム情報サイト「多玩遊戯綱」をローンチし、エンジェル投資家でもある雷氏から100万ドルを調達した。

YY Inc.のウェブサイト

YYのブランド名が誕生するのは2008年になってからだ。ゲーマー向けの音声通信ソフト「YY語音」をリリースし、その後、徐々に一般ユーザーが増加。2010年にライブ動画配信サイト「YY.COM」を立ち上げ、現在に至る基礎ができあがった。同年12月には、持株会社「広州歓聚時代信息科技」を設立。その後、「YY教育」「YY娯楽」「YY音楽」などのサービスを次々とリリースした。さらに傘下には、ゲーム実況を主体としたライブ動画配信サービス「HUYA(虎牙直播)」がある。YY Inc.は2012年に米ナスダックに上場。現在の時価総額は46億ドル(約4,900億円)を超える(9月1日時点)。

海外展開にも積極的だ。2018年6月、シンガポールBIGO TECHNOLOGYのシリーズラウンドDに応じ、約2.7億ドル(約288億円)を出資。2019年3月には14.5億ドル(約1,537億円)で完全子会社化した。同社は動画配信アプリ「BIGO LIVE(ビゴライブ)」と短編動画アプリ「Likee」を展開している。

収益は「投げ銭」ライブショッピングにも参入

多角的に展開を仕掛けている同社だが、収益の柱はやはりライブ動画配信のYYだ。収益構造は、ネット広告に依存する一般的な動画プラットフォームとは異なっている。

中国語の「網紅(ワンホン)」という言葉は、日本ではネットインフルエンサーと訳されることが多いが、より実際に即して意訳すると「ネットアイドル」である。とくにライブ動画配信における配信者をみると、ネットアイドルの方がしっくりくるだろう。配信者は歌やダンス、トークなどパフォーマンスを披露。それを気に入ったフォロワーが自分で好きな額を「ギフティング」、すなわち「投げ銭」をすることで、それが配信者の収入になる仕組みだ。

配信者にギフティングをするには、専用通貨をチャージする必要がある。その際の手数料がプラットフォーマーの収益となっているのだ。このギフティングは配信者によって取り分が異なるが、プラットフォーマーはおよそ半分を手数料として取るようだ。数万~数十万円の投げ銭が当たり前となっている中国では、手数料収入も莫大なものになることが想像できる。

YYアプリでライブ配信をする中国の女性ユーザー

セグメント別の売上高を見ると、YYはライブ動画配信による売上が約28.6億元(約429.5億円)で、その他の売上1.9億元(約28.5円)を大きく上回る。決算報告書によると、広告はその他の売上に含まれるので、全体からすると広告収入は微々たるものといえよう。

一般的な動画アプリ同様、YYにも「音楽」「ダンス」「戸外(屋外)」「交友(出会い)」などさまざまなカテゴリーが存在するが、ほかとの差別化要因となっているものに「直播購(ライブショッピング)」がある。商品の紹介をライブ配信する、テレビショッピングのようなものだが、商品ジャンルは「翡翠」「原石」「書画」「古銭」など宝石や骨董品が多い。そこから派生し、2017年5月にはECアプリ「一件」をローンチしたが、やはり宝石や骨董品、古銭などが中心である。視聴するタイミングにもよるので、すべての商品でライブ動画を配信しているわけではなく、画像しか表示されない場合も多い。また、さらなる特徴としてオークション機能も備えている。

現地の報道によると、2018年の6月18日に行われた一件のライブショッピングのキャンペーンでの取引額は5,614万元(約8.4億円)だったが、1年後に行われた同じキャンペーンでは6倍以上の3.98億元(約59.7億円)まで拡大しており、順調に取引額を伸ばしているようだ。

一件のアプリ。翡翠を販売するチャンネル

ライブショッピングに関してはECサイト大手も力を入れている。最大手のアリババグループは、2016年に「淘宝直播」を立ち上げ、2019年春にはアプリをリリース。ジャンル分けは「美妝(メイク)」「美食」「親子」「ジュエリー」といった女性を意識した項目が多く、ライブ動画を視聴して気に入った商品は、アプリ上で購入できる。「2019年淘宝直播生態発展趨勢報告」によると、2018年の取引額は1,000億元(約1.5億円)を超えたという。

一方、JD.COM(京東)にも「京東直播」があるが、専用アプリはなくJD.COMのアプリ内に組み込まれている形だ。ライブ動画を配信するのはYY同様、翡翠などの宝石を扱う店が多い。写真だけでは見分けられない品質の良し悪しを、映像化することでアピール度を高め、販売を促進する意図があるのだろう。

今のところ、ライブ動画配信サービスそのものは、男性ユーザーの割合が高く、その意味では美容やファッション分野との親和性は低そうにみえる。先述の「2019年第1四半期中国モバイルライブ動画配信市場研究報告」によると、ユーザーの61.2%が男性で、配信者は女性が圧倒的に多いが、それを視聴するのは男性という構図がはっきりしている。

そうした構造が業界を不健全な方向へと向かわせた時期もある。配信者はファンが増えれば増えるほど収入増になるため、競い合うように肌の露出度が高くなり、パフォーマンスが過激になっていった。その結果、わいせつ容疑で逮捕された配信者も少なくなく、社会問題にまで発展した。当局が展開した違法サイト一掃キャンペーン「浄網2018」では、67万ものアカウントが閉鎖された。こうした規制により、現在は、ライブ動画配信は健全化しつつある。

美容業界はYYを活用できるか

男性が多いとはいえ、YYでは、アクティブな女性ユーザーが全体の4割近くの月間約1,108万人いること、かつ健全化していることを考えると、近い将来、化粧品などのプロモーションも現実味をおびてくるはずだ。

P&Gが展開するスキンケアラインOLAY(オレイ)は2019年3月8日の国際女性デーに合わせ、各界で活躍する女性を起用したCMを公開した。林志玲(リン・チーリン)などのタレントや著名人が自分にまつわる数字に関するストーリーを紹介するというものだが、そのうちの1人にYY Inc.の李婷最高執行責任者(COO)が起用されたり、同月6日に開催された上海国際広告展では、100名の女性のストーリーが展示され、YYの人気配信者である小潘潘も取り上げられた。

YYのイメージアップの意味もあり、企業とのコラボレーションは実現の可能性が高そうだ。美容企業ではないが、YYは5月1日のメーデーに、コカ・コーラやコンビニチェーンの「MEIYIJIA(美宜佳)」と共同でイベントを展開している。報道によると、このイベントは、映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』とコラボした限定デザインパッケージの「コカ・コーラ・ゼロ」をPRするためのイベントで、YYとコカ・コーラのユーザーの地域分布トップ10の一致率が80%に達することから、そのトップ10の地域で開催された。10万人以上のフォロワーを抱える人気配信者の小珊瑚がMEIYIJIAの店舗で1日店長を務めたり、コカ・コーラのイベントブースを訪れた様子をライブ配信。4時間の間に15万人のユーザーから延べ90万件ものギフティングが発生したという。コンビニチェーン、コカ・コーラ双方の企業のプロモーションもかねており、なおかつギフティングも発生する「広告+投げ銭」の新しいモデルとなりそうだ。

同社はこうしたコラボ企画について、配信者の影響力を高めるとともに、新たなユーザーの掘り起こしができると好意的に受けとめている。YYは配信がメインで、こうしたオフラインとアプリをつなぐプロモーションイベントはあまり展開してこなかっただけに、人気配信者を起用した企業とのコラボはまだまだのびしろがあり、美容やファション分野でも応用できそうだ。YYでは男性の配信者も徐々に増えてきており、女性ユーザーも増加していくだろう。そうなれば、ライブショッピングで美容商品を展開するチャンスも広がる。

海外に進出、日本ではBIGO LIVEも一定の存在感に

順調に拡大を続けるYY Inc.はこの先どこへ向かうのだろうか。李学凌CEOは現地メディアのインタビューに対し、人工知能(AI)とグローバル化を今後の戦略として掲げている。李氏は「モバイル通信によって社会生活は大いに変わったが、AIがもたらす変化はその100倍激しくなる可能性がある」と指摘する。ただし、現在は研究開発に注力しているものの、具体的な活用については言及していない。

一方、グローバル化についてはすでに手を打っている。BIGO LIVEとLikeeを世界各地で展開し、アプリはすでに日本語にも対応している。BIGO LIVEは世界50カ国以上の配信者がいるグローバルなライブ配信プラットフォームであるがゆえに、日本人配信者にとっては海外にもアピールできるという利点がある。

BIGO LIVEは日本人ユーザーも多い

Likeeのアプリ

実際、BIGO LIVEには日本人ユーザーも多く、お笑いコンビ・よゐこの濱口優を起用したカラオケDAMとのイベント企画や、中国のかわいい&ガーリー系雑誌『GIRLISM少女主義』とのコラボイベントなど、さまざまな仕掛けをしている。日本ではSHOWROOMをはじめDeNAが手掛けるPococha、台湾発の17Liveなど競合も多いが、これらの企画が日本の多くの若年層に受け入れられれば、BIGO LIVEも一定の存在感があらわせそうだ。

Text: チーム・ロボティア(Team Roboteer)
Top image: Tom Wang via shutterstock

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