資生堂とアクセンチュアのJVが描くビジネス改革 <前編: DXのスピード化と人材戦略>
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資生堂とアクセンチュアのJVが描くビジネス改革 <前編: DXのスピード化と人材戦略>

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2021年7月1日、資生堂とアクセンチュアが合弁会社資生堂インタラクティブビューティーを設立した。アクセンチュアとの合弁会社の狙いはなにか。資生堂インタラクティブビューティー株式会社 代表取締役社長 高野篤典氏、そして、同社の中核を担うアクセンチュア インタラクティブ本部 マネジング・ディレクター 枩崎由美氏、アクセンチュア インタラクティブ本部 シニア・マネージャー 志満津加奈氏に詳しく話を聞いた。前編では、ジョイントベンチャー(JV)の設立意図、人材戦略を紹介する。

コンサルティングを超え、JVとして改革をスピードアップ

資生堂は2021年2月9日に中期経営戦略「WIN 2023 and Beyond」を発表した。このWIN 2023 and Beyondでは、2030年に向けたビジョンと2021~2023年の3年間で取り組む基本戦略をまとめ、パンデミックの危機から2030年に完全復活し、「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」として、売上1兆円、利益率15%の達成を目標に掲げた。さらにこのなかで、ブランド、イノベーション、サプライチェーン、DX、人材組織への積極的な投資を約束している。

この積極的な投資において重要な位置をしめるDXが、資生堂インタラクティブビューティー株式会社(以下資生堂IB)誕生のきっかけであるとして、資生堂のエグゼクティブオフィサー、チーフインフォメーション テクノロジーオフィサー(CITO)も兼務する、資生堂IB 代表取締役社長 高野篤典氏は以下のように説明する。

「このWIN2023で強く謳っているデジタル強化を短期間で実現するのは、資生堂一社ではハードルが高い。アクセンチュアとはこれまでいろいろなプロジェクトを通じて接点があった。将来構想を議論するなかで、アクセンチュアと戦略的パートナーシップを締結したほうが、短い時間でより効果が得られるのではないかという話があがった」

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資生堂インタラクティブ
ビューティー株式会社
代表取締役社長 高野篤典氏

資生堂がアクセンチュアを選んだ理由は、技術面ももちろんのこと、デザイン、クリエイティブ、テクノロジー、マーケティングの専門家を多数抱えるグローバルなケイパビリティだという。「メディアからデジタルマーケティングまで幅広くカバーしており、資生堂がやりたいことを考えたときに、JVとしてアクセンチュアにもコミットしてもらうことで、資生堂が目指すゴールに向かってスピーディに進めるのがよいのではないかと考えた」(高野氏)

それに対して、アクセンチュアは最初からJVありきと考えていたわけではなかったが、コンサルティングという立場の難しさも感じていたという。アクセンチュア インタラクティブ本部 マネジング・ディレクター で、現在資生堂IBに出向しCX(顧客体験)領域全般を支援する枩崎(まつざき)由美氏は「デジタルは様々な課題が複雑に絡みあっており、今までアクセンチュアが行ってきた業務支援だけでは大きな改革は難しい部分があった」と振り返る。

アクセンチュアのコミットメントを示し、資生堂と一体となって、DX面でも日本発のグローバルビューティー企業へ変革していく必要性は感じていたという。「2022年に150周年を迎える資生堂は、伝統を持つメリットもあればデメリットもある。DXを実現するには、スピードが不可欠だ。会社全体をどう変え、スピーディに舵を切り、BX(※)を実現することを考えたときの1つの解がJVだった」(枩崎氏)。

※枩崎氏がいうBXとはBusiness of Experienceの略で、ビジネス変革、つまり企業がより顧客志向にシフトし成長促進するためのアプローチをさす。その意味で、CX(顧客体験)、DX(デジタルトランスフォーメーション)はBXに内包される。

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アクセンチュア インタラクティブ本部
マネジング・ディレクター
枩崎(まつざき)由美氏

デジタルだけではなくBX(ビジネス変革)に必要な手段

アクセンチュアが今回のようにクライアント企業と一体となってこのBXを推進するようになったのは2019年ごろからだ。さまざまな業界でBXをサポートするなかで、これまでのコンサルティングプロジェクトのような業務支援スタイルだけではなく、JVを設立するケースもあり、各クライアント企業にとって最も効果の出る手法の蓄積がアクセンチュアにはあるという。その知見からも、資生堂とはJVという形に至ったというわけだ。

資生堂は、これまでにアクセンチュア以外にも数多くのIT企業やスタートアップとの協業でビジネスを展開してきたが、こうした他企業との関係性については変わらないとする。「このJVで、資生堂のデジタル・ITを全てアクセンチュアが担うわけではなく、今後もそれぞれに特徴をもつIT企業と連携していくことは共通の理解だ」(高野氏)

一方、アクセンチュア側としては、化粧品業界を起点とした消費財業界におけるBXをクライアント企業と一体となって実行していくことで、机上ではない、より現場に根ざしたナレッジ・ケイパビリティを獲得することができる。もちろん競合・他社に対する情報統制は行いつつ、マルチブランド・マルチチャネルを持つグローバル企業の顧客ID統合、データ戦略、それによるOMO実現といった知見を、異業種へのコンサルティングに応用できそうだ。将来的にはそれが資生堂IBによる他社支援となる可能性も高野氏は示す。

「立ち上げたばかりの現在は資生堂グループ内の改革で手一杯だが、数年後に安定したのちには、資生堂IB自身が他社のサポートをしていくことも考えたいと思っている」(高野氏)

また、アクセンチュアにとっては、戦略的パートナーシップとして目指すKPIにもとづき、ベネフィットが得られる仕組みともなっているという。

また、プロジェクトメンバーとして資生堂IBに参画しているアクセンチュア インタラクティブ本部 シニア・マネージャー 志満津加奈氏によれば、アクセンチュア内でも資生堂IBや関連するプロジェクトへの参加希望者が多いという。「資生堂IBに参画することは、コンサルタントとして企業変革の新たなアプローチを学ぶ機会になる。自分自身も女性として資生堂のお客さまと同じ当事者でもあり、資生堂IBが目指すビジョンを成し遂げたいという想いは強く持っている」(志満津氏)

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アクセンチュア インタラクティブ本部
シニア・マネージャー 志満津加奈氏

資生堂IB立ち上げの人材戦略は、コアスキルの「内製化」

現在、資生堂IBは、資生堂とアクセンチュアからの出向や新規採用などで250名ほどの社員・スタッフで構成されている。

資生堂からは、資生堂や資生堂ジャパンのIT・デジタル担当者、そしてオムニエクスペリエンスを体現する美容部員(BC)たちが集った。

DX本部には、資生堂ジャパン株式会社のCDOを務めるスギモトトシロウ氏も、CDOを兼務しながら資生堂IBの取締役、DX本部本部長として出向した。スギモト氏が率いていたデジタル人材はほとんど資生堂IBに出向し、このDX本部では、リアルとデジタルを融合したオムニエクスペリエンスを通じて、新しい顧客体験を作り、新しい価値を生み出し、購買体験にいかにつなげていくかを担当する。そして、このチームに30名弱のBCが、顧客との新しいエンゲージメントスタイルを作っていく第一期生として出向してきた。

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ライブストリーミングの
トレーニング中のBCメンバー

「浜松町・汐留エリアに通勤できる関東圏の人に手を上げてもらったところ、定員の5倍ほどの応募があった。2020年からのパンデミックを経験し、オンラインカウンセリング、ライブコマースなどお客様との接点をいろいろ試し、新しい環境を作ってきたなかで、BCたちが自ら進んでこうした取り組みに参画している。この経験をベースに、新たなコミュニケーションチャネル、カスタマーエンゲージメントとしてオンラインによる接客や販売を確立していきたい」(高野氏)

IT部門は、資生堂グループのIT戦略実行を担当する。インフラを含めデータをどう活用していくかの戦略・企画をリードする役割だ。もともと高野氏は資生堂のCITOとして本社および資生堂ジャパンのITを統括しながら、CDOのスギモト氏とも密に連携をしてきた。「スギモトらがやりたいことをスピードよく実現していくには、裏の仕組みも大切だ。そこを今までは資生堂本社、資生堂ジャパンと違う会社の立場でやってきたが、100名くらいの部隊を移動させ、1つの同じ会社という形で、ITとデジタルを掛け合わせた相乗効果を生みだそうと考えた。いわばDXのワンチームだ」(高野氏)

アクセンチュアからは、枩崎氏が属するアクセンチュア インタラクティブ本部のほかに、ストラテジー&コンサルティング、テクノロジーなどのさまざまな部門から多くのメンバーが参集している。「アクセンチュアの持つケイパビリティを総動員したBXプロジェクトとしては、かなり大がかりなチームである」(枩崎氏)

そこには枩崎氏のように資生堂IBに出向しているメンバーもいれば、通常のコンサルティングプロジェクト同様にアクセンチュアに在籍したまま、プロジェクトメンバーとして参画するケースもある。「さまざまな形態で働いているが、メンバーはとくに意識していない。資生堂メンバーとワンチームで、日々顔を突き合わせている。資生堂IBで実施しているさまざまなイニシアティブの局面にあわせて最適なケイパビリティのメンバーをアクセンチュアから補完している」(枩崎氏)。

IT・デジタルの担当者が一堂に会し、デジタル・ITに特化した機能子会社として、顧客一人ひとりのビューティー体験を創造することを全員が志向しているのだ。

資生堂IBのミッションとして「すべての人生を健やかでリッチに。デジタルとテクノロジーを駆使して、一人ひとりの明日のビューティー体験を創造する。」を掲げ、ビジョンには、「原点を大切にし、デジタルとテクノロジーのプロフェッショナル集団として革新的なビューティー体験を共創し続け、Global No.1 Data Driven Skin Beauty Companyへの変革をけん引する」と定義した。また、コアバリューに以下の6つをあげている

● Consumer value centric お客さまの価値を第一に
● Professional 専門性高く
● Flat society with ownership オーナーシップをもち、思ったことが言える関係を築く
● Be quick and learn まず動き、ラーニングを得る
● Empathy 共感し、理解し、称える
● FUN ワクワク感を基準にして働く

出典:資生堂IB公式サイト

このミッション、ビジョン、コアバリューをベースに、資生堂IBは、求める人材像をかなり詳細に作りこんだ。IT人材として16の人材像、デジタル人材として14の人材像の計30を定義した。なかでも、DXに不可欠な「スピードよくリスクをとれる人材」を重視している。2021年7月中旬に全社員に対してスキルアセスメントを実施し、この結果にもとづいて、現状のレベルをあげていくような体系的な育成計画とプログラムを進めている。

そこでは、「アクセンチュアの持っている研修などのプログラムを活用する」(高野氏)ことにしたという。具体的には、全社員共通の基礎講座を用意し、デザインシンキングなどの講座を受け、周辺知識を増やしてもらうとともに、その先の専門講座も用意し、高い専門性を持つ人材の育成も進めていく。

定義した30の人材像のなかで、とくに優先的に層を厚くしていかなければならない人材像、たとえば、データアナリティクス(分析)系、カスタマーエンゲージメントを高めていくためのCRMパートナー、エクスペリエンスデザイナーなどの人材像は、早く育成していく必要があり研修を急いでいる。

また、今後オムニエクスペリエンスを担うBCは、基礎講座をしっかり受けて周辺知識を増やしながら、よりよいオムニBC的な活動ができるための実地トレーニングを内部でやっていこうとしている。

アクセンチュアからは、資生堂内に知見が少なく、今後優先的に強化したい分野の専門人材を中心に配置している。データ分析経験値の高い人をはじめ、個々の顧客の行動変容、ニーズの多様化から、カスタマージャーニー関連が得意な人などを配置した。また、エンジニアについては、資生堂IB内で今後推進していくデータやID統合のプロジェクトでの戦略・企画を立て、協業するベンダーとともにプロジェクトを進めるノウハウを蓄積することに主眼をおくという。

ちなみに、アクセンチュアでは代表取締役社長 江川昌史氏が「デジタルを本気でやろうと思うと、企業の集合知として、30種類ぐらいのスキル、ケイパビリティがいる」とNewsPicksの取材に答えている

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出典:NewsPicks
「【アクセンチュア】トップが語る
『6年で3倍』規模拡大の全貌
」より
編集部作成

こういったDXの要ともいえる部分のノウハウを、資生堂IBそして資生堂グループが蓄積していく際にアクセンチュアが意識するのは、志満津氏によれば「共創すること」だ。アクセンチュアが基礎プログラムとして提供するのは座学だが、「より実行力を高めるために、プロジェクトをともに推進しながらスキル形成を図る。誰かが鍛えて育てるというより、ワンチームとして走り抜ける過程で、経験し自走していくことを目指している」(志満津氏)

スギモト氏が提唱する「トライアルアンドエラーを繰り返す」ことの実行性を高めるべく、アクセンチュアメンバーは資生堂メンバーをサポートはするが、決して手取り足取りというわけではなく、同じチームメンバーとして進行させていく。そのことで、資生堂IB内部にスキルが残ることを常に意識しているという。

資生堂IBを率いる高野氏が、ここまで社内の人材育成にこだわるのには理由がある。「今の時代、内製力をあげていかなければいけない。外に行けば豊富に人材がいるかもしれないが、何かやろうとすると、提案をもらって評価して契約を締結し……と手順も時間もかかる。お客さまのニーズや変化に迅速に対応していくには、リスクを自社でとりながら、スピード感よく物事を進める必要がある。そのためにもある程度のことを内部でできるようにしておくことが必須だと考えている」(高野氏)。

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ワタシプラスでのライブコマース

以前の記事「ローラ メルシエの12時間インスタフェス、内製で積み上げたファン拡大の方程式」でも取り上げたが、ローラ メルシエの成功は、企画、インフルエンサーの起用から、集客、当日の運営に至るまで、すべて社内制作したところにある。自分たちの想い、熱量がそのまま顧客に伝わるようにするためには、内製化が必要だといち早く見抜いて実行に移してきた。

パンデミックのような危機においては、早い速度で自分たちが試行錯誤を繰り返しながら成功するものを探していく、こうしたプロセスを実行できた企業が成功への道筋を見つける傾向にあるのは間違いない。

資生堂本体から離れ、アクセンチュアという、美容企業にとっては異色にもうつるコンサルティング企業とあえてJVを作ることで、新しい文化・風を巻き起こし、そこから資生堂全体を変革しようとしている。

この取り組みがスタートしてからまだ2カ月あまりだが、すでに大きな足跡を随所に残し始めている。後編では、資生堂IBがはじめた変革へのプロジェクトについて紹介する。

Text: 秋山ゆかり(Yukari Akiyama)
Top image: 資生堂ニュースリリース
画像提供:資生堂インタラクティブビューティー、アクセンチュア


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