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泡シャワー「KINUAMI」、繊細男子向け「BOTCHAN」、異業種こその大胆さ

◆ English version: Combining brawn with beauty in fun cosmetics
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まったくの異業種から化粧品市場に参入する事例はこれまで大手企業が多かったが、中堅の墓石メーカーと消防関連企業の参入に今回はスポットをあてたい。枠にとらわれないユニークなアイディアと、SNSやクラウドファンディングなどの時代に沿った仕組みをうまく利用することで美容業界に参入する手法を聞いた。

日本で、異業種の化粧品事業への参入が目立ち始めたのは1960年代頃、製薬メーカーが医薬品に使われる有効成分を化粧品に応用しはじめたのが発端だ。その後、1990年代には日本盛、白鶴酒造などの酒造メーカーが酒造りに欠かせない酵母などの技術を応用した化粧品を、また味の素がうま味成分であるアミノ酸の研究成果をもとに化粧品を開発した。

2006年には、製薬会社でも食品会社でもない富士フイルムが、フィルムの材料に含まれるコラーゲンや、写真プリントの色褪せ防止に役立つ抗酸化技術を活用した化粧品「アスタリフト」を発売し、業界に強烈なインパクトを与えた。2010年代には、江崎グリコのナノグリコーゲンを配合した「gg」、サントリーの酵母の研究成果から誕生した「F.A.G.E.[エファージュ]」などが続いている。いずれも、資本力のある大手企業が本業で長年培ってきた技術を化粧品に応用し、事業の多角化を図るケースが多かった。

最近では、まったくの異業種、かつその企業自身が美容に応用できる技術をもっていなくても、異業種コラボレーションや、エッジのきいた販売戦略で注目を集めている事例がある。その代表ともいえる、「KINUAMI(絹浴み)」と「BOTCHAN」を詳しく紹介する。

消火の泡生成技術を応用し、開発された泡シャワー

KINUAMI」は、シャワーヘッドから生成される天然シルク由来成分配合の泡で全身をパックして、洗身後の肌をトリートメントすることができる「カラダトリートメントシャワー」だ。LIXILの100%子会社であるNITTO CERAと、創業110年以上の歴史を持ち、消防車・防災機器の製造、販売を行っているモリタグループのモリタ宮田工業、クラウドファンディングプラットフォームのMakuakeの3社による異業種プロジェクトから誕生した。

Makuakeで紹介されたKINUAMIのコンセプトムービー

発端は、消火のための泡生成技術に知見をもつモリタグループが、介護向け商品として泡を応用できないかと泡シャワーを考案。プロトタイプを制作し、2017年9月に開催された国際福祉機器展で展示したのをNITTO CERAが見つけ、コラボレーションをもちかけたのがきっかけだ。「40℃近い温かくてキメの細かいもっちりとした泡に包まれる感覚は、これまでにない入浴体験を提供できる。無限の可能性があると感じた」とNITTO CERA 代表取締役 社長 浅野靖司氏はいう。

コンセプト設計支援とテストマーケティングのために、Makuake内の企業向け新製品開発サポートプログラム Makuake Incubation Studio(MIS)にも参加をもちかけ、2018年6月頃から、3社合同プロジェクトが、ゼロベースからスタートした。介護、美容などさまざまな分野での活用の可能性がある中で、どういった商品を提供することで価値を最大化できるか、約半年かけてターゲットやコンセプトの検討とモニターテストを同時進行で進めていった。

コンセプトを検討する上でもっともこだわったのは、「体験価値」だ。「KINUAMIを使用するためには、顧客に専用の薬剤を継続的に購入いただく必要があるため、従来の入浴とはまったく異なる体験価値を提供しなければならないと考えた」(モリタ宮田工業 新規事業開発課長 北里憲氏)。そこで薬剤は、洗浄機能に特化したもの、洗浄もトリートメントも同時にできるもの、トリートメント効果を重視したもの、保湿、アンチエイジングなどスキンケア効果を重視したものなど処方を変えて10種類ほど用意し、モニター調査を行った。

また、理想の泡質を実現するために、放射された泡の滞留性、当たり強さ、弾力性、伸びやすさの4項目の満足度を5段階で評価。さらに使用後の肌感触を細かくヒアリングした結果、機能を絞った方が使用後の満足度が高くなることがわかり、「洗身後に泡でトリートメントする」という、これまでにない美容体験を提供する製品が誕生した。

提供:KINUAMI

商品名である「KINUAMI」には、「絹のようになめらかな泡を全身にまとって、新しい自分に生まれ変わる」というコンセプトが反映されている。これをうけ、薬剤には、天然シルク由来の保湿成分「フィブロイン」のほか、保湿成分「アルガンオイル」をはじめとする数種類の植物成分を配合。プロダクトデザインは、絹のなめらかさを連想させるような丸みのあるフォルムにし、さまざまな浴室環境でノイズにならないように、マグネットひとつで浴室の壁に設置でき、操作もレバーひとつのみで「泡生成モード」に切り替わるシンプルさにこだわった。

提供:KINUAMI

開始2週間で完売。製品化や、美容以外の分野での事業化も検討

2019年3月に開始したクラウドファンディングでは、3社によるプレスリリースやSNS発信、動画メディア、テック系メディアでの紹介、Instagramのターゲティング広告などのデジタル施策を実施した。Twitterでは29万リツイートを獲得。シャワーヘッドから瞬間的に泡が出てくる動画が予想を超えて拡散し、効果検証をする間もなく、約2週間で予定台数の100台が売り切れとなった。Makuakeでの購入者は20~50代で、ボリュームゾーンが30~40代。Makuakeの特性上、購入者は男性のほうが多かったが、家族のために購入したケースも予想され、想定していたターゲットにきちんと届いているのかどうか、これから詳しく分析していく予定だ。

想定以上の反響をうけて、一般販売に向けた事業化、当初検討していた美容以外での活用の可能性の検討も始めている。「一般販売の有無や時期は検討中ではあるが、今後も泡が提供できる価値をKINUAMIのSNSで継続的に情報発信していく予定。その一環で、宿泊施設などを利用して、KINUAMIの泡を体験できるイベントの企画も進めている。商品のことをまずは知ってもらい、販売されたときに『あれだ』と気づいてもらえる仕組みを作っていきたい」(浅野氏)。

モリタ宮田工業 新規事業開発課長
北里憲氏(左)
NITTO CERA 代表取締役 社長
浅野靖司氏(右)

「男らしさ」を脱却したメンズコスメBOTCHAN

ポップでカラフルなデザインボトルが印象的なメンズコスメ「BOTCHAN」を販売する株式会社アンド・コスメは、墓石メーカーが立ち上げたブランドだ。墓石市場は人口構造的に今後縮小していく業界であること、そして墓石=陰のイメージを変えてハッピーな仕事をしたいという長年の思いがあり、3代目の加登隆太氏が化粧品の開発に踏み切った。

「ある経営者の会で、化粧品原料メーカーの経営者と知り合い、化粧品開発に興味を持つようになった。競争がまだ激しくなかったメンズコスメに目をつけたのは、自分の欲しいものが市場になかったから。若い世代は、ブランドものは買わないが、自分磨きのためにはお金を使う。ドラッグストアに売っている男性向けの清涼感たっぷりなメンズコスメに違和感を感じている人も多い。そういった層に向けて、ステレオタイプな男性像に向かわずに、自分の個性と向きあおうというコンセプトのメンズコスメを開発したかった」(加登氏)

BOTCHANの名前は、夏目漱石の小説『坊っちゃん』が由来だ。肩の力が抜けていているように見えて、 強いこだわりのある主人公が自分探しに出るという話と、“男らしく”を脱け出し、肩の力を抜いて個性と向き合おうという化粧品のコンセプトを重ね合わせた。

アートディレクターにデザイナーの飯高健人氏を迎え、清潔感の白やブルー、もしくは黒かシルバーの重厚なボトルデザインが多いメンズコスメに遊び心をプラスするべく、カラフルな色彩と、躍動感のあるドローイングでブランドの世界観を表現してもらったという。

配合成分やテクスチャーにも徹底的にこだわり、アーチチョーク葉エキス、エナンチアクロランタ樹皮エキスなどの天然植物由来成分を贅沢に配合し、ノンアルコール、パラベンフリー、無着色の処方を実現。皮脂を抑え、ベタつかないのにしっかり保湿するテクスチャーや、ユーカリ精油をベースにしたシトラスフォレストの香りは、女性でも違和感なく使えるものだ。約2年かけて試作を重ね、大まかな方向性が固まったところで、クリエイティブディレクターとしてスタビンズ合同会社 CEO 福岡英一氏が加わった。

福岡氏は、長年、LVMHグループのラグジュアリービューティ部門に所属し、日本支社の代表取締役を務めた経歴の持ち主。2017年に独立後、化粧品及び美容に関するコンサルティング業務などを行っている。福岡氏は「BOTCHANのポップでカラフルなボトルを手にして、気持ちが上がる男性もいるはず。そうした美的センスに敏感な『繊細男子』にターゲットを絞り込み、その延長線上に含まれるボーイッシュな女性をも取り組むべく、ジェンダーレスなコスメを意識したコミュニケーションを取ろうと考えた。そこで、早い段階から、LGBTQの方々とブレストを重ね、彼らの意見を積極的に取り入れながら、約2年の歳月をかけて『男らしくを脱け出そう。』というコンセプトに沿った商品開発を行い、いろいろな枠を超えたユニークなメンズコスメブランドが誕生した」(福岡氏)。

スタビンズ合同会社 CEO
福岡英一氏(左)、
株式会社アンド・コスメ
代表取締役社長 加登隆太氏(右)

体験型のイベントや他社コラボレーションでファンを増やす

2018年2月の発売後の反響は大きく、『ハーパースバザー』などのハイラグジュアリーなモード誌や美容家のSNSで取り上げられた影響で、伊勢丹新宿店でのポップアップイベントの打診が舞い込んだ。一般的に、メンズコスメはロフトなどのバラエティショップからスタートするケースが多いが、伊勢丹新宿店や阪急有楽町などの百貨店を中心に、梅田の蔦屋書店の店内では本に囲まれながらのポップアップイベントなども展開している。カラフルでポップなBOTCHAN独自のデザイン性を活かした空間演出に、足を止める一般客も多く、購入しているのは5割が女性だ。ギフト需要が多いが、シェアードコスメとしてパートナーと一緒に使用しているケースも多い。

ポップアップイベントのテーマは、「You Meet BOTCHAN」。BOTCHANを擬人化し、どこにどのように出没させたら楽しいかを考え、体験型のイベントやコラボレーション企画を実施している。具体的には、飯高健人氏がデザインしたグラフィックを自由に顧客がカスタマイズして、トートバッグやTシャツに配置して、オリジナル品を作りだし、その場でプリントして持ち帰るという「プリントライブ」を実施したり、2019年4月には、ネクタイ専門ブランドの『giraffe』とのコラボレーションで蝶タイを製作し、販売したりしている。イベントの企画には、BOTCHANのブランドコンセプトに共感するクリエイター約30名が、イベントごとにチームを作って運営に参加しているという。

LGBTQメディア GENXY×BOTCHANのコラボ企画を実施したときも大きな反響があり、BOTCHANサイトへの流入も増加。そこに出演したLGBTQの1人でYouTuberのかずえちゃんが、ポップアップイベントで一日店長をして、ファンが店頭に足を運びBOTCHANを手にするなど、あらたな広がりを生み出している。

最近は、都内に5店舗展開する「ザワードローブホステル」で、トラベルサイズのスキンケアセットにオリジナルサコッシュがついたバックパッカーセットの販売をスタート。美容業界がコラボレートしないパートナーとあえて組み、BOTCHANと出合える場所をこれからも少しずつ増やしていくという。今後も、月1程度のペースでポップアップイベントを実施しつつ、BOTCHANらしいアプローチで認知度を高め、化粧品の枠を超えたチャレンジを続けていきたいと加登氏。中国やアメリカへの海外進出に向けた準備も少しずつはじめているということだ。

2つの事例に共通しているのは、規定路線とは異なった視点からのコンセプトメイキング、そして、手にしたときの体験価値を最大化するストーリーを、動画やパッケージデザインなどを通してしっかりと伝えている点、そして、クラウドファンディングやSNSなど、時代に沿った手法で情報発信をスピーディに行い、ターゲットユーザーの共感を得ている点にある。異業種参入かつスタートアップ的な動きに、学ぶ点はいくつもありそうだ。

Text:小野 梨奈(Lina Ono)
Top image: Itz Inferno via Unsplash


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