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韓国版アマゾンと呼ばれるECユニコーンのクーパン、競争激化でも一強めざす

◆ English version: South Korea’s Amazon-equivalent Coupang sparkles, aims to take the e-commerce crown at home
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韓国ユニコーン企業のひとつに、「韓国のアマゾン」を目指すモール型ECサイト「クーパン(Coupang)」がある。国内財閥系企業も動向を注視するベンチャー企業は、日本のファンドから大規模な投資を誘致しながら外形拡大を急ピッチで推し進めている。化粧品も多数出品されるクーパンの強みをひもとく。

ソフトバンクのビジョンファンドが、クーパンに20億ドルを出資したというニュースが2018年11月に流れた。韓国の小売におけるEC化率は12%を超え、世界でも3本の指に入る。5,000万人強の人口ながら、ECプレイヤーが大小入り乱れて激戦する市場で、モール型としては米イーベイ傘下の「G-market」をはじめ、タイムセールを定期的に開催する「11番街」や「T-mon」などが有名で、化粧品販売においてもしのぎを削っている。

そのなかにあってクーパンは「最安価格」を標榜し価格訴求に重心を置く。また、「ロケット配送」と呼ばれる配送システムにより、23時59分までに購入・配送依頼を行えば、翌日中に商品が届く。

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出典: クーパン HP

現在、クーパン内では約143万点(筆者調べ)の化粧品が扱われており、日本でも人気が高い「3CE」「VELY VELY」「MISSHA」などの人気ブランドはもちろん、名の知れた韓国国内ブランドのほとんどがクーパン上で商品を展開しているようにさえみえる。クーパンはサービス開始当初、芸能人を起用したマーケティングで順調に認知度を広げ、2014年には実質的に韓国ナンバーワンのECとなった。

韓国メディアが引用した監査報告書によると、2018年の売上高は約4,000億円(4兆4227億ウォン)。前年比約65%の成長率となった。この額は、G-Marketや11番街など、ほかの韓国大手Eコマースサービスを差し置いて1位となる数字であり(※1)、市場占有率に換算するとおよそ10%とされている。化粧品ブランド側からは、「最も販売力のあるECモールのひとつ」と認知され、かつ翌日配送や定期配送といった顧客の利便性を重視するアマゾン的なサービスから選ばれている。

(※1)クーパンは売上高1位だが「取引額1位」ではない。韓国のほかの大手Eコマースは、「売買仲介」の手数料が売上の大部分を占める一方、クーパンの場合は直売(商品を完全に仕入れて販売する)が多いため、売上げで換算すると1位になる。

アモーレパシフィックも雪花秀から参加

韓国最大手の化粧品会社アモーレパシフィックも18年5月から、代表ブランドのひとつ「雪花秀」のクーパンでの販売をスタートした。当初は「最大20%割引+5%ポイント付与+GWP(おまけ)2つ」という、事実上、約45%割引になるキャンペーンも行った。アモーレパシフィックは現在、雪花秀以外にも、「LIRIKOS」「Mamonde」、「HERA」など20のブランドを販売している。

ハーバード大学出身の同級生が立ち上げたクーパン

韓国のユニコーン企業の一角を担うクーパンは、2010年8月にオープンしたサービスだ。グルーポンをベンチマークとした共同購入サイトとしてサービスを開始し、当時、韓国ではあまり前例がなかった、ソーシャルメディアやスマートフォンに注力したソーシャルコマース分野に着目したのも特徴だ。立ち上げの主要メンバーとなったのは、キム・ボンソク氏、ユン・ソンジュ氏、コ・ジェウ氏らで、ともにハーバード大学の同級生という関係だ。

現在も代表を務めるキム・ボンソク氏は、大学卒業後にボストンコンサルティンググループに就職。その後、起業、バイアウト、MBA取得などに励み、最終的にクーパンのサービスインにいたっている。一方、ユン・ソンジュ氏は、韓国省庁の企画財政部長官を務めた大物政治家の娘で、国内大手メディアに勤務した経験を持つ。コ・ジェウ氏は、SKケミカルという韓国大手企業で戦略企画を担当していた。いわば、韓国のビジネスエリートたちによって生み出されたベンチャーコマースサービス、それがクーパンということになる。

クーパンはインパクトのあるキャンペーンを積極的に展開するマーケティングで、国内における認知度を高めていった。例えば、2015年7月に、新規加入者に対しサイト内で使えるポイントのクーパンキャッシュ(約500円分)やクーポン(約1500円分)を大量に配布したのがその一例だ。現在、PayPayやLINE Payなどがキャッシュバックキャンペーンを大々的に行っているが、それに近い施策で利用者を増やしていった。取り扱う商品は、食料品・日用品、家電、ファッション、コスメ、ベビー&マタニティー用品、家具・インテリアなど多岐にわたっている。

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クーパン内で販売される
アモーレパシフィック製品
出典:coupang.com

韓国は日本や諸外国と異なり、グーグルやアップルなど外資系大手IT企業が市場シェアを獲得できない独特の風土がある。ECでも同様で、アマゾンの存在感がまったくないといっても過言ではない。国内企業による競争がメインとなるなか、クーパンはその覇者という位置づけである。「韓国のアマゾン」と考えるとわかりやすいのはそのためだ。

赤字が膨らむ経営状況、そのモデルもアマゾン?

毎年、売上成長率を伸ばしているクーパンだが、2018年には営業損失額が1,000億円(1兆970億ウォン)を上回った。実はクーパンの営業損失額は、2015年5,470億ウォン、2016年5,600億ウォン、2017年6,388億ウォンと年々膨らんでいる。これは外形拡大や事業の多角化による物流インフラの拡張、在庫拡大などが主な背景となっている。ただし、クーパンは事業を縮小するのではなく、さらに拡大していく方針を選んでいる。

2018年には、全国拠点の物流センターや雇用をさらに増やすと同時に、ロケット配送可能な商品数を500万種類に増やした。2018年10月からは深夜までに注文された生鮮食品を午前7時前に出荷する「ロケットフレッシュ」もローンチし、3ヶ月で全国展開した。そのような、ビジネス拡大という“賭け”を行うための資金確保の策として、2018年11月には日本のソフトバンク・ビジョン・ファンドから20億ドルの投資も誘致している。いわば、健全な利益体質がでるまでの“輸血”をしているかたちだ。

ある物流ロボット企業の幹部によれば、「アマゾンでさえEC部門の売上はここ数年でようやく黒字になった」という。大量の在庫を有し安い値段で大量販売する、しかも便利でスピーディな配送(企業側にとっては負担)というECモデルも、アマゾンとの共通点だ。キム代表は「顧客に感動を与えるため、今後も、技術やインフラに積極的に投資していく」としているが、アマゾンと似た投資&成長プロセスを念頭に置いているのかもしれない。米国帰りのキム代表は、世界的企業であるアマゾンにキャッチアップしようとしているという見立ては充分にありえる。

そうなると、「いかに広い市場を席捲できるか」という点が問題になってくる。クーパンは韓国以外にも中国や米国で事業を展開しているが、各国ともECサービスが飽和しているうえに、ローカル大手が市場を席巻している状況で、そこに割って入るのはかなり難しい。しかも、中国では価格訴求にだけ強みを持つECは廃れつつあり、「OMO」を実現したニューリテールが市場での力を伸ばしつつある

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加えて、韓国という小さい市場だけをみてもライバルは少なくない。たとえば、物流大手ロッテがいる。ロッテは11番街を2017年に買収しようとして失敗。以来、オンライン販売に消極的だった。しかし、クーパンの台頭に危機感を抱いているともいわれ、「韓国のアマゾン」が生まれるのを阻止すべく、自社や関係各所のオンラインとオフライン網でさまざまな施策展開が目立ってきた。クーパンのお株を奪う、無料配送、割引やポイントサービスを次々と打ち出している。

化粧品販売でも存在感を出せるか

とはいえ、ECでの化粧品購入という観点からみた場合、韓国の消費者の購入動向は大手モールだけではなく、日本と同じようにさまざまだ。なかでも大きな存在は、韓国最大のポータルサイトのネイバーだろう。YouTubeやInstagramが普及する以前は、ネイバーのビューティブロガー、パワーブロガーが美容の伝道師であった。彼らのブログで価格比較し最安値のECサイトで購入するのが王道で、いまは個人のInstagramがその役割にとってかわっている。

あるいは、成分検索のできるクチコミアプリのファへを利用したり、トレンドに強いクチコミアプリのGLOWPICKでランキングを調べてから、ECで購入するユーザーもいる。化粧品に特化したECとしてオリジナルブランドも持つMEMEBOXなどもある。

日本では、アマゾンジャパンがEC最大手であり、化粧品販売でも実績を伸ばしているが、韓国でもクーパンが化粧品を含めた一強となっていくのか、今後の数年の流れを決める次の一手がカギとなるだろう。

Text: 河 鐘基(Jonggi HA)
Top image: Ki young via Shutterstock.com