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マルホが仕掛けるAIコスメレコメンド「My Salon」、肌悩み特化コミュニティへの展望

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製薬会社マルホ株式会社が、独自のAIコスメレコメンドサービス「My Salon」をリリース予定だ。同社の強みである皮膚科領域のR&Dとデータに裏打ちされた新ソリューションで、肌の悩みを通じてユーザーとのコミュニケーションを深めていくとする。このサービスの詳細や開発の背景について、同社そして技術協力した株式会社Recursive(リカーシブ)の関係者に話を聞いた。

社内のアイディア公募からスタートしたプロジェクト

マルホは皮膚科学の分野に特化した製薬企業であり、皮膚疾患医療用外用剤(塗り薬)の領域で国内シェア1位を誇る。昨今では医療用医薬品事業を中心に事業領域を拡大。化粧品事業、診断薬事業、医療機器事業など、皮膚疾患に対するニーズに幅広く対応している。

そんなマルホが開発を進めているのが、コスメのなかでも基礎化粧品にフォーカスしたAIレコメンドサービス「My Salon」だ。すでにブランドを問わず1万点ほどの化粧品データベースを持ち、その人に合った化粧品をレコメンドするだけでなく、生活習慣の改善も提案する。マルホ株式会社 取締役 常務執行役員 経営戦略/CMC統括 武田雅弘氏は、プロジェクトの立ち上げ経緯について次のように説明する。

マルホ株式会社 取締役 常務執行役員 経営戦略/CMC統括 武田雅弘氏
プロフィール/厚生省(現厚生労働省)、ベネッセコーポレーション、ヤンセンファーマを経て、2014年にマルホに入社。ベネッセでは社内ベンチャーとしての介護事業の新規立ち上げも経験。2016年より執行役員に就任し、経営企画やCMCを統括する一方、新規事業やDXの推進も担当する

「我々は医療用医薬品の研究開発と製造販売を中心とした会社だが、事業領域を拡大していきたいという意識を強く持っていた。そこで、社内で新規事業アイディアコンテストを実施し、革新的な企画について開発をサポートすることにした。審査員たちから高い評価を得たのが同AIレコメンドサービスだった」

AIレコメンドサービス「My Salon」

皮膚疾患のための外用剤開発を続けてきたマルホ社内には、そのR&Dの過程でサイエンスやモノづくりに関するノウハウが豊富に蓄積されている。一方で、市場を見渡したとき、こうした製薬会社がもつ知見とユーザーの肌の悩みをつなぎ、解決に導くソリューションはほとんど存在しない。この点で、自社の強みを最大限生かすことができるという判断が下り、プロジェクトがスタートしたという。

「技術的側面はリカーシブ社に協力いただくことになった。まずはモック(たたき台)を作成し、実証実験が可能かどうかの検証を進めてきた。現在は、開発した仕組み・システムが稼働を開始し、小規模な実証を積み上げている段階だ。今後は、より大規模なトライアルを行うフェーズへと移る」(武田氏)

My Salonプロジェクト推進の責任者であり、社内コンテストに応募した発案者でもあるマルホ株式会社 経営企画部 経営管理グループ シニアマネージャー(研究開発担当)中登俊幸氏は、「一般ユーザーの方が、化粧品に関する情報にアクセスする際のハードルの高さを解決したかった」と、アイディアを提案した動機について話す。

マルホ株式会社 経営企画部 経営管理グループ シニアマネージャー(研究開発担当)中登俊幸氏
プロフィール/弁理士・薬剤師・経営管理学修士。2014年にマルホに入社。入社後は知的財産戦略の企画、推進に従事。2021年10月より経営企画部に異動し、研究開発を担当する傍ら、コスメレコメンドサービスの立ち上げや研究開発関連のDXの推進も担当する

「化粧品はブランドや商品数が膨大にあり、使用される成分も莫大な数だ。一方で、肌の特徴や生活習慣は一人ひとり異なる。各自の正解に辿り着くための情報にコンタクトすることがとても難しく、多くのユーザーがどの製品を使うのが適切なのかがわからず、スキンケア領域で迷子になっている。そこで、弊社が蓄積してきたサイエンスの知見などを織り込んだ、ユーザーの道標になるようなレコメンドサービスを開発できないかと考えた」(中登氏)

マルホのAIコスメレコメンドサービスMy Salonの概要をひとことで説明すると、肌状態や悩みなどユーザーからヒアリングした情報をAIが分析し、個々人の肌に合う、もしくは肌を改善しうるスキンケア化粧品をブランドを横断し表示・提案するサービスだ。

ユーザーが会員情報を登録すると、マルホ側で用意した質問事項に沿って生活習慣およびスキンケアに関するカウンセリングが行われ、その結果がユーザーに提示される。また、カウンセリングやレコメンドは単発で終わらず、利用開始から定期的に行われ、経過に寄り添う形としている。

マルホがMy Salonを通じてユーザーに提供するソリューションは2つある。

1つは「スキンケア提案」で、ドラッグストアや百貨店などで販売されている1万点以上のスキンケア商品のなかから、ユーザーの肌の現状に対して最適な商品を提案する。分析の際に用いられるデータは、「各商品の成分情報」、マルホの知見を活かした「各成分の期待効果の情報」、一般ユーザーの「使用後の感想」などが含まれる。

「各メーカーが公表している成分情報はもとより、社内情報、特許情報、学術論文などから収集した各成分のエビデンスとなる情報をデータベースに反映させている点が、他社ソリューションと差別化された強みだ。それ以外にも、生活習慣による違いなどスキンケアに関する情報を網羅的にデータベースに組み込んでいる」(中登氏)

2つめは「行動改善提案」だ。化粧品は医薬品に比べて、効果がでるまでに時間がかるのが一般的だ。効果をより早く実感するためには、ユーザーが肌悩みの改善につながる生活習慣を身に着け、日々の行動を変えていくことが重要となる。そこでMy Salonでは、ほかのユーザーの日常生活を参考にしつつ、リスク行動や生活習慣リスクの大きさを提示することで、行動変容を促すきっかけを提供する。

「他社やさまざまなビューティテックスタートアップなどが提供しているレコメンドシステムを分析するなかで、レコメンドの理由が可視化されていないのではないかという課題も感じた。My Salonは、レコメンドする化粧品が各自の肌に適している理由を数値化して表現し、ユーザーに提供できる仕組みとしている。また、生活習慣による将来的なリスクも可視化して、最終的に行動変容につなげてもらいたいと考えている。アルゴリズムには、美容部員や美容専門家が顧客に商品を提案する際のノウハウもデータとして組み込んでいる。今後、ユーザーが増えることでAIが学習しより賢くなっていく」(中登氏)

各ユーザーに適したタイプ別AIや買い替え提案で差別化

My Salonは、ユーザーが商品を選ぶときのこだわりを反映しやすくするため、「将来リスク重視型」「美容理論重視型」「コスパ重視型」「成分効果重視型」の4タイプのAIを用意しており、ユーザーが自分の志向に適したAIを事前に選択できるのも特徴のひとつだ。

将来リスク重視型AIは、現在のユーザーの生活習慣を踏まえて、将来起こりうる肌リスクに備えた化粧品提案を行う。美容理論重視型は、美容系の学校や化粧品メーカーが構築した美容理論にもとづいた提案を主に行う。一方、コスパ重視型は購買動向、成分情報、メーカーから提供される製品情報などをバランスよく分析。そして、成分効果重視型は成分情報をベースに、一人ひとりの肌質を考慮したうえで肌悩みの改善を主目的とするAIだ。いずれのAIも継続的に使用することで、各ユーザーの特徴や嗜好をよりよく理解し、パーソナライズが深化していく仕様としている。

My Salonは「使用中のアイテムを考慮した買い替え提案」という特徴的な機能も有している。ユーザーは通常、洗顔料、化粧水、乳液、美容液など、複数のスキンケア製品を併用していることを想定し、My Salonは、それら使用中の商品との関係性を考慮しつつ、最も相性が良いと考えられ、かつ肌の悩みの改善に役立つ商品を提案する。買い替えや追加をおすすめするのは「化粧水だけ」など単品の提案や、「洗顔料と乳液」など複数アイテムの提案も可能だ。

「既存のレコメンドサービスは、化粧水など一品だけをレコメンドする形式が多い。しかし化粧品は組み合わせて効果を得るという側面がある。My Salonは、ユーザーがすでに使っている化粧品の情報も収集し、トータルスキンケアの観点から買い替え商品を提案できる」(中登氏)

開発を支援した株式会社Recursive 取締役COO 山田勝俊氏は、My Salonの仕組みを構築するうえで難しかった点について次のように説明する。

株式会社Recursive 取締役COO 山田勝俊氏
プロフィール/ディーキン大学経営大学院卒業後、日系、外資のIT業界での勤務経験を経て エシカルファッションの日本市場立ち上げと2社の起業を経験。その後、社会課題を解決するためにはテクノロジーが必要だと再認識し、多国籍AIスタートアップ、コージェントラボに入社。セールスディレクターとしてAI- OCR「Tegaki」の立ち上げに関わると同時に200社以上の企業にAI導入コンサルティングを行う。2018年度からAI、ブロックチェーン、エンジニアス クール会社を日本、シンガポール、ベトナムで連続起業した後、2020年8月、最先端テクノロジー × サステナビリティのアイディエーションから 開発までを行う株式会社Recursiveを共同創業。売上規模数百億円〜数兆円の大手8社の新規事業開発のアドバイザーも務める

「課題となったのは、扱うデータ量が非常に大きかった点だ。また、化粧品の場合、短期間では成果がみえにくい傾向があり、長期的な観測データとすでにあるデータを組み合わせて、正確なレコメンドができるようにアルゴリズムを調整するのに注力した。マルホでは非常に細かい部分のデータまで集めていたので、AIエンジニアとしてはやりがいのある、非常に魅力的なプロジェクトとなった」(山田氏)

現在のMy Salonは、設問に対するユーザーの回答(商品、生活習慣、肌状態など)をもとにレコメンドを行うのが基本仕様だが、簡易的なものではあるが、顔(肌)写真のデータを保存しておく機能も実装されている。将来的には、設問(テキスト)と画像から得たデータを複合的に分析して、各自にマッチする商品や行動改善案を提案できるソリューションとなる見通しだ。

マルホのDXは、肌悩みを抱えたユーザーとのつながりの構築が目標地点

My Salonは上述した通り、社内のアイディアコンテストに端を発し、社内ベンチャー的に登場したプロジェクトだ。そのため、現在はマルホの全社的なDX戦略とは一線を画す立ち位置で、実証実験およびリリースまでの準備が進められている。しかしながらMy Salonのビジョンが達成されれば、マルホが目指すDXを補完・加速するひとつの武器になりうることを武田氏は示唆する。

「製薬会社として私たちは、医師の診断を受ける手前にいる、まだ病院を訪れてはいないが、肌に悩みを抱えた方々に日々のソリューションを届けることをメインにフォーカスしてきた。肌悩みには、肌質の低下からアトピー性皮膚炎などの疾患まで、さまざまなレベルがグラデーションのようにある。My Salonを通じて基礎化粧品の選び方の情報を提供することで、肌悩みが深刻化する前のユーザーともつながりを築いていきたいと考えている」(武田氏)

マルホではMy Salon以外にも、アトピー性皮膚炎治療サポートアプリ「アトピーノート」や、ニキビ治療継続サポートアプリ「ニキビログ」などを提供している。これらはいずれも、肌に悩むユーザーとのコミュニティを維持・強化するというマルホのDX戦略から派生したものだ。

アトピー性皮膚炎治療サポートアプリ「アトピーノート」
出典:Welbyプレスリリース

「私たちは皮膚という特定領域に特化してきたため、未病の段階からコミュニティをつくることにフィットしやすいタイプの会社だと考えている。肌に悩みを持つ人と常につながっている状態を保つことで、コミュニティに参加する方々に、いつでも価値を提供できるようにするのがマルホが目指すDXでありBXだ。“マルホのWebサイトを訪れれば、肌悩みが解決する”、ユーザーの方々にそう思っていただけるよう、情報提供やソリューションづくりを続けていきたい」(武田氏)

Text: 河鐘基(Jonggi HA)
Top image: aijiro via Shutterstock
画像提供:マルホ株式会社

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