
位置情報SNSの「NauNau」、Z世代が支持するハードルの低さとブランドとの親和性
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Z世代を中心に利用が広がっている位置情報共有SNS。なかでも、ローンチから約3カ月の間に270万ダウンロードを突破し、注目を集めているのが「NauNau(ナウナウ)」だ。若い世代はなぜ位置情報共有SNSを支持するのか。こうした「次世代SNS」の台頭によって、ユーザーとブランドのコミュニケーションはどう変わるのか。NauNauアプリの生みの親で、早稲田大学在学中に起業したSuishow株式会社の代表取締役CEOを務める片岡夏輝氏に話を聞いた。
急成長中の位置情報共有アプリ「NauNau」とは
お互いの居場所や移動状況を見ながら、登校時間や待ち合わせ場所を決める。24時間、自分がどこにいるかを友達と共有し合う。若い世代を中心に、テキストや音声、動画だけではなく、位置情報を使ってつながるSNSが支持を集めている。とりわけ圧倒的な知名度と人気を誇っていたのが「Zenly」だ。仏Zenlyの開発により2015年に生まれ、2017年に米Snapchatが買収。直近のユーザー数は約4,000万人と拡大していたが、運営主体の業績不振による影響でサービス終了が決定した。日本では2023年2月3日にサービスの提供を終えている。
そんななか、Zenlyの受け皿となる代替のアプリとして注目を集めているのが、日本発のNauNau(ナウナウ)だ。2022年10月にローンチし、約3カ月で270万ダウンロード突破と急成長を遂げている。もともとは現役大学生でSuishowの代表取締役CEOでもある片岡夏輝氏の個人的な興味から開発されたアプリだったが、ユーザーの急拡大を受けて、2022年末にSuishowに譲渡するかたちで事業が引き継がれた。2023年1月27日には、モバイルゲーム事業などを展開するモバイルファクトリーと資本提携を含めたパートナーシップ契約の締結を発表。現在、事業メンバーは開発担当を含め7名ほどの体制で、事業拡大に向け新たなメンバーを積極的に募集している。

プロフィール/幼少期はインドで育つ。高校在籍中にインドニューデリーの株式会社博報堂子会社のAdGlobal360 India Pvt. Ltdでマーケティングのインターンを経験。インドでのインターン時にGoogle Indiaに訪問し、プログラミングに興味を持つ。早稲田大学理工学部に進学後、大学1年生の夏休みに長期エンジニア養成プロジェクト、「Techprenour DOJO」で最終審査を通過。同じく大学1年生の冬にはCVC4.0型ファンドの先駆者である米国ペガサス・テック・ベンチャーズ主催のシリコンバレー スカラーシップに奨学生として選出。サークルは早稲田大学公認のコンピュータ研究会・WINCで53代目幹事長に就任。現在、iU大学客員教授も務める
Zenlyの後継となる位置情報共有アプリという意味では、NauNauのほかにも、さまざまな競合がある。Zenlyはサービス終了後の公式の後継としてSnapchat内の「Snap Map」を推奨しており、海外ユーザーに人気の米MixerBoxが運営する「友どこ」や、日本ではLinQによる「whoo」などが知られている。こうした状況下で、NauNauがユーザー数を伸ばせた要因は大きく2つある。
ひとつはZenlyが2022年9月1日に終了を発表した翌月に、いち早くNauNauをローンチしたことで「Zenlyの代替となるアプリ」として他アプリよりも早く認知を得たことだ。リラクゼーション業「りらくる」の創業者で、YouTubeや Twitterのインフルエンサーでもある竹之内教博氏にPRの協力を得たのをきっかけに、ダウンロード数は急増した。
また、Zenlyと親和性が高く、若いユーザーの心を掴むクリエイティブやUIを備えていたことも後押しした。「最終的に3Dライクになっていたが、もともとZenlyは、シンプルなUIが支持を集めていた。スマホの場合には、Web3的な3D表現は、まだ成熟しきっておらず、現状だと3D的な表現を追い求めると暗い印象を与えてしまいかねない。NauNauは、Zenlyの初期の頃のUIにヒントを得ている」と片岡氏は説明する。
UIデザインはまた、NauNauにとっての差別化ポイントであり、ローンチ後も継続的なアップデートによりユーザビリティの強化を図っている。2023年1月28日には、ZenlyからNauNauにデータを引き継げる機能も追加した。
【緊急お知らせ】Zenlyのデータ引き継ぎプログラムが完成🔥🔥🔥
— NauNau | Zenlyの代わり作っています (@NauNau_App) January 28, 2023
Zenlyから以下のデータを取得することができます。
🐾 すべての足跡
🗾 位置情報履歴
🍎 チャット履歴
🏡 訪れた場所
👭 友達
🔍 検索履歴
めっちゃ頑張りました、、、!🔥応援ありがとうっ!!#NauNau #zenlyの代わり pic.twitter.com/k0STGTlahs
クリエイティブ疲れもZ世代が位置情報SNSに流れた一因
NauNauはアプリを起動すると地図が表示され、地図上で自分の位置や、フォローしている友達の位置、滞在時間や電池残量などを見ることができる。たとえば、同じタイミングで電車を降りる友達を見つけて「一緒に帰ろう」と声をかけたり、学校内で友達が集まっている場所に行って一緒に遊ぶといった活用例がある。位置情報を共有していれば、わざわざメッセージを送り合う手間もかからず便利というわけだ。
NauNauが短期間で急伸したのには、SNSに対するユーザーの関わり方の変化とも少なからず関係しているようだ。もともとSNSは、自分の近況を投稿して周囲に知らせるツールとして普及し、まずFacebookが広まり、その後TwitterやInstagramへと派生していった。この流れのなかでインフルエンサーの登場や投稿するコンテンツの質が上がったことで、単に自分の思ったことを共有するような投稿がしにくくなり、また、不特定多数の人の目に触れることに抵抗感を持ち投稿を敬遠する動きも出てきている。
それがZenlyやNauNauのような位置情報共有アプリが流行る一因になっていると片岡氏は説明する。
「既存SNSの投稿ハードルがどんどん上がるなか、これまでも投稿ハードルの低いSNSに人が流れる傾向はあった。その究極版ともいえるのがZenlyやNauNauで、わざわざコンテンツをつくらなくても、位置情報さえ共有していれば自分の近況を周囲に伝えることができる。その気楽さに魅力を感じて位置情報共有アプリを利用しているユーザーは多いだろう。中長期的にみても、既存SNSの投稿ハードルが上がることは避けられない。そのかわりに、位置情報とAIジェネレーターなどを組み合わせ、投稿が自動でフィードに流れるようなSNSが台頭していくのではないか」(片岡氏)
つまり、位置情報そのものがコンテンツとなっているので、ユーザーは投稿すらしなくてよいという徹底した気軽さや利便性が多くの若いユーザーをひきつけているのだ。
ブランドも「位置情報」と「個」でつながる世界を目指す
位置情報SNSの台頭で、ブランドと生活者のコミュニケーションはどう変わるのか。たとえば、あらかじめ設定した属性の対象が店舗の近くを訪れた際に、SNSの地図上でクーポンやキャンペーン情報をプッシュ通知し、来店促進を促すようなコミニュケーションは、SNSを介してより活発化するのではないかと片岡氏は話す。
実際、こうした位置情報をはじめとするさまざまな個人情報を組み合わせ、ユーザーに最適なレコメンドを行うスーパーターゲティング広告をNauNauのマネタイズポイントとして検討しているという。Zenlyは多くのユーザーから惜しまれて終了したが、片岡氏によれば、それはSnapchat社の意志決定であり、決して位置情報共有アプリのマネタイズの難しさを示唆するものではないという。
現時点ではまだ具体的な計画はないが、NauNauはブランドなど事業者とのBtoB連携にも相性が良く、ビジネスになるだろうと片岡氏は考えている。同時に、すでにNauNau上で事業会社が無料で公式アカウントの開設が可能な仕組みを整えているとする。「いまはインフルエンサーの開設が中心だが、公式アカウントに登録すればイベントなどをNauNauの地図上に表示することができる。より正確なレコメンド体験を提供できると思う」(片岡氏)

出典:NauNauアプリ
美容ブランドにとってもこの位置情報公開は役立つと考えられる。たとえば、美容部員の勤務情報を知らせる手段として、美容部員とユーザーがNauNauで直接つながり、勤務状況を位置情報上で共有したり、顧客の側も来店をあらかじめ知らせることができれば、効率的な接客、買い物につながるだろう。
さらに、大規模店であれば、目当ての美容部員が店舗のどこにいるのかをリアルタイムで通知したり、また、店舗内のピンポイントの場所やスタッフとのつながりを経由したイベント告知やクーポンを配信するといった使い方も期待できる。店舗やスタッフの位置情報と関連情報を公開することで、街中で看板を見つけるのと同じような感覚で、アプリを介して認知や新たな出会いのきっかけ作りにも寄与するはずだ。
ただ、課題もある。位置情報共有アプリの利用は今のところは若年層が中心で、購買力を持つ層をどれだけ取り込めるかが、位置情報共有プラットフォーム普及の鍵を握る。まだまだ位置情報を共有することをためらう層は少なくないが、片岡氏はその課題をどのように捉え、解決しようと考えているのか。
「利用者の最大の懸念ポイントは、正確な位置情報を知られること。たとえば、居場所の特定や追跡をできないようにしたり、位置情報の公開範囲を細かく設定できるようにして、安心して使ってもらえるようにしたい」と片岡氏は話す。位置情報は場合によっては悪用もできるセンシティブな情報であり、NauNauとしては、フィルタリングなどの設定の充実により安全性を担保し、懸念を払拭していきたいとする。
投稿自動化もみすえ、10年プランでアジア市場開拓へ
アプリの生みの親であり短期間のうちに事業を成長させた片岡氏は2000年生まれだ。幼い頃はインドで過ごしたのちに帰国し、早稲田大学理工学部に進学。大学1年時より、夢中になっていたSNSを自ら作るべくプログラミングの独学を始めたという。これまでに開発したアプリは、学生SNS「ガクチャ」や、ぼっち飯同士マッチングアプリ「ぼっち飯」など、20以上に及ぶ。
こうしたアプリ開発の経験から「SNSの延長線にあるのがメタバースだ」と確信。大学3年時に自ら会社を立ち上げ、メタバースやNFT事業に乗り出した。また、学業と仕事という二足のわらじをこなしながら、アプリの開発も個人的に続けており、NauNauが生まれるきっかけになった。「人と人がより繋がりやすくなる、SNSを通じて、人生がより良くなる世界を創る」、その想いが片岡氏の原動力になっているという。
片岡氏は今後どのようにNauNauを成長させていくのか。直近1年間は、機能の追加やZenlyを使っていたユーザー層の獲得に注力するとして、そのためにインフルエンサーとの協業も積極的に行っていく予定だ。さらに、2024年以降は、自らが育ったインドやアジアでの展開も視野に入れている。
アジアを目指すのは、「欧米よりもアジアの方が位置情報共有アプリの利用が盛んで、マレーシア、台湾、インドネシアなど、人口密度の高い地域で普及している傾向があるから」だ。さらには、機能や仕組み面の整備と充実を図り、30代以降のより幅広い年代に向けて数年をかけてアプローチし、位置投稿による投稿自動化にも並行して取り組む構想で、「10年プランで育てていきたい」と片岡氏は語る。
メタバースやNFT領域が進展する状況下、AI技術を活用したコンテンツ生成も実用化が進んでおり、位置情報共有アプリのそれらとの相乗効果への期待は大きい。位置情報によってゆるやかにつながる次世代SNSの成長が、これから始まりそうだ。
Text: 清水美奈(Mina Shimizu)
Top image: NauNau公式サイト