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ロレアル インディア、「後発」ながらミレニアル世代をデジタル戦略で魅了し急伸へ

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パーソナルケア分野でのインドの国民的ブランドトップ3は、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、ロレアルのグローバルな大手メーカーの現地法人が占めている。なかでも後発のロレアルは、中間層の獲得、市場の変化に即応するアジャイルなEコマース戦略によりインド市場で躍進している。先発2社の戦略と比較しながら、その躍進の理由をひもとく。

インドにおけるパーソナルケア業界売上トップ3企業は、Hindustan Unilever Limited(ヒンドゥスタン・ユニリーバ・リミテッド、以下HUL)、続いてColgate-Palmolive India(コルゲート・パーモリーブ・インディア、以下CLインディア)、そしてL'Oreal India(以下ロレアル インディア)と、いずれもグローバルで認知度の高い大手外資系企業のグループ会社である。HULとCLインディアが石鹸などの日用品の低価格帯製品で低所得者層をターゲットにシェアを拡大するなか、ロレアル インディアはヘアケアなどを含めた美容系日用品領域で中間層向けにシェアを獲得している。

3社とも、デリー、ムンバイ、コルカタなどの1千万人規模の大都市で実店舗網を構築し、マーケットを獲得していったが、インドの人口の大部分は地方在住者である。石鹸や洗剤といった日用品は、収益の50%以上が地方での売上であるため、インドでのマーケット・シェア獲得を広げていくには、人口規模が小さい中都市部や、輸送網が発達していない農村部の消費者の獲得が必須であった。

まずは、3社それぞれのインド市場でのアプローチを紹介し、そのうえで生活必需品では必ずしもない美容製品を軸に、ロレアル インディアがどのようにマーケット・シェアを拡大していったのかをみていこう。

ソーシャルイノベーションで市場を獲得したHULとCLインディア

インドの街角の小さな薬局から大型スーパーマーケットまで、HULの製品を見ないことはまずない。市場調査会社ニールセンによると、インドの消費者の3人に2人が何らかのHUL製品を使用しているとの調査結果もある。

同社は1888年にインドに進出し、インド最大の日用品消費財メーカーとなった。インド国内に40か所以上の製造工場を持ち、石鹸、お茶、洗剤、シャンプーなど約20種類の商品カテゴリーを生産・販売している。主力ブランドは、ダヴ(Dove)やサンシルク(Sunsilk)などだ。価格帯は、石鹸であれば約30円から、シャンプーは80ml入りが約90円からで、中間所得層でも購入可能な価格設定となっている。さらに、低所得者層が買いやすいように、サシェと呼ばれる小型パッケージにすることで、約2.5円と価格を下げている。

スーパーマーケットの棚には、HULの商品が大きなスペースをとって並ぶが、インドでは先進国のようなスーパーマーケットの歴史は浅く、小売の9割以上をキラナと呼ばれる個人商店で行っているため、この個人商店へのアプローチも不可欠だ。スピーディにインド国内どこにでも配送できる流通システムを構築できたことが、HULの最大の強みである。過去記事「先進国も途上国も。全方位で顧客へアプローチするユニリーバの成長戦略」でも紹介したプロジェクト・シャクティで、最終消費者に直接商品を届ける流通網を構築した。

2000年にインド南部のAndhra Pradeshで開始されたこのプロジェクトは、現地NGOと連携し、インドに数百ある女性自助会に参加し、シャクティお母さん(Shakti Amma)を勧誘。彼女たちに簡単な商業知識や簿記を教育し、マイクロファイナンスで約1万5千円~2万5千円を貸し付け、そのお金でユニリーバ製品を仕入れてもらい、近隣の村で販売してもらった。女性の経済自立支援のための職の提供、教育の提供、そして、子どもたちの衛生問題の解決という社会課題に対して、リアルなソリューションを提示することで、農村部の消費者への直接の流通網の構築と、消費者の獲得につながった。2017年現在で、7万2,000人のシャクティ起業家たちが、4万8,000人のシャクティお母さんに支えられている。

また2001年にRSネット戦略を立ち上げ、インターネットを活用してすべての再販卸売業者を繋ぎ、在庫と2次販売の監視をするとともに、再販卸売業者からの注文と在庫管理を最適化することで、サプライチェーンのコスト削減を実現した。HULの売上の約8割をこのRSネットが占め、インド最大の企業間電子商取引となっている。

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出典:Hindustan Unilever 公式サイト

追随するCLインディアもHUL同様に、インド国民の認知度は高い。1937年にインドに参入し、地道な啓発活動を行いながらシェアを獲得してきている。1976年からインド歯科協会とともに、“Bright Smiles, Bright Futures”というキャンペーンで6歳~14歳までの子どもが通う41万校へ歯磨き指導を行ってきた。

2000年ごろからはOperation Jagrutiと呼ばれるプログラムで、インドの農村部を車でまわり、20分ほどのインフォマーシャルを上映し、歯磨きの大切さを説いてまわる活動を行った。のちにそれをインターネットでも展開するようになり、2011年~現在まで、インドで最も信頼される口腔ケアブランドとしての地位を確立した。その結果、2003年には売上の半分以上をインドの地方都市で稼ぎ出している。

主力製品である歯磨き粉は80mlが約50円から販売されており、中間層なら手軽に購入ができる。しかし、それでもなお、貧富の差が激しいインドにおいては、人口のほぼ3分の1が現代的な口腔ケアを利用する余裕がない。そこで同社は、2018年に「Kumbh Se Sampoorna Shuddhi」や「Colgate Vedshakti Se Sampoorna Suraksha」などのキャンペーン活動を実施し、歯磨き粉の無料サンプルを何百万人ものメラ巡礼者に提供することや、歯を磨くためのブラッシングステーションを開設するなど、口腔ケアマーケットの裾野の拡大を図っている。また、2017年には8~9%ほどの価格削減も行い、より多くの人たちが購入しやすい価格を実現している。

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Colgate Vedshakti Se Sampoorna Suraksha
出典:Colgate-Palmolive India 公式サイト

Eコマースで勢いを増すロレアル インディア

現在3位につけているロレアル インディアは、1994年の進出で、当地では後発ブランドにあたる。当初は低価格帯のシャンプーを全面に押し出す形で市場参入したものの、すでに競争が激化しており、低価格帯商品の拡販に失敗したロレアル インディアは、成長が著しい中間所得層以上のセグメントに注力することにした。

ロレアル インディアの主力商品であるParisのフェイスパウダーを約1,700円、Vichyの日焼け止めを約2,500円で売るなど、HULやコルゲートとは主戦場を異にすることで、市場獲得に成功している。ニューリッチのセグメントはロレアルグループが得意なデジタルとも親和性が高く、Eコマースを中心としたデジタル戦略に力をいれている。

2020年には、インドに1億5,000万人以上の顧客基盤を持つことを目指しており、これは2016年比4倍にあたる。この積極的な目標を達成するため、同社は、Eコマース市場が成長ドライバーになるとしてデジタル予算を年々拡大している。

また、2019年11月には、ロレアルグループ会長兼CEOのジャン-ポール・アゴン氏が、2022年末までにインドでの売上高と顧客数をいずれも2倍にするとの計画も発表している。現在、ロレアル インディアはグループ全体売上の2%を占めている。

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出典:L’Oréal India公式サイト

ロレアル インディアの売れ筋商品は、上述のスキンケアやメイク用品に加え、シャンプーやコンディショナー、ヘアカラーなどのヘアケア製品だ。価格帯は、シャンプーが75ml入りで約95円から、コンディショナーが65ml入りで約130円からと、ほかのメジャーブランドよりも、少し高い価格帯にしており、ターゲット層が異なることがわかる。

中間所得層は、都市部に多く存在し、またデジタル利用率も高いため、ロレアル インディアは都市部で大きな影響力を持つEコマースを積極的に活用している。たとえば、AmazonFlipkart 、美容関連商品プラットフォームのNykkaだ。

Amazonは商品によっては配送を限定している地域も今のところまだ数多くあり、すべての商品を配送できるのは200万人以上の人口を持つ上位14都市だが、それでも1億人以上をカバーする。Amazonは、独自の店舗も展開しており、ローンチ当初は都市部の100カ所での展開だったが、今後は、地方都市にも積極的に展開していくと発表しており、Amazonが配送網を構築することで、ロレアル インディアはその恩恵にあずかる仕組みだ。

Nykkaは、ロレアル インディアが狙う平均年齢25歳のデジタル世代がメインユーザーで、インドにおける主要なプラットフォームである。インドの人口は15歳~30歳がボリュームゾーンで、このセグメントの女性が全人口の13%を占めている。今後も増えていくといわれているセグメントを押さえるのには最適なプラットフォームといえる。

では、具体的にどのような施策をEコマースでとっているのだろうか。

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出典:Nykka公式サイト

メイクアップ部門のジェネラルマネージャーであり、Eコマース部門のヘッドでもあるシャーマン・ドゥゾーザ・フェルナンデス(Shaamain D'souza-Fernandes)氏によると、これまで変化の速度が早いインドEコマース市場において成功してきた理由は、市場の変化を敏感に読み取り即座に対応し続けたアジャイルの賜物であるという。それ以外にも、オンライン戦略においてロレアル インディアが現在実行していることがいくつかある。

1つめは、オンライン店舗の製品ページへのARバーチャルメイク機能の導入だ。最近のインド人の購買行動パターンとして、実店舗で実際の製品をチェックして試したのち、オンライン店舗から割引価格で購入する人が増えている。これは、オンライン上ではファンデーションやリップの色合いが本当に自分に似合うかを確認するのが容易ではないためだ。そこでARのトライオンで、何色ものカラーを瞬時に試し、消費者が自身にマッチした色味を選択できるようにした。

2つめは、コンテンツの充実である。インドでは2019年、美容という検索キーワードが前年比で40%伸びている。インド人向けにローカライズしたコンテンツを配信することで潜在顧客層へのリーチを増やしている。

インドの消費者が好むコンテンツの特徴は、動画、音声、地元言語の3つである。この背景には、インドには第一言語に指定されているヒンズー語以外に、地域ごとに異なる100以上の地元の言語が存在していることがあげられる。母国語でコンテンツを視聴したい消費者の思いに応えたメイクアップチュートリアル動画など、多言語、多文化に対応した幅広いコンテンツを用意している。

3つめは、セール期や販売時の割引である。インドのEコマースサイトでは、定期的に特別セールが実施されている。たとえば、インド最大のお祭りであるDiwali(ディワリ)の時期には、どの業界も1年で一番大きなセールを開催し、年間売上の約6割に相当する売上を達成している。

AmazonやFlipkartも例外ではなく、2019年のDiwaliセールではAmazon、Flipkart共に前年比30%増の売上を記録した。

さらに、店頭でのトライアルができない分、通常サイズよりも小さなミニサイズ版の商品を用意し、気軽に購入できるような施策も打っている。

ロレアル インディアが注力する美容分野の教育制度

そのほか、ロレアル インディアの特徴的な試みとして、美容室や美容師向けのプロフェッショナル・ヘアケア製品があげられる。

同社がインドに進出した当時は、プロ向けヘアケア市場は存在していなかった。美容師を養成する組織化された教育機関は存在せず、当然サロン専用商品もなく、美容師はそれぞれ市販の製品や伝統的なヘアケア剤を使用していた。

これに対し、ロレアル インディアは2013年からインド全土に設立した教育センターを通じて、美容師としてのキャリアを追求する人々を支援している。約6ヵ月の美容に関する一般的な知識が得られるコースのほか、ネイルアートやエクステンションなどが学べるコースを提供。優秀な美容師を表彰するアワードを設けるなど、この分野に多くの投資を続けており、毎年20万人以上の美容師をトレーニングしている。


このような活動の成果もあり、ロレアル インディアはインドのプロ向けヘアケア市場で約55%のシェアを有し、市場を牽引するまでに成長している。大型モールのヘアサロンではほとんどの店舗がロレアル インディアの製品を使用。現在では、4万5,000を超えるサロンがプロユースのヘアカラー製品を採用するまでになった。

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出典:L’Oréal Professional India 公式サイト

中国に次いで、世界2位の人口を誇るインドでは、2025年には約14億人と世界一の人口大国となる。そのうち約65%が生産年齢人口(15~64歳)だ。コンサルティング・ファームのPwCの予測では、2050年には米国のGDPを抜く。経済成長の可能性が高く、消費を支える生産人口の多さが、インド市場の魅力である。とはいえ、貧富の差が激しく、まだまだ途上国であるインドで、どのようにマーケット・シェアを獲得していくのか。各社それぞれの歴史があり、そして工夫がある。

ソーシャルイノベーションによるBOP(Base of pyramid、ピラミッドの最底辺にいる貧困層)の獲得に注力するHULとCLインディアは、インドでの知見をベースに、世界の40億人、地球の総人口の7割をしめるBOPの獲得を各地に展開している。

対するロレアル インディアは、成長著しい中間層を狙い、欧米諸国で得たデジタル・マーケティング手法をローカライズしながら、シェア獲得を急ぐ。ロレアル インディアは、一度失敗した市場を諦めず、自分たちの持つ製品でどのセグメントならば獲得できるのか、冷静に戦略を見直し、実行に移したことで、市場での存在感を作っている。ユーザーが今この瞬間に欲するものを敏感に察知し、変化し続けることがインド市場での成功につながることを、ロレアル インディアの急伸は示唆している。

Text:チーム・ストーリーテリング(STORYTELLING)
監修:秋山ゆかり(Yukari Akiyama)
Top image: Dragon Images via shutterstock

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