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コーセーが「衝撃的」な出会いを果たしたアクセラレーター・プログラムは2年目へ

◆ English version: KOSÉ’s accelerator program leads to a quantum leap
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日本の化粧品業界初のアクセラレーター・プログラムを2018年にローンチしたコーセー。「『美』を核としたオープンイノベーション」を目指し、スタートアップ企業との共創に挑戦をはじめた。ファーストラウンドで衝撃のベンチャーとの出会いを果たしたコーセーは、2019年もプログラムの実施を発表。ローンチの理由、そしてどのように成果を出したのか。株式会社コーセー執行役員経営企画部長兼コーポレートコミュニケーション室長の原谷美典氏と経営企画部経営企画室課長の持田卓也氏に話を聞いた。

コーセーは1946年の創業以来、商品そのものが競争力の源泉と考え、美容液をはじめ、特徴のある商品を作ることで市場を創り出してきた。そして当初から、コーセーはカウンセリングが「モノだけでなく、心の満足度も届けている」と考え、百貨店や化粧品専門店での対面販売を強化して強みとしてきた。2000年ごろから、流通の変化などによる化粧品市場のパラダイムシフトがはじまるなか、2007年に小林一俊氏が社長に就任。ブランドや商品の選択と集中などによりV字回復を実現するとともに、さらなる成長に向けて、VISION2026を掲げ、成長戦略を展開中である。

2019年3月期決算説明会資料より

VISION2026の実現に向け、世界で存在感のある企業へと進化するためにコーセーの経営陣が再考したのは、化粧品の根本的な付加価値についてだった。さらに心地よく、生活をより快適にするものとして、化粧品そのものが感動を起こしていくといった、効果効能にとどまらない体験などの新たな付加価値創造がカギになると考えたのだ。

新たな付加価値を生み出すには、既存のビジネスの枠組みを超えるものが必要だ。自社の研究所をみると、世界トップクラスの化粧品を生み出す化学の力はあるが、たとえば、昨今続々登場しているネイルプリンターのようなテクノロジーはない。社内だけでは画期的な新しい価値を顧客に提供することは難しいと感じていたという。

一方、世界を見渡すと、デジタル技術を使ったパーソナライゼーションや人工皮膚などの領域でオープンイノベーションが加速しており、コーセー社内でも、オープンイノベーションを取り入れようとの動きになっていった。

株式会社コーセー執行役員
 経営企画部長兼
コーポレートコミュニケーション室長
 原谷美典氏(左)
同社 経営企画部 経営企画室課長
 持田卓也氏

2018年に業界初のアクセラレーター・プログラムをローンチ

オープンイノベーションを取り入れると掲げたものの、「最初からうまくいったわけではない」と語るのが原谷氏だ。実は、2010年からリーダー研修の一環で、社内のビジネスコンテストが開催されていた。それを2017年に、社員が自ら手をあげて事業に取り組む、Linkという社内ベンチャー制度に発展させた。また、同じ年には、コーセーが自ら有望そうなベンチャーに声をかけ、共同で事業ができないかを探った経緯もある。しかし、社内の目利き力が不足していたため、当時は事業化の可能性があるテーマを見つけられなかった。

社内からのアイディアはすでに他企業が手をつけているものが多く、有望なベンチャーを見分ける基準もわからない。このままではオープンイノベーションは実現できないという思いから、ファンドと組んで共創することや、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を創設することなども議論したという。

そして、自分たちの強みを改めて棚卸し、それらをどう活かしていくかを考えた末にいきついたのが、アクセラレーターという仕組みだった。コーセーがテーマを決め、さまざまな業界からアイディアを持ち込んでもらい、社内リソースを投入して一緒に事業を創出する。2017年の失敗があったからこそ、出せた答えだ。

2018年にローンチしたアクセラレーター・プログラムでは、Linkのメンバーをはじめとする社内のさまざまな部門の社員やLinkの構想策定や推進支援を手がけてきた株式会社ベルテクス・パートナーズ、さらに、スタートアップ探索支援のパートナーとしてeiicon、長年社内研修に関与してきた株式会社インキュベータの石川明氏や、VC(ベンチャーキャピタル)である株式会社WiLなど、社内外のサポーターとも連携して共創を推進することにした。

出典:2018年6月14日
コーセーのプレスリリースより

2018年は下記の図のスケジュールで進めた。80社のエントリーのうち、20社が書類選考を通過。8月20日・21日にこの20社すべてをプレゼンテーションと面接に招き、6社に絞りこんだ。Linkのメンバーが各社にアサインされ、9月から社内外メンターで提案のブラッシュアップを図っていったという。Linkメンバーは通常業務との兼務でサポートにあたり、相手先企業によっては、週1回以上のミーティングを重ね、特に化粧品業界の制約条件などをシェアしながら、彼らのソリューションを実現可能なものに磨き上げていった。

2018年のスケジュール(提供:コーセー)

想定外のイノベーションの可能性を気づかせてくれたMDR

10月下旬に、経営陣への報告とフィードバックを受けて候補企業は4社に絞られ、プレPoC(Proof of Concept)のステージに入った。そして、1月30日に最終答申会としてのデモデイを実施。その結果、採択されたのがMDR株式会社だ。MDRとのプロジェクトには予算も人もアサインされ、量子コンピューティングをコーセーのR&Dで使用するためのプロジェクトがローンチしている。

第1回アクセラレータープログラム
デモデイ(2019年1月30日)にて。
採択企業の株式会社MDRと共創チーム
(提供:コーセー)

コーセー社内でのアクセラレーター・プログラムへの評価は非常に高い。アクセラレーター・プログラムを実施していなければ、量子コンピューティングのMDRと出会うこともなかっただろうという思いからだ。

量子コンピューターが得意とするのは、無数の化粧品処方の組み合わせから最適解を見つけ出す点にある。それはコーセーにはまったくなかった発想だ。「化粧品の処方組みとは、人しかできない“匠”の領域。人だからこそ作れる化粧品のレシピがコーセーの強みだとすべての社員は信じていた。そこにはコンピューターの力を借りて、新しいものを生み出そうという発想自体がなかった」(原谷氏)。

MDRから、「人の可能性そのものを拡張する」のが量子コンピューティングの力だと聞き、量子コンピューティングについて詳しく学ぶうちに、「人間しかできないと思っていたところにブレークスルーが起きるかもしれない」と、経営陣を含めた皆が考えるようになっていったという。しかし、「夢のある話ではあるが、実現性はどうなのか?」という声も社内にはあった。

そこで、実際に処方を量子コンピューターに組ませてみることにし、ある有名ブランドの人気の高いクリームと似たものを作るというオーダーを出した。人間にしかわからないテクスチャーの違いまで、量子コンピューターが再現できるのか?との期待と不安に対して、「実に驚くべきものができてきた」と持田氏は当時を振り返る。

オーダーの元となったクリームとほぼそっくりなものができあがっただけでなく、遺伝的アルゴリズムを使用していたため、いくつかの「派生クリーム」もでてきた。そのなかには、人間ならこういうものは作らないと思わせるローションのようなテクスチャーのクリームもあった。「オーダーしたものをスピーディに作りだす効率性があるうえに、想定外のイノベーションが登場する可能性がある」と社内が湧いたという。

今まで人間が一つ一つ処方を考え、ビーカーを振り、試作を作り、量産用に処方調整してきたことを量子コンピューターが非常に短時間で実現してしまう。「研究所と工場の壁がなくなり、工場の概念も変わるかもしれない」と、MDRとの共創の大きな可能性を信じ、コーセーの役員たちは全員一致でMDRを選出した。
 
「アクセラレーター・プログラムを行ったからこそ、MDRと出会うことができ、大きな可能性を感じることができた。商品を作るだけでなく、R&D領域も含めた共創によってバリューチェーンの強化をすることが、お客様にとっての価値につながっていく」との確信を持てたと原谷氏は語る。アクセラレーター・プログラムが2年目へとつながったのも、1年目で確かな手ごたえが得られたからだろう。

社内体制の構築も不可欠な要素

コーセーのアクセラレーター・プログラムが1年目から成功した理由は、社内体制をきちんと構築したところにもある。2018年に80周年に向けた中長期ビジョン「VISON2026」を掲げ、外部リソースや技術と連携した独自の価値追及を施策としてあげている。

2019年3月期決算説明会資料より

「世の中に価値を提供していくには、挑戦が必要。社長をはじめ経営陣には強烈な危機感がある」(原谷氏)。小林社長自らが、「過去の延長線上にはない発想を」とトップ自ら何度も繰り返し社員に伝えるとともに、経営陣全員が「新しいことに取り組まなければいけない」と信じることで、アクセラレーター・プログラムを実施し、支援する社員も通常業務にプラスしてこの取り組みにあたるよう推進している。

「現場では大変なことも多々ある。上司は、そんなことより自部署の仕事を優先しろといいたくなる場面もある」と持田氏はいう。そういったネガティブな観点を少しでも減らそうと、経営企画として運営を担っている持田氏は、社内フォーラムを開いたり、事業を生み出していく面白さを社員に実感してもらえるような事前研修など、プログラム実施前や実施中のフォローを欠かさず行っている。

「自分が熱意を持ってあたりたいから、いかに今の自分の仕事と両立させて時間を作るかを自身で考えだす。そういう社員が増えてきている」(持田氏)。さらに、「うちの事業部にこういうアイディアが使えるのではないか」と外部の人と出会うことで知りえた知見を自分の事業部に持ち帰る動きも起きているという。アクセラレーター・プログラムを実施することで、既存の仕事にもプラスの影響が表れているのだ。「スタートアップ企業側からすれば、プログラムで出会うひとりひとりがすべてコーセー。本気で熱い支援をする責任が我々にはある」(持田氏)。

成果が出ている要因のひとつとしては、アクセラレーター・プログラムを単なる研修の場ではなく、本気のビジネスの場としてとらえていることもある。外部のサポーターたちから「コーセーのアクセラレーター・プログラムは、誰が社員で誰がベンチャーの人かわからないくらい一緒に動いている」と評価されるほど、チームとして一体化しているのだ。

2019年のアクセラレーター・プログラムは2年目ということで、1年目の学びや反省点などを反映させている。1年目は公式にはMDRのみが選ばれたが、一部のエントリー企業とは今も交流を続けており、出会った企業との縁を大切にしつつ、幅広くつきあいを続けていくスタンスだという。

2年目は、テーマを3つから6つに広げ、経営基盤の強化になるような領域でも募集する。これは、1年目でバリューチェーンのすべてにおいて共創が可能だという確信が持てたからだ。2019年のアクセラレーター・プログラム参加募集は7月末まで行われている

イノベーション創出に、王道はない

企業がオープンイノベーションに取り組むとき、その創出方法としては大きく3つに分けられる。

1 外部資源を社内に取り込むインバウンド型
2 外部チャネルを活用し内部資源を新たな創造に結びつけるアウトバウンド型
3 社内外で連携して共創する連携型

3の連携型でも、CVCを設立するのか、ジョイントベンチャーを作るのか、ハッカソンをやるのか、やり方はさまざまだ。自社にどのやり方が最も合っているのかを見極めるには、コーセーのように試行錯誤を繰り返し、自社にあったスタイルに発展させていくしか方法はない。

コーセーは2010年のからその道を模索し、社内研修から社内ベンチャー制度、アクセラレーターへと、自身の共創モデルを進化&深化させてきた。経営陣の強いコミットメントもあり、持田氏が「アクセラレーター・プログラムの運営自体が目的になってはいけない」と強く語るように、自分たちは何を実現しようとしているのか、ブレない軸を持つのも大切な要素である。

Text: 秋山ゆかり(Yukari Akiyama)
Top Image: Joshua Sortino via Unsplash

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